今日も下らない学校の授業を受けて、漸くに会えると何時もの様に校門でその姿を待っている。
 獄寺は用事があるとかで、何度も謝りながら帰って行ったけど、オレとしてはあいつが居ない方が平和だ。

 校舎から出て来るその愛しい姿を見つけた時、自然と頬が緩むのは止められない。
 本当なら、こんな場所じゃなくて、毎日だって教室に迎えに行きたいんだけど、流石にそれをすると、女子が煩いので仕方なくここで待っているのだ。

「ツナ、お待たせ」

 申し訳なさそうな表情を浮かべて歩いてくるに、もう一度笑みを浮かべる。
 オレは、待つ相手がだと思うと、何時間でも待てるんだけどね。

 でも今日は、何時もより出てくるのが遅かったのが気になる、何かあったんだろうか?

「気にしなくていいよ、オレが好きで待ってるんだから、でも今日はちょっと遅かったね。何かあった?」

 心配そうな表情をしているに、もう一度笑ってでも気になった事を質問する。
 そうすれば、がほんの少しだけ複雑な表情を見せるのは、見逃さない。

「何?」
「う、ん、大した事じゃないんだけど……」

 だからこそ、何があったのかを問い掛ける。
 そうしなければ、は自分で全部背負い込んでしまうから

 オレの再度の問い掛けに、小さく頷いて、言い難そうにしながらも、が今日遭った事を話し始めた。

 それは、今日の体育の時間、不思議な子供とそれを追って消えたスーツの男達を見たと言う話。
 確かに不思議な事だけど、オレとしては何でそんないかにも怪しそうな奴らと、が関わっているのかが疑問だ。
 オレだったら、幾らでも対処出来るのに、どうしていつもが厄介な事に巻き込まれるんだ。
 本気で、を巻き込んだ奴は、許せない。

「それで、は大丈夫だったの?!」

 その話を聞いて、一番肝心な内容を聞いてない事に気付いて慌てて質問する。
 見た目からは、怪我をしているようには見えないけど、はそう言う事を平気で隠してしまうから心配なのだ。

「……俺は、大丈夫だけど、あの子誰だったんだろう」

 オレの質問に、返ってきた返事に安心するが、その後に続いたその言葉に、小さくため息を付く。
 そんなのが気にする必要なんて、ないのに

「どうせ、またあの偽赤ん坊関連だと思うから、が気にする事じゃないよ」
「…うん……」

 オレの言葉に、が力無く頷いて返してくる。
 その後も、何か考えているに、もう一度小さくため息をつくのは止められない。

 だけど、家を素通りしそうになったのには、ちょっと慌ててしまった。
 急いでその腕を掴んで引き止めれば、一瞬訳が分からないと言うようにキョトンとしたの顔が可愛かったとか、オレだけの心に秘めておこう。

 なんにしても、家を通り過ぎそうになっていたの意識を引き戻して、その家へと入る。

「ただいま」

 玄関に入って直ぐに、が挨拶するのに続いてオレも小さな声で同じ言葉を口に出す。

「帰ってきたな」

 その瞬間、聞こえてきた声は、出来れば一番に遭遇したくは無い偽赤ん坊の声だった。
 その声に視線を向ければ、階段から降りてくるリボーンの姿が見える。

「……それは、冬の子分か?」

 その顔に、大量の幼虫を引っ付けているのが見えて、小さくため息をつきながら質問。

 夏はカブトムシやクワガタ、秋は確かトンボだったか?
 どう考えても、冬の子分は幼虫と言う事になるのだろう。

「そうだぞ。もっとも幼虫じゃ情報収集はできねーけどな」

 オレの質問に、当然のように頷いたリボーンが返してきた言葉に、複雑な表情をしてしまうのは止められない。
 どうせ、を驚かせるためだけに、こんな事をしているのだと分かるから

「役に立たないなら、返して来いよ!」

 呆れて突っ込みを入れるオレの横で、苦笑を零す。

「そんなことより、客が来てるぞ」
「客?」

 だけど当然のようにオレの突っ込みを完全に無視して言われたその言葉に、と同時に聞き返してしまった。

 誰か来ると言う話しは聞いていないから、確認の為だったのだけど、それはも同じなのだろう。
 もっとも、こいつが言うなら嫌な予感しかしないんだけど

「ツナの部屋に案内してるぞ」
「って事は、ツナへのお客様?」
「ちげーぞ、お前ら二人だぞ」

 そして続けて言われた内容に、が不思議そうに首を傾げれば、それをあっさりと否定する。
 言われた内容に、オレとは顔を見合わせて首を傾げてしまう。

 やはり、思い当たる人物などない。

 だけど、ここで考えていても仕方ないと、を連れて自分の部屋へと向かった。
 そして、扉の先に居たのは知らない子供。

「おかえり、ツナ兄、兄」

 部屋に入ったオレ達に、子供がにっこりと挨拶してくる。
 だけど、オレにはその子供に見覚えは無い。

「誰?」

 そんな相手から、兄呼ばわりされて、警戒するように相手を睨み付ける。

「ツ、ツナ、相手は子供なんだから、そんなに警戒する事無いと思うんだけど……それに、この子は、俺がさっき話をした男の子だよ」
「子供だからって、油断しちゃダメだよ!さっきの話って、それこそ怪しいから!!」

 警戒して子供を睨んでいるオレに、慌てたようにが遮ってくる。
 だけど、その時言われた内容に更に警戒を強めた。

 が話した子供だと言うのなら、スーツの男達に追われていた時点で既に怪しい。

兄、さっきは突然逃げちゃってごめんなさい。でもマフィアに追われてたんだ」
「マフィア?!」

 オレが子供を警戒するのに、が困惑している事に気付いたのか、子供が謝罪してくる。
 言われた内容に、が驚きの声を上げた。

「どう考えても、胡散臭いんだけど」

 こんな子供がマフィアに追われていたなんて、どう考えても胡散臭い。
 大体追われている子供がここでオレ達を待っているなんて、どう考えても裏があるとしか思えないのだ。

「おねがいです。ボンゴレ10代目ツナ兄!!」

 言われた言葉でますます警戒してしまうのは、仕方ないだろう。
 そんなオレに、子供が深々と頭を下げた。

「僕をかくまってください!!」
「何でオレがそんな事頼まれないといけないの?」

 続けて言われた内容は、予想通り面倒事でバッサリと切り捨てる。
 何でオレが、見ず知らずの子供をかくまわないといけないんだ。
 そんな面倒な事、引き受けたとしても、何のメリットもオレには無いんだから

「ツナ!」
「そんな面倒はごめんだよ」

 そんなオレに、が咎めるように名前を呼んで来るけど、考えを改める気は無い。
 だがそんなオレに頼んでも無駄だと悟ったのだろう、子供はの方に標的を向けた。

兄ぃ」

 どうすればいいのか考え込んでいるに、縋る様な視線を向けてその名前を呼ぶ。
 当然、そんな目で見られたら、が次にどんな行動に出るかなんて分かりきっている。

 勿論、子供にはそれが分かっているからこその行動なのだろう。

「ツナ」

 子供から縋るような視線を向けられたが、オレへと縋るような視線を向けてくる。
 当然、オレはその顔に弱くて、盛大なため息を付いて頷く事しか出来ない。

「………分かった。分かったから、そんな顔で見るのはやめて」
「ほぇ?」

 は、自分が今どんな顔をしてオレを見ているのか分かっていないのだろう。
 オレが、のその顔に弱い事だって、絶対に気付いていない。

 ため息をつきながら頷いたオレは、その顔を止めるようにお願いするが、は分からないと言うような顔をして首を傾げる。
 多分、オレがすんなりと頷いた事が、信じられないのだろう。
 自分の縋るような目がどれだけの効力を持っているのか、本当に分かっていないのだ。

「ツナ?」
「その子を助ければ、いいんでしょ?」

 心配そうに名前を呼んで来るに、オレはもう一度ため息をついて確認するように問い掛ける。

 オレの問い掛けに、パッとが顔を輝かせて力強く頷いた。
 そんなを前に、オレはもう一度ため息を着く。

「お前、わざとダメに助けを求めやがったな」
「うん、だってね、ツナ兄は、兄のお願いは絶対に無視できないってランキングに出てたんだ」

 少し離れた場所で、リボーンが子供とそんな会話をしているのが聞こえてきて、子供の行動が計算されたものだと言う事が分かる。
 だけど、ランキングって何の事だ?

「でも、どうしてこんな子がマフィアに狙われているの?」

 二人のそんな会話は聞こえていなかったのだろう、が不思議そうに子供へと質問する。
 オレも同じように疑問に思ったから、素直に聞く体制を作った。

「こいつは、ランキングをつくらせたら右に出るものがいないというランキングフゥ太っていう情報屋だ。フゥ太が作るランキングの的中率は100%だからな」

 だが、の質問に答えたのはリボーンで、淡々と子供の事を説明する。

 ああ、だからこそランキングって言葉が出てきたのか……
 確かに、100%の的中率というのは、なんとも厄介だ。

 ランキングで、自分の弱点を見抜かれてしまうのだから、厄介以外の何者でもない。
 多分、オレのこともランキングされているのだろう、だからこそ、この子供はへと助けを求めたのだ。

「えっと、それじゃ、マフィアに追われてるのは……」
「はい、この本です」

 あまりにも厄介な子供に、ため息をついた瞬間が心配そうに問い掛ける。
 それに対して子供は、何処からともなく大きな本を取り出した。

 って、明らかに隠せる大きさの本じゃない。
 多分、突っ込んだら負けだろうその状況に、もう一度ため息をついて現実逃避する為に窓の外へと視線を向ければ、数人のスーツ姿の男達が、家の近くをうろついているのが見えた。
 どうやら、この子供の事を探しているのだろう。
 何で、この場所が分かったのか疑問に思うところだが、人の家の周りをウロチョロされれるのは、我慢なら無い。

「なら、さっさと片付けてくるよ」
「ツナ?」

 面倒事を押し付けられたのなら、それをさっさと片付けるに越した事はない。
 しっかりとその人数を確認をしてから、ドアへと向かう。
 突然動いたオレに、不思議そうにが名前を呼んで来る声が聞こえてきたけど、直ぐに窓の外を見て納得したのだろう小さく頷いている姿がある。

は、その子と一緒にここに居ること」

 そんなに、オレはしっかりと釘をさす事を忘れない。
 オレの言葉に、が頷くのを確認してから、部屋を出る。

 面倒なことなんて、さっさと終わらせて、ゆっくりしたいと思うのが本音だ。

 だけど、家から出た瞬間目に飛び込んできたのは、スーツ姿の男達ではなく、何時ものように学ランを肩に掛けている人物。
 どうやら、ここに群が居ると言うのを聞いて、来たのだろう。

「沢田綱吉、何でこんなに群が居るの?」
「さぁ、オレも邪魔で困ってたんですよね。こんな連中並盛に入れないで下さいよ、迷惑です」

 不機嫌そうに声を掛けてきた並盛の秩序に、惚けた返事をして、更に文句で返す。
 大体、風紀委員がしっかりしていれば、こんな面倒が無かったかもしれないのだから、嫌味の一つも許されるだろう。

「何、こいつらが居るのは、僕の所為だって言いたいの?」

 だが、オレの言葉に、ピクリと反応した雲雀恭弥にクッと口端が上がる。
 ああ、面倒を減らすなら、この人にも手伝ってもらえば、いいんだよね。

「ええ、しっかり排除してくれないと、オレみたいな一般人が迷惑しますよ」
「誰が一般人なの、君、人の事馬鹿にするのもいい加減にしないと咬み殺すよ」
「やれるものなら、どうぞ」
「おい、そこのガキども、この辺で怪しい子供を見なかったか?!」

 だからこそ、ワザと雲雀恭弥を怒らせるような言葉を口に出せば、案の定何時もの言葉が出て来た。
 それに、不敵な笑みを浮かべて返したオレに、傍に居たスーツ姿の男達が声を掛けてくる。

「怪しいのは、お前達だろう」
「僕の町で群れるのは許さないよ」

 それに対して、オレと雲雀恭弥の声が見事に重なって発せられた。
 言っている言葉は、全く違うんだけどね。

「僕の邪魔しないでくれる」
「そっちが勝手に、被ったんじゃないですか!」
「おい!オレ達を無視するな!!」

 重なって言葉が伝わらなかった事に、不満気に雲雀恭弥が文句を言ってくるが、それはこっちの台詞だ。
 同じように文句を返せば、存在を無視していたスーツの男達が、イライラとしたように怒鳴りつけてくる。

「煩いね。僕の邪魔をするなんて、咬み殺す!」
「本当、面倒を作ってくれたんだから、容赦するつもりはないよ」

 それに対して、雲雀恭弥はトンファーを構え、オレも同じように戦闘態勢に入った。
 元々、こいつらを片付ける為に出て来たのだから、面倒ごとはさっさと片付けたい。

 当然、オレと雲雀恭弥が同時に相手をしたのだから、あっと言う間に勝敗は決まってしまったんだけど……

 その後で、何時ものように雲雀恭弥に攻撃を仕掛けられた方が、マフィアを片付けるよりもよっぽど面倒だった。

 そして、何故かまた家に厄介な居候が増えたのは、どうなんだ。
 面倒が増えるのは、本当に勘弁してもらいたいのに