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案内してもろうた洗面所で手を洗い、ちょっとだけ赤くなってしもうた顔を目の前にある鏡に映す。
『大丈夫か?』
赤くなっとる顔を落ち着かせるために、濡れて冷えた手を自分の頬に当てとったオレに、ジョットが心配そうに声を掛けて来た。
鏡には映らへんその姿に、視線を向けてから困ったような顔になってしまうんはしゃーないやろう。
「…大丈夫言うたら、大丈夫なんやけど、どない対応したらええんか、困るのが本音や」
あれが、普通なんかも知れへんし、オレだけが焦って態度に出しとったら、変に思われる。
せやから、どないに返したらええのか分からへんのや。
『嫌な時は、嫌だと言っていいんだ』
「せやけど、嫌やった訳やないねんから、言えへんよ。誰かと手を繋いだ事があらへんのやから、どないしたらええのか分からへんかったんや」
綺麗な顔にシワを作って言われた言葉に、素直に言葉を返す。
ほんまに、嫌やった訳やない。
誰かと手を繋いだ事なんて、一度もなかったんやから、どうしたらええのか分からんかったんや。
家族とでさえ、手なんて繋いだ事があらへんのやから
それやのに、今日初めて会うた人と手を繋ぐやなんて
「信じられへんねん」
別段自分に触れたからと言って、何かが起こる訳やあらへん。
せやけど、おかんはオレに誰かが近付くんを嫌がった。
もしかしたら、オレが見とるモノを近付いた奴も見てまうかもしれへんと言う、恐怖があったんやと思う。
勿論、そないな事できへんのやけど
『』
「心配せんでも、オレに触ったから言うても、なんも起こらへんよ」
『そんな事は心配していない』
心配そうにオレの名前を呼ぶジョットに、安心させるように言うたのに、少しだけ怒ったように返されてしもうた。
せやけど、そないな心配があるんやろうと思うたんや。
事実、おかんはありえへん心配をしとったんやから、他の誰かも同じように考えても可笑しいない。
「せやったら、何の心配があるんや?」
『……お前は、人見知りで、人との触れ合いに慣れていないだろう』
せやからそれが心配やないとしたら、何が心配なんやろうと質問したオレに、ジョットが少し呆れたように返してきた。
確かに、オレは人との触れ合いに慣れてへんのは事実や。
中学に入ってに会うまでは、殆ど他人との関わりを持ってへんかったんやから
それに、はスキンシップやなんて全然せぇへんかったんやから、こないな風に誰かに触れられたんは、ほんまに初めてやったんや。
せやから、どないしたらええのか分らへんかった。
当然のように手を取られたんや、どないな風に返したらええのか、分からへんでも仕方あらへん。
「心配してくれて、おおきに」
そないなオレの事を、ジョットは心配してくれとったんや。
せやから、オレはそないに自分の事を心配してくれたジョットに心からの礼の言葉を返した。
『別に、私は……』
「おい、後が痞えてんだぞ!10代目をお待たせするんじゃない、さっさとしろ!!」
「あ〜っ、あんまりツナのお袋さん待たせるのも悪いからな」
そないなオレに、ジョットが何か返そうと口を開きかけた瞬間、隼人はんと武はんが洗面所に入ってきた。
それが、突然過ぎて、流石に驚いてしもうたんは仕方ないやろう。
「そ、そうやったな。待たせてしもうて、堪忍」
「謝る必要はないのな。獄寺だって、本当はそんなに怒ってないぜ。こいつ、あんまりが遅いから心配してたのな」
「う、うるせーぞ!野球馬鹿!!余計な事言うんじゃねぇ!!!」
慌てて洗面所から出て謝罪したオレに、武はんが笑いながら返してくれる。
そして言われた言葉に、隼人はんが文句を返す。
せやけど、遅かったんは嘘やない。
迷惑を掛けたんやから謝るんは当然やと思うのに、謝らんでもええやなんてなして、そないな事を言うのかが分からへん。
少しだけ、呆然としてそんな二人を見てしまうんは、どないに返したらええのか分からへんかったからや。
「別に謝る事が悪いなんて思ってないのな。でも、誰も気にしてないのに、そんな顔しなくてもいいって事だぜ」
それが顔に出とったんやろう、武はんがポンポンとオレの頭を撫でながらそう返して来た。
なんやろう、オレの方が年上やって言うとったんやけど、完全に子供扱いされとるように思うんやけど
そないに言われるほど、オレはどないな顔をしとったんや?
「おい!何勝手な事抜かしてやがる!!10代目をお待たせするなんて、失礼な事に決まってるだろうが!!」
オレが更に疑問に思っとる中、直ぐ傍に居た隼人はんがまた怒鳴り声を上げてくる。
それに、ビクリと肩が震えてしまうんは、止められへん。
怒鳴られる事には、慣れとるんやけど、それはおかんの声にだけで、他の、こんな男の声で怒鳴られた事など殆どないから、正直驚いた。
オレの周りに居る男では、そんなに怒鳴るような奴は居らへんかったから
「分かったって、んじゃ、は先に行っとくのな、オレ等も直ぐ行くから、ツナに言っといてくれよ」
「えっ、分かった……」
オレが小さく震えた事が分かったんやろう、さり気なく武はんがオレと隼人はんの間に入って笑顔で言う。
それに、オレはただ小さく頷いて返すんが精一杯やった。
せやけど、それに満足そうな顔をして、もう一度オレの頭を撫でてから武はんが洗面所へと入って行く。
その直ぐ後、また隼人はんの怒鳴り声が聞こえて来たから、きっと中で文句でも言われとるんやろう。
うん、多分、あれが隼人はんの性格なんやろうから、一々ビクビクするよりも慣れた方が早そうや。
「くん、こっちだよ」
それを聞きながら小さく息を吐き出した瞬間、突然名前を呼ばれて顔を上げる。
見つめた先には先程キッチンがある言うとった場所から綱吉はんが顔を出して、手招きしとる姿があった。
それに気付いて、慌ててそちらへと向かう。
「遅いから、心配してたんだ」
「堪忍。さっき、武はんと隼人はんにも、言われたところやってん」
「ううん、謝る事じゃないよ。だから、そんな顔しないでよ」
あれ?綱吉はんにも、同じ事言われてしもうた。
オレ、本当にどないな顔して謝まっとるんやろう。
そないに、悲壮感ただよっとるんやろうか??
「とりあえず中に入って、座って、山本達も出てきたみたいだからね」
再度疑問に思っとるオレに、綱吉はんが中に入るように勧めてくれる。
それに頷いて中に入れば、ほんまにええ匂いが漂ってきた。
その匂いに、またしてもお腹が鳴ってしまう。
「ほら、座って食べよう」
その音が聞こえたのやろう、綱吉はんが笑って椅子に座るように促してきた。
言われるままに、勧められた椅子へと座る。
目の前には、豪華な夕飯が……
「たくさん作ったから、いっぱい食べてちょうだいね」
初めて見る豪華な食卓の風景に、思わず呆然としとれば、綱吉はんのお袋さんがにこやかに声を掛けてきた。
こないにテーブルの上いっぱいの料理やなんて、見た事がない。
それどころか、こないに賑やかな食事やって、初めてや。
一緒に暮らしとったのに、オレはお袋達と一緒にご飯を食べた事があらへん。
お袋がオレと一緒に食べるのを嫌がっとったから、自分の部屋で食べるのが当たり前やった。
下手したら、食えへん事も良くあったから、少しでもご飯を貰えれば、十分やったんや。
せやから、オレはこの年の男子から考えたら、かなり食が細い。
に言わせると、オレが食っとる量は、自分の半分にも満たへんのやと言われた事がある。
そないに言われても、それだけでも食える事が自分にとっては有難いことやったんや。
それ以上、贅沢な事は言えへん。
贅沢は言えへんのやけど、せやけど、それは一般の人達にとっては当たり前の事なんやと改めて教えられような気がしたんや。
「くん?」
目の前に並ぶ料理を前に、動けへんかったオレを心配したように綱吉はんが名前を呼ぶ。
「なんも、あらへん……いただきます」
心配そうに見詰めてくる綱吉はんに、小さく首を振って返し、両手を合わせてペコリと頭を下げて箸を持つ。
それから直ぐ傍に置かれとる茶碗を手に持ち、つやつやのご飯を一口食べた。
久し振りに食べたんは、温かなご飯の味。
ほんまに、こないに温かいご飯久し振りや、昔、確かにお袋が作ってくれたご飯と同じ、暖かな温もり。
「……美味しい…」
ポツリと零れたその言葉に、綱吉はんがどこか嬉しそうな笑みを浮かべてオレの事を見とったんは、何でやろう?
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