リボーンを抱き上げて、綱吉はんの家へと向かう間も、何やら物言いたげな顔をしとるジョットと綱吉はんの視線を感じとったんやけど、あえてそれに気付かんフリをして遣り過ごす。

 なんやろう、なしてそないにも不満気な顔をしとるんやろう。
 そないにリボーンを抱き上げとるんは、問題あるんやろうか?


「なぁ、一つ聞いてもええか?」
「なんだ?」


 二人の視線を受けながら、こっそりと腕に抱いとるリボーンへと問い掛ける。
 オレの問い掛けに、リボーンが聞き返してきたんは、質問に答えてくれるつもりがある言うことやろう。


「オレがリボーンを抱き上げとるんは、そないに問題があるんやろうか?」
「問題ねぇぞ」


 こっそりと質問したオレに、リボーンがあっさりと返してくる。


「だよなぁ、せやのに、なして綱吉はんもジョットも変な顔して見てくるんやろう?」
「ジョットもか?」


 なしてあないに不満そうな顔をしとるんか、オレには分からへん。
 オレが質問した内容に、少し驚いたようにリボーンが聞き返してきた。


「そやなぁ、綱吉はんと同じ顔しとるんやけど」


 せやから、正直に綱吉はんとジョットが同じ顔しとる事を教えたる。

 オレが言うた事に、またもやリボーンが驚いたような顔をした。
 なして、そないに驚いとるんやろう?


「リボーン?」


 リボーンが驚く理由が全く分からへんかったオレは、思わずその名前を呼ぶ。
 なんや、オレが不味い事を言うたんやったら、素直に謝らなあかんからな。


「何でもねぇぞ。ちょっと驚いただけだ」


 オレが名前を呼んだら、リボーンは帽子を深く被り直し、その顔を隠した。

 いや、せやから、何に驚いたんかを知りたいんやけど……
 せやけど、リボーンにそれを聞いても、教えてくれへんのやろうなぁ……。


「あれが、ツナの家だぞ」


 小さくため息をついた瞬間、リボーンが一軒の家を指差す。
 それに気付いて視線を向ければ、赤い屋根で2階建ての立派な家が見えた。

 そないな立派なお宅に、ほんまにオレがお邪魔しても、ええんやろうか?


「……リボーン、ほんまに、お邪魔してもええんか?」
「いいに決まってるぞ。ママンも楽しみにしてたからな」


 綱吉はんの家を見て、また不安になってしもうて尋ねた言葉に、あっさりとリボーンが返事を返してくる。
 せやけど、言われた言葉は、更なる不安をくれただけやった。

 なんや、何を楽しみにされとるんやろう。
 オレには、なんも人を楽しませる事なんて、出来へんのに……
 それどころか、怖がられる要素だけはギョウサン持っとるんやけど

 あかん、なんや落ち込んで来た。
 オレ、どんだけ寂しい人間なんやろう。


くん、家に着いたから、リボーンの事降ろしてもいいよ」


 落ち込んどるオレに、綱吉はんが引き攣った笑みを浮かべながら声を掛けてきた。
 それに、意識を浮上させて、腕の中に居るリボーンへと視線を向ける。


「家の中まで、頼むぞ」


 オレの聞きたい事が分かったんやろう、リボーンから当然と言うような返事が戻ってきた。
 多分そないに言うやろうなぁとは、思っとったんやけど、予想通りの返答に綱吉はんとジョットがそれを聞いてまた同じ顔になっとるし。


「リボーンは、軽いんやから気にせんでも、ええのになぁ」


 そないな二人の顔を見て、ポツリと呟いてしもうたんは、しゃーないやろう。
 子供のリボーン一人を抱えとるのに、そないな負担にはならへん。
 確かに、自分はそないに体力がある方やないんやけど、これぐらいなら平気や。


「オレを降ろさせてぇなら、早く家に入るんだな」


 複雑な表情をしとる綱吉はんに、リボーンが挑発するように口を開く。
 まぁ、確かに言うとる事に間違いはないんやけど、なしてそないに好戦的なんやろう。


「お前に言われなくても、分かってるよ!それじゃ、くん、家に入ってよ」


 リボーンに対して綱吉はんが強く返事を返してから、オレに中へ入るように勧めてくれる。
 ドアまで開けてくれるやなんて、なんやエスコートされとるみたいなんやけど


「お、おおきに……」


 家へと勧めてくれた綱吉はんにお礼を言うて、一歩家の中へと入った。


「おかえりなさい」


 入った瞬間聞こえて来たんは、女の人の声。
 綱吉はんに良く似とる可愛いらしい感じの女の人が、笑顔で迎えてくれた。


「あっ、あの、えっと……」


 女の人に笑顔を向けられた事なんて一度もあらへんから、どないに返したらええのか分からへんでどもってしまうんは、しゃーないやろう。
 ニコニコと笑顔を見せとるその人は、とっても優しそうな人や。


「ただいま、ママン。こいつが電話で話した奴だぞ」
「あら?リボーンくんを抱えてきてくれたのね、有難う」


 笑顔で迎えてくれたその人へと、リボーンが挨拶を返してから、ピョンとオレの腕から飛び降りる。
 そないに言うリボーンの言葉に、また女の人が笑顔で今度はお礼を言われてしもうた。

 えっと、ほんまにこないな時って、どないに返したらええのか分からへんのやけど


「母さん、くんが困ってるから、取り合えず上がってもらってよ!まだ山本や獄寺くんだって居て後が痞えてるんだからね!」
「そうだったわ、綱吉に怒られちゃったから、上がってちょうだい」


 困惑しとるオレに気付いてくれた、綱吉はんが助け舟を出してくれる。
 それに、女の人……綱吉はんのお袋はんが笑顔で中へと勧めてくれた。

 それにしても、この人が綱吉はんのお袋さんやなんて、エライ若いねんな。
 オレは、てっきり綱吉はんのご姉弟やと思うとったんやけど



「あっ、えっと、お邪魔します……」


 ニコニコと笑顔を見せとる綱吉はんのお袋さんに、小さく声を掛けて中へとお邪魔する。


「はい、いらっしゃい」


 靴を脱いで、綺麗に揃えてから邪魔にならへんように隅の方へ寄せて振り返ったオレに、綱吉はんのお袋さんが笑顔で返事を返してくれた。
 それに、オレは小さく頭を下げる事でしか返事を返せへん。
 それだけの動作やっても、オレにとっては精一杯なんやけど


「夕飯の準備は出来てるから、まずは手洗いうがいをして、席に座ってちょうだいね。綱吉、案内してあげなさい」
「分かってるよ!それじゃ、くん、行こうか」


 せやけど、そないなオレの態度にも気にした様子も見せへんで、言われた言葉に、綱吉はんが返事を返して、突然手を引かれた。
 まさかそこで、行き成り手を引かれるやなんて思いもせぇへんかったから、少しだけ驚いてしまう。
 やって、こないに当たり前に触れられた事なんて、一度もあらへんのや。
 も、そないにスキンシップとかとらへん奴やったから、手なんて触られた事は一度だってあらへん。


「あ、あの……」
「どうしたの?」


 手を引かれるままに、家の中にお邪魔させてもろうたんやけど、こないな場合どないしたらええのか分からへんで、恐る恐る声を掛けたオレに、分からないと言うように綱吉はんが聞き返してくる。
 えっと、この場合率直に返してもええんやろうか?


『嫌だったら、振り解いてもいいと思うぞ』


 繋がれた手に視線を向けたオレに、ジョットがそっと声を掛けてくる。
 確かに、嫌やったら振り解けばええのかもしれへんのやけど、別に嫌な訳やない。
 ただ、どないに返したらええのか分からへんから困るんや。

 やって、こないな風に普通に扱われた事なんて一度やってないんやから


くん?」


 何も返さへん自分に綱吉はんが、振り返って名前を呼んで来る。


「な、なんもあらへん!」
「そう?あっ、ここが洗面所。手を洗ったらさっき通った所の玄関に近い方がキッチン兼用の食堂みたいなもんだから」


 洗面所に案内してから、自然に引かれとった手は離されて、ホッと小さく息を吐く。
 そして、説明された内容に、オレはただ頷いて返す事しか出来へんかった。