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何で、こないに悩まされなあかんのやろう。
自分は、好きでこうなったんやあらへん。
こんな風に生んだんは、おかんやのに、なして、オレの事を嫌うんや。
ああ、今日も、目の前に派手な金髪の兄ちゃんが浮かんでんのが見える。
あ〜っ、ほんま、堪忍して欲しいわ……って、バッチリ目が、合うてしもうた。
『お前、私の事が見えているのか?』
しかも、なんや話し掛けてくんねんけど……オレには、何も聞こえへん、そうや、幻覚や幻聴や、空耳なんや!
オレには、何も見えへん、何も聞こえへん。
さっと視線を逸らして、金髪の兄ちゃんが居る方とは反対の方向へと歩き出す。
当然、振り返ったりせーへんのが、ルールなんやで。
『おい、そこの子供、聞こえているのだろう?』
完全に無視しとるのに、なして金髪の兄ちゃんは、再度声なんぞ掛けてくるんや?!
オレには、見えへんし、聞こえへんのや。
だから、何言われても気にしたらあかん……そう、何を言われても…
『……そこの極端にチビな子供、聞こえているんだろう?』
が、再度聞こえて来たその声に、ピクリと反応してしもうたんが、運のツキやった。
でもなぁ、初めて会うたヤツに、チビ呼ばわりされるんは、許せへんのや。
なんでかって、そんなもん、オレが一番気にしとるからに決まってるやないか!!
「誰が、チビやって!!」
だからこそ、思わず立ち止まって、返事を返してしもうたとしても、オレは悪うない。
うん、決して、オレが悪いんやあらへん。
『返事をしないお前が悪い』
振り返って文句を言うたオレに、金髪の派手な兄ちゃんは、全く悪気なく言い放つ。
何や、この兄ちゃん、顔はずば抜けてええのに、性格は最悪なんかい!
「係わりとーないオレの気持ちを察するのが、礼儀やあらへんのんか?」
『声を掛けているのに、無視するのが礼儀だとは思えないが?』
あー言うたらこう言う、タイプかいなぁ。
なして、オレが幽霊相手に諭されなあかんね。
「……幽霊相手に礼儀もあったもんやないやろう?大体、こないに人が居るところで、目立ちとうなんか……あっ〜!!」
『何だ?』
盛大にため息をついて、金髪兄ちゃんに文句を言おうとして思い出してもうた。
ここは往来で、当然ながら人が行きかっとるんやって事を……
突然大声を上げたオレに、金髪の兄ちゃんが不思議そうに質問してくる。
その姿は、浮かんでさえおらんかったら、生きている人間となんら変わらへん。
まぁ、格好は、かなり派手なんやけど、な。
「悪いねんけど、これ以上時間がないねん。ほな、さいなら」
状況を思い出して辺りをチラリと確認すると、当然の事やけど目立ちまくりや。
他人の目が痛い。
ああ、こないやから、おかんがオレの事を嫌うんやったな。
片手を上げ、金髪の兄ちゃんへと別れを告げて歩き出しながら、ため息をつく。
ほんまに、自分が嫌になる。
なして、無視できへんのやろう……。
『待て、話は終わってない』
「オレの話は終わったんや。関係あらへんのやから、さっさと憑いとったヤツの所に戻ったらええやないか」
もうこれ以上、変な目で見られとうないんや、おかんから、また怒られる……。
ああ、忘れとった。
もう、おかんに怒られる事はなかったんやなぁ。
オレは、ウチを追ん出されたんやから……ああ、違うか、一人暮らしせぇって、言われたんやった。
行き先は、何処やったっけ……
渡された地図は、知らへん土地の名前。
何でも、親父の知り合いが居るから、アパートを紹介してもろうたとか言うとったなぁ……お陰で、高校は知らん高校を受けさせられた。
並盛高校とか、聞いた事もあらへんねんけど、まぁ、受かったのやから通う事にかんしては、なんら問題ないやろう。
その試験の受け方が、普通やなかったとしても……
ああ、そうやった。
はよう行かな、新幹線の時間に遅れるんやったな。
腕時計で時間を確認して、持っていた地図をポケットに仕舞う。
『その憑いていたヤツが、何処に行ったのか分からないんだが……』
そないな事を考えながら駅に向けて歩き出しとったオレの後ろから、また声が聞こえて来る。
存在を忘れとったんやけど、まだ居ったんかいあの派手な兄ちゃん。
しかも、今、何て言うたんや?
「何処に行ったか分からへんって、あんたそいつに憑いとったんやないんか?!」
思わず大声で突っ込んでしもうたオレは、悪うないやろうけど、またしても同じ過ちを繰り返してしもうた。
一気に回りの視線が向けられるのが分かるが、綺麗に無視する。
何やねん、この兄ちゃん、幽霊として間抜け過ぎなんとちゃうんか?!
『お前と話をしていた所為だな』
「そないなことオレの知ったこっちゃあらへん!しかも、あんたが、勝手に話し掛けてきたんやろう!!」
うんうんと頷きながら言われた内容に、またしても突っ込みを入れてしもうた。
ほんまに勘弁してくれへんやろうか、新たな土地に旅立たなあかん日に、オレはなんてもんに捕まってしもうたんやろう。
そうやなくても、気分的にはブルーやってんのに、さらに憂鬱にならなあかんのは悲し過ぎる。
ああ、そう言えば、唯一の友達やったヤツに挨拶も出来へんかったなぁ……あいつと、弟と親父の3人だけがオレと言う存在を受け入れてくれとったのに……
オレ、あいつに何処の高校へ行くかも話してへんかったんや。
当然、この町から出て行く事も話てへんのやから、後で知ったら怒るやろうなぁ……。
でも、並盛高校の試験を受けさせられたんは、無理やりやったし、学校卒業してからは、おかんから外出禁止くらとったんやから、仕方ないねん。
携帯も取り上げられとったんやから、連絡も出来へんかったし……
そう言えば、おかんから携帯電話返してもろうてへんねんけど……解約して、捨てられたんやろうなぁ、きっと……
『で、そろそろ私の存在を思い出してもらいたいんだが……』
「わっ!なんやねん、人が考え事しとるんやから、邪魔するんはルール違反やで……大体、幽霊なんやから、自由に飛んでいけるんやないんか?」
戻って来んかった携帯の事を思い出してため息をついた瞬間、目の前にやけに綺麗な顔が現れて、驚かされた。
それに思わず声を上げたオレは、さっさと帰れと言うように口を開く。
やのに、その言葉に返されたんは、とんでもない内容やった。
『……何時もなら、そうするんだが、今はお前から離れられないみたいだな』
「なんやって!!!」
言い難そうに言われたその内容に、大声を上げてからまたしても自分の失態に気付いても、後の祭りや。
こうしてオレは、派手な金髪の兄ちゃんを、拾ってしもうた。
って、オレもこれから、初めての土地に向かうのに、なして、こないな目に合わなあかんねん!!
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