今日は朝から、何時ものように大変だった。

 リボーンの無茶振りは、今に始まった事じゃないけど、今日の無茶は、何時も以上に強烈だったのだ。
 何せ、朝起きて一番に、たこ焼きが食べたいと、大阪まで行く羽目になったのだから

 その辺に売っているので我慢しろと言えば、『本場のが食べたいんだもん』と言いやがる。
 なので、朝も早くからリボーンに強制連行で大阪まで連れて行かれた。
 巻き込まれたのは、何時ものように獄寺くんと山本。
 二人は、そんなに嫌がってはいなかったけど、ハッキリ言ってはオレは迷惑以外の何者でもなかった。

 まだ京子ちゃんでも居れば、気分は違っていたのかもしれないけど、残念な事に京子ちゃんもハルも他に用事があるとかで、残念ながらの不参加。
 マイクロバスを貸しきって、今回もジャンニーニの運転で、遥々大阪まで日帰りツアーなるものが決行された。

 リボーンの奴は、本気でたこ焼きが食べたかっただけのようで、たこ焼きとお好み焼きを堪能させられた。
 たこ焼きとお好み焼きだけのために、大阪に日帰り旅行をしようとするリボーンの気持ちが分からない。

 まぁ、今回は、前回の修学旅行と違って、平和に終了出来たのだけが、救いだったかもしれないけれど

 その後、また長い道のりを掛けて漸く並盛へと戻ってきたのは、すでに夕方と言ってもいい時間帯だった。


「10代目、たこ焼きもお好み焼きも美味しかったですね!」
「確かに、美味しかったのな」
「おめぇには、言ってなねぇんだよ!野球馬鹿!!」


 マイクロバスから降りて、見慣れた並盛商店街を前に獄寺くんが声を掛けてくる。
 それに返事を返したのは、オレじゃなくて山本で、当然それが気に入らなかった獄寺くんが文句を言うのを、何時もの事だというように苦笑を零す。


「漸く戻って来たのな」
「本当だよ、いきなり大阪とか、信じられないんだけど……」
「仕方ないよ、急に食べたくなったんだもん」


 その後、山本が並盛商店街を見ながら言ったその言葉に同意して、ため息をつく。
 朝から振り回してくれた相手を睨み付けて文句を言う、当然当人は気にするはずもない。

 そんなリボーンに、オレはもう一度ため息をついた。

 これ以上文句を言ったとしても、自分が疲れるだけだと言う事を嫌と言うほど知っているので、諦めるのが自分の為だ。
 だけど、一つだけ気になった事を質問する。


「で、何で帰りは並盛商店街なんだよ?」
「ママンから、買い物を頼まれたからな」


 大阪に行く時は、オレの家の近くの大通りから出発したのに、帰りは何故か商店街の入り口。
 出来れば、家の近くまで送って貰いたかったと言うのもあっての質問だったのだけど、戻ってきたのは何とも簡単な理由だった。


「お前が頼まれたんだろう!なんで、オレ達まで巻き込むんだよ!!」


 質問に返ってきたその内容に、思わず文句を言うのは仕方ないだろう。
 本気で、オレ達を巻き込むのは勘弁してくれ!!


「10代目!」


 もう一度リボーンに文句を言おうと口を開きかけたオレに、獄寺くんが焦ったように声を掛けてくる。
 それに気付いた時には、オレはそこに立っていた人にぶつかってしまった。

 まさかこんな所に人が居るなんて思ってもいなかったので、前を見ていなかった事を激しく後悔してしまっても遅過ぎる。
 ぶつかった相手は、オレに押させるような形になってしまって、その体がゆっくりと倒れて行く。
 オレが危ないと思った時、近くに居た山本がその体を慌てて支えてくれた。


「大丈夫か?」


 倒れそうになったその体を片手で楽々と支えた山本が、心配そうに相手へと問い掛ける。
 多分、倒れそうになって目を瞑っていたのだろう相手が、その声に目を開いて山本を見た。

 綺麗なダークブラウンの瞳が、山本を見るのに、一瞬ドキリと胸が鳴る。


「だ、大丈夫や、助けてくれて、おおきに」


 だけど、それは本当に一瞬だけで、慌てたように頷いて感謝の言葉が聞こえてきた時には、無くなっていた。
 まるで、幻でも見ていたような、感覚。

 そして、聞こえてきた関西弁に、一気に現実へと引き戻された気分だ。


「いんや、元はと言えばオレ等が悪かったんだから、怪我がなくて良かったのな」


 そんな相手からの感謝の言葉に、山本がニッカリと何時もの笑みを見せながら支えていたその手を離す。
 山本の笑みに、相手もどこか安心したように笑みを見せたのを確認してから、オレはホッと胸を撫で下ろした。


「山本、助かったよ。オレの所為で、人に怪我させるところだった」


 相手に怪我がない上に怒っていないと分かって、素直に安心して声を掛ければ、ぶつかった人の視線がオレへと向けられる。
 先ほど山本へと向けられていた、ダークブラウンの瞳が、自分に向けられても、先みたいに、ドキリとする事はなかった。

 目立つような顔をしている訳じゃないけど、それでも不細工と言う訳じゃないその子は、少しだけオレよりも背が低い。
 オレよりも背が低いと言う事は、年下だろうか?
 関西弁だった事から考えても、この辺の子じゃないだろう。
 遊びに来ている子に怪我をさせないで、本当に良かった。

 内心かなり安堵していたオレに気付くことなく、その子はじっとオレを見てから、チラリと何もない所へと視線を向けて驚いたようにポツリと口を開く。


「……ジョット……」


 その呟かれた言葉は、余りにも信じられない言葉だったので、思わず警戒して相手を見る。

 この子は、オレを見てその名前を呟いたのだ。
 そこから考えられる事は……


「お前、その名前を何処で知った」


 オレがその子に警戒した瞬間、リボーンの声が聞こえてくる。
 その手には愛銃が握られていて、しっかりと目の前の相手へと向けられていた。

 周りの温度が明らかに下がっているから、リボーンの殺気が目の前の相手へと向けられているのだろう。


「えっ?その名前って、どの名前や?!」


 リボーンから銃を向けられた相手は、訳が分からないと言うように質問してくる。

 本当に分からないと言うようなその態度だけど、確かにオレを見てこの子は『ジョット』と言ったのだ。
 ジョットは、オレのご先祖であり、ボンゴレファミリー初代ボス。


「お前がダメツナを見て言った、ジョットと言う名前だ。言わねぇと撃つぞ」


 単品で、その名前が出て来たのなら驚いたりしない。
 でも、この子はオレを見てその名前を言ったのだ。

 それは即ち、オレに似ているプリーモを知っているという事で、当然そこから結びつくのは、この子もマフィア関係者だと言う事。

 分からないと言うように質問してきた相手に対して、リボーンが更に殺気を強くして相手を威嚇する。
 拒否権なんて許さないと言うのが、その雰囲気からも伺えた。

 何時もならそんなリボーンを止めに入るのだが、相手の意図が分からないので、止めることは出来ない。

 間違いなく、警戒すべき相手だと分かるから

 だけど、リボーンに殺気を向けられてから、相手の体が小さく震えているのが分かる。
 そして、明らかに身動きも出来ないほど殺気に怯えているのが分かった。

 顔色も悪くなり、どう見てもオレの命を狙ってきたマフィアには見えない。
 マフィアなら、殺気の一つぐらい慣れていなければ、やっていけないだろう。
 だけど、目の前の相手は、どう見ても慣れていないのが分かる。

 でも、だからと言って、それを信じていいモノかどうか、分からない。

 どうするべきが考えている中、フワリと空気が動いたのが分かる。
 リボーンとその子の間に空気が流れた瞬間、明らかに相手の子がホッとした。

 空気が動いた事に、オレ以外は気付いてない。

 疑問に思いながら相手を見れば、安心したようにその子が息を吐き出す。
 震えていた体からも、力が抜けたのが分かった。

 それから、まるで誰かと話をするように問い掛けるようにその口を開く。


「えっと、通訳すれば、ええんやな?」


 通訳?一体、誰と話しているんだろう?

 突然言われた内容は、本当に訳が分からない。
 リボーンは相変わらずその銃で相手を威嚇しているのに、その子はもう落ち着いている様に見えた。

 もちろん、まだ困惑している様子は、見せているんだけど


「あんな、信じて貰えるかどうか、分からへんのやけど、取り敢えず人の居らへん所に移動して、綱吉言う人に指輪を出して欲しいって言われたんやけど……あんた等の中に、綱吉言う人が居るんか?」


 それから小さく頷いて、質問するように問い掛けられたその内容に驚いて、相手を見る。

 確認されたのは、オレの名前。
 そして、関係者しか知らない指輪の事まで言われたのだから、驚くなと言う方が無理な話だろう。

 そんな事を知っているなら、やっぱりこの子もマフィア関係者?
 でも、リボーンの殺気にさえ怯えていたのに……それは、演技だったのだろうか?


「………指輪の事まで知ってんのか……」


 もしかしたら、マフィア関係者じゃないのかもしれないと思っていただけに、言われた内容がショックで、更に相手を警戒してしまう。
 それはリボーンも同じで、鋭い視線で相手を睨み付けていた。


「10代目のお命を狙う奴は、このオレが果たしてみせます!」
「いや、まだそうと決まった訳じゃないのな」


 当然獄寺くんは、そんな相手に何時ものようにダイナマイトを取り出そうとする。
 だけど、それは山本が止めた。
 獄寺くんを止めた山本だったけど、明らかに山本も相手を警戒しているのが分かる。

 片手で獄寺くんを制していても、その視線は真っ直ぐに相手を射抜いているのだから


「でも、ツナの命を狙うってんのなら、オレも容赦しねぇのな」


 そして、言われたのは、オレを守る言葉。
 今までの死闘で身に付けて来た殺気を、相手に向けて放っている。
 誰もが、目の前に現れたこの関西弁を喋る少年を威嚇していた。

 だから、まさか信じられない内容でそれ等を説明されるなんて、この時には思いもよらなかったのだ。