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嬉しそうに母さんが作ったご飯を食べているくんを見ていると、何処かホッとする。
だけど、その時間は直ぐに終わってしまう。
お茶碗一杯を食べ終えたくんが、お箸を置くまでには、そんなに時間は掛からなかった。
何処か満足そうな顔をしていることから考えて、もしかしなくてもこれで満足しているって事なんだろうか?
「くん、もう大丈夫なの?」
今にも『ごちそうさま』と言い出してしまいそうなくんに、思わず驚いて声を掛ける。
くんが食べた量は、お茶碗一杯と、おかずをほんの少しだけ
と言うか、お茶碗に入っているご飯を食べるのに必死だったように見えるから、殆どおかずを食べていない。
「十分過ぎるほど頂いた思うんやけど……」
質問したオレの言葉に、成長期真っ最中だあろう男子にとっては信じられない言葉が返ってくる。
確かに、満足そうな顔をしているとは思ったんだけど、まさか本当にそんな返事が返ってくるなんて思いもしなかったのだ。
オレだってそんなに食べる方じゃないけど、くんの量はそれよりも断然少ない。
しかも、お腹が空いて空腹音を鳴らしていたにも関わらず、この量で十分なんて、今まで一体どんな食生活を送ってきたんだろう。
信じれない状況に呆然としていたら、くんがまた何もない空間へと視線を向けた。
多分、プリーモがくんに何かを言ったのだろう。
いや、言われただろう言葉は、何となく想像できるんだけど
「心配せんでも、オレはこれで十分やで」
それに対して口に出された言葉は、プリーモへと向けられた言葉なのだろう。
オレに向けて言われた言葉と同じような内容のそれは、やっぱりこの量で満足していると言うものだ。
「いやいや、全然十分だとは思えないから!?」
だから思わずオレはその言葉に、突っ込みを入れてしまった。
だって、ランボでさえくんの倍の量を食べると言うのに、成長期の高校生男児がこんなちょっとの量で十分な筈がない。
しかも、おかずには殆ど手をつけず、殆どご飯だけを食べていたのだ。
そんなんじゃ、栄養だって偏ってしまうだろう。
「お前、十代目のお母様が折角作ってくださっているんだぞ!ちゃんと食べねぇなんて、失礼な事してんじゃねぇよ!!」
だけどオレの突っ込みに、心底困ったような表情をするくんに、今度は獄寺くんが文句を言う。
いや、別にそんな事はこれっぽっちも気にしないんだけど、だけど、幾らなんでもくんは食べなさ過ぎる。
「…………せやな、ほなら折り詰めにして貰うてもかまへんやろうか?」
獄寺くんに文句を言われて、申し訳なさそうに質問してきたくんの言葉に、一瞬言われた意味が理解できなかった。
えっと、折り詰めにするって事は、これを持って帰りたいって事だよね?
でも、それって、今食べるんじゃないって事で、結局は今はもう食べられないと言うことに繋がる。
「いや、持って帰ってもらうのは問題ないんだけど、お腹空いてたんだよね?本当にそれだけで大丈夫なの?」
持って帰ってもらうのは、全然問題ないんだけど、やっぱりこれぐらいの量で満足しているらしいくんに、再度聞き返してしまうのは止められない。
だって、お腹が空いて空腹音を鳴らしていたのは間違いないのだ。
それなのに、たったお茶碗一杯の量で満足できるなんて、ありえないから!
「折角作ってもらっとるんやけど、ほんまにもう十分頂いとるんやけど」
「お前、少食過ぎだぞ」
「リボーン!お前、何時から居たんだよ!!」
「最初からだ」
心配して質問したオレの言葉に、申し訳なさそうに返されたそれへ、突然現れたリボーンが口を挟む。
今まで何処にいたのか分からないけど、突然会話に入り込んできたリボーンに、すばやく突っ込みを入れてしまうのは、悲しい性だ。
オレの突っ込みに対して、きっぱりと返された言葉は当然だと言うもの。
確かに、一緒にここに入ってきたような気がしないでもないんだけど、全然存在自体忘れてたんだけど
「って、お前なんでくんの膝に乗ってんだよ?!」
当然のように言われたその言葉に、一瞬言葉に詰まってしまうが、今の状態に気付いて慌てて突っ込む。
だって、今こいつが乗っているのは、くんの膝の上なのだ。
本気で、当然のようにその場所に座っているって、どうなんだよ!!
「失礼だから、降りろよ」
「うるせぇぞ、オレの勝手だろうが」
今日会ったばかりのくんに抱っこして連れて帰ってもらった挙句に、膝にまで座るなんて、何処までズーズーしい奴なんだよ。
降りるように促すが、当然それは何時ものようにあっさりと返されてしまう。
って、何が勝手なんだよ!
今乗ってるのは、くんの膝の上なんだから、ちゃんと許可を取るのが当然じゃないのか?!
「悪かったな。次からは、ちゃんと許可取るようにするぞ」
「えっ?あれ?」
思わず心の中で文句を言っていたオレを無視して、リボーンがくんに謝罪の言葉を口にする。
突然リボーンから言われた事に、くんが驚いたように瞳を見開いた。
「オレ、口に出しとったんやろうか?」
「出してねぇぞ。オレは読心術が得意だからな」
それから、不思議そうに首を傾げながら言われた言葉に、納得する。
どうやらリボーンの奴、得意の読心術でくんの心を読んだらしい。
不思議そうなくんに、偉そうに説明するリボーンは、確かに読心術が得意だ。
人の許可もなく何時も勝手に心を読むのだから、読まれる方にはプライバシーなんて存在しない。
「読まれても、いいのか?」
「別に気にせぇへんけど」
「えっ?!くん、勝手に心読まれても気にならないの?!!」
思わずそんな事を考えてため息をついた瞬間、少し驚いたように口を開いたりボーンのそれに、くんがなんでもない事のように頷いて返す。
その言葉には、オレの方が驚いた。
普通、勝手に心を読まれるなんて、嫌だと思うんだけど
「口に出さへんでも分かってもらえるんは、楽でええんちゃうんか?」
「いや、普通はそんな風には思えないから!」
驚いて聞き返したオレに、逆に不思議そうに聞き返してくるくんの方がびっくりなんだけど
確かに、口に出さずに分かってもらえるのは楽かもしれないけど、普通は心なんて簡単に読まれたくはないから!
「そうか?オレも楽だと思うぜ」
「そんな風に思うのは、山本とくんぐらいだよ」
思わず突っ込んでしまったオレの言葉に、山本が否定の言葉を返してくる。
だけどその言葉に対して、オレはただ盛大にため息をついて返した。
楽だとかそんな問題じゃない、勝手に心を読まれるなんて、うかつな事が考えられないって事じゃないか!
能天気な山本には、分からないかもしれないけど、思春期の男子なんだから、読まれたら恥ずかしい事だって考えるんだよ!
そんな事を考えていたら、急にくんの顔色が悪くなる。
それに気付いて、声を掛けようとした瞬間、リボーンがくんの手をポンポンと叩いているのが見えた。
その仕草は、まるで慰めているようで、一瞬言葉を失う。
「リボーン」
そんなリボーンの行動に、くんが小さくその名前を呼ぶのが聞こえてきた。
リボーンは、何も言わずに、ただくんを見ている。
それに、くんがホッと息を吐き出した。
まるで、嫌な事でも忘れるかのように吐き出されたその息は、とても重い。
「くん?」
そんなくんの様子に、思わず名前を呼ぶ。
だけど、それに返されたのは、困ったような何処か泣き出してしまいそうなそんな笑みだった。

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