プリーモの事を知っていて、しかも指輪の事まで知っている関西弁の多分、オレよりも年下だろう男の子。

 本当なら、警戒しなきゃいけないんだろうけど、オレの直感が告げてくるのだ、彼は無害なのだと

 だけど、それを言っても、リボーンは信じないだろう。
 獄寺くんと山本も、彼の事を警戒している。

 それは、オレの為だと分かっていても、年下の男の子をこんなに取り囲んでもいいのかちょっと、疑問に思えるんだけど

 小さく聞こえてきた声にチラリと男の子へと視線を向ければ、何もない空間に苦笑を浮かべていた。

 まただ、彼が何もない空間へと視線を向けるのは
 一体、彼には何が見えているんだろう。

 もしかしたら、そこに答えがあるのかもしれない。


「ここなら、いいだろう」


 商店街の近くにある小さな公園に移動してから、リボーンが声を掛ける。
 夕暮れ時と言う事で、人の居ない公園は、確かに打って付けの場所だ。

 そして、また少年の視線が、何もない場所へと向けられる。


「ここで、ええよ」


 まるで誰かに確認しているかのように、視線を何もない場所に向けてから、彼が頷いて返した。


「……分かった。それじゃ綱吉さん、指輪、出してくれへん」


 それから、もう一度頷いてから、オレに視線を向けてまた指輪の事を言う。
 何の前触れもなく向けられた視線と言われたその言葉に、オレは困惑する。

 指輪を出すのは簡単だ。

 オレの直感も、彼の事を大丈夫な相手だと告げている。
 だけど、今それを本当に信じてもいいのか、オレには判断できない。
 もしも、オレの直感が外れていれば、大変なことになってしまうのだ。


「……その前に質問するぞ。指輪を出したら、どうするつもりだ」


 真っ直ぐに見詰めてくる少年に戸惑っていれば、リボーンがそんな彼に質問を投げ掛ける。

 確かにそうだ。
 どうして彼は、オレに指輪を出すように言うのだろう。
 確かに、この指輪の価値は、計り知れないものがある。
 だけど、今のこの時代では、ただの歴史的価値しかないはずで、本当の力は知られていないはずなのだ。


「えっ?そないな事、出来るんか?」


 リボーンの質問に対して、少年が驚いたような声を上げる。
 だけど、それはリボーンの質問に答えるものではなく、まるで誰かに確認をするかのような言葉。

 何が、出来るんだろう?

 そして、視線はやはり何もない空間へと向けられている。


「なんだ?」


 無視されたと思ったのだろう、リボーンが不機嫌な声で確認するように聞き返す。

 そりゃそうだろう。
 彼が言っている言葉は、意味不明だ。

 そして、また困惑したように彼は何もない空間を見る。
 まるで、そこに誰かが居るみたいに、確認を取っているみたいだ。


「……指輪、出してくれたら、本人が説明する、言うてる」
「えっ?」


 彼のそんな様子を見詰めていれば、俯いてポツリと漏らされた言葉が聞こえてきた。
 だけど、確かに聞こえてきた声は、とんでもない内容だったために、思わず聞き返してしまう。


「本人が、説明するって……君は、プリーモ…いや、ジョットを知っているの?!」


 本人から聞いたと言わんばかりの内容は、何だろう、確かに驚いたんだけど、何となくスンナリと納得の出来るものだった。

 だって、彼は何度も何もない空間に視線を向けていたのだ。

 それは、オレ達には見えない誰かを見ているかのように


「知っとる言うか、今日知り会うたんやんけど……」
「どう言う意味だ。オレ達をからかってやがるのか?」


 オレの確認するようなその問い掛けに、ボソボソと彼が返事を返してくる。
 その返事に対して、リボーンがまたイライラしたように銃を取り出して彼へと向けた。


「か、からかってへん!信じてくれへんやろうけど、オレには一般的に幽霊言われるんが見えるんや!」


 それに慌てて彼が言った言葉は、普通なら信じられないような内容。
 だけど、オレには納得させられる言葉だった。


「…幽霊が、見えるだと………」


 言った瞬間に、俯いてしまった彼は、ギュッと手を握って、まるでこれから言われるだろう言葉を恐れているように見える。
 それから、ボソリと確認するように言葉を口にしたリボーンの声に、その肩が明らかに大きく震えたのが分かった。

 ああ、彼は、その力で傷付いてきたんだろう。
 だからこそ、人の反応を恐れいている。


「ダメツナ、指輪を出せ」
「えっ?うん」


 そんな彼を抱き締めてあげたいと、そう思ってしまったのは、余りにもその肩が小さく見えてしまったからかもしれない。
 そんな事を考えていたオレに、リボーンが命令口調で声を掛けてくる。
 一瞬何を言われたのか分からなかったけど、直ぐに理解して首に掛けている指輪を外して、指に嵌めた。
 指輪を出せと言ったのなら、リボーンも彼の言う事を信じたということだ。
 オレも、これ以上彼が傷付くのを見たくなかったから、直ぐに言葉に従った。


「はぁ、炎を点すって、どないな要望なんや?」


 オレが指輪を嵌めた瞬間、分からないと言うように、彼がまた誰かに聞き返す声が聞こえてくる。
 だけど、オレにはそれだけで十分に意味が分かった。

 それは、指輪にオレの炎を点すこと。


「分かった」


 聞こえてきたその声に頷いて、オレは指輪に炎を点す。
 オレの意思に反応して、指輪にオレンジ色の炎が点った。


「ちょ、危な……」
「久しぶりだな、デーチモ」


 それに驚いたような声が聞こえてきたけど、それを遮るように聞こえてきたのは、何度か聞いた事のある声。
 間違いなく、オレの良く知っている人物だった。


「プリーモ!」


 予想はしていたけど、本当にその人物が自分の目の前に姿を現したことに、驚きは隠せない。
 炎を点して姿を見せたのは、確かにプリーモ本人。

 彼曰く、その姿は指輪に残る思念であり過去の記憶だと言っていたことを思い出す。

 なら、この子が見ていたのは、その思念であり、過去の記憶?

 でも、彼は間違いなく、このプリーモと会話をしていたのだと分かるのは、今までの言動から予想できる。
 突然現れたプリーモに、獄寺くんや山本、あのリボーンでさえ驚いているのが分かった。

 そりゃそうだろう。
 まさか、本当に本人が説明してくれることになるなんて、誰も予想出来なかったのだから、仕方ない。