「こんにちは」
玄関から聞えて来た声に、俺は深いため息を付いた。
今からでも行きたくないと言うのは、有効だろうか?
「ちゃん、お友達来たみたいよ」
女の子二人の声に、母さんが楽しそうに声を掛けてくる。
うん、分かってるんだけど、この格好で行きたくないんです、本気で!
「オレが先に二人に声を掛けてくるから、はゆっくりと出ておいで」
って、何でそこでツナが先に出て行くの?
いや、確かに俺は歩くの遅いけど、そんなに広くない家なんだから玄関まで出るのにそんなに時間は掛からないから!!
「ついでに、オレが用心棒として一緒に行っていいかも聞いておくからね」
部屋から出て行く前にウインク付きで言われたその言葉に、複雑な表情をしてしまう。
それって、俺じゃ用心棒にもならないって事なんだよな。
それは、間違いじゃないと分かっていても、男としては情けないことこの上ない。
しかも、俺だと男だと信じてもらえなくって、一緒にナンパされる事間違いなしだし……
か、考えてたら虚しくなってきた。これ以上考えるのは止めておこう、自分の精神安定にはそれが一番いい。
「お待たせ」
ブンブンと首を横に振って、考えていた事を振り払ってから、玄関でツナと話をしている京子ちゃんとハルちゃんに声を掛けた。
「そんなに待ってないですよ!って、さんとっても似合ってますです!!」
「本当、くん素敵だよ」
ヒョッコッと顔を出した俺に、ハルちゃんがニッコリと笑顔で言い今の格好を誉められた。
しかも、京子ちゃんまで嬉しそうに誉めてくれる。
いや、そんなに似合ってるって言うのも、悲しいものがあるんですけど……
「母さんのコーディネートだからね。バッチリでしょ」
何でそこでツナさんが得意気に言っちゃってるんですか?
「流石お母様です!さんの事を一番良くご存知なんですよね」
それは多分、誉められてる?
嬉々として言われるハルちゃんの言葉に、複雑な気持ちは拭えない。
だって、女の子の服にあってるって言われても、嬉しくないから普通!!
「有難うハルちゃん!でもね、ちゃんたら、分かってくれないのよ」
って、何時の間に来たんですか、お母様!!
何時の間に来たのか分からないけど、母さんが泣き真似しながらハルちゃんに訴えている。
いや、分かりたくありませんから!俺、男だよ、何で女物着て似合うって言われて、喜ばないといけないんだよ!!!
今、俺が着てる服はなんて言うか襟が大きめに作られた白いTシャツの上に後ボタンの作りで大きなリボンを前に結ぶタイプの可愛い桜色のキャミソール、それに七部袖の薄手のカーディガンを羽織っている。
下に履いているのは勿論ズボン。でもこれも短めで裾にリボンとレースが付いているように見えるのは、俺の気の所為じゃないよな?
京子ちゃん達も、女の子らしい可愛い格好だ。
うん、9月って言ってもまだまだ暑いから、ちょっと薄着の格好。
「くん、本当に似合ってるよ」
って、だからニッコリ笑顔でそんな事言うのは止めてください。
本気で、悲しくなってくるから……
「えっと、格好の事はもう何も言わないでくれると嬉しいんだけど……それよりも、ツナも一緒に行くの?」
「はい!ツナさんには、しっかりとさんの護衛をしてもらうであります!」
「はぁ?」
えっと、俺の護衛?女の子二人じゃなくって??
「あの……」
「大丈夫、3人共しっかりと護衛させてもらうよ」
思わず疑問に思った事を質問しようとした瞬間、ニッコリと笑顔でツナが口を開いた。
ああ、やっぱり俺も護衛対称なんだ。
いや、多分この中で一番役立たずなのは俺だと思うけど……
「そうだね、最近物騒だって言うから、ツナくんにも来てもらった方が安心だから」
ニッコリと笑顔で京子ちゃんもツナが一緒に行く事には賛成らしい。
うん、俺もツナが一緒に行くのは賛成なんだけど、やっぱり俺じゃ役に立たないて言われてるようにしか聞えません。
「」
「ほら、ちゃん、楽しんでいらっしゃい」
一瞬複雑な表情を見せた俺に、ツナと母さんがニッコリ笑顔で背中を押してくれる。
「……えっと、それじゃお土産買ってくるから……」
「楽しみにしてるわね。いってらっしゃい」
送り出してくれる母さんに、俺がそう言えば優しい笑顔で答えてくれる。
「いってきます!」
送り出してくれる母さんに見送られながら、俺達4人は家を出た。
「でも、本当にすごく似合ってますよ、さん」
家を出て直ぐ、ハルちゃんが楽しそうに話し掛けてくる。
いや、だからね、もう格好の事は言われたくないんですけど……
「えっと、俺よりも、二人の方が可愛いと思うんだけど……」
ハルちゃんの格好は、白と水色の縞模様のキャミソールに長の短いカーディガンを羽織って薄茶色の膝までのショートパンツ。髪は何時ものようにポニーテール。
京子ちゃんの格好もTシャツにタイトスカートでラフな感じで似合っている。
何かめちゃめちゃ女の子の格好してるのって、俺だけじゃないか??
「うん、は何着ても似合うけどね」
って、そこでなんでそんな恥ずかしい事をサラッと言っちゃうんですか!お兄様!!
「本当に、ラブラブです」
「そうでしょ!この二人を見てるだけで、幸せになれるよね!」
えっと、ラブラブって何ですか?それに、この二人って、誰と誰?
本当に幸せそうな京子ちゃんとハルちゃんの姿に、思わず一歩引いてしまうのは許して欲しい。
だって、意味分からないから!誰と誰が、ラブラブなんですか??
「えっと、女の子同士の中に、俺達が一緒しても、本当に良かったの?」
ここは話題を変えるべきだと、疑問に思った事を質問してみる。
「初めからさんを誘うつもりでしたので、問題ありません!」
「うん、くんが来れば、ツナくんも絶対一緒に行くだろうって思ってたから」
満足そうに頷きあう二人に、複雑な気持ちは隠せない。
それって、俺とツナはワンセットと見られてるって事なんだろうか??
別に、それがいやな訳じゃないんだけど、それもそれでどうかと思うんですが……
「すっかりワンセットになってるみたいだね。オレとしては嬉しいんだけど」
って、ツナさんなんでそこで嬉しそうな笑顔で笑ってるんですか?
うん、俺も嬉しいのは否定しないけど、そんなはにかんだような笑顔で笑わないで下さい!なんて言うか、目の毒です!!
思わすツナの顔が見ていられなくって、顔を逸らしてしまう。
あんな笑顔は反則です、お兄様!!
ドキドキする胸を抑えながら、そっと息を吐き出す。
俺、何でこんなにドキドキしてるんだろう……?
「?」
顔を逸らしてしまった俺に、心配そうにツナが覗き込んでくるのに、慌てて首を振って返す。
「な、なんでもない!!そ、そんな事よりも、新しく出来たケーキ屋さんって?」
「はい!並盛商店街の中に出来たんですよ」
「えっと、商店街の中って『ラ・ナミモリーヌ』あったよね?また、ケーキ屋さんできたの?」
「うん、『ラ・ナミモリーヌ』とは別にね、期間限定で作られたケーキ屋さんなんだよ」
話を変える為に質問したそれに、ハルちゃんと京子ちゃんが説明してくれた。
ああ、期間限定の特別ケーキ屋さんなんだ……って、本当に女の子って、色々知ってるよね。
「12月末までのオープンですから、今の内しか食べられないんですよ」
「甘さ控えめで、男の人でも食べられるように作られてるんだって」
「楽しみですよね」
嬉しそうに話をしている二人を前に、思わず笑ってしまう。
本当に、女の子って見てると可愛いよね。
「それって、楽しみだな」
俺も、そんな二人の会話に入るように声を掛ける。
そうすれば二人が嬉しそうに、自分にどんなケーキがお勧めとか、どんなケーキが好きなのかを話してくれた。
俺も、自分が好きなモノを話しながら、商店街に出来たと言うケーキ屋さんまでの道のりは、賑やかに過ぎていった。
一歩後をツナが、見守るように見詰めていくるその視線を感じながら……