|
オレの家で夕飯を食べる事が決まったので、行き先を家へと向ける。
何時ものように3人で並んで歩くオレ達の後ろを、どこか複雑な表情を浮かべたままくんが付いて来ていた。
無理やり決められてしまったのだから、その気持ちは分からなくも無い。
だけど、家に向かうのはオレとしては全然問題ないんだけど、一つだけ心配な事がある。
くんは、今日この町に来たと言うのに、こんなにも歩き回らせてしまって、大丈夫なんだろうか?
「そう言えば、くん、帰りは大丈夫?何なら、送って行くけど」
心配になって立ち止まりくんを振り返って、質問する。
オレが立ち止まった事で、山本や獄寺くんも同じようにくんを振り返った。
「心配あらへん。分かへんなったら、そこらに居てる人に聞くから気にせんでもええよ」
だけど質問したオレの言葉に、くんがあっさりと返事を返してくる。
確かに、人に聞けば問題ないとは思うんだけど、遅い時間になれば人影はなくなってしまうのではないだろうか。
そうなったら、人に聞く事なんて出来なくなってしまう。
そしてなによりも、くんを見ていて思ったんだけど、彼は、人見知りをするタイプだと思うのだ。
それなのに、簡単に誰かに声を掛けられるなんて思えない。
多分、それは無理なんじゃないだろうか?
それなのに、そんな言葉が出てくるなんて……
「……なんだろう、その言葉に、微妙な違和感があるんだけど……」
どう考えても、可笑しいと思うのだ。
もしかしなくても、何か裏があるんじゃないだろうか?
そんな事を考えて、複雑な表情を浮かべてしまうのは、仕方ないだろう。
「今の綱吉はんとジョットの顔がまんま同じなんやけど……」
「えっ?」
そんな事を考えていたオレに、くんがどこか楽しそうに呟いた声が聞こえてきて驚いて声を出してしまった。
オレとプリーモの顔が、同じ?
でも、その前にくんが呼んだのは、間違いなくオレの名前で
確かにくんは、オレの事を『綱吉はん』と呼んだ。
「思わず名前で呼んでしもうて、堪忍。嫌やったら、もう呼ばへんから」
「ううん、名前で呼んでもらって構わないよ。長いから、ツナって呼んでもらってもいいから」
驚きの声を上げたオレに、くんが申し訳なさそうに謝罪されてしまう。
それに慌てて首を振って返して、皆が呼ぶようにツナって呼んで欲しいと伝えた。
「そんなら、これからも綱吉はんって呼ばさせてもらうな。ええと、他の人達はどないな呼び方したらええんや?」
「オレは、武でいいのな」
「なら、武はんでええか?」
「おう!」
だけどくんが呼んだのは、そのままの名前で、あだ名ではなかった。
でも、くんにそう呼ばれるのは、全然嫌じゃない。
だけど、山本の事も名前で呼ぶのだと思うと、少しだけ残念な気持ちになってしまったのはどうしてだろう。
くんに名前で呼ばれた山本が、笑顔で頷いている。
「えっと、獄寺隼人はんはなんて呼べばええんや?」
「好きに呼べばいいだろう!」
「なら、一人だけ苗字は変やから、隼人はんって呼ばさせてもらうな」
「勝手にしろ!」
山本に続いて獄寺くんにも同じように質問して、名前で呼ぶことに決めたくんに、獄寺くんも珍しく許可を出した。
『勝手にしろ!』だなんて、獄寺くんにしては、珍しい程の好対応だ。
きっと獄寺くんも、くんの事は何となく認めているのかもしれない。
「オレの事は、はん付けは必要ねぇリボーンでいいぞ」
「ええの?」
「気に入ったからな、いいぞ」
そしてそれに続いて、今度は今まで何処に居たのかくんの足元に居たリボーンが口を開く。
言われた言葉の内容は、彼に呼び捨てするように言う。
それに驚いて聞き返すくんに、リボーンが不適な笑みで返した。
「ええっと、それは、おおきに言うた方がええのやろうか?」
「礼は必要ねぇぞ。どうしてもって言うんなら、オレを抱えて行きやがれ、流石に疲れたからな」
そんなリボーンの言葉にくんが少し困ったように礼の言葉を口にしようとするが、それを拒絶してとんでもない事を言い出す。
何を勝手な事を言ってるんだ、こいつは!!
「リボーン!何、ズーズーしい事言ってるんだよ!くん気にしなくていいからね!!」
リボーンに言われて驚いているくんに気付いて、慌ててリボーンを咎めて気にしないでいいと伝える。
なんだかくんは、お人好しそうだからリボーンの事を抱えて行きそうだ。
「綱吉はん、オレの事はでええよ。オレだけ名前呼びなんは、変やからな」
オレの突っ込みに何か考え込んでいたくんがオレにも名前呼びするように言ってくる。
でも、確かにくんは、オレの事を綱吉と呼んでいるのに、オレが苗字呼びしているのは可笑しな話だ。
「あっ!そうか、それじゃくんって呼ばせてもらうね」
言われてその事に気が付いて、オレも名前呼びさせてもらう。
くんと呼んでいたから、そのままくん呼びにしたんだけど、よく考えたらくんはオレよりも年上だった。
もしかしたら、さん付けした方が良かったんだろうか?
「それでええよ」
「んじゃ、オレはって呼ぶのな」
「しかたねぇから、オレもって呼んでやるよ」
だけど、オレの心配は無用だったようで、くんが了承の言葉を返してくる。
山本と獄寺くんは、彼の事を呼び捨てしてるんだけど、くんは気にしている様子は無い。
きっと、年上とか年下とか彼は気にしないんだろう。
「んじゃ、リボーンはオレが抱えて行けばええんやろう?」
「頼むぞ」
「えっ?何で、そんな話になってるの?!」
みんなの呼び方が決まった瞬間、くんがボーンに問い掛ける。
それに当然だと言うように、リボーンが頷いた。
一体何時の間にそんな話が決定してしまったのか分からずに、思わず突っ込んでしまっても仕方ないだろう。
オレの突っ込みなんて気にせずに、くんはしゃがんでリボーンを抱き上げる。
やっぱり思った通り、くんはお人好しのようだ。
こんな彼を放って置く事なんて、出来る筈が無い。
そんなくんを前に、思わず複雑な表情になってしまうのは、止められなかった。
|