オレも休みの日は、よりも早く起きるけど、基本的には、かなりゆっくりとした時間に起きる。

 まぁ、前の日に夜更かししているのも、一つの原因だろう。

 目を覚ましてから時間を確認して、ベッドから起き上がり、簡単に服を着替え、部屋を出た。
 は当然この時間ならまだ寝ているだろうから、オレはチラリとの部屋のドアを見てからリビングへの扉を開く。

「満席よ」

 リビングのコタツにでも入ろうと思ったのだが、扉を開けた瞬間ビアンキの声が聞こえてきた。
 視線を向ければ、リボーンにイーピン、それにビアンキが2箇所の場所を占領していて、確かに満席状態だ。

「っていうか、お前達、元旦からずーっと寝てるだろう。イタリアの正月は1日で終わるんだろう?」
「ここは日本だもの」

 だらしない状態の3人に呆れながら言えば、屁理屈で返された。

 まぁ、間違ってはいないが、こいつ等日本の正月に馴染みすぎだろう。
 部屋も、散らかり放題だ。

「あれ?そう言えば、もう一匹見当たらないな?今日は居ないのか?」

 屁理屈で返してきたビアンキに、盛大なため息をついて返し、オレは何時もよりかなり静かな状況に首を傾げた。

「外よ」

 オレの質問に、またビアンキが返事を返してくる。

 その瞬間、聞き慣れてきた笑い声が家の外から聞こえて来た。
 その声に、嫌な予感を感じて、慌てて表に出る。

「誰か、ランボさんにお年玉ちょーだい!」

 外に出れば、予想通り馬鹿牛が塀に座って道行く人に手を伸ばしている姿があった。

「お前!何恥ずかしい事してるんだよ!!」

 そんな馬鹿牛を、慌てて口を押さえて家の中へと引き入れる。
 まだ『お年玉』と口に出している馬鹿牛に呆れながら、ため息をついた。

「母さんからもらっただろう!?そう、それ!!しっかり持ってろ!!もう馬鹿な事するなよ!!!」

 それから、しっかりと釘を刺すことは忘れない。

 こいつもオレに言われたら、これ以上馬鹿な事はしないだろう。
 何気に、オレの事を怖がっているからな。

「ツナくん、ランボくん」

 コクコクと頷くランボに、ホッとした瞬間名前を呼ばれて驚いた。

「あけましておめでとう」

 振り返った先に立っていたのは、着物姿の笹川京子。

「京子ちゃん、ああ、おめでとう」

 振袖姿で華やかな姿は、学園のアイドルらしくとても可愛らしい井出達だ。
 正月の挨拶をしてきた相手に、オレも当然のように返事を返す。

「お兄ちゃんが、ツナくんち来るの初めてなんだよね」
「お兄さん?」
「沢田!!今年もよろしくな!!オレの今年の抱負は“極限”だ!!!」
「あぁ、おめでとうございます……」

 何でここに彼女が居るのか分からなくて、質問しようとしたその言葉は、続けられた内容に掻き消されてしまった。
 暑苦しいまでの、笹川兄は、今年も同じ抱負で貫くらしい。

 迷惑な先輩だ。

「年始早々、招待感謝するぞ」

 一気に疲れを感じているオレには、全く気付かず笹川兄が嬉しそうに言ったその言葉を聞いて、首を傾げた。

「しょーたい?」

 オレ達の隣で、笹川京子がランボと話をしているのを聞きながら、言われた内容の意味が分からず聞き返す。

「10代目、おめでとうございます!!」
「ツナさん、あけましておめでとうございます」
「ツナ、おめでとうなのな」

 が、その内容を説明して貰う前に、新たな声が掛けられる。
 獄寺に山本、ハルまでもが、揃って現れた。

 な、何か今日約束してたっけ??本気で記憶にないんだけど……

 獄寺と笹川兄が睨み合っているのを前に、必死で記憶を思い出そうとするが、何も出てこない。
 そもそも、約束した記憶がないのだから、思い出せる筈もないだろう。

「今日は、ボンゴレ式ファミリー対抗正月合戦だぞ。そのために、オレが呼んだんだ」

 訳の分からない状態に、頭を抱えていれば、何時の間に来たのか偉そうに殿様ルックで偽赤ん坊がまた訳の分からない事を言い出した。

「お前、やっと起きたと思ったら、また何訳の分からない事言ってるんだよ!」
「お、対戦相手もきたな」

 訳の分からない事言う偽赤ん坊に文句を言えば、それを無視して返される言葉。
 その言葉に振り返れば、大人数がお出ましになっていた。

「って、ディーノさんと部下の人達?!」

 なんだ、マフィアって暇なのか?!
 勢ぞろいで、姿を現したディーノさんと部下の姿になんと言えばいいのか分からなくなる。

「きたぜ、ボンゴレ式ファミリー対抗正月合戦をしに、初めて見る顔もあるな、よろしく」

 当然と言うように言うディーノさんは、ハルや笹川京子達と挨拶を交わす。

「……聞きたくないんだけど、何だよ、そのボンゴレ式ファミリー対抗合戦って」
「ボンゴレ式ファミリー対抗正月合戦は、同盟ファミリー同士が戦いその年のファミリーの意気込みを表明するボンゴレの年始行事だ」

 分からない内容を質問すれば、偽赤ん坊が淡々とした口調で説明する。
 その内容を聞いて、オレは盛大なため息をついた。

「……また、迷惑な行事だな。ボンゴリアンバースデーパーティーの再来かよ」
「ちがうぞ、正月合戦は各ファミリーの代表が、正月にちなんだ種目を競い合いその総得点で勝敗を決めるんだ。そして勝ったファミリーには、豪華商品が出るんだ」
「今回は、ただのゲームなのか?」
「そして、負けたファミリーは、罰金1億円だ」
「やっぱり、無茶苦茶な設定なんだな」
「仕方ないよ、掟だもん」

 その内容は、途中まではまぁ有りかと思ったが、最後の最後に言われた内容は何時も通りの無茶苦茶な設定だった為に、呆れてしまう。
 しかも、最後に言われた言葉は、何て言うかかなりムカついたので、思わず殺気を送ってしまった。

 罰金が1億円と言う事に、周りから夢があるとか何とか声が聞こえてくるが、まず間違いなくこの偽赤ん坊は本気だろう。
 それに気付いていない、天然連中は楽しそうだ。
 
 1億が払えるかと言えば、別段払えない金額ではないけど、この偽赤ん坊が言うとムカつくのはどうしてだろう。

「ダメを起こして来い、あいつも参加させるぞ」
「……どんな内容になるのか分からないけど、強制参加は聞かないからな。起きなかったら諦めろよ」
「仕方ねぇ、その代わりお前は強制だからな」
「はいはい、どうせそう言うだろうと思ってたよ」

 再度ため息をついた瞬間、偉そうな態度で命令してきた偽赤ん坊に、しっかりと釘を刺せば同じように返されてしまう。
 それに、右手を振って返し、オレはウチの中へと入った。

「まぁ、この時間だから、簡単には起きないだろうけどね」

 それから、の部屋へと向かう。
 そっと部屋に入れば、まだまだ布団の中で幸せそうに眠っているが居る。
 ゆっくりと近付けば、寒いのか頭まで布団を被っていて、折角のの顔が見えない。
 それは本当に残念だけど、気持ち良さそうな寝息が聞こえてくるだけで、こっちまで幸せな気分になれるのは、それがだからだろう。

「まぁ、約束だから声だけは掛けるか……」

 折角寝ているのを起こすのは気が引けるけど、約束は約束なので、声だけは掛けることにする。

、起きて」

 眠っているを布団の上から軽く体を揺すりながら声を掛けるが、当然起きる気配はない。



 もう一度声を掛けるが、当然起きないだろう。

「んっ」

 小さく呟く声が聞こえて来るが、やはり起きる気配はない。
 それに、仕方ないなぁと思いながら、オレはもうそれ以上を起こすのは諦めた。
 でも、このまま顔も見ないで出て行くのは嫌だったので、そっと布団を持ち上げて寝ているの顔を覗き込む。
 幸せそうな顔で眠っているの顔を見て、オレも知らずに笑みを浮かべた。

「嫌だけど、行ってくるね」

 その顔にそっと話掛けてから、起こすのを止めての部屋を出る。
 今は、の顔を見られただけでも良しとしよう。

 玄関に戻ると、賑やかな状態で家の前で全員がオレが戻ってくるのを待っている状態だった。
 何て言うか、迷惑な連中だとそう思っても仕方ないだろう。

 と言うよりも、明らかに近所迷惑だ。

「あっ!ツナさん、さんは一緒ではないんですか?」
「残念だけど、起きなかったからそのまま寝かしてきたよ」
「そうなんですか」

 オレが表に出た瞬間、ハルが大きく手を振って問い掛けてくる。
 それに苦笑を零して返せば、残念そうな表情が返された。
 他のメンバーもそれは同じようで、が居ない事を残念がって居るようだ。

 オレとしては、面倒な事にを巻き込みたくはないので、これでいいと思うんだけどね。
 大体、ボンゴレと付く行事には碌なモノがない事は、既に体験済みだ。

「まぁ、今日も寒いから、の足には負担になるからね」
「そうだね、今日も寒いから、くんの事を考えると控えた方がいいよね」

 オレがこっそりと言った言葉に、笹川京子が同意する。

 彼女は、なんと言うか、オレとの仲を応援している一人で、の体調も気に掛けてくれる有難い存在だ。
 に何かあったら、直ぐに教えてくれる所も本当に助かっている。

 獄寺と笹川兄が言い争っているのを何処か遠くに聞きながら、オレの家では狭いと言う事なので、場所を川原へと移動することになった。
 だけど、その後始まったのは、またしてもとんでもない内容である。

 1試合目は、おみくじ勝負。
 何故か笹川兄が余計な事をしてしまったので、早速ボロ負け。

 2試合目、羽根突き勝負。
 これも、山本の大ホームランでウチの負け。

 3、4、5試合目と全部惨敗していった。

 このままではウチの負けが決まってしまうと言うところで、ディーノさんが提案してくる。

「考えてみたら、ちょっとシビアすぎるな」

 1億を払う事になるのかと、頭を抱えたくなる心境になった時に、ディーノさんが近付いてきながらカッコ良く声を掛けて来た。

「大人対子供だ、少しハンデをやってもいいぜ」
「ん、それもそーだな。じゃあ今までのはチャラってことで」

 大人的発言をしてきたディーノさんの言葉で、偽赤ん坊がばっさりと今までの事をなかった事にする。
 流石のディーノさんも、そんなにあっさりチャラになるとは思ってもみなかったようで、かなり驚いた表情をしていた。

「かったりーから、次で勝った方が優勝な。そのかわり負けたら10億払えよ」
「また、無茶苦茶言うなよ!偽赤ん坊!!」
「しゃーねーよ。言い出したらきかねーもんな」
「って、そんなにあっさり認めちゃうんですか?!」

 どうやらリボーンの無茶に慣れているらしく、ディーノさんはあっさりと偽赤ん坊の言葉を受け入れてくれる。
 本気で、偽赤ん坊の無茶になれているのだろう。
 迷惑過ぎるぞ、この偽赤ん坊。

「最後の勝負はファミリー全員参加でもちつきにするぞ。オレにうまいアンコロもちを食わせた方が勝ちだぞ」

 頭を抱えたくなる状況に、ため息をついた瞬間、偽赤ん坊が最後の勝負内容を口に出した。

「10代目!ここらで一発逆転といきましょう!!」
「ああ、出来るといいね」

 元気良く言ってくる獄寺に、適当に返事を返す。
 チラリとディーノさん達を見れば、杵と臼を見て困惑している姿がある。
 まぁ、イタリア人であるディーノさん達なのだから、もちつきと言われても分からなくて当然だろう。
 それに比べて山本達は日本育ちなので、慣れた手つきでもちつきを始めている。
 もちつきの隣では、笹川京子とハルがアンコを作り始めていた。
 ああ、これなら借金は免れるだろうと、ホッとする。
 1億ぐらいなら何とかなるかもしれないけど、流石に10億となると難しくなるからな。

「終了だぞ」

 笛の音と共に偽赤ん坊の声が響く。

「そんじゃあ食いくらべるからもってこい。まずはキャバローネのアンコロもちだ」
「とりあえず、つくってはみたが…オレ達の知識じゃあこれが限界だ」

 そう言って出されたのはおもちになってない謎な物体。
 リボーンは、それを食べてダメ出し。

「次は、ボンゴレだぞ」
「はいはい」

 まぁ、まず負けることはないだろうと思っているので、ヤル気ない返事をして持っていたお重箱の蓋を開けて偽赤ん坊へと差し出した。
 が、中に入っていたものを見て思わず固まってしまう。

「ポ、ポイズンクッキングー!!?」

 中身が何故かポイズンクッキングに変わっていた。
 それはどう見ても、人が食べられそうなモノではない。

「私も途中から参加させてもらったわ」

 明らかに怪しい物体に変わっている中身に、驚きの声を上げれば後ろからこれを作ったであろう人物が現れた。
 その姿は、まるで極道の女と言った井出達だ。
 って、何時の間にコタツから出てきたんだ?!
 出来れば、出て来てもらいたくなかったんだけど

「あ〜っ、これじゃ、逆転負け決定だな」
「どーしてそうなるのよ。料理は愛よ。愛があれば、毒ぐらい中和されるわよ。どうぞ、リボーン」

 そう言って、オレが持っていたお重箱を取り上げてリボーンへと差し出す。
 ポイズンクッキングをリボーンが食べるとは思えない。
 そうなると、オレ達の負けは確定されてしまう。
 いや、どんなに愛があっても、毒を中和するのは無理だろう。
 オレ達が見守る中、リボーンは差し出されたお重箱を見詰めていたが、次の瞬間には既に居眠りモードに入ってしまった。
 それも、何時も以上の鼻ちょうちんを作って…

「逃げたな……」

 明らかにビアンキの料理から逃れる為のモノだと分かるリボーンの行動に、ボソリと呟く。

「仕方ないわね、あなたたちで確かめなさい」

 が、リボーンが逃げた事で、矛先がこちらへと向けられてしまう。
 言われたオレとディーノさんは、ただ同時に首を横に振って返した。

「遠慮しなくていいわよ」
「オ、オレは、と一緒に食べるって約束してるからいいよ」
との約束なら、仕方ないわね。なら、ディーノが食べなさい」

 ズイッと差し出されるモノから顔を逸らしながら、とっさにの名前を出して逃げれば、何とかビアンキが諦めてくれた。

「なっ!ツナ!一人で逃げるんじゃねぇ!!」
「頑張ってください、ディーノさん骨は拾いますから!」

 うまくに逃げたオレに対して、ディーノさんが文句を言ってくるが、軽いエールを送って返す。
 目の前で追いかけっこを始めたディーノさんとビアンキを見ながら盛大なため息をつく。

 審判である偽赤ん坊が寝てしまったので、勝負はお流れだろう。
 暫く続くだろう追いかけっこを眺めながら、携帯を取り出して家に連絡を入れた。
 多分、大人数で帰る事になるだろうから
 連絡をすれば、電話に出たのは母さんで、ちょっと残念だったけどまぁ、ウチに帰ったらには会えるだろうから、それを楽しみにしておこう。
 まぁ、毎日会っているんだけどね。

 その後、気の毒だったので、ディーノさんを助けて家に帰れば、と母さんが夕飯を作って待っていてくれた。
 が出迎えてくれた事に、幸せを感じながらも、今日もドタバタとした一日になってしまった事に疲れたので、ディーノさんと共にぐったりとしてしいたので、かなりに気を使わせる事になったけどね。