新幹線に乗る事2時間30分。
 漸く、目的の町へと到着する。

 新幹線の中では、ジョットとずっと話をしとったお陰で、全然退屈せぇへんかった。

 まぁ、その所為で、変な目で見られとったんは知っとるんやけど、そんないに細かい事は全部無視や無視。
 オレには見えるし聞こえるんやから、話すなと言う方が無理なんや。

 それに、今のご時世やったら、携帯で話をしとるのやろうと勝手に勘違いしてくれるんやから、問題ないやろう。
 例え、オレが携帯電話を持ってへんかて、周りのヤツ等には分かる筈もあらへんのやから


「ここが、並盛町。今日から、オレが住む町なんやなぁ……」


 駅から出て目の前の景色にポツリと呟けば、ジョットがなんや複雑そうな顔をする。
 まぁ、オレがどないして並盛に行く事になったんかを話したんやから、同情してくれとるのかもしれへん。
 当の本人は、その言葉にそないに意味などもっとらんかったんやけどな。

 ざっと、辺りを見回せば、迷子になる心配はなさそうやと安心する。
 普通のヤツには見えへんやろう人が大勢居るんやから、そいつ等に聞けば目的地に辿り着くんは簡単や。

 さて、そないなオレの目的地は……


「並盛中学のちょっと先なんやな。なら、まずは並盛中を探せばええんか」


 地図で、行き先を確認してから、一人頷けばまたしても、ジョットが変な顔をしよった。


「なんや?ジョットは、並盛中を知っとるんか?」


 明からに、今の言葉に反応したんやろうと当たりを付けて問い掛ければ、ジョットが少し驚いた顔をする。
 本当、良く顔に出る兄ちゃんやなぁ。


『私は、そんなに顔に出ているのか?』
「オレには、分かりやすいで」


 先程から、ジョットの顔から心情を読んどるオレに対して、そないな質問で返されたんで素直に返事を返せば、またジョットが変な顔を見せよる。

 だから、そないな顔がオレには分かりやすいんよ。


「ジョットは並盛中を知っとるみたいやから、案内宜しゅうな」


 ニッコリ笑顔で言えば、また複雑な顔をされてしもうた。

 うんうん、ほんまに分かりやすいで
 そないに、行きとうない場所なんやろうか?


「でも、行かんと、オレは野宿になってまうやないか」
『……案内するのが、嫌な訳じゃない。ただ、お前の事を心配したんだ』
「なんや、並盛は、そないに危険なところなんかい?」


 返ってきたジョットの心配と言う言葉に、思わず複雑な表情をしてしまう。

 なんや、心配される町なんか、並盛町。
 並つー漢字が入っとるのに、町はデンジャラスなんかい!


『危険と言えば、危険かもしれないが、至って平和な町ではある』
「いやいや、危険なのに平和って、意味分からへんて!」


 まぁ、確かに今見る限りでは、平和そのもののように見えるんやけど
 ジョットが危険やと言う町なんやから、上辺だけなのかもしれへんし、何よりも、時々リーゼントに学ラン着とるヤツがチラホラ見えるんは、気の所為やろうか?


「なぁ、そこな綺麗なねぇちゃん、ちょっとええか?」
『あら、あなた私が見えるの?凄いわね。ふふふ、何でも聞いてちょうだい』


 多分、ジョットに聞いても、明確な回答は得られへんやろうと思うて、オレは近くを通り過ぎた綺麗なねぇちゃんに事情を聞く事にした。
 声を掛ければ、ねぇちゃんは親切な返事を返してくれる。


「あんな、あのリーゼント頭の学ラン着たヤツ等ってなんなん?」
『……リーゼントに学ラン……あなた、この町は初めてみたいだから、教えてあげるわね。あれはね、並盛中の風紀委員よ』
「並盛中の風紀委員?って、あれで、中学生なんかい?!」


 オレが質問した事に、ちょっとだけねぇちゃんの顔が複雑なものになったんやけど、それでも親切に教えてくれたその内容に思わず驚きの声を上げてしまえば、周りの視線が一気に向けられてしもうた。


『あなた、驚く所はそこじゃないでしょう』


 そうすれば、呆れたようにねぇちゃんが返してくる。

 いやいや、オレにとっては十分驚きの対象なんやけど
 中学生やのに、なしてあないにデカイんや!?
 オレにその身長を少しでも譲ってくれへんやろうか……ああ、無理やろなぁ……。


『なんにしても、彼等には関わらない方がいいわよ』
「んっ、気ーつけるわ。教えてくれて、おおきに、綺麗なねぇちゃん」
『どういたしまして、また何かあったら声掛けてちょうだい、大体この辺にいるから』
「おおきに、今日からこの町に住む事になったんや、宜しゅうな」


 優しく教えてくれたねぇちゃんに、笑顔で礼を言ってペコリと頭を下げる。

 まぁ、当然他の人等にはねぇちゃんは見えへんのやから、オレは何もない空間にお辞儀しているように見えるんやろうが、気にしたら、負けや。
 それに、礼儀はちゃんとせなあかん言うのんは、親父からキツク言われとるんやから、オレの中では絶対なんよ。


『そうなの、何だか、楽しくなりそうね』


 オレの言葉に目の前のねぇちゃんが、それはそれは綺麗な笑顔を見せてくれた。

 まぁ、何やろう、ちょっと怖いと思ってしもうたんは秘密や。
 しかも、チラリとジョットの事を見て、また笑とったんやから、もしかしたらこのねぇちゃん、ジョットの事を知っとるんやないやろうか?

 ねぇちゃんの笑みを前に、またしてもジョットが眉間に皺を寄せとる。
 まぁ、深く考えんとこ、ジョットはあんまり知られとうないみたいやしな。

 ねぇちゃんと別れてから、取り敢えず並盛中を目指す事にする。

 リーゼントに学ランの並盛風紀委員には、十分注意と頭に叩き込んで