くん!」

 学校からの帰り道を歩いていた俺は、突然後から名前を呼ばれてその足を止め振り返った。


 今日は、ツナは用事があるとかで、まだ学校にいる。
 だから、一人で帰っていたんだけど……

「京子ちゃん?」

 手を振りながら走り寄ってきたのは、俺の女友達第一号の笹川京子ちゃん。

 並盛中のアイドル的存在で、憧れている男子は一杯居るらしい。
 恋愛感情は無くても正直に可愛いと思えるのだから、それも当然かもしれない。

「どうしたの?」

 ちょっとだけ息を弾ませて来た京子ちゃんに、質問。

「今日、ハルちゃんと新しく出来たケーキ屋さんに行くことになってるんだけど、くんも一緒に行かないかなぁと思って」

 目をキラキラしてのお言葉に、一瞬考えてしまう。

 えっと、これはお誘いだと思うんだけど、相手ハルちゃんなんだよな?俺なんか誘ってもいいのか??

 いや、新しく出来たケーキ屋さんは魅力的なんだけど……

「俺で、いいの?ツナ達は一緒じゃないんだよね?」
「うん、今日は女の子同士で行くから!だから、くんも一緒にどうかなぁと思って」

 って、そこ!にっこり笑顔で言う事じゃないと思うんです!!
 しかも、だからで括られる内容でもないですから!俺、男だよ、何で女の子同士で行くのに、だからで俺を誘うの?!
 それって可笑しいです、明らかに!!

「いや、あの京子ちゃん……」
「どうしたの、くん?」

 ニコニコと笑顔で俺の返事を待っている京子ちゃんには、突っ込めません。

 俺、時々思うんだけど、京子ちゃん達に性別間違って覚えられてるように思うんです。

「えっと、ご、ご一緒させてください」

 必死に考えて、俺が返事を返せたのはそれだけだった。
 だって、この笑顔を前に否定は出来ません。

「良かった。それじゃ、一度戻って着替えてから行く事になってるんだ。くんの家にハルちゃんと一緒に迎えに行くから準備しておいてね」

 返事を返した俺に、京子ちゃんが嬉しそうに微笑んで、しかも迎えに来てくれるって、あのそれ逆です!俺が、二人を迎えに行くのが普通なんじゃ……

「あ、あの」
「それじゃ、また後でね!」

 それに対して口を挟もうとした俺に、京子ちゃんは手を振りながら走り去っていく。
 いや、だから、俺の言葉も聞いてください、お願いだから!!

「俺、時々自分の性別間違って認識されてるように思うんだけど……」


 間違いなく、俺って男だよね?


 そりゃ確かに、その辺の女の子よりも役に立たないかもしれないけど、間違いなく男だよな?!
 うん、女の子と間違われて、良く声を掛けられるけど、性別は男だから!!

、そんな所で何黄昏てるの?」

 打ちひしがれていた俺に、また声が掛けられて振り返る。

「ツナ?もう用事終わったの?」

 自分に声を掛けてきたのは、双子の兄で今日は用事があるから先に帰っているように言っていた相手だった。

「大した用事じゃなかったからね。それよりも、こんな所で突っ立ってどうしたの?家までもう直ぐだよ」
「うん、先まで京子ちゃんと話してたから……」
「京子ちゃん?何で、京子ちゃんが?」

 不思議そうに聞いてくるツナに、素直に答えれば意外だと言うようにツナが再度質問してくる。

 う〜ん、別にツナに秘密って言われた訳じゃないから、話てもいいのかな?

「えっと、今日これから新しく出来たケーキ屋さんに行くからって誘ってくれたんだ」
「ふーん、女の子って何処からそう言う情報仕入れてくるんだろうね」

 素直に内容を話した俺に、感心したようにツナが口を開く。

 うん、俺もそれには同意見です。
 女の子の情報網って本当に凄いと思うんだけど……

「それで、は行くって言ったの?」
「うん、制服着替えたら迎えに来てくれるって」
「なら、早く帰らなきゃだね。そうだ、母さんに言って服用意してもらう?」

 って、何で既に携帯が握られてるんですか?!

「いや、あの……」

 しかも、俺の返事を聞かずに電話掛けてるし?!!行動早すぎです、ツナさん!!!

「で、それって勿論オレも一緒に行っていいんだよね?」

 母さんと連絡をとったツナが満足そうに携帯をポケットに仕舞いながら質問してくる。
 あれ?なんでそうなるんだろう??

「いや、でも何か女の子同士でって言ってたんだけど……でも、それだと俺が誘われるのって可笑しいよね?」

 一瞬考えたけど、何か今日は女の子同士で行くって京子ちゃんが言ってたし、だから、俺は誘われたみたいだけど、先も考えたけどどう考えても『だから』で括られるのはおかしすぎるよね??

 俺の質問に、ツナがなんとも言えない表情で俺を見ると、小さくため息をついた。

「なら、オレは無理かな」

 って、何で『なら』なの?それなら、俺もダメだよね、普通に考えたら!!

「いや、それは、京子ちゃん達に聞いてみないと……」
「京子ちゃん達?二人で行くんじゃないの?」
「うん、ハルちゃんも一緒だって言ってたよ」

 あれ?俺、ちゃんと言ってなかったっけ?ハルちゃんも一緒だって……

「それじゃ、益々一緒は無理かな……分かった、でも女の子3人じゃ心配だから…」
「ちょっと待って!女の子3人って何?俺、男なんだけど!!」

 諦めたようにため息をつきながら言われたその言葉に、引っ掛かりを感じて思わず突っ込んでしまう。

 俺が言った言葉に、ツナはしまったと言うような表情になった。

「ご、ごめん、ちょっと間違っちゃっただけだから……」

 女の子3人って、俺も女の子の仲間入りって事?そりゃ、確かにツナ達みたいに女の子を護れないかもしれないけど、俺だってちゃんと男なんだけど!!

 不機嫌にツナを睨み付けた俺に、失敗したと言うように謝罪してくる。


 ちょっとじゃないから!!
 そんな間違いをするって事は、ツナにとって俺も女の子扱いって事なのかよ!!

「知らない!」

 それが悲しくって、俺はツナを置いて一人で歩き出す。

 もっとも、俺がどんなに頑張って歩いてもツナは一瞬で追付いて来る事は分かってるけど……

「ごめん、!本当に悪気があった訳じゃなくって……」

 俺の精一杯の速度に、簡単に追付いて来るツナが憎らしい。

 こんな時、自分の足が嫌になる。
 何で、走り去る事が出来ないんだろう……。

、そんなに足酷使しちゃダメだよ!」

 必死で歩く俺に、ツナが心配そうに声を掛けてくるけど、無視。

!」

 これ以上聞きたくなくって、無理だって分かってるけど、俺はちょっと小走りで家の門を潜った。後から焦った声が聞えてくるけど、無視。

 これぐらいなら、今の俺でも何とか出来る。

 バタンと大きな音をさせて玄関の扉を閉め、何時もなら整える靴もそのままに自分の部屋へと直行した。

、走っちゃダメだって!!」
「お帰りなさい、どうしたの?」

 後からツナの焦った声が聞こえてきたけど、知らない。

 だって、間違えて言ったって事は、そう考えたことがあるって事。
 だから、何気ない時に、そんな事を言ってしまうのだ。

!だからね、本当に間違えたって言うか、ほら京子ちゃんとハルが一緒って事は大体黒川が一緒だから、つい言葉に出ちゃっただけで、の事を言ったんじゃないんだからね!」

 ドンドンと扉を叩いてツナが必死で言葉の説明をしてくる。

 俺の事を女の子扱いした訳じゃなくって、もう一人京子ちゃんの友達の黒川さんが一緒に居ると思ってたんだって事。
 確かに、あの二人が一緒の時って、大体黒川さんも一緒だ。

 うわ、俺、すんごい勘違いで何子供みたいな事してんだろう……

「……ごめん、ツナ……」

 それが分かったから、急いで扉を開いて素直にツナに謝罪する。

「うん、オレも紛らわしい言い方しちゃったから……」

 素直に謝罪した俺に、ツナがホッとしたように許してくれた。
 それに俺もホッとして笑顔を見せれば、ツナも笑顔を返しくれる。

「それじゃ、何か分からないけど、仲直りしたんだったらちゃんは早く着替えて、お友達が来るんでしょう?」

 笑い合った俺達の間に、ニッコリと顔を出してきた母さんにちょっとだけ驚いた。

「えっと、うん……ただいま、母さん」

 だから、俺に言えたのはそれが精一杯。
 だって、帰ってきて挨拶してなかったんだよね、俺。

「お帰りなさい、ちゃん。ほら、ちゃんとお洋服準備してるから、着替えて準備しちゃいましょ!」

 あれ?ちょっと待って、何で準備しちゃいましょうなんでしょうか?
 しちゃいなさいって言われるなら、分かるんだけど……

「今日選んだ服は、ちょっと面倒な服だから、母さんが手伝って上げるわね」

 俺の疑問に思った事に、ニッコリと笑顔で母さんが口を開いた。
 ……えっと、面倒な服って、どんな服ですか??

「ほら、準備しちゃいましょう!ツッくんは見ちゃダメよ。ちょっとの間、ランボくんの相手お願いね」
「了解」

 嬉しそうな母さんの言葉に、ツナは呆れためたようにため息をついて二階へと上がって行く。

「それじゃ、準備しちゃいましょうか!」


 って、なんで母さんは。そんなにやる気満々なんですか?

 可笑しいでしょう、明らかに!!



 そして確かに母さんが選んでいた服は、本当に面倒な服でした。