「そう言う事ならしかたねぇな、お前にプリーモの事を任せるぞ」


 プリーモの言葉を聞いて、リボーンがため息をつきながら諦めたように口を開く。
 だけどオレにとっても、それが一番いい方法だと思えたので、スンナリと頷いて返す。


「そうだね、オレ達には彼が姿を消していると見えないから、君と一緒にいる方がいいと思うよ」


 リボーンの言葉に同意して口を開けば、彼が信じられないと言うような視線でオレとリボーンを見てくる。

 だって、オレは今の今までプリーモが自分に憑いていた事さえ気付いていなかったのだから、見えて話が出来る彼と一緒に居るのが一番いいと思うのだ。
 それに、何よりも、彼を一人にしてはいけないと、そう何かが告げている。

 話は決まったと言う事で、オレはさっさと指輪に点していた炎を引っ込めた。
 そうすれば、今まで見えていたプリーモの姿が炎と同じように消えて見えなくなってしまう。

 本当に、どう言う原理なんだろうか?
 もしかして、骸が使う幻術と同じ原理なんだとしたら、ちょっと嫌だ。


「……思考が追いついて行けへん、どないして、こないなことになってしもうたんや?」


 考えていたオレの耳に、複雑な表情で呟かれた声が聞こえてきた。
 彼の視線は、やはり何もない場所へと向けられている。
 今のオレ達には見えないけれど、そこにプリーモが居るのだろう。


「まぁ、これも縁って奴じゃねぇのか、これからは仲良くしようぜ」


 頭を抱え込んでいる彼へと声を掛けようとしたら、オレよりも先に山本が彼へと声を掛ける。
 だけど、山本に言われた言葉に、彼が複雑な表情を見せた。


「そんなに簡単な事じゃねぇんだよ!この野球馬鹿!!」


 そんな彼に気付く事などなく、獄寺くんが何時ものように山本へと突っ掛かる。
 獄寺くんのその言葉に、彼も同じ意見なのだろう、小さく頷くのが見えた。

 でもね、獄寺くんや彼には悪いんだけど、オレも山本と同じ意見なんだよね。


「そうかなぁ、とっても簡単だと思うよ。オレも、君と仲良くしたいって思うから」


 まるで助けを求めるようにオレを見てくる彼に対して、オレはにっこりと山本と同意の言葉を返した。
 

「10代目!」


 そんなオレに、獄寺くんが慌てたように声を上げる。
 獄寺くんと同じように、彼も本気で驚いた表情をオレに向けて来た。
 その表情を見ていると、思わず笑えてしまう。

 だって、本当に簡単な事だと思うんだよね。


「プリーモが嫌がっているならオレも認めないけど、プリーモは彼の事を気に掛けているみたいだからね、問題があるとは思えない」


 だから、分かっていない二人へと、簡単だとそう思える理由を率直に話す。

 プリーモが嫌だと言うのなら、確かに簡単に彼に預けて良いとは思えないし、オレだって彼と仲良くなりたいなんて思わなかっただろう。

 それに何よりも、離れられなくなっていると言うのは、それだけの力が働いているんだと思うのだ。
 だからこそ、彼とプリーモを無理やり引き離す事なんて、オレに出来る筈がない。


「……た、確かにそうかも知れませんが……しかし、こいつは」
「うん、一般の人だって言うのは良く分かってる。でも、オレは彼をこのまま一人にしちゃいけないって思ったんだ。どうしてそう思ったのか分からないんだけど、多分超直感だと思う」


 珍しく、オレの言葉でも納得してくれなかった獄寺くんの言葉を遮って、正直な理由を口に出す。

 そう、一番の理由はこれだ。
 彼を一人にしてはいけないと、そうオレの勘が告げているのだ。

 それが、どうしてなのかは、まだ分からないんだけど、ね。


「あ、あんなぁ、一人に出来へん言うねんけど、オレは今日から一人暮らしする、立派とは言えへんかも知れへんのやけど、一応大人やねんど!」
「えっ?」


 だけど、理由を口にしたオレの耳に、とんでもない言葉が聞こえてきた。
 その聞こえてきた言葉の意味が理解できず、思わず聞き返してしまう。

 今、この子一人暮らしするって言わなかったっけ?


「一人暮らしだと、お前、一体幾つなんだ?」


 聞き間違いかもしれないとは思ったんだけど、信じられないというようにリボーンが彼へと質問したので、それは無いだろう。

 当然それが信じられなくて、思わずその子の事を見てしまった。
 それは、オレだけじゃなく、山本や獄寺くんも同じだったらしく、彼の事を驚いた表情をしてみている。


「……まだ完全に大人って言う年やないねんけど、これでも来月から高校1年や」
「え〜っ!高校1年って事は、オレ達より年上?!」


 オレ達に見られて、気まずそうに、ボソボソと言われたその言葉に思わず驚きの声を上げてしまう。

 だって、オレ達は来月から中学3年なのだから、彼は一つ上の先輩と言う事になるのだ。

 とても失礼なんだけれど、そんな年には見えない。
 がんばって見ても、中学に入学する新入生か小学校6年生と言ったところだろう。


「って、なしてそこでジョットも驚いとるんや?!」


 どうやら、驚いたのはオレ達だけじゃなくて、今は見えなくなっているプリーモも同じだったようで、彼が突っ込みを入れているのが聞こえてきた。

 でも、それは仕方ないと思うんだけど
 多分、正確な年齢を聞かされなければ、彼の実年齢を知る事は難しいと思うのだ。

 彼の言葉に、プリーモがどんな言葉を返したのか分からないけれど、明らかに彼が落ち込んでいるのが分かった。
 だから、多分、オレが思っている事と同じような事を返したんだと思う。


「……身長の事やったら、言わんといてや、オレかて気にしてんねんから……」


 そして、ボソボソと言われている言葉に、思わず苦笑を零してしまった。

 確かに、彼の身長は極端に低い。
 オレも山本や獄寺くんに比べれば、かなり低めだけど、彼はそれ以上に低いのだ。


「ええっと、オレもそんなに身長高い訳じゃないから気持ちは分かるけど、流石に、年上だとは思わなかった……ごめんね?」


 なんて言うのか、その言葉を聞いてると、本当に年下だと勝手に勘違いしていた自分が申し訳なくて、恐る恐る謝罪の言葉を口に出してしまう。
 背が低いのが嫌だと言う気持ちは、オレも良く分かるので、本当に申し訳ないと思うのだ。


「もう、ええよ。それじゃ、オレがジョットと一緒に居るんでええんやな……『ダメや』言われても、離れられへんのやから、無駄やろうけど……」
「えっ、うん。オレ達はそれでいいよ。君…えっと、貴方が、それでいいのなら」
「オレも、それでええよ。ちょっとはジョットと離れるん寂しい思っとったんやから」


 謝罪したオレに、彼が諦めたように盛大なため息をついて質問してきた事に慌てて頷いて返すが、『君』と言ったのを慌てて言い直して、彼の意見を聞く。
 それに、彼から返ってきたのは、素直な言葉だった。

 ああ、やっぱり寂しいと思っていたんだ。
 でも、多分、それだけが超直感が働いている理由には繋がらないだろう。

 どうしてオレは、彼を一人にしちゃいけないってそう思ったんだろうか?


「年上やからって、口調は変えんでもええよ。そないに言うっても、まだ自己紹介もしてへんかったんやな、オレは綱吉さんの事は、知っとるのに……」


 思わず考えていたオレに、彼から年上だからと言葉遣いを変えなくても良いと言うありがたい言葉を貰った。
 そして、続けて言われた事に、思わず頷いてしまう。

 そう、オレ達はまだ、自己紹介もしていなかったんだ。

 確かに、彼はオレの事を知っていたけど、オレ達は誰も彼の名前を知らない。


「そう言えば……それじゃ、改めて自己紹介しておくよ。オレは、沢田綱吉。あっちの黒髪の方が山本武で、銀髪が獄寺隼人」
「宜しくなのな」
「けっ、誰が、宜しくするんだよ!」


 言われて、慌てて自己紹介をする。
 オレが山本と獄寺くんの名前を言えば、二人がそれぞれの反応を返した。

 まぁ、獄寺くんは、仲良くするつもりは無いみたいだけど
 それでも、何時よりは、穏やかな対応だ。


「えっと、オレは今日からこの並盛で一人暮らしすることになっとる、や」
「オレは、このダメツナの家庭教師で最強のヒットマンリボーンだぞ」


 獄寺くんのその態度に、思わず苦笑を零した所で、彼が自己紹介してくれる。

 、それが彼の名前。

 彼に続いてリボーンが自己紹介したんだけど、それは出来れば言って欲しくなかった。

 リボーンの自己紹介に、くんが驚いたような表情をしているのが良く分かる。
 見た目は子供なのに、オレの家庭教師だと言われて、驚くなと言う方が無理な話だろう。

 くんは、オレが見ても気の毒になるほどの何とも言えない表情になっていた。