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くんを洗面所に案内してから、キッチンに入ったオレは流しで手洗いうがいを済ませる。
「ツっくん、お料理これだけで足りるかしら?」
直ぐ傍に置かれているタオルで手を拭いていたオレに、母さんが声を掛けてきた。
その声に振り返れば、テーブル所狭しとばかりに料理で埋め尽くされている。
一体、何人分作ったんだ?!
「十分だよ。一体何人分作ったの?!」
それに呆れたように返せば、母さんは不満気が顔をする。
「でも、育ち盛りの子が4人も居るんだから、これじゃ足りないんじゃない?」
文句を言った内容に対して、母さんが更に聞き返してくる。
確かに獄寺くんとオレも、人並み程度には食べていると思う。
山本なんかは、野球をしている所為なのかオレ達よりも良く食べる。
だけど、くんは、なんだろうそんなに食べないような気がするんだよね。
多分、その考えは間違っていないと思う。
これも、超直感が働いているのかもしれない。
「大丈夫だと思うよ」
でも、それは多分、今まで育ってきた環境の所為……
くんの身長がそんなに伸びていないのは、もしかしたらその辺に原因があるのかもしれないと思うと、複雑な気分になった。
高校になったからと言って、大阪から遠く離れたこの並盛で一人暮らしをするのだって、きっと何か理由があるはずだ。
もしかしたら、家庭環境で問題が……
って、勝手に人の家の事を考えるのなんて、失礼だよ!!
「……ダメツナにしては、いい考えじゃねぇか」
自分で考えた事を必死で振り払おうと首を振った瞬間、リボーンがボソリと口を開く。
しっかりと、オレの考えを読んだと分かるその呟きにキッと相手を睨み付けた。
「勝手に人の考えを覗くなって、何時も言ってるだろう!!」
「うるせーぞ、ダメツナ。そんな事より、の奴遅くねぇか?」
また勝手に人の心を読んだリボーンに文句を言えば、文句で返されてしまう。
そして続けて言われたその言葉に、オレも気付く。
そう言えば、あれから結構経っているけど、まだくんはこっちに姿を見せない。
山本や獄寺くんが後から洗面所に行っているから、もうそろそろ来ても可笑しくないのに
「そう言えば、遅いね。分からない事でもあったのかなぁ?」
向こうの方が騒がしいから、もしかしたら山本達と話しているかもしれないけど……あれ、何かそれって面白くないような気がするのは何でだろう。
オレの居ない所で、山本達がくんと仲良くしていると思うと、本気で面白くない。
もやもやする気持ちに、思わず首を傾げてしまう。
どうして、そんな風に思うのかが分からないけど、山本だってオレにとっては大事な友達なのに
「心配なら、様子を見に行ったらどうだ」
悶々と考えていたオレに、リボーンが呆れたように声を掛けてきた。
また勝手にオレの考えを読んだのは分かるけど、言われた事は正論なのでリボーンに突っ込みをするよりも素直にくんの様子を見に行く事にする。
もしかしたら、また獄寺くんに絡まれているかもしれないから、その時には助けないとだしね。
自分に言い聞かせて、くんの様子を見に行く為にキッチンを出ようと顔を出せば洗面所から出てきたのだろうその人が見えた。
どこか複雑そうな表情をしている顔を見ると、多分また獄寺くんに文句でも言われたのだろう。
「くん、こっちだよ」
そんなくんに、オレはその名前を呼んで手招きした。
名前を呼ばれて顔を上げたくんがオレを見て、少し慌てたように近寄ってくる。
「遅いから、心配してたんだ」
「堪忍。さっき、武はんと隼人はんにも、言われたところやってん」
「ううん、謝る事じゃないよ。だから、そんな顔しないでよ」
近付いてきたくんに、正直に言えば本当に申し訳なさそうな顔をするので、慌てて首を振って返した。
だって、本当に申し訳なさそうで、どうしたらいいのか分からないって顔をしていたから
オレがそう返した瞬間、くんが今度はキョトンとした顔をする。
その顔が微笑ましく思えて、思わず笑ってしまった。
「とりあえず中に入って、座って、山本達も出てきたみたいだからね」
だけど、何時までもここに居る訳にもいかないので、中へ入るように勧める。
くんが頷くのを確認してから、オレはまたキッチンへと逆戻りした。
中に入って、料理の匂いを嗅いだからだろう、くんのお腹が鳴る音が聞こえてきて、思わず笑ってしまう。
「ほら、座って食べよう」
だからこそ、これ以上待たせてしまうのは、くんのお腹が気の毒なので座ってご飯を食べるように言う。
オレに言われるままに、大人しくくんがオレの座っている椅子の隣に座る。
「たくさん作ったから、いっぱい食べてちょうだいね」
それを確認した母さんが、にこやかな笑顔を浮かべて声を掛けてきた。
言われたくんはテーブルに並んでいる料理を見て驚いている。
まぁ、確かに今日の料理の量はかなり多いから、その気持ちは分からなくもないど、でも多分くんが驚いているのはそれだけじゃないだろう。
ジッとテーブルに並べられている料理を見たまま動かないくんは、心ここにあらずといった様子だ。
一体、何を考えているのかは、オレには分からない。
でも、その顔がどこか寂しそうに見える。
「くん?」
そんなくんを見ていたくなくて、オレはその名前を呼んだ。
オレがその名前を呼べば、ハッとしたように意識を引き戻して、小さく首を振る。
「なんも、あらへん……いただきます」
それから両手を合わせてペコリと頭を下げてからお箸を持ち、お茶碗を逆の手で持って、ご飯を一口分掬うとそれを口へと運ぶ。
「……美味しい…」
それから、ポツリと零れたその言葉と笑顔に、オレの方も嬉しくなった。
悲しい顔ではなく、どこかホッとするその笑顔の方が何倍もいいと思う。
その後、山本と獄寺くんも参加して、楽しい夕飯の時間が過ごせたのは、くんが少しでもオレ達に慣れてくれる切っ掛けになってくれればいいなぁと思う。
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