教えてもらったケーキ屋さんは、結構繁盛しているみたいだった。
「あっ!あそこ空いてるですよ!」
満員状態の中、4人座れるテーブルで空いている場所を見つけたハルちゃんの声で、皆でその場所へと移動する。
座る場所は、俺の隣にツナ、目の前に京子ちゃんでツナの前がハルちゃん。窓際は残念な事に空いてなかったから、奥になってしまったけど座れただけマシだろう。
「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」
店員さんがメニューを持って来てくれるのを受け取って、4人でジッと何にするかを話す。
「ツナは、ケーキ食べる?」
「う〜ん、甘さ控えめって言うなら、食べても大丈夫かな?」
甘すぎる物がそんなに好きじゃないツナを知ってるから質問すれば、ここに来るまでに話をしていたことを言われて思わず笑ってしまった。
「それなら、食べようよ」
「うん、はどれが食べたいの?」
ツナも食べるって事で嬉しくなった俺に、ツナが質問してくる。
メニューを見てると、お勧めのケーキが幾つかあって、『季節果物のタルト』に『フルーツロール』。
どうやらこの店は、フルーツをたっぷりと使ったモノが多いらしい。
「えっと、ブルーベリーのタルトかフルーツのロールケーキにするかで迷ってるんだけど……」
「なら、オレがブルーベリーのタルトにするから、はフルーツのロールケーキにするといいよ。食べさせてあげるから」
ツナに質問されて、迷っているモノを言えばニッコリと笑顔で言われてしまう。
うわ〜っ、なんて言うかツナって俺に甘いよね、本当……xx
「えっと、ならお言葉に甘えて……」
「京子ちゃん達は決まった?」
「はいです!」
「うん、私も決まったよ」
甘やかされてる事を自覚しながら、その言葉に素直に従ってしまう。
そんな俺に、もう一度笑ってメニューと睨めっこしていた二人へと声を掛ければ、どうやらこっちも決まったらしく元気に返事が返された。
それから店員さんに注文をお願いして、待つ間おしゃべり。
「出来たばっかりですから、やっぱりお客さんが一杯ですね」
「そうだね。ここのケーキはフルーツが主流だから、『ラ・ナミモリーヌ』と違った感じだね」
って、話す内容がケーキの事って言うのが、何とも言えないけど……
結局俺が頼んだのは、フルーツロールとホットミルクティ。ツナがブルーベリーのタルトとアイスコーヒー。
京子ちゃんが季節果物のタルトとアイスレモンティで、ハルちゃんが柑橘のタルトとアイスミルクティ。
みんなアイスなのに、俺だけホットの飲み物なんだけど……だって、やっぱりケーキ食べるならアイスよりホットの方が好きなんだよな、俺。
「お待たせいたしました」
程なくして、店員さんがケーキと飲み物を運んできてくれる。
「美味しそうだね」
「」
目の前に運ばれてきたケーキを見るだけで幸せな気分になれるのは、二人を見てても良く分かる。
俺自身も何となく幸せな気分を感じている中、ツナに名前を呼ばれてそちらを向けば差し出されているケーキ。
「どーぞ」
言われて素直に口をあければ、フォークに取られていたケーキが口の中に入れられた。
広がるのは、ブルーベリーの少し甘酸っぱい味。
「美味しい?」
「うん、有難う、ツナ……俺のも食べる?」
「じゃ、一口ちょうだい」
一口貰ったケーキに、俺もお返しと自分の分のケーキをフォークで切り分けてツナに差し出す。
勿論ツナはそれをパクリと食べてくれた。
「有難う、美味しかった」
って、女の子が惚れそうな笑顔でお礼を言われて、照れてしまっても仕方ないと思うんですが……
「本当、仲イイですよね、ツナさんとさん!羨ましいです!!」
「えっと、兄弟だったら普通じゃないかなぁ」
そんな俺達にハルちゃんが羨ましそうに呟いて、自分のケーキを口に運ぶ。
思いっきり二人の前で、俺ってば何やってるんだろう……何時もの事だから、気にしてなかったけど、普通はしないのか?
「うん、オレとは何時もこんな感じだから、気にしないでいいよ」
って、ツナさん、さり気に何言っちゃってるんですか?!
確かに、否定はしないんだけど、サラッとそんな事言わないで下さい。
「うん、見てて私も嬉しくなっちゃう」
京子ちゃん、何でそこで嬉しくなるんですか?!訳分からないから!!
「きょ、京子ちゃん?」
「は、気にしなくっていいよ。ほら、ケーキ食べないの?」
本当にホンワカ状態で俺達を見ている京子ちゃんに、俺が本気で心配して声を掛ければツナが大丈夫だと言うようにケーキを勧めてくれる。
えっと、もしかしてこれが普通なのかな、京子ちゃんって……そう言えば、天然って言う噂を聞いた事があるんだけど……もしかして、こう言う所が天然って言われる理由なのかもしれない。
「う、うん、いただきます」
ツナに言われて、心配は拭えなかったんだけど、目の前のケーキへと意識を戻して一口。
生クリームに包まれた果物の甘酸っぱさが口の中で広がる。
「美味しい」
久し振りにケーキ食べるけど、やっぱり美味しい。
うん、今度自分で作ってもいいかも……。
「その顔見ると、美味しかったみたいだね」
「うん!今度家で作ってみようかな」
「え〜っ!さんケーキ作れるんですか??」
思わず幸せで顔が綻んだ俺に、ツナが声を掛けてくる。
それに素直に頷いて、俺はもう一つくケーキを口にして制作意欲を口にすれば、ハルちゃんが驚いたように質問してきた。
「うん、得意じゃないけど、普通には出来ると思う……」
母さんの手伝いをしてるから、普通に料理は作れるし、お菓子作りも嫌いじゃない。
なんて言うか、普通の粉がこんな風に変わるのは、作っていて楽しいから
「今度、ハルに何か作って下さいです!」
「うん、勿論。ハルちゃんと京子ちゃん二人に食べてもらえれば、俺の腕も分かってもらえるかも……委員長さんには、美味しいって言って貰えたんだけど、女の子に食べてもらった事ってなかったから」
パクリともう一口ケーキを食べながら、ハルちゃんに返事を返して、紅茶を一口。
紅茶を貰ったお礼に、委員長さんにはお茶菓子としてクッキーを作って差し入れした事があるんだけど、その時普通に食べてくれたから、食べられるモノは作れる筈。
「……ねぁ、、そんな話、初耳なんだけど……ヒバリさんなんかに、何時の間に……」
ミルクティを飲んで更に幸せを感じている中、突然隣から冷気を感じてしまった。
そして、質問された内容に、俺は恐る恐るツナへと視線を向ける。
「ツ、ツナ??」
あ、あれ?俺、話してなかったっけ?
だって、紅茶の葉を貰ったのに、お礼しないのはいけないかなぁって思ったから、ちょっと差し入れしただけで、何でそんなにツナが怒ってるの??
「えっと、ほら、俺がクッキー作った時、あの次の日に……い、いけなかったのか??」
不機嫌だと主張しているツナに、ビクビクしながら素直に何時委員長さんにクッキーを渡したのかを話したら、深々と重いため息をつかれてしまいました。
な、なんで??
「!危険だから、ヒバリさんに近付くのはダメだって言ったよね?」
ニッコリと笑顔で言われてるんですが、すっごく怖いです、ツナさん……。
質問するように言われた言葉に、返答に困る。
確かに、言われた事は認めるけど、何でそんなに危険視するんだろう。怖い時もあるけど、基本はとっても優しいと思うんだけど、委員長さんって……
美味しい紅茶何時もご馳走してくれるし……
って、決して餌付けされてる訳じゃないからね!
「えっと、でも……」
「言ったよね、俺?」
言い訳をしようと口を開けば、もう一度同じ質問。
う、頷かなくっちゃこのまま先に進まないのかも……
「はい、言われました……」
「だったら、何でヒバリさんの所なんかに行ってる訳!!」
『でも』と続けようとした俺の言葉を聞かずに、ツナが先に口を開く。
何で、そんなに委員長さんを毛嫌いするんだろう。う〜ん、同属嫌悪??でも、委員長さんとツナって、似てる処もあるけど、あんまり似てないし……多分……
「だから、紅茶の葉を貰ったお礼に……」
ここで、時々お茶をご馳走になってるんだって言ったら、ツナはどうするんだろう……しかも、一度委員長さんの家に泊まった事もあるんだけど、リボーンの所為で……
な、内緒にしとこう!俺の胸に仕舞っておかなきゃ大変な事になる。
そう考えた瞬間、ツナが怒り狂って委員長さんに襲撃を掛けるところが安易に想像出来て、心の中で決意。
そうなったら、本気で委員長さんがただではすまない。
本気になったツナの強さは、想像出来ません、俺。
「そんなの勝手に押し付けてきたんだから、無視していいんだって言ったよね!!」
「う〜っ、だって、お礼は大事だと……」
「相手に拠るから!!」
怒っているツナに反論しようとした言葉はその一瞬で意味を無くしてしまう。
なんで、そんなに怒るのか俺には謎なんですが……
「落ち着いてくださいです!さんが困ってるですよ、ツナさん!」
「そうだね。くんも困ってるから、そのぐらいにしてあげた方がいいよ、ツナくん」
あうあうと、言葉に困っている俺に、女の子二人が助け舟を出してくれた。
あ〜っ、なんて言うか本当に女の子に助けてもらうのって、情けないんですけど……
「……二人がそこまで言うから、これ以上言わないけど、!もうヒバリさんに近付いちゃダメだからね!」
二人に止められて、ツナがため息をつきながら念を押してくる。
って、言われても……
「無理です……多分……」
だって、呼び出しくらっちゃうんだもん。無視できないから!
無視したら、俺を呼びに来る草壁さんに迷惑掛かると思うし……だから、無理。
「!」
怒ったように名前を呼ぶけど、無理なモノは無理です!!
別段、何かされる訳じゃないから、いいと思うんだけど……俺、まだ委員長さんに咬み殺された事一度もない訳だし……
「えっと、えっと、だからね、その……そう!ほら、リボーンが言ってたじゃん!委員長さんもお仲間……」
「却下!」
え〜ん、全部言わせてもくれなかった。
だって、リボーンが言ってたし、委員長さんもボンゴレファミリーに入れるって……だから、そうなるとツナと委員長さんも仲良くなるかなって思ったのに……一瞬で、却下されちゃいました。
「ええと、ツナくん、委員長って、もしかして……」
「うん、風紀委員長のヒバリさんだよ」
恐る恐ると言うように京子ちゃんがツナに質問すれば、さらりと返事を返す。
ああ、怯えちゃいますから!泣く子も黙る天下の風紀委員だよ、並盛の風紀委員は!!
「う、噂では聞いた事あります。並盛の風紀委員長と言えば、この並盛町の不良の頂点で並盛の秩序なんですよね?」
ツナの言葉で、別の学校に通っているハルちゃんまでもが、委員長さんの事を口にした。
あれ?何でそんなに詳しいんですか?
俺、並盛中に通うまで知らなかったんですけど、委員長さんの事。
そんなに、有名な人だったんですか?委員長さんって?!
「うん、だから、そんな危ない人に、を近付けさせたくないオレの気持ち分かってくれる?」
って、何そこで同意求めちゃってるんですか?!ツナさん!!
でも、ツナの質問にハルちゃんが大きく頷いている。
ああ、やっぱり危険な人だと言うのは、噂でしか知らない人には当然の結果なんだよな。
本人は、噂で聞くほど、酷い人じゃないんだけど……
「ダメですよ、さん!そんな危険な人に近付いちゃ!!」
しかも、立ち上がってまでそんな大声で言わないで下さい!周りの人の視線が……
勢い余って立ち上がったハルちゃんが、俺に真剣な顔で説教してくる。
いや、だからね、そんなに危険だと思わないんだけど、俺は……これ言うと、ツナ怒るんだけど……
「その、危ない人って、誰の事だい」
店中の視線を独占して焦っていた俺の耳に、最近漸く聞きなれてきた声が聞えて来て振り返る。
俺とツナは、出口に背を向けてるから、本気で気付かなかったんですけど、店中の視線を向けられてた理由が今漸く分かりました。
何時の間に、この人は現れたんですか???
「委員長さん!!なんで、ここに?」
「君の姿が見えたからね。で、こんな所で群れてるなんて、咬み殺すよ」
いやいやいや、そんな店に迷惑が掛かるような事をしちゃいけませんから!!!
本気で今にも隠しトンファーを取り出しそうな雰囲気の委員長さんに、俺は慌てて何とか誤魔化す方法を考える。
そして、自分の食べかけのケーキが目に入った。
「委員長さん!あ〜ん!」
何とか誤魔化す為に、慌てて自分の食べていたケーキをフォークにとって委員長さんに差し出す。
フォークを差し出した俺に、委員長さんがちょっと驚いたような表情。
「何?これ??」
「ケーキです!」
俺の行動に毒気を抜かれたように委員長さんが質問してくるから、キッパリと言葉を返せば呆れたようにため息をつかれてしまった。
あれ?なんでそこでため息つかれるの?
でも、俺が差し出したケーキはしっかりと食べてくれたんだけど……。
「賄賂貰ったから、今日は特別に見逃してあげるよ……」
って、ケーキ一口食べて、賄賂って……ありえないんですけど!
どうやら、商店街の見回り中みたいで、そのまま店の人と何かを話してそのまま出て行く委員長さんを見送ってしまう。
よ、良かった。ツナが委員長さんに喧嘩売らなくって……
「本当、迷惑な人だね……」
ボソリと呟いてコーヒーを飲むツナを横目に、俺はもう一度委員長さんが出て行った方を見詰めてもう一度ため息をついた。
多分、ツナの態度を見ると、委員長さんが近付いてくる事にも気付いていたんだろう。
だから、悪口を言ってたのかもしれない、この人の事だから……
「さ、三角関係ですか?」
「はぁ?」
「ううん、ハルちゃん甘いよ!!三角関係どころか四角、ううん、五角関係はあると思うよ」
えっと、何の話ですか、二人とも?
四角とか三角とか、数学の話??
突然の二人の会話に意味が分からず首を傾げてしまっても仕方ないと思うんです。
何で、ここで数学の話になるんでしょうか??
「でも、私達が応援してるのは、ツナさんですから、頑張ってくださいです!!」
「うん、任せておいて、絶対誰にも渡さないから!」
俺一人全く話が分からないんだけど、誰を渡さないんだろう?
三角とか四角がそれに関係してくるのか?
数学で、ツナの応援してるんだろうか?えっと、きっと数学の順位の事なんだろうと思う。
心配しなくっても、ツナは誰にも上位渡さないと思うんだけど……
「一体、何の話なの?」
「には、内緒の話」
確信出来なくって問い掛けた俺に、ツナが楽しそうな笑みを浮かべて返してくれた。
その顔は、本当に楽しそうで、除者にされている事がすっごく悔しくなるんですけど……
拗ねたような表情でツナを睨み付ければ、ただ笑われてしまった。
そんな俺達の遣り取りに、京子ちゃんとハルちゃんは、嬉しそうに笑ってるんだけど、なんでなんだろう??
でも、二人が楽しそうなにしているから、それ以上文句を言う事も出来ずに、俺はただもう既に冷たくなってしまったミルクティを一口口にした。
その後、委員長さんが店の人に声を掛けていた理由が判明して、ツナが不機嫌になったのは秘密。
う〜ん、でもあの人本当に何者なんでしょうか。
今日のケーキも飲み物も全部タダってありえないんですけど……
無理矢理お金払おうとしたけど、逆に店の人に泣かれてしまったので、渋々そのまま店を後にした。
もう、あの店には二度といけないかもしれない……。
折角、美味しかったのに、ちょっと悲しい。
母さんにお土産まで準備してもらって、本当に申し訳ないんですけど……
一体、お店の人になんて言ったんだろう、委員長さん。
「また、お礼しなきゃだよねぇ・……」
不本意で仕方ない気がしないでもないんだけど、ご馳走になった事になるんだから、ちゃんとお礼はしなきゃだよね。
「だからね!あの人に近付くのは反対だよ!」
ポツリと呟いた俺に、ツナが速攻で反対してくる。
でも、ケーキとかご馳走になったのは本当のことだし……賄賂って言って俺のケーキ食べてた筈なのに、お金払ってないけど、賄賂って言うのかな?
絶対、賄賂じゃないように思うんだけどね、でも、ほら、やっぱり奢ってもらったのか謎なんだけど、ご馳走になったのは本当の事だからお礼をするのは常識だと思うんだよ、俺は!
そう思ったんだけど、ツナの迫力に負けて、それ以上何も言えなかった。
仕方がないので、又こっそりとお返ししようと心に決めたのは、秘密と言う事で……