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何が悲しゅうて、幽霊を拾わなあかんのやろう。
今日からは、自分の力で生活せなあかん言うのに、お荷物を抱えるやなんて、信じられへん。
オレか、オレの日頃の行いが悪いねんか?!
いやいや、そないな事はあらへんやろう。
困っとる人がおったら、手を貸したるんは当たり前やし、いやいや、それが幽霊でも、邪険に扱うやなんて……今日の派手な兄ちゃんに素っ気なかったんは、気分的に今日は誰とも係わりとうなかったんやから、仕方ないねん。
オレかて、人と関わりとうない時やって、あんねん。
それやのに、滅多にせぇへんことしたから言うて、こないな酷い仕打ちで返さんでもええやないか。
深々とため息をついても、許されるやろう。
『なんだ、そのため息は?』
盛大なため息をついた瞬間質問されるが、ここで兄ちゃんの所為や言うたら、どないな反応するんやろう。
もっとも、そないな事言えへんのやけど
「なんでもあらへん。これからの事を考えとっただけや」
心配そうに見詰めてくる琥珀の瞳を見ると、この派手な兄ちゃんもそないに悪いヤツやあらへんのかもしれへんように思う。
素直に自分が考えとった事を話さずに、少しの嘘で返す。
そう、全部が嘘やない。
不安がない訳、あらへん。
今日から、一人になる事が不安なんや。
親父も、弟も、そしておかんも、おらへん家が、これからのオレのウチになるねん。
不安に思うな、言う方が無理なんや。
『そうか……確か、これから住む町は、並盛だったな?』
「そうや、なんや、兄ちゃん、並盛を知っとるんか?」
今オレ等が居んのは、新幹線の中。
結局、オレから離れられへんようになったらしい兄ちゃんを連れて、新しく住む事になっとる町へと一緒に向こうとる最中や。
って、ここまで一緒に居んのに、まだオレは兄ちゃんの名前も知らへんのやった。
『まぁ、悪い所では、ないと、思うが……』
「なんや、曖昧なんやな。まぁ、なるようにしかならんやろうし、何処に行っても、オレが幽霊に助けられるんは、変わらんやろうしな」
深く考えても、なんも変わらへんのんやったら、流されるままに生きるしかないやろう。
それに、オレは何故か幽霊に助けられる体質の持ち主なんやから、怪我の心配も必要あらへん。
『どう言う意味だ?』
「そのまんまの意味や。オレが怪我しそうになったら、その辺の幽霊が助けてくれるんや」
だから、オレはおかんに、何度も本気で叩かれそうになった時やって、痛い思いをした事はない。
そこに居る、誰かが、何時もオレを守ってくれたからや。
その辺の浮遊霊言われとるモノから、オレのご先祖の霊やったり、色々なモノから守られとった。
それが、更におかんの恐怖を煽る事になっとったんやけど、オレにはどないする事も出来へんのやから、守られとるしかないんや。
でも、殺意なく手を上げられた時は、オレに届く。
どう言う原理なんかよう分からへんのやけど、階段から落ちた時にも無傷やったんやで、ちょっと、すごいやろう?
「だから、オレは酷い怪我はした事ないんや。まぁ、痛い思いをしてへん訳やないねんけどな」
オレの特異体質を、幽霊の兄ちゃんに説明する事になるやなんて、考えもせぇへんかったなぁ。
まさか、あいつ以外の誰かに、この事を話すやなんて、なぁ。
思いもせぇへんかったんやけど
まぁ、幽霊相手やから、オレも警戒してへんのが理由やと思うねんけど
なんや、この兄ちゃんになら、話してもええって、思えたんや。
「なぁ、そろそろ聞いても、ええか?」
『何だ?』
「兄ちゃんの、名前。オレの名前は、言うんや」
そないな事まで話してんのに、今だに、兄ちゃんの名前を知らへんのが可笑しくて、問い掛ける。
勿論、名前を聞くからには、自分の名前を先に名乗るのが礼儀や思うて、名前を名乗れば、目の前の綺麗な顔が驚いた表情になった。
「なんや、何で、そないな顔するんや?」
驚いた顔を見せる意味が分からず、問い掛ける。
オレかて、礼儀くらいはちゃんとしとるつもりやねんけど
『最初に会った時と、偉い違いだな』
「それはしゃあないわ。偶には、オレかて誰とも係わりとうない時やってあんねん。しかも、今日は慣れ親しんだ町を出なあかんねんから、かなりナーバスになっとったんや」
小さくため息をつきながらオレの質問に答えた兄ちゃんに、正直に理由を言えば、またしても変な顔をされてしもうた。
そないに言うたかて、オレもまだまだ子供なんやから、親元を離れて暮らす事にナーバスになるんは、しゃあないやろう。
『……Giotto』
「えっ?なんやって?」
自分の子供っぽい所を思い返しとったら、兄ちゃんがボソリと何かを呟いたのが聞こえて来た。
せやけど、肝心の内容が聞こえへんかったんで聞き返す。
『ジョット。それが、私の名前だ』
兄ちゃんがもう一度口に出してくれたんは、名前やった。
ジョット、それが兄ちゃんの名前なんやな。
「おおきに、ジョットの兄ちゃん」
名前を教えてくれたんが嬉しゅうて、素直に笑みを浮かべて礼を言えば、ジョットの兄ちゃんがまた驚いた顔をする。
よく驚く兄ちゃんやなぁ、今度は、何に驚いたんやろう?
「ジョット、の兄ちゃん?」
驚いた顔でオレを見てくる兄ちゃんの気持ちが分からへんから、名前を呼んで問い掛けるようにその顔を見上げる。
そうすれば、ジョットの兄ちゃんは、また少し驚いた顔をしよった。
『……私の前で、初めて笑ったからな、少し驚いたんだ』
「なんや、そない事で驚いたんかい。オレは無表情やないねんから、笑うぐらいするで。もっとも、初めから笑えるほどの人間やないんよ」
まぁ、どちらかと言えば、人見知りな方やからなぁ、幽霊相手はちょっと別やねんけど、生きとる人間ほど怖いもんはないんやで。
おかんとか、クラスが一緒やった奴等とか、オレには、幽霊よりも怖かったんやからな!
『……そうか…、だったな。私の事はジョットで構わない』
「了解、ジョットやな。妙な縁やけど、宜しゅう」
兄ちゃん呼びは、せんでいい言う事やから、改めて笑みを浮かべながら名前を呼ぶ。
ほんま、妙な縁なんやけど、これもオレにとっては大切な出会いの一つなんやと、そう素直に思う事にした。
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