「ツナ、大好き」


 オレにべったりと抱き付いた状態で言われたその言葉は、何よりも嬉しい言葉のはずなのに、素直に喜ぶ事が出来ない。


 いや、嘘だ。


 嬉しいと、心から思える。

 だって、今の状態は、無意識の行動だからこそ、の本心だと分かるのだから


「オレも、の事が好きだよ」


 だからこそ、オレも偽りのない言葉を返す。
 そうすれば、が嬉しそうに笑ってオレに擦り寄ってきた。

 ……オレの理性は、どこまで持つだろう……。


「あらあら、ちゃんは、ツっくんにべったりね」


 そんなオレ達の様子に、母さんが楽しそうに笑いながら声を掛けてきた。

 そもそもこうなったのは、バカ親父の所為だ。
 未成年に、酒を飲ませる親がどこに居るんだよ!

 しかも、は酒に弱い。

 前にも一度同じ事が起こっているんだから、親父も気を付ければ……

 チラリと昼間から酒を飲んでいる親父を見れば、ニヤニヤとした表情が丸見えだ。
 あの顔から考えると、間違いなく確信して行動している事が窺える。


、父さんの方にも来てくれないか?」
「やー!ツナがいいの」


 多分、自分もに抱き付いて貰いたかったのだろう、両手を広げてを呼ぶが、それは本人によって拒絶された。
 それと共に、ますますがオレに抱き付いてくる。


「あなた、振られたわね」


 に振られて落ち込んでいる親父に、母さんがクスクス笑いながらベッタリと引っ付く。

 母さんも、久し振りに戻ってきた親父に、幸せそうだ。
 子供の目の前だろうと気にせずにイチャイチャ振りを見せ付けてくれる。


に振られても、オレには奈々が居るからな」
「そうねぇ、ちゃんにはツっくん。あなたには、私が居るものねぇ」


 と、仲良く肩を抱き合う両親を前に、ため息しか出てこない。
 オレ達はお邪魔のようだから、部屋から出て行った方がいいかな。


の部屋に移動しようか」
「ツナが一緒なら、どこでもいいよ」


 両親のラブラブ振りを見せ付けられる事に耐えられなくなって、オレがへと質問すれば、キラキラと嬉しそうな視線で返事が返って来た。
 それに、何とか笑みを返して、オレはを連れて場所を移動する。

 と言うか、前にも同じように思ったんだけど、はどれだけオレの理性を試させたいんだろう。
 せめてもの救いは、あの偽赤ん坊達が居ない事だろうか。
 いや、それも何時戻ってくるのか分からないだけに、救いにはなっていないかもしれない。


「ツナが、好き。大好き」


 の部屋に移動して、ベッドに座らせれば、ギュッと抱き付いてくる。

 さっきから連呼される言葉は、オレへの告白の言葉。
 それが、恋愛の好きなら、どんなに嬉しいか分からないんだけど

 ここで、君に愛を囁いてキスをしたら、どうなるんだろうね。

 そんな事、出来るわけもないのに


「オレは、愛してるよ……」


 そっと呟いて、頬にキスをするのが精一杯の行動。
 オレが頬にキスすれば、くすぐったかったのか、が少しだけ身を竦ませて、クスクスと笑い出す。


「俺も!」


 そして、お返しと言うようにオレの頬にキスが返された。
 流石に予想していなかっただけに、驚きは隠せない。

 頬にキスしたのだけでは足りなかったのか、はチュッチュと、オレの顔中にキスしてくる。

 って、前よりも酷くなって、甘えるだけじゃなくキス魔にもなってない?!
 オレにとっては美味しい状況だけど、流石に理性が……


「んっ」


 それでも無理に引き離すなんて出来るはずもなく、の好きなようにさせる。
 軽いリップ音をさせながら、はオレの頬や額、そして最後には唇にまでキスしてきた。

 その時、聞こえてきた声に、オレの理性が完全に壊れてしまう。

 そのままをベッドに押し倒して、その唇を激しく奪った。
 薄く開いていた唇を割って、自身の舌を注し入れる。
 それにの体がピクリと小さく震えたのには気付いたけれど、無視して口内を貪った。
 逃げようとする舌を捉らえて、自身の舌と絡める。


「あっ、んっ」


 オレの服をギュッと掴むに気付いて少しだけ唇を離せば、甘い声がその口からこぼれた。

 苦しかったのだろう、は少し肩で息をしていて、視線はトロンと潤んだ状態でオレを見上げてくる。

 好きな相手から、そんな視線を向けられて、我慢なんて出来るはずもないだろう。
 オレはまた、貪るようにの唇にキスをした。


「・・・ツ、ナぁ・・・まっ・・・・・・」


 先程と同じように、の口内を犯す。

 上顎を舐め、舌を絡める。
 角度変えながら、何度も深い口付けを繰り返していたオレに、弱々しく待ったの声が聞こえてきた。

 それでも、その声を無視しての口内を楽しんでいたオレは、ドンドンと背中を叩かれて仕方なくその唇を離す。


?」


 激しく肩で息をしているは、その顔を赤くして涙目だ。
 そんなに気付いて声を掛ける。


「・・・・・・つ、なぁ・・キモチ、ワルイ・・・・・・」


 そんなオレに、がうっと口に手を当てて、今度は顔を真っ青にして言われた言葉にギョッとした。


「・・は、き、そう・・・」
「ちょっと待って!」


 予想通りの言葉が続けられて、慌てて部屋を出て洗面器を持ってくる。


、ここに吐いていいから」


 オレに言われて、コクリと頷いただけど、実際に吐く事はなく、何とか落ち着いた。


「大丈夫?」


 が落ち着くまで、オレはの背中を優しく擦る。

 オレの質問に、は返事を返さない。
 それは、今の状態が大丈夫じゃない証拠。
 何時ものなら、ここで『大丈夫』って返って来るだろうけど、今はその言葉を返すことも出来ないと言うことだろう。


「薬持ってこようか?」


 流石にそんな状態のが心配で、一人にするのは嫌だったけれど薬を持って来ようと立ち上がりかけたオレの服をが引き止めるように掴む。


?」


 それに気付いて確認するようにを見れば、フルフルと首を振って返された。

 どうやら薬は必要ないらしい。
 それよりも、一緒に居てもらいたいと言うのが、今のの心境なのだろう。


「大丈夫、どこにも行かないよ。の傍に居るから……」


 の心情を汲み取って、オレは優しくを抱き締めた。

 抱き締めながら、慰めるように背中を擦ってあげる。
 その行為に安心したのか、暫くすれば肩に感じる重さと聞こえてきた寝息。


「………お休み、……」


 それに気付いて、ポンポンと優しく頭を撫でて抱き締めていた体をベッドに横たえる。

 名残惜しいけど、このままここに居る訳にもいかないので、の額に今日最後になるだろうキスを落としてベッドから立ち上がった。
 が、クンっと後ろに引っ張られて立ち上がる事が出来なかった。
 それに驚いて振り返れば、オレの服の端を掴んでいるの手が見えて苦笑してしまう。


「……本当に、オレを掴んで離してくれないよね、は……」


 だけが大切で、が居ればそれだけでいいと思うオレ。
 だけど、はオレだけじゃなくて、人が大切で、自分よりも誰かを優先にする。
 例えそれで、自分が傷付く事になったとしても、変わらないだろう。


「……いつか、オレだけを、見て欲しいと思うのは、無理な事なのかなぁ……」


 誰にも、渡したくない。

 本当は閉じ込めて、誰にも見せたくない。

 君が誰かと話をするところなんて、見たくないのに、君は何時だって話し掛けられたら、嬉しそうに笑って返事を返す。
 その都度に、オレがどんな事を考えているかなんて、知りもしないで


「好き過ぎて、どうにかなりそうなんだ……」


 兄弟じゃなければ、こんなにも苦しくなかったのだろうか?

 兄弟だからこそ、オレはを好きなのだと分かる。

 世界で、たった一人だけのオレの半身。
 愛していると言えば、オレのこの気持ちは君に伝わるのだろうか?


「そのくせ、今の関係を壊せない、意気地なしだよな、オレも……」


 君の意識がない時にキスするなんて、卑怯だと分かっていても、自分の気持ちを抑えられないから


「今日の事、が覚えていたら、大変な事になるだろうね」


 でも、ちょっとだけ、期待してもいいのかな。
 だって、酔っているとはいえ意識がある君にキスをしたのに、少しも嫌がる事はなかったのだから


「起きてからの、反応が楽しみ」


 ギュッとオレの服を掴んでいるの手を自分の手で握り返して笑みを浮かべる。

 そして、今度こそオレは今日最後の口付けを君に贈った。