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並盛商店街と書かれとるゲート看板を確認してから、その通りの前で足を止める。
立ち止まり見詰める先の通りは、確かに商店街らしく様々な店が軒を並べとった。
夕飯前と言うこの時間、当然のように買い物客は主婦層が多いようや。
少し賑やかなその町並みを前に、オレは止めている足を一歩踏み出そうとしたのやけど、またその足を戻してしもうた。
人が多い場所は、どないしても一歩を踏み入れるには勇気が必要なんや。
『?』
動こうとしないオレに、ジョットが心配そうに声を掛けてくるんが聞こえてくる。
それに、ギュッと手と目を瞑って自分に気合を入れてから、その足をゆっくりと動かす。
誰も、オレの事を知らないと分かっとるのに、どうしても人の視線が怖い。
これは、ずっと近所から奇異の目で見られとったのが原因や。
だから、オレは人の視線が怖い。
おかんが、オレを嫌っても仕方ない思うんは、周りの人の反応を嫌と言う程知っとるからや。
こんな奇異の目で見られる子供が自分の子供やなんて、オカシイなっても仕方ない思うのやから
「なんでもあらへん、大丈夫や」
心配そうに自分を見てくるジョットに、小さな声で返事を返す。
言うてもそれは、返事やのうて、自分自身に言い聞かせとる言葉なんやけど
ここは、新しい町や、だから誰もオレの事は知らへん、怖い事は何もあらへんのや。
自分にそう言い聞かせて、強張っていた体から力を抜くように、大きく息を吐き出した。
『!』
その瞬間、ジョットに慌てたように名前を呼ばれる。
名前を呼ばれる前から、自分の後ろがやけに賑やかなんは気付いとったんやけど、それを確認しようと振り返る前に、背中に衝撃が襲って来てそのままバランスを崩してしもうた。
全身から力を抜いとったのも問題やったんやろう、その衝撃だけでオレの体はあっけなくバランスを崩してしまう。
慌てて体制を戻そうとしたんやけど、当然間に合わず、襲って来るやろう衝撃に身構えて咄嗟に目を閉じれば、誰かに体を支えられたのが分かる。
「大丈夫か?」
誰かに支えられとるんが分かってホッと息を吐いた瞬間、心配そうな声が直ぐ傍から聞こえて来た。
その声に、閉じていた目を開く。
心配そうに自分を見とったんは、黒髪、黒目の爽やかそうな少年。
「だ、大丈夫や、助けてくれて、おおきに」
その少年の片腕が、オレの腹に支えるように回されとるのに気付いて、彼が自分の事を助けてくれたんやと分かって、素直に返事を返し礼の言葉を返す。
「いんや、元はと言えばオレ等が悪かったんだから、怪我がなくて良かったのな」
オレがバランスを戻したのを確認してから、少年はその腕を放して爽やかな笑顔を見せた。
その笑顔は、人懐っこくて人見知りなんを自覚しとるオレでさえも、警戒心が薄れる程や。
「山本、助かったよ。オレの所為で、人に怪我させるところだった」
思わずその笑みに笑みを返してしもうたんは、この少年の笑顔パワーの所為なんやろうか?
そないな事を考えとったオレの耳に、安心したと言うようなホッと息を吐きながらの声が聞こえてきた。
その声に気付いて、視線をそちらへと向ける。
あれ?何やろう、物凄く誰かに似とるんやけど……
視線の先に居ったんは、オレより少しだけ背の高い少年。
茶色の重力に逆らっとる髪を持ち、どこか気弱そうな顔をしとるけど、その顔はどこかで見た事がある。
思わず、チラリと自分の直ぐ隣に居るジョットへと視線を向けた。
髪の色、瞳の色とその子供ぽい表情は明らかに似てないと思うのやが、何やろうどう考えても他人やとは思えへん程良う似とる。
「……ジョット……」
だから、思わずポツリとその名前を口に出してしもうた。
オレの呟きが聞こえたのやろう、自分にぶつかって来たらしい少年とオレを支えてくれた少年、後もう一人多分彼らと一緒に居たのやろう銀色の髪の少年が驚いたようにオレの顔を見て、明らかに警戒したのが分かる。
そして、カチャリと足元から音が聞こえて来た。
「お前、その名前を何処で知った」
その音に気付いて足元へと視線を向ければ、黒い服に身を包んだ子供がオレに銃を向けとる。
「えっ?その名前って、どの名前や?!」
子供が持っとるんやから、当然玩具やと思うんやけど、それでも突然銃なんて向けられたんやから、驚くなと言うほうが無理な話やろう。
しかも、この子供から異様なまでの威圧感を感じるんやけど
言うのなら、拒否権なんて許さないと言う雰囲気や。
「お前がダメツナを見て言った、ジョットと言う名前だ。言わねぇと撃つぞ」
これはもしかしなくても、殺気と言うものなんやろうか?
どないしてこないな子供が殺気なんて向けて来られるのか分からへんのやけど、その殺気は間違いなくオレに向けられとる。
体が、寒くもないのにカタカタと震えてしまうのを止められへん。
身動きすら出来へん状態になっとるオレに、その殺気から庇うようにジョットが子供との間に入って来る。
そのお陰で、息さえも出来へんかった空気が少しだけ遮られて、ホッと安心したように息を吐き出した。
『、人の居ない所に場所を移動してから、綱吉に指輪を出すように言ってくれないか』
安心したオレに、ジョットが口を開いて、意味の分からへん事を言う。
人が居らへん場所に移動するんは、分かる。何となく目立っとるんやから、当然の配慮やろう。
でも、綱吉言う人に、指輪を出すように言う……??なして、指輪なんや?
「えっと、通訳すれば、ええんやな?」
取り敢えず意味は分からへんのやけど、確認の為に質問すれば、コクリと頷いて返された。
なして、ここで指輪なんて言う言葉が出てくるんか、本気で分からへんのやけど、言えと言うんやったら、伝えるしかない。
「あんな、信じて貰えるかどうか、分からへんのやけど、取り敢えず人の居らへん所に移動して、綱吉言う人に指輪を出して欲しいって言われたんやけど……あんた等の中に、綱吉言う人が居るんか?」
オレの前にはジョット、その足元にはまだ小さな子供が銃をオレに向けたまま立っとるから、恐る恐るジョットの言葉を伝えて、確認するように質問する。
オレのその質問に、ジョット似の少年が驚いたようにその大きな瞳を見開いた。
ああ、多分、この子が綱吉言うんやろうなぁ。
何となく、その反応で綱吉言うんが、自分にぶつかって来たジョット似の少年なんやと気付く。
どないに考えても、こないにも似とるんやから、他人だとは考え難いもんなぁ。
「………指輪の事まで知ってんのか……」
そして、足元に居る子供からは、ますます警戒するような呟きが聞こえて来た。
いや、オレは指輪の事なんて知らへんよ!ただ、言えって言われただけなんやし!!
「10代目のお命を狙う奴は、このオレが果たしてみせます!」
「いや、まだそうと決まった訳じゃないのな」
本気で困惑するオレを他所に、銀髪の少年がポケットに手を突っ込む。
明らかに殺気だったその少年は、ジョット似の少年を庇うようにその前に立つ。
せやけど、それはオレを助けてくれた少年が、止めてくれた。
「でも、ツナの命を狙うってんのなら、オレも容赦しねぇのな」
それに、ホッとした瞬間、その少年もジョット似の少年を庇うように前に立ち、威嚇するように殺気を向けられてもうた。
……ああ、オレは、何て大変な奴等に拘わってしもうたんやろう。
自分の迂闊さに、心底後悔しても、遅過ぎや。
そう言えば、ジョットに、会うた時にも後悔したんやったっけ……
今日の事やのに、何やろう、随分前の事のように思うんは、今日と言う日が余りにも色々在り過ぎたからやろうか?
でも、みんなにこないにも大切にされとる綱吉言う人物が、少しだけ羨ましく思えたんは、内緒やな。
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