そないな訳で、ジョットと離れへんでもようなったんやと、ちょっとだけホッとしたら思い出してしもうた。
 そうやった、オレ、腹減ってるんやったんや。

 思い出したとたん、空腹感に合わせてお腹が鳴ってしまうんは止められへんかった。


「もしかして、お腹すいてるの?」


 その音が聞こえてしもうたんやろう綱吉はんが質問してきた内容に、オレは素直に頷いて返す。

 やって、オレが商店街へ来た理由は、腹が減って食い物を漁りに来たんや。
 やのにこないな事になってしまうやなんて、誰も想像してへんかったんやから


、大丈夫か?』


 ジョットは、オレが昼も食ってへん事を知っとるから、心配そうに質問してくる。

 まぁ、大丈夫かどうかを聞かれたら、大丈夫なんやろう。
 人間一週間食わへんでも、生きていけるんは、実証済みやからな。

 ほんまに、腹減り過ぎると、幻覚見るようになるねんけど……
 水さえありゃ、何とかなるもんなんやで


「平気や、心配してくれて、おおきに……えっと、すまへんのやけど、この辺で何や簡単に食える店とかあらへんやろうか?」


 ジョットに心配してくれた礼を言って、綱吉はん達に質問してみる。
 こう言う事は、手っ取り早く地元の人に聞くんが一番や。


「えっ?簡単に食べられる店?……オレ、外食とかしないから、あんまり知らないんだけど……」


 やけど、綱吉はんから戻ってきたんは、すまなさそうな返事。

 外食せぇへん言うんは、綱吉はんのお袋さんは料理上手なんやろうなぁ、ちょっと羨ましい。
 きっと、ひもじい思いとかした事もあらへんのやろう。


「なら、オレん家に来るか?寿司屋だぜ」


 そないな事を考えとったオレに、確か山本武はん言う人が声を掛けてくる。
 それは嬉しいお言葉やってんけど、オレはちょっとだけ考えてしもうた。

 お寿司は好きなんやけど、今の手持ちを考えるとそないな贅沢は出来へん。


「有難いんやけど、そないに手持ちあらへんから、堪忍したって」
「そんなの気にする事ないのな、親父に言えば、喜んで食わしてくれると思うぜ」


 有難い申し出やってんけど、予算を考えて断りを入れれば、さわやかな笑顔でとんでもない返答を返されてしまう。
 いやいや、気にせぇへん訳には、いかへんやろう!


「初対面やのに、そないな迷惑は掛けられへんよ!その気持ちだけで十分や」


 言われた内容に、慌てて遠慮の言葉を返す。
 今日初めて会うた人に、そないなズーズーしい真似なんて、オレには出来へん。


「……なら、家に来い。ママンの料理はめちゃめちゃうめぇからな」


 慌てて山本武はんの言葉に遠慮したオレに、今度は黒づくめの、リボーン言うた子供が、またまた信じられへん事を口にする。
 先、山本武はんに遠慮してんのに、なしてそないなお誘いになるんか、意味が分からへん。


「いや、せやから、初対面やのに、そないな迷惑は掛けられへんよ!」
「迷惑じゃねぇぞ、もうママンに連絡しちまったからな、来ねぇ方が迷惑だぞ」


 やから慌てて言葉を返したら、逆に行かへん方が迷惑やと言われてしもうた。

 って、いつの間に連絡したんや?!
 確かに連絡入れてしもうたんやったら、行かへん方が迷惑になる。
 せやけど、ほんまにオレなんかがお邪魔してもエエんやろうか?


「そうだね、賑やかな家で良かったら、来てくれると助かるよ。母さん料理食べてもらうの好きな人だから」


 どないしたらエエのか分からず困惑しとったオレに、綱吉はんが声を掛けてくる。

 あれ?なして、ここで綱吉はんがそないに言うんやろう?
 オレを誘ってきたんは、リボーン言う子供やのに……


「あっ!リボーンが言うママンって、オレの母さんの事だから」


 綱吉はんの言葉に、疑問に思ったんを感じとったんか、慌てて綱吉はんが説明してくれる。

 えっと、リボーン言う子供がママン言うとるのは、綱吉はんのおかんなんや……
 そう言えば、リボーン言う子供がとんでもない事を言うとったなぁ、綱吉はんの家庭教師しとるって……あれは、住み込み言う事やってんやなぁ。


、心配しなくても、綱吉の家は大丈夫だ』
「…ジョット」


 ぼんやりとそないな事を思い出しとったオレに、ジョットが安心させるように声を掛けてくる。
 目の前で笑っとるジョットのお陰で、オレは漸く現実へと引き戻された。

 当然綱吉はんと一緒に居ったジョットは、綱吉はんの家の事も良う知っとるんやろう。
 せやから、人見知りする言うオレの事を、安心させてくれとるんやと分かる。

 そないなジョットの心遣いに、オレはその名前を呼んで、小さく頷いて返した。

「えっと、ほんなら、お邪魔させてもろうても、エエやろうか?」
「勿論、歓迎するよ」


 それから確認するように口を開けば、綱吉はんが笑って頷いてくれた。
 それに、ホッとすると同時に、ポケットの中に入れとった携帯が着信を告げる。


「えっ?何の音??」


 着信音は初期のままやから、ピッピッピッピと鳴るそれに、綱吉はんが驚いたように辺りを見回す。
 まさか、携帯の音やなんて思いもせぇへんのやろう。


「悪い、オレの携帯やねん……ちょっと、エエやろうか?」
「あっ、うん」


 ポケットから携帯を取り出して、綱吉はんに謝罪してから出てもいいかを確認すれば、慌てて頷いてくれる。
 勿論、相手は確認せぇへんでも分かっとるので、オレは急いで鳴り響く着信音を止めるべくその通話ボタンを押した。


、悪い、ほんまはオレから連絡せなあかんかってんのに……」
−かまへんよ。そないな事より、ちゃんとさんとは、話せたん?


 繋がった電話に、オレは慌てて謝罪の言葉を口にする。

 着信の相手は、オレの弟。

 出てすぐに謝罪したオレに気にした様子もなく、でも直ぐに心配そうに質問された内容に、思わず笑ってしもうた。
 ほんまに、オレは心配しか掛けられへんのやなぁ。


「……うん。に、話してくれたんやってな。が教えてくれてん、ほんまおおきに、
−別に、たまたまさんに会ったから話しただけだよ。


 心からの礼の言葉に、そっけなく返事を返してくるが、がオレの為に態々に会いに行ってくれたんやと言う事は分かっとる。
 優しくて、オレには勿体無いほど出来た弟。


−そうやった!兄さんの事やから、マンション見て驚いたやろうけど、一応僕は止めたんやからね。


 嬉しくて思わず笑ってしもうたオレの気配に気付いたが、慌てて話題を変えてしもうた。
 言われた内容に、今度は苦笑を零してしもうたんは、仕方ないやろう。


「ああ、そうやろうなぁ。週末に泊まりに来る言うても、あないに広い部屋やのうてエエやろう。親父に部屋紹介した人も一人暮らしやのに、なしてあないな部屋を親父に紹介したんやろうなぁ」


 あないな豪華なマンションやのうて、こじんまりしとる方が、オレとしては落ち着けるんやけど
 それに、何よりもその分の金銭の方が問題や。

 ウチが、裕福や言うても、金は天下の回り物なんやで、余計な金なんて使わん方がエエと思う。


−確かに、高そうな物権やってんけど、かなりの格安で借りとるらしいから、そこだけは安心してエエよ。


 困ったように言うたオレの言葉に、が小さくため息をついて慰めの言葉をくれる。
 格安言うても、あの部屋やからそこそこの金額は絶対にすると思うんやけど……
 ほんまに、無駄金使うとるとしか思えへん。

 親父に部屋を紹介した言う人の顔が見てみたいわ。
 ……って、部屋紹介してもろうとるんやから、オレからもちゃんと挨拶しとかんとあかんよなぁ。


「あんまり、安心出来へんのやけど……そうや、部屋を紹介してくれた人に挨拶に行かへんとあかんのんやろう?」
−ああ、そうだね。父さんが夜に連絡する言うてたから、その時に聞いたらエエよ。


 苦笑を零しながら質問したオレの言葉に、返事を返してくれたに見えへんのに、思わず頷いて返してしまう。

 そうか、親父から連絡が来るんやったら、その時に色々聞いとかなあかんな。


「分かった。色々助かったわ、ほんまにおおきに。また連絡する……………、おかんの事、頼むな」


 の言葉にもう一度頷いてから、再度礼の言葉を返す。
 そして、最後に小さな声で頼み事一つ。

 オレ言う厄介から開放されて、ほんまにおかんが笑ってくれるんやったら、エエのに
 それやったら、オレがここに来た意味があると思うんや。


−兄さんは、母さんの心配やのうて、自分の心配した方がエエと思うよ。
「うっ、分かってんねんけど、心配なんや」
−……お人好し………あの人には僕や父さんが居てるんやから、心配せんでもエエよ。


 オレの頼み事に返されたんは、呆れたようなの言葉。
 分かっとるよ、オレの事嫌っとるおかんの事を心配するんが、馬鹿みたいやって事。

 だけど、親父の手紙に書かれとったように、ほんまはおかんもオレの事を嫌うてへんのやったら、なんて、そないな小さな望み。

 やって、おかんはオレを生んでくれたんやから、これでも感謝しとるねん。
 例え、オレと言う忌み子やっても、ここまで生きて来られたんは、間違いなくあの人が生んでくれたからなんや。

 やから、オレはおかんの事を嫌いになんてなれへんのや。


「うん、オレが心配する事やないって分かっとるんやけど、今日から会えへんから、なんや心配なんよ」


 オレの言葉にもう一度『お人好し』言う言葉と、『また連絡するから』と残し通話の途切れた携帯をぎゅっと握り締める。

 こないな心配ばかり掛ける兄やのに、『兄さん』言うってくれるオレの大切な大切な弟。
 おかんとオレに挟まれて、ほんまに苦労掛けてしもうとるのに、それでも、オレを受け入れてくれとる事が、何よりも有難いんや。


「えっと、電話終わった?」


 通話の切れてしもうた携帯で、今日からは、毎日顔を合わせとった家族と誰とも一緒やないんやと、改めて思い知らされてしもうた。

 ぎゅっと携帯を握り締めとったオレに、恐る恐る綱吉はんが声を掛けてくる。
 そこで漸く、忘れとった他の人の存在を思い出す。


「あっ!待たせてしもうて、堪忍な」
「何10代目待たせてやがる!!」


 慌てて携帯をポケットに仕舞って謝罪したオレに、銀髪の獄寺隼人はんが怒って怒鳴り声を上げる。

 そう言えば、10代目言うんは一体なんの10代目何やろう?
 見た目は子供やけど、家庭教師まで付けとるんやから、ほんまに老舗のボン何やろうか?



「ご、獄寺くん、オレは気にしてないよ。えっと、それじゃ、オレの家に向かうんでいい?」
「ほんま、堪忍したってや。そ、それじゃ、お邪魔させてもらうつー事で、宜しゅう」


 綱吉はんがそないな獄寺隼人はんを窘めてくれたんやけど、もう一度だけ謝罪の言葉を口にして、ぺこりと頭を下げる。
 なんや、獄寺隼人はんは、綱吉さんの忠犬みたいやなぁ、それに、良く怒鳴るんは、性格なんやろうか?

 出来るだけ、怒らせへんように気を付けよう。

 そないな事を考えながら、綱吉はんの家へ向けて歩き出す。


 あれ?そう言えば良く考えなくても、オレこれが初めてなんやないやろうか、人の家に行くんは……
 そないな事を思い出したんは、綱吉はんの家に着いてからやった。