折角の休みだと言うのに、朝も早くから偽赤ん坊に起こされて、ピクニックに行くと言われた。
当然、も叩き起こされて困ったような表情を見せている。
困ったような表情を見せているのは、ピクニックに行くと言われたからだろう。
にとって、体を動かす事は、足に負担が掛かってしまうから
だからこそ、困ったような表情をするのだ。
「ごめん、俺はやめておくよ。さすがにピクニックとなると、俺の足だと邪魔になるから……」
だからこそ、が断りの言葉を口に出す事は分かっていた。
予想通り、申し訳なさそうな表情で謝罪して、困ったように言われた言葉。
「別に邪魔じゃねぇぞ。ピクニックと言っても、ちゃんとお前の足の事は考えているからな」
だがそんなに、リボーンはそれを許さないと言うように返事を返す。
それに対して、さらにが困ったような表情をした。
「リボーン、何強制してるんだよ!大体、この時期からは、特に足には負担が掛かるんだからな。どうしてもを参加させるって言うのなら、お前には一切付き合わないぞ」
「チッ、分かった。ダメの事は諦めるぞ。綱吉は絶対に参加してもらうからな」
そんなをこれ以上見たくなかったから、オレが助け舟を出せば、あっさりとリボーンがを諦める。
諦めた理由は、オレが一切付き合わないと言ったからだろう。
リボーンにとって、アキよりもオレが付き合わない事の方が問題なのだから
オレとしても、を巻き込まないなら、問題はないからな。
折角の休みに、と一緒に居られないのは残念だが、ピクニックに行くと言い出したリボーンの気持ちも分からなくはない。
今日は秋晴れのいい天気なのだから、ピクニック日和と言えなくはないだろう。
母さんに頼んで作って貰ったのだろう弁当を持って、に見送られて家を出てバスに乗り並盛山に向かった。
だが、着いた先で待っていた人達を見て、オレはそのまま帰りたくなる。
そこでオレ達を待って居たのは、キャバローネファミリー一同。
「……リボーン、どう言う事なのか、説明するよな?」
目の前に揃っているキャバローネファミリーの面々を見て、不機嫌な声で偽赤ん坊へと問い掛ける。
もっとも、この状況から考えれば、嫌な返事しか期待はできない。
「見たまんまだぞ。今日は、トレーニングだぞ」
「せっかく、かわいい弟分に会いにはるばる日本にきたんだ。おまえに、オレのムチさばきを伝授してやろーと思ってな」
質問したオレに対して、リボーンがあっさりと口に出し、それに続いてディーノさんが嬉しそうな表情で言った言葉に、うんざりとした表情をしてしまうのは止められない。
ムチ捌きとか、正直興味ないんだけど
「やるよ、オレのお古だ」
ため息をついた瞬間、差し出されたのは一本のムチ。
それをオレに差し出してきたディーノさんに、素直にそれを受け取る。
「はぁ、有難うございます……」
正直言ってそんなモノは要らないが、好意なのが分かるので無碍にする事は出来ない。
「武器は一通り扱えるようになった方がいいからな」
「そうだぜ、まぁ、やってみろって面白ぇーから」
偉そうなリボーンに続いて、ディーノさんは自分のペットであるエンツィオを片手に、ペットボトルの水を掛けた。
って、あのエンツィオって、スポンジスッポンだったよね?
「ディーノさん?」
ディーノさんの行動理由が分からず、その名前を呼ぶ。
「まずは、スピンジスッポンのエンツィオに水をかける。そうすれば、かけた分だけでかくなり好戦的になる」
水を掛け少し大きくなったエンツィオを地に降ろして、説明される内容に漸く何がしたいのかを理解する。
「こいつがお前のスパーリングのパートナーだ」
「……そんな事だろうとは思いましたが、オレがムチも扱えるとは思わなかったんですか?」
貰ったムチを構え、自分にドスドスと音を立てて近付いてくるそれ目掛けてそれを振るう。
ビシリと音がして、容赦なくエンツィオが弾かれた。
「……流石だな」
そんなオレに対して、感心したようにリボーンが呟く声が聞こえてくる。
だが、その弾かれたエンツィオの飛んだ先が悪かった。
ポチャンと言う音が聞こえてきた瞬間、自分の顔が引き攣ったのが良く分かる。
「ん?どこに落ちたんだ?」
「ありゃ、井戸だな」
「井戸……?」
そろりと、その場から後ろに下がったのは、これから起こる事が容易に想像出来たからだ。
その間に聞こえて来たのは、暢気な会話。
余りにも暢気な会話に、思わず苦笑を零す事しか出来ない。
緊張の欠片もないと思うのは、自分だけなのだろうか?
その間にも、井戸の水を吸ったエンツィオが巨大化して井戸を壊してその姿を見せる。
「やべぇ!ツナ逃げろ!!」
慌てたディーノさんの声が、辺りに響いて、漸く緊迫した空気が流れた。
言われなくても、とっくに逃げているし、自分達の方がオレよりも井戸の傍に居るんだと言う事には、気付いていなかったらしい。
「ツナよりも、オレ達の方がやべぇぞ」
流石にリボーンは状況を理解しているようで、ポツリと呟かれた言葉でディーノさんが慌てたようにムチを構えて巨大化したエンツィオの首にソレを絡めた。
その行動で、エンツィオの動きをしっかりと引き止める。
部下が居る時のディーノさんは、確かに尊敬に値するかもしれない。
もっとも、それは部下が居る時だけだと、ハッキリ言えるけどね。
ディーノさんと共同で巨大化したエンツィオを抑えて、キャバローネの部下達が必死でエンツィオを乾かし。何とかその場は落ち着く事が出来た。
本気で、迷惑なペットなんだけど
そのお陰で、疲れるだけの一日となってしまったと思うのは、オレだけだろうか?
が来てなくて良かった、こんな事でが怪我でもしていたら、ディーノさんのペットを殺していたかもしれない。
凶暴化していたエンツィオが落ち着いてから、遅くなった昼食を食べて家に帰った。
家に帰って、オレの癒しでもあるに直ぐに会えると思っていたのに、予想に反しては出掛けていてがっかりする。
どこに行ったのかを母さんに聞けば、折角お弁当を作ってくれたからと、それを持って出掛けたらしい。
オレも、リボーンとじゃなくて、と一緒に出掛けたかったんだけど
ため息をついて、仕方なくが戻ってくるのを待つ事にする。
だけど、いくら待ってもが戻って来ない。
携帯に連絡しても電源が切られているらしく、繋がらないし。
時計を睨み付けても、が戻って来る訳じゃないと分かってはいても、思わず時計から目が離せなくなる。
刻一刻と過ぎる時刻に、小さくため息をついた瞬間、家の電話が鳴り響いた。
直ぐに、母さんが電話に出る声が聞こえてくる。
「あら、ちゃん」
そして聞こえてきた名前に、ピクリと反応した。
短い会話で電話は切られたみたいだが、どんな会話をしたのかが気になる。
「母さん」
「あら、ツっくん」
どうしても、が今どこに居るのかが気になって母さんへと声を掛ければ、明るい声で名前を呼ばれた。
「ちゃんなら、直ぐに帰ってくるそうよ」
「そう、なんだ」
質問しようとした言葉を言う前に、母さんからの事を教えられる。
でも、聞きたかった内容は、そっちじゃないんだけど
流石に、これ以上聞くことが出来なくて、もう一度ため息をつき自分を落ち着かせた。
もう直ぐ帰ってくるのなら、直接に聞けばいい。
そう思って、が戻って来るのを待つ。
だけど、思っていたよりもの帰りは遅かった。
どうやら、近くには居なかったらしい。
「た、ただいま」
待つ事1時間、恐る恐る開いた扉から、ヒョコッと顔を出したのは、待ちに待った相手。
「お帰り、」
扉から顔だけを出して家の中を見ている挙動不審なに、声を掛ければ大げさな程にその肩が震えた。
「ツ、ツナ」
そして、オレの姿をその目に映した瞬間に大きく目を見開いて名前を呼ぶ。
その動作だけで、がオレに怒られるような事をしてきたのだと十分に分かる。
本当に、は分かりやすいよね。
「、何でそんなにビクビクしているのかなぁ?」
だからこそ、それを聞き出すためににっこりと笑顔で問い掛けた。
「えっと、あの、その……」
オレが問い掛ければ、あわあわとが焦ったように言葉を探す。
でも、どう言えばいいのか分からなかったのか、まったく意味のないモノになっている。
「で、こんな時間まで、どこに行って、何をしていたの?」
「えっと、母さんには、一応話し……」
「オレは、聞いてないけど」
にばれない様に小さくため息をついて、続けて質問すれば、恐る恐る口に出されたその言葉を遮ってにっこりと笑顔。
「あ、あの、お、怒らない?」
「難しいね、もう怒っているから」
そんなオレに、が恐る恐る見上げるようにしながら質問してきた事に、笑顔で返す。
まぁ、帰って来た時から予想はしていたんだけどね。
やっぱり、オレに怒られるような事してきたんだ、。
「だから、観念して何をしていたのか言ってくれるよね?」
「……だ、だから、その……母さんが俺の分もお弁当用意してくれていたから、自然公園に行ってたんだけど、すごく気持ち良くって、今まで寝ちゃっていました、です……」
脅すように言ったオレに、がチラチラとオレの顔色を伺いながら、素直に何処で何をしていたのかを話す。
だけど、それを聞いた瞬間、オレはピキリと怒りのオーラーを醸し出してしまった。
「一体何してるの!!」
「えっ、あの、ツ、ツナ?」
オレの勢いに、が驚いたようにオレの名前を呼ぶ。
「どうしてそんなに無防備なの、は!!」
「えっ、無防備って……寝ちゃっただけ……」
「それが無防備だって言ってるんだからね!風邪ひいたり、襲われでもしたらどうするの!!」
訳が分からないと言うように慌てているの言葉を遮って、文句を言う。
何で自分の魅力とかそう言うのに無頓着なんだろう、は!
公園なんかで寝ちゃうなんて、何かあったらどうするつもりなの!
「襲われるって……」
「襲われてからじゃ遅いんだよ!!」
「えっと、あの、ご、ごめんなさい」
オレの勢いに押されて、慌てたようにが謝罪してくる。
でも、オレは謝って貰いたい訳じゃないんだけど
「兎に角!もうそんな事しちゃダメだからね!」
謝罪したに、何とか自分を落ち着かせるように大きく息を吐き出して言えば、コクコクと何度もが頷いて返す。
本当に分かっているのかどうかは分からないけど、頷いたにそれ以上言っても無駄だと言う事が分かっているから、もう一度息を吐き出し『おかえり』の言葉を言えば、笑顔で『ただいま』が返ってきた。
そして、次に聞こえてきたのは、憎たらしい偽赤ん坊の声。
「遅かったじゃねぇか、ダメ」
「リボーン、ただいま。俺もこんなに遅くなるつもりはなかったんだけど……そう言えば、ハイキングは楽しかった?」
「ああ、有意義だったぞ。次はダメも参加だからな」
「えっと、俺は、その……遠慮したいかなぁ、と……」
へと声を掛けたリボーンは、ニヤリと笑みを浮かべてとんでもない事を言う。
それにが困ったような笑みを浮かべて、言葉を濁しながらも拒否の言葉を口に出す。
「リボーン!今日みたいなのに、は参加させないからな!!」
「………仕方ねぇなぁ……まぁ、オレが手を出さなくても、修行する気はあるみてぇだしな」
だからオレが助け舟を出せば、諦めたようにため息をついてから、ボソボソとリボーンが何かを言う。
それは余りのも小さ過ぎて、オレの耳には届かなかった。
「何だよ、リボーン」
「何でもねぇぞ。それよりも、ダメを何時まで玄関口に立たせて置くつもりなんだ?」
何かを言ったりボーンの言葉が気になって問い掛ければ、そっけなく返された言葉と、質問するように言われた内容に、今だにを玄関口に立たせたままだった事を思い出す。
「ご、ごめん、!足、大丈夫?」
「あっ、うん、大丈夫。心配掛けた俺が悪いんだから……」
立ったままの状態は、の足に負担が掛かってしまう。
それに慌てて謝罪して質問すれば、困った表情をしてが首を振る。
ああ、オレがの足に負担掛けさせるなんて……
が持っている荷物を無理やり取り上げて、兎に角上がるように言えば、素直に頷いて靴を脱ぎそのままキッチンへと移動させ有無を言わせず椅子に座らせた。
昼寝をしていた所為で、はお昼を食べていなかったらしく、結局夕飯にお弁当を食べるらしい。
少し硬くなったお弁当を食べるに、母さんが温かいお茶を出す。
の隣に座っているオレにも、同じようにお茶を出してくれたのは、オレの行動を読んでの事だろう。
「有難う、母さん。後の片付けは自分で出来るから、母さんはゆっくり休んでね」
「それじゃ、お願いして、先にお風呂でも入ろうかしら」
そんな母さんに、はお礼を言って、片付けを自分ですると言えば、母さんも分かっていたのか、笑ってキッチンから出て行く。
「ツナ、ハイキング、楽しかった?」
そんな後姿を見送ったオレに、がご飯を食べながら質問してきた。
「あれは、ハイキングとは言わないよ。ただの修行と称したリボーンの暇潰しだと思うんだけど」
「そうなんだ、だったら、俺参加しなくて、良かったみたいだね」
の質問に、ため息をつきながら返したオレに、戸惑ったようにが返してくる。
本当に、が参加しなくて良かったとそう思うよ。
が参加してたら、下手すると怪我をさせてしまいそうだからね。
勿論、そうならないように、オレが守るけど
「お疲れ様、ツナ」
疲れたようにの言葉に頷いたオレに、笑って労いの言葉をくれる。
その笑顔と言葉だけで、嫌な事が吹っ飛ぶんだから、オレも単純だよね。
でも、疲れていたから、気付けなかったのだ。
もしも、この時に気付いていれば、オレはを止められたかもしれないのに……
気付けなかったのだ。
がもう既に決めてしまっていた事を