折角の冬休みなのに、またしても偽赤ん坊が無茶な事を言い出した。
 この寒空の下、山篭りをすると言い出したリボーンに、うんざりした表情をするのは止められない。

「いやだと言ったら、ダメを強制的に連れて行くぞ」

 その表情からオレが言いたい事を悟ったのだろうリボーンの言葉に、ピクリと反応を返す。

「今の季節を考えてから言え!!寒さはの足にどれだけの負担になると思ってるんだよ!!」

 の足は、寒さに弱い。
 それなのに冬空の下、山に連れて行くなんて、入院しろと言っている様なものだ。

 リボーンの無茶苦茶な言葉に怒鳴って返したオレに対して、ニヤリと満足そうな笑みが浮かべられる。
 分かってはいたのに、見事なまでにこいつの作戦に嵌ってしまった。

 の名前を出されると、罠だと分かっていても掛かってしまうのが自分の弱点だとは分かっているが、こればかりは直しようがない。

「なら、お前はいやだというなよ。獄寺に山本も呼んであるからな」

 満足そうな笑みと共に言われたその言葉に、屈辱的なものを痛感してしまう。
 本気で、こいつに殺意が涌くのはこんな時だ。

 だけど、を巻き込まないと約束させられたのなら、素直に諦めるしかないだろう。
 自分を落ち着かせる為にため息をつく。

「また、何かあったの?」

 それと同時にリビングへと入ってきたが心配そうに声を掛けてくる。

「まぁ、何時もの赤ん坊のわがままだよ」

 それに、もう一度ため息をつきながら返す。

「また、何を言われたの?」
「山篭りするらしいよ」

 そんなオレに、が複雑な表情をしながら質問してくる事に、苦笑を零しながら返す。

「や、山篭りって、今冬だよ」
「そうなんだけどね、だからこそのわがままなんだよ」

 オレの言葉に驚いたように声を上げるに、苦笑を零して再度ため息をつく。
 本気であの赤ん坊が来てから、ため息の数が増えたんだけど……

「本当に、大丈夫なの?」

 またため息をついたオレに、心配そうにが質問してくる。

「大丈夫かどうか聞かれたら、大丈夫だけど、行きたくないのは本音だね」

 心配そうに質問してきたに素直に自分の気持ちを口に出して伝えれば、が苦笑を零す。
 それから困ったような表情を見せるは、きっとなんて声を掛けるべきか考えているんだろうね。

「おい、さっさと行くぞ!」

 起きて早々爆弾発言をしてくれた偽赤ん坊が人を急かすように声を掛けてくる。
 予想はしていたんだけど、今日の事だったなんてね……

「煩い、今準備してんだろう!!」

 多分似せ赤ん坊が準備したのだろう荷物は既に目の前にある事は分かってはいるが、そう言えば何も言わないだろう事が分かっているので返事を返す。
 予想通り小さく舌打ちが聞こえて来たので、暫くは静かにしているだろう。

 に赤ん坊のわがままに付き合う事になったのが自分だけじゃなく、山本達やあのへたれボスのディーノさんも一緒だと言う事を説明した。
 そうすれば、安心したのかが笑う。

 それだけで、ホッとする。
 には、ずっと笑っていて貰いたいから

「それじゃ、行ってくるけど、は、絶対に無理しちゃだめだからね!」
「わ、分かってる……ツナも、無理はしないでね」

「オレは、あしらう方法は、いくらでも知っているから大丈夫だよ」

 だけど、これだけはと言ったオレの言葉に、慌てたように返事を返してから心配そうに言われたそれに笑って返す。
 そんなオレに、が複雑な表情を見せた。

「ディーノさん達に宜しくね」

 でも何かを吹っ切ったように言われたその言葉に、思わず嫌な顔をしてしまう。
 本当、何でそこであのへたれボスの名前が出てくるんだろうね、折角ちょっと幸せな気分だったのに

「ツナ?」
「リボーンの無茶には慣れてきたけど、部下が居ない時のディーノさんを相手にするのは、大変なんだけど」

 嫌そうな顔をして言えば、が困ったように笑う。
 きっと心の中では、同意しているのだろう事が伺えた。

「あ〜っ、うん、気休めになるか分からないけど、明日の夕飯は、ツナの好きなもの作るから、頑張って」
「そうだね。が、オレの為に作ってくれるんなら、それを糧に頑張れるよ」

 だからこそ、オレを励まそうと言われたその言葉に、小さくため息をつきながら返事を返す。
 まぁ、それなら、何とか頑張れそうだ。

「うん、何が食べたい?」
「それじゃ、ロールキャベツ」

 ため息をつきながら返したオレに、が笑顔で質問してくる。
 だからこそ、自分が食べたくて、も好きな料理を言えば、ぱっとの顔が笑顔になった。

「分かった。頑張って作るね」
「楽しみにしているよ」
「おい、いい加減に出掛けるぞ」

 それに頷いて返してくれるに、オレも笑顔を返す。
 だけど、折角気分が浮上したのをリボーンの声が突き落としてくれた。

「今行く!」

 鬱陶しいリボーンに素っ気無く返事を返してから、再度ため息。

「いってらっしゃい、ツナ」
「行きたくないけど、行ってくるね」

 そんなオレにが苦笑を零しながら見送ってくれる言葉に、本音を零して準備されているリュックを背負い、偽赤ん坊がいる玄関へと重い足を向ける。
 これからの事を考えると、気が重くなってしまうのは、仕方ないだろう。






「山こもって、話し合いなんてくそつまんねーからな、オレは遊ぶことにしたんだぞ」

 ディーノさんが山本と獄寺を連れて来る前、リボーンに行き成り滝に打たれろとか言われたので、それに対して問答を繰り返していれば、慌てて駆け寄ってくる3人を前に言われた言葉は面倒以外の何者でもなかった。

「で、人を滝壺に打たせようとしたのか?」

 何でオレが、こいつの遊びに付き合わないといけないんだよ!
 しかも、この寒空に滝に打たれろだぁ!ふざけた事言いやがるし、この偽赤ん坊だけは、本気でどうにかして貰いたい。

「そうだぞ」
「オレを使って遊ぼうとするな!」
「…それも、そーだな」

 オレの質問にあっさりと頷いたリボーンに怒鳴れば、珍しくあっさりと引き下がり、ディーノさんの肩に座る。

「じゃあ、エンツィオで遊ぶぞ」
「あっ、いつの間に!!」

 そして、ディーノさんの驚きの声を完全に無視して、その手に持つのは、スポンジスッポンのエンツィオ。
 それをぽーいと、川に向けて投げつけた。

「コラ!!」
「エンツィオを川ん中なんかに入れたら!」

 チャポンと音を立ててエンツィオが川の中に落ちるのを見て、流石のオレの慌てて声を上げてしまう。
 それと同時に、ザバーンと言う音と共に姿を見せたのは、巨大化したエンツィオ。

「でけー!!!」
「ありゃ、なんだ…!?」
「山の主だ!!山の主の怒りだ!!」

 エンツェオの姿を見るのが初めての山本と獄寺が、驚きの声を上げる。
 獄寺に至っては、何ともファンタジーな反応を見せているのは、気のせいか?

「静まりたまえ!!!」

 しかも、訳の分からない事を言っているし……
 もしかして、本当に意外だけど、不思議系が好きなのか?

「あのでかさじゃ手がつけられねー、橋の向こうに走るぞ」

 ディーノさんの声と共に、全員が吊橋を走る。
 勿論吊橋なのだから、全員で走ったら良く揺れるのは当然だろう。
 山本が偽赤ん坊を抱えてオレの前を走っているのを見ながら、チラリと後ろ振り返った。

「ここはオレが時間かせぎをする、お前達は先に行け!!」

 その先でディーノさんが立ち止まりムチを片手にオレ達に潔く言うが、ちょっと待って!

「待て!おまえのヘナチョコムチじゃムリだ!!」

 ディーノさんの声を聞いて、ギョッとしたオレの心を読んだように、獄寺が制止の声を上げる。
 そう、今のディーノさんには、部下の人が居ないから、ダメダメのヘナチョコ人間。

「つべこべいわず、オレにまかせとけ!」

 だけど、獄寺の忠告を聞くようなディーノさんではなく、カッコよくムチを振るってくれたが、そのムチの先は当然エンツィオには向かわずに、吊橋のロープを断ち切ってしまった。

「しまった」

 無常にもロープを切られた吊橋は、崩れを落ちる。
 当然、吊橋に居たオレ達も一緒に谷に落ちていく事になった。

「ん・・・いつつ・・・」
「だ、大丈夫ですか、10代目!!」

 誰かの呻き声が聞こえた瞬間、獄寺が心配そうに質問してくる。

「何とか、生きてるよ……みんなは、無事?」
「ああ、木の枝がクッションなったみてーだな」
「天日干しされて、エンツィオも縮んだな」

 獄寺に返事して、みんなが無事かどうか確認すれば、山本が頷いて空を見上げた。
 偽赤ん坊は、縮んだエンツィオを手に持っている。
 それを確認して、オレも空を仰いだ。

 確かに、山本の言うように木の枝がクッションになってくれて助かったと言うのが分かる。
 もっともオレは、落ちる時に出来るだけ衝撃を減らす為に木の枝を上手く使って下りてきたのだけど

「すまん、手がすべった」
「てめー!!手がすべったで済むか!!コラ!!」

 状況を確認してため息をついた瞬間、ディーノさんが深々と頭を下げて謝罪する。
 それに対して、獄寺が怒鳴り声を上げるが、内心同意見だ。

「まーまーみんな無事なんだし、結果オーライじゃねーか・・・な!」
「すまん」

 今にもディーノさんに殴りかかりそうな勢いの獄寺を、山本が必死に慰める。
 それに対して、ディーノさんがもう一度謝罪の言葉を口にした。

 まぁ、山本のように温和な訳じゃないけど、みんなが無事だったのは本当に運がよかったと思う。
 結局は、起こってしまった事に文句を言っても、何の改善策にもならないと言う事だ。

「まだ無事かわかんねーぞ、こっから上に帰れるか、わかんねーからな」

 だが、不安を煽るように、リボーンが口を開く。

「そういわれれば、ここどこだ?」

 リボーンに言われて、山本が周りを見回すが、当然山の中で道など存在しない。
 慌てて獄寺がポケットから携帯を取り出す。

「ダメだ、圏外っス」

 だが、パネルを見た瞬間ガックリと肩を落とした。
 普通に考えれば、こんな山奥で電波を拾えるはずもないから当然だろう。

「落ちつけって、オレのケータイは、砂漠のまん中からでもかけられる衛星電話だ」

 自分の持っている携帯も、獄寺と同じ結果になる事が分かっているから見る事はしない。
 こんな事になるぐらいなら、改造しておくべきだったと後悔してれば、得意気にディーノさんがそう言ってズボンのポケットから携帯を取り出す。

「あれ、のびてる…」

 だが出てきたのは、壊れた携帯の成れの果てだった。
 本気で、この人使えないんだけど……

「食料を入れたナップも失くしちまったぞ」

 偽赤ん坊が、更に追い討ちを掛けるよう言ってくれる。

「流石に、ここでの野宿したら、夜の冷えこみもハンンパねーだろーな」

 そして、それを聞いた山本が、流石にこの状況に複雑な表情を見せた。
 確かに、冬の山奥で野宿なんて、バカなヤツがする事だ。

「これでクマなんか出た日にゃ、まさにサバイバル」
「お前は、楽しそうだな」

 山本の言葉を聞いて、偽赤ん坊が原住民のコスプレまでしてこの状況を楽しんでいる。
 元はと言えば、こいつの所為でこんな目にあっているのに、元凶は勿論反省などする気は皆無だ。

「本気でが参加してなかった事だけが救いだよ」
「まぁ、確かに、が一緒だったら、大変だったのな」

 レオンと共に、サバイバル状態を楽しんでいる偽赤ん坊を横目にため息をつきながらこぼした言葉に、山本が同意の言葉を返してくる。
 確かに、が居たら本当に大変な事になっていただろう。
 間違いなく、風邪をひくし、足の怪我には良くない状態だ。

「見ろ、洞窟だ」

 本気でが居ない事を喜んでいれば、リボーンが一つの場所を指しながら口を開く。
 確かに、指されている先にあるのは洞窟だ。

「へー、この中なら寒さはしのげるかもしれねーな」
「うかつに近付くなよ、獰猛な生き物の巣ってこともありえる」

 山本が少し安心したよように、その洞窟に近付こうとしたのを、ディーノさんが止める。

 並盛の山にクマが出たって話なんて、一度も聞いた事ないんだけど……

 だけど、言われた内容に、思わず心の中で突っ込んでしまった。

「オレが中の様子を見てくる」
「まて!おまえにはまかせられん、オレが行く!」

 取り合えず面倒なので、これからの展開を傍観しようと一歩後ろに下がる。
 ディーノさんが兄貴風をふかして洞窟に入ろうとしたのを、慌てて獄寺が引き止めた。

 まぁ、妥当な選択だ。
 今のディーノさんでは、何が起こるか予想が付かないのだから

「ま・・・いっか」

 それにあっさりと、ディーノさんはその役を獄寺に譲った。

「何かあったら、大声あげるんだぞ」
「誰があげるか、アホ」

 山本がライターを片手に洞窟へと歩いて行く獄寺に声を掛ければ、眉間に皺を寄せながらも何時ものように憎まれ口を返しながら獄寺は洞窟の中へと入っていく。
 それをディーノさんと山本は、何も言わずにただ中の様子を伺うように覗き込んでいる。

「ギャアアアアア」

 だが暫くして聞こえて来たのは、獄寺の悲鳴。
 そして直ぐその後に、中から外へと近付いてくる誰かの気配を感じた。

「何か来てる」

 それに気付いた全員が戦闘態勢を作るが、近付いてくるその気配は何処となく覚えのある気配だったので、オレは思わず首を傾げてしまう。

 一体、誰の気配だったっけ?
 そして、洞窟から出てきたのは

「ビアンキ!!!」
「リボーン、いらっしゃい」

 獄寺を抱えた状態で姿を見せたのは、ビアンキ。

「ちゃおっス」

 そして、リボーンの姿を見つけたビアンキは、担いでいた獄寺を捨てリボーンに抱き付く。
 それに対して、リボーンは何時もの挨拶を返した。
 どうりで、感じた事のある気配な訳だ。

「おい、獄寺大丈夫か?」

 地面に倒れこんでいる獄寺を山本が心配そうに声を掛けている。
 まぁ、獄寺は何時もの事なので、問題ないだろう。

「ビアンキ、何でおまえがここに居るんだ?」

 それをチラリと確認しながら、まさかこんな場所にいるとは思わなかった相手へと質問する。

「三日前、毒キノコを採取しているうちに、ここにたどりついたのよ」

 オレの質問に、ビアンキがあっさりと返答を返す。
 言われてみれば、ここ数日ビアンキの姿を見てなかったな。

「なかなか楽しい場所よ、帰ろーとしても、また戻ってきちゃうの」

 内心、納得していれば、楽しそうに笑いながら言われた言葉に、複雑な表情をしてしまう。
 こいつには、遭難していると言う自覚はまったくないらしい。

「こ…こんなところで会うとはな…毒サソリビアンキ…」
「来てたのね、ディーノ」

 そんなビアンキに、複雑な表情でディーノさんが声を掛ける。
 それに対して、ビアンキも素っ気無く返事を返した。

「毒サソリには、リボーンの生徒の時、何度か殺されかけてんだ」

 出来れば会いたくなかったと言うのを隠しもしないディーノさんに不思議に思ってその顔を見ていれば、オレの視線に気付いたディーノさんが苦笑交じりにその理由を教えてくれた。
 どうやら、オレの時と同じように、リボーンを取り戻す為にその生徒を殺そうとしていたようだ。
 本気で、傍迷惑な愛人だな。

「ところで、三日間食い物はどーしてたんスか?」

 理由を聞いたオレがため息をついた瞬間、獄寺の様子を見ていた山本がビアンキへと質問する。

「そうねぇ、毒キノコや…毒キノコね」

 そんな山本に対して、ビアンキは考えてから返事を返すが、自分達にとってはまったく参考にならない内容だった。
 オレ達がその返答に、複雑な表情を見せていれば、洞窟の方から声が聞こえてくる。

「あなたたち、出てらっしゃい」

 その声に気付いたビアンキが、洞窟に向かって声を掛けた。

 何だ?まだ誰か居るのか?

 そう思って、警戒していれば、洞窟の中から出てきたのは、大泣きしている馬鹿牛と、イーピン。
 イーピンはオレ達の姿を見ると、ペコリと頭を下げる。

「何でこんな所に、お前達には、今朝家であったはずだろう?」
「うえ〜ん」

 ビアンキと違って、こいつ等の姿は、間違いなく今日の朝食卓で見掛けた筈だったから、真意を確かめようと質問した瞬間、ドンと何かが抱き付いてきた。

「ツナさ〜ん!」
「ハル!!?」

 抱き付いて来たものを確認しようとすれば、名前を呼んで更に強く抱き付いてきたのは、間違いなくハルの姿。
 流石にこんな場所にいるとは思えなかった相手に、驚いてその名前を呼ぶ。

「ハル達は、2時間ほど前にここに迷い込んだの。帰り道が分からないと言ったら、突然泣きだして」
「それが、フツーの反応だぞ」

 そんなオレの心情を読んだのか、ビアンキが淡々とした口調で、ハルがこんなに取り乱している訳を説明してくれた。
 その言葉を聞いて、ディーノさんが複雑な表情を見せる。

「と、兎に角落ち着けって!泣いても、仕方ないだろう。大体、何でこんな所に来てるんだ?」

 ハルが取り乱して、人に抱き付いている理由は分かったが、何でこんな場所にいるのかが分からなくて質問すれば、イーピンが中国語で話し出す。

「『ハルが雑誌で山の中のおいしいケーキ屋の記事をみつけたので、私達三人で行く事になったのです』」

 中国語が分かるのは、オレとリボーンぐらいなので、今回はリボーンがイーピンの言葉を直訳していく。
 イーピンのその手には、その記事が載っていた雑誌が広げられていた。

「『ところが、ランボがウソの道案内したり、ふざけてハチの巣をつついたり、単独でガケから落ちたりして、ここにたどりついたのです』」

 思い出すように言われたイーピンの説明に、思わず脱力してしまう。
 結局、ハル達が遭難した理由は全部、馬鹿牛の所為と言う事だ。

「でも、ハル幸せです。ツナさんが、助けに来てくれたんですもん」
「……いや、助けに来た訳じゃない。オレ達も遭難中なんだよ」

 頭の痛くなる状況に、ため息をついた瞬間、ハルが嬉しそうに人の手を取り感激だと言わんばかりの言葉を綴る。
 だが、言われたその言葉に、オレはもう一度ため息をついて事実を伝えた。

「はひーっ!!!じゃあ私達どーなっちゃうんですか!?クルーソーですか!?ロビンソンですか!?」

 真実を伝えたオレに、ハルが嘆きの声を上げる。
 それと同時に、馬鹿牛までもが人に泣き付いてきた。
 正直言って、こいつ等を慰めるのも面倒だ。

「山本?」

 盛大なため息をついた瞬間、視界の端に落ちている木を拾っている山本の姿が見について声を掛けた。

「んっ?まぁ、なんだ。木を拾って薪にしようと思ってさ。SOSののろしにもなるし、寒さ対策や動物よけにもなんだろう?」
「確かに、その通りだ」

 声を掛ければ、山本はその理由を説明する。
 言われてみれば、その通りだ。

 どうやらこのメンバーの中で一番役に立ちそうなのは、山本だと考えていいだろう。

「おまえにばかりに、いいカッコはさせねーぜ」

 山本の言葉に納得して手伝おうとハルを引き離して、山本へと近付こうとしたら、それを遮るようにぜーぜーと肩で息をしている獄寺が火炎瓶を持った状態で近付いてくる。

「こいつを使えば、よく燃えます」

 いや、よく燃える前に確実に山火事になるだろう!

「見直したわ、隼人」

 思わず心の中で突っ込みを入れた瞬間、ビアンキが獄寺の顔を両手で挟んで無理やり自分の法へ向ける。
 ビアンキの顔をまともに見た獄寺は、短い悲鳴を上げてその場に伸びてしまう。
 そして、持っていた火炎瓶は、虚しくも投げ飛ばされて近くの木に燃え広がった。

「火の回りが早い!洞窟に非難するぞ!」

 冬の乾燥した空気の所為で、勢いよく燃え上がった炎に、ディーノさんが非難の声を上げる。
 だが次の瞬間、ドカーンと言う爆発音がして、逃げ場にしようとしていた洞窟をガラガラと崩れてきた岩が塞いでしまう。

「お詫びにランボも火をつけるの、手伝うもんね!」

 その原因は、ポイポイと手榴弾を投げている馬鹿牛の所為。

「ランボ、何やってるんだよ!」

 それに驚いて名前を呼べば、ビクッと震えてその動きを止める。
 だが、ランボの所為で完全に逃げ道は塞がれてしまった。

「死にたくありません〜!!」

 完全に火に囲まれた状態になった事で、ハルが叫び声を上げる。

「リボーン!」
「分かってるぞ、死ぬ気で消火活動に励めよ」

 この状況を脱出する為に、オレがリボーンの名前を呼べば、分かっていたのかリボーンは既にオレに向けて死ぬ気弾を撃った。

「こんな場所で死ぬなんて、絶対に認められない……死ぬ気で、脱出して火を止める」

 ボッと、額に熱が灯るのを感じる。
 そして、直ぐ傍にいるハルとイーピン、そして馬鹿牛を抱えて崩れた洞窟の上へと連れて行く。
 それを、ビアンキ、獄寺、山本、ディーノさんと続いて運んだ。

「この山火事には、あの川の水を使う。リボーン、レオンを借りるぞ」
「仕方ねぇな、レオン」

 少し高い場所から見ると、直ぐ傍に川があるのが確認できるので、その水を使って火を消す事にする。
 オレはリボーンからレオンを借りて、その川に向かった。
 そこでレオンにはポンプになって貰い、川の水を吸い上げ勢い良く火に向けて噴射させる。
 かなりの水の威力は持っているが、それでも中々全ての火を消すことは出来ず完全に沈下させたのは、結構な時間が経ってからだ。

「何とか消えたな」

 その頃には、辺りが少し暗くなっていた。
 直ぐ傍に来たリボーンが、レオンを労わりながら、どこか安堵したように呟いたその言葉に返事を返すことは出来ない。
 正直言って、かなり疲れた。

「おーい、ツナ、大丈夫か?」

 完全に火が消えたことで、非難させていたみんながそれぞれ近付いてくる。
 山本が心配そうに声を掛けてくるのに、オレは力無く頷いて返した。

「山火事の心配はなくなったが、これからの事を考えねぇとな」
「……取り合えず、ディーノさんの壊れた携帯を下さい」

 そして、直ぐ傍に来たディーノさんが言ったその言葉に、一瞬考えてから発言をする。

「ああ?この壊れた携帯をか?」
「ええ、その壊れた携帯です」

 オレの発言に、ディーノさんが驚いたように壊れた携帯を取り出して質問してくるのに、頷いて返す。
 流石にこれ以上当てもなく動き回れる自信はないので、一番簡単なナビゲーターを捜索する事に決めた。
 確か、衛星を通していると言っていたので、その機能は使わない手はないだろう。

「オレは、明日の夜までに帰って、の作ってくれたロールキャベツを食べるんです」

 オレが一番望んでいる事は、それだけだ。
 何が何でも、が待ってくれている家に帰る。
 常時ポケットに入れてある精密ドライバーセットを取り出して、自分の携帯とディーノさんが持っていた携帯とを合わせて改造する事にした。
 手元が暗いと言うことで、獄寺のライターを借りて木にハンカチを巻き付け燃やし明かりにする。

「取り合えず、みんなは自分が何を持っているのかを確認しておいてくれ」

 オレのしている事に興味津々状態でみんなが覗き込んでくるのを止めさせる為に、提案を出す。
 本当は、一番始めに確認する事なんだけど

「了解しました!」

 オレの提案に、獄寺が元気良く返事をして、自分のポケットの中から幾つかのダイナマイトとタバコを取り出す。
 それに続いて、山本もごそごそとポケットを漁って入っているものを取り出した。
 だが、山本が持っていたのは、財布とくしゃくしゃになったハンカチと携帯。

「ハルは、ハンカチとティッシュ、それからチョコレートとアメを持っています!」
「私は、採取した毒キノコを持っているわ」
「いや、それはいらねぇから!」

 はいはい!と手を上げて言うのは、ハルで腰に付けていたポーチから言った物を出してくる。
 それに続いてビアンキが禍々しいキノコを取り出してくるのに、ディーノさんがすかさず突っ込んだ。

「役に立つのは、ハルが持っている菓子類だけだな」
「いや、ランボの頭の中も見てくれ、多分、役に立つモノが大量に入っていると思うから」

 取り合えず、ハルに獄寺、山本の持ち物が分かった時点で、言われたりボーンの言葉に、忘れてはいけない人物の名前を出す。
 本気であいつのモジャモジャ頭の中は、異次元と繋がっているんじゃないかと思う時がある。
 それぐらい、あのモジャモジャの中には色々な物が隠されているのだ。

「オレにお任せください!」

 オレの言葉で嬉々として申し出てきたのは、獄寺でここぞとばかりにランボの事を弄り倒すつもりなのだろう。
 まぁ、こっちに迷惑が掛からないのなら、オレは気にしない。
 オレとしては、手元が見られる明かりがあれば今の所は問題ないからね。
 ディーノさんの携帯から使えそうなパーツを引き出して、それを自分の携帯に取り付けていく。
 流石に工具が精密ドライバだけじゃ、何処まで出来るかは分からないけど、まぁ、何とかするしかないだろう。
 少し離れた場所から、ランボと獄寺の声が聞こえてくるのをBGMに、ハイピッチで改造を進めていく。
 あ〜っ、折角のとのおそろいだったのに、こんな事で改造する事になるとは思いもしなかったなぁ……。
 いや、もっと早く改造していたら、こんな自体も免れたかもしれないんだけど

「獄寺さん、ランボちゃんを苛めちゃダメです!!」

 ああ、獄寺とランボとそれにハルまでもが加わって、本気で賑やかだ。

「こいつ、こんなものまで持ってやがるのかよ?!」
「すごいのな、結構役立ちそうなものがいっぱいあるのな」
「そうだな。ツナ!」

 感心したような獄寺と山本の声が聞こえて来た瞬間、ディーノさんに名前を呼ばれて顔を上げれば、目の前に迫るモノを慌てて受け止める。

「懐中電灯」

 渡されたのは懐中電灯で、確かに今のオレにはかなり有難い代物だ。

「他にも、色々出てきたぜ」

 渡された懐中電灯が動く事を確認すれば、ちゃんと電気が灯るようだ。
 確かに、役に立つものだと、頷いた。
 満足気に頷いた瞬間、山本が声を掛けてきたので視線を向ければ、ランボのモジャモジャ頭の中から出てきたであろう大量の武器と、アメ。
 良く、こんなに大量のものをあの子供が持てるものだと、それだけは本気で感心させられる。
 しかも、これが全部あの髪の中に隠されているのだから、本気で異次元ポケット状態なんじゃないかと思わずにはいられない。

「良くこんだけのものが入るのな」

 山本も感心したように言うが、明らかに物理的に色々可笑しいと思うんだけど、多分それを突っ込んでも、無駄だろう。

「取り合えず、持ち物は確認できたみたいだから、ハル」
「ハイです!」

 作業の手を止めて、皆の視線が集まる中オレはハルへと声を掛ければ元気良く返事が返ってくる。

「貴重な食料だけど、分けて貰っていい?」
「勿論です!みんなで分けましょう!」

 チョコレートとアメを持っていると言ったハルに質問すれば、また元気良く返事が返ってきた。
 まぁ、人間一日くらい食べなくても平気だろうが、ここに居るのは育ち盛りの男子が殆ど、何も食べないと言うのは良くないだろう。
 ハルが持っていたお菓子と、ランボの持っていたお菓子を合わせて平等に配る。
 甘いものがそこまで好きじゃないヤツも、この際文句は言わないどう。
 特に、獄寺!

「有難う、ハル」

 ハルから手渡しで貰った一口チョコとアメを手に礼を言えば、ハルが顔を赤くして訳の分からない事を言い出すのでそのままスルーしてまた作業に入る。
 ディーノさんの携帯から必要な部品を取り出し終えたので、今度はそれを自分の携帯に取り付ける作業に入ったが、精密ドライバだけで何処まで作業が出来るからはやって見ないと分からない。
 まぁ、何もしないよりはマシだし、携帯の構造は把握しているので、何とかなるだろう。
 もくもくと作業を続けていれば、回りが偉く静かなことに気付いた。
 それを不思議に思い顔を上げれば、ハルや子供達は寝てしまっている。

「疲れていたのね」

 その様子を見て、ビアンキがハルの髪を優しく撫でた。
 確かに、色々あり過ぎて今日は疲れているが、こんな状況でよく寝られるものだと、感心させられるんだけど

「女子供だからな、仕方ねぇぞ」

 オレの心を読んだかのように、偽赤ん坊が口を開く。
 この中で見た目だけなら一番の子供が何を偉そうに、とは思うのだが、確かにこればかりは仕方ないだろう。
 流石に疲れているのか、山本も少しうとうとしている様だ。
 こんな状態を見ていると本気で、が参加してなかった事が喜ばれる。

「で、ツナの方は何とかなりそうなのか?」

 ぐるりとみんなの様子を確認したオレに、ディーノさんが声を掛けてきた。
 オレの方と言うと、携帯の改造作業の事だろう。

「後、もう少しと言ったところですかね。何とか形にはなりましたから」

 かなり見た目的には不恰好になるだろうが、動いてくれれば問題はない。
 兎に角、今自分達の居る場所が分かりさえすれば、後は何とかなる。

 まぁ、一つ気になると言えば、山火事が起こったと言うのに、消防が活動しなかった事だろうか。
 普通なら、何かしらの反応があってもいいと思うんだけど
 消防団の反応があれば、もっと早くにこの山奥から出られただろう。

 使えないな、並盛の消防団。
 今度、あの人に文句の一つでも言わなきゃ、やってられないんだけど

「流石に、冷えるな」

 ため息をついたところで、ボソリと呟かれたディーノさんの言葉に意識を引き戻す。

 今の暖と言えば、小枝を集めて薪にした焚き火ぐらいだ。
 この寒空に、こんな焚き火ぐらいで温まる方が無理な話だろう。

 真冬にこんな秘境の地なんぞに来るから、こんな事になるんだ。
 本気で、こんな計画を立ててくれた偽赤ん坊を恨みたくなる。

「今度は秘境じゃなくて、休息を取るなら温泉ぐらいには連れていってもらいたいですね」
「いや、本当に悪い。今度の企画はちゃんとそうするから、その時は、も一緒に連れて来いよ」

 嫌味交じりに言えば、ディーノさんが苦笑をこぼしながら謝罪の言葉と共に、の名前を出す。
 温泉にを連れて行くのは反対しないんだけど、の裸をオレ意外のヤツが見ると思うと、素直に同意する事なんて出来る訳ない。

「気が向いたら、誘ってみますよ」

 だからこそ、素っ気無く返す。
 勿論、気が向く事なんて永遠に来ないだろうけど

 誰が、と裸の付き合いなんてさせるか!
 もっとも、その前に自身が自分の足の事を考えて断りそうなんだけどね。

「楽しみにしてるぜ。まぁ、それは置いといて、良くそんな工具なんて持ち歩いてるな」
「『備えあれば憂いなし』ですからね。それに、これがあると結構便利ですよ、武器にもなりますから」

 素っ気無く返したオレに、それでも笑顔で返してきたディーノさんが感心したように零した言葉にサラリと返す。
 精密ドライバは、十分過ぎる武器になるから、本当に便利だ。
 後は、機器類が壊れた時にも、十分に役に立ってくれるから、持ち歩くのは癖になっている。

「そ、そうなのか?」

 サラリと言ったオレに、ディーノさんが恐々質問してくるのに、頷いて返す。

「ほら、ドライバの先って尖っていますからね、十分殺傷能力も高いんですよ」

 モノによっては、人を殺す事も出来るだろう。
 まぁ、流石にそれはしないけどね、何度か人の手に刺した事があるので、十分な武器になる事は確認済みだ。
 そう返したオレに、ディーノさんが複雑な表情をする。

「そう言う訳なので、オレがドライバ持ってる時は迂闊に近付かない方がいいですよ」

 なので、とどめてばかりに、ニッコリ笑顔で言えば、ディーノさんが素直に離れて行った。
 それに内心舌を出しながら、最後の作業に取り掛かる。
 後は、これとこれを繋いで、電源を入れれば動く筈だ。

 慎重に作業しながら、出来るだけハイピッチで作業を仕上げていく。
 今の場所が町からどれぐらい離れているのかも分からないので、出来るだけ早く帰る為の行動に出なければいけない。

「よし、完了」

 最後に電源が入るのを確認して、問題ない事を確認する。
 パソもないし、データーを弄る事も出来ないから、ディーノさんの携帯とオレの携帯を繋ぎ合わせた状態が精一杯だ。
 見た目はかなり不恰好だが、地図としての機能はしっかりと動いてくれている。

「出来たのな?!」

 オレの声で山本が一番に反応するのに、頷いて返す。
 地図で確認すれば、まぁ、何とか歩いて帰れるぐらいの距離である事が確認できる。

「ここから南にずっと歩いて行けば、町に出られる」
「距離は?!」
「そうですね、軽く50Kって所ですかね」

 質問された所に、サラリと返せば、希望が見えたのか、みんなの表情が明るくなった。
 まぁ、黙々と歩くだけの作業だが、帰れない距離じゃないと分かっただけ有難いと言ったところだろう。

「んじゃ、早速帰ろうぜ!」

 ディーノさんの掛け声で、全員が動き出す。
 本当は朝を待って行動する方がいいのだろうが、流石に朝まで動かずに居たら凍死するかもしれないので、それは避けなければいけない。

 子供は、それぞれが抱えて歩き出す。
 イーピンをオレ、ランボを山本、リボーンをビアンキと言う状態だ。

 流石に女の子であるハルには辛い距離になるかもしれないので、その時にはディーノさんに頑張って貰う事になるだろう。
 今なら、ランボも寝ているので、邪魔にならないから、気楽に進む事が出来る。
 これが起きたら、じっとしていないのでかなり迷惑になるだろうから

 時々地図を確認しながら、真っ直ぐに南を目指す。
 50Kなら、スムーズに歩ければ、半日で着けるだろう。

 そう、普通に歩ければ……が、思っていたよりも道のりが険しくて、しかも目を覚ました馬鹿牛の所為で、時間が予想以上に掛かってしまった。

 家に帰り着いたのは、もうすっかり空が暗くなってしまってから
 ボロボロになって帰ってきたオレ達を見て、慌ててがお風呂の準備をしてくれて、何とか人心地ついてから、約束のロールキャベツを食べる事が出来た。


 本気で、この2日間はかなり疲れたのは、言うまでもない。