また一人、面倒な子供が増えた。
昔はあんなに静かだったのに、今は煩過ぎて本気で腹が立つ。
静かにのんびりと静かに暮らしていた昔が、懐かしいんだけど
何時ものように起きてキッチンへと向かえば、聞こえてきた声に少しだけ驚きを隠せない。
珍しく起きているらしいの声。
そして、その笑みが相手へと向けられられる。
「そっか、のんびりしていってね」
「じゃないよ!また、そんな訳分からない子供を勝手に引き入れてこないでよ!」
その言葉に、思わず不機嫌な声を出すのは止められない。
母さんが引き入れたという子供は、間違いでオレを殺そうとした人間爆弾の子供。
そんな相手をヒョイヒョイ招き入れないで貰いたいんだけど
「あれ、おはようツナ。今日は俺より遅かったんだね」
オレのその声に気付いたが、少しだけ驚いたように振り返って挨拶の言葉を口にする。
その前にオレが言った言葉は、完全に無視してくれているんだけど、それがだからオレも気にしないと言うか、気にしても仕方がないからね。
「おはよう、。今日は珍しいね」
小さくため息をついて、に返事を返して珍しいと言えばが複雑な表情を見せた。
きっと母さんからも言われたのだろう、だって、休みの日にこんな時間からが起きているなんて本当に珍しい事だから
「……た、たまには、ね……」
「まぁ、そんな事はどうでもいいんだけど、母さん見ず知らずの人間を勝手に招き入れるのはやめてって、何度も言ったと思うんだけど」
多分返事に困ったのだろうが返してきたそれにあっさりと返事をして、再度不機嫌な声で母さんに文句を言う。
簡単にその辺の子供を連れてくるのは、正直言って危険な行為だ。
だって、最近の子供はこの年齢から既に殺し屋なのがポンポン存在しているのだから
「おはよう、ツっくん。でもね、母さん本当に助かったから……」
不機嫌な声で言ったオレに対して、母さんがまず挨拶の言葉を口にしてから、言い訳する。
だからと言って、その行動が危険を招くという事が分かっていないから困るんだけど
「俺も、イーピンちゃんには助けてもらったから、仲良くしたいんだけど……」
母さんに続いて、がじーっと俺の事を見詰めてくる。
訴えるようなその視線に根負けしたのは、当然オレの方。
そんなを前に、オレは盛大なため息をついた。
「分かったから、そんな目で見るのはやめてくれる。でも、問題を起こしたら直ぐに追い出すからね」
「うん」
オレのその言葉に、ニッコリと本当に嬉しそうな笑顔を見せるに、再度ため息をついてしまう。
本当に分かってないよね、どうしてオレがこんなにも過保護になっちゃったかなんて……
「それじゃ話しも終ったみたいだから、ツっくんとちゃん、ご飯食べるわよね?」
「うん、折角早く起きたし、今日は学校も休みだから、のんびり食べられる」
オレが納得した事で、安心した母さんが声を掛けてくるのに、が嬉しそうに返事を返す。
その言葉を聞いて、オレはの隣の椅子に座った。
「はい、ちゃんのごはん、こっちはツっくんのごはんね」
「有難う」
座ると同時に、母さんがオレとの前に準備した朝ご飯を並べていく。
並べられた朝ご飯に、お礼を言ってと同時に『頂きます』の挨拶。
その瞬間聞こえて来たのは、鬱陶しいとしか言えない笑い声。
「……朝っぱらから、賑やかな奴が……」
その声にげんなりして呟けば、隣でが苦笑を零す。
「ランボさん登場!!!」
『化け物!!!』
うんざりしている中、賑やかな声と共にアホ牛が入ってくる。
そのアホ牛を見た瞬間、爆弾人間が驚いたように声を上げて飛び上がった。
「!!」
それを確認した瞬間、オレは慌てての腕を掴んで引き寄せて抱き込む。
その後ガシャンと言う音と共に、お椀がひっくり返って注がれていた味噌汁が飛び散った。
『ブロッコリーの化け物だ!!』
「、大丈夫だった?」
「うん、俺はツナが庇ってくれたから大丈夫だけど……ツナは大丈夫?」
その間にも、人間爆弾の殺し屋はバカ牛を見て化け物だと言っているけど、今はそれどころじゃない。
心配してに声を掛ければ、逆に質問して返された。
心配そうにオレを見てくるに、ふっと笑みを見せる。
「オレも大丈夫だよ。ちょっと手にかかっただけだから」
確かに、を庇ったから味噌汁が手に掛かったけど、そこまで熱くなかったのかなんともなっていない腕を心配しているに見せた。
オレの腕を自分で確認して安心したのか、がホッと息を吐き出す。
「良かった。でも、イーピンちゃんは、なんであんなに警戒してるの?俺には、何を言ってるのか分からないんだけど」
「ブロッコリーの化け物だ」
自分の目で確認してホッとしたが、不思議そうに首を傾げれば、今まで口を開かなかったリボーンが通訳する。
確かにその言葉は間違いじゃないけど、更にが不思議そうな表情を見せた。
「ああ、そう言えば、この子すごいド近眼だったっけ」
それに、オレは思い出した事実を口に出す。
その所為で暗殺されかかったのだから、忘れていたのもどうかと思うけど
オレの呟きに、も納得したように頷くのが分かる。
アホ牛は、化け物だと言われたことがショックだったのか下を向いてプルプルと震えているようだ。
「えっと、ランボくん、気にする事は……」
「お〜ば〜け〜だ〜ぞ〜っ」
そんなアホ牛に、が慰めようと声を掛けた瞬間、その顔を上げて人間爆弾を怖がらせるような事を言う。
前言撤回だ、ショックを受けるどころか、楽しんでるこのアホ牛。
アホ牛に驚かされて、人間爆弾がビクリと大きく震えたのが分かる。
「まて〜い」
当然それはアホ牛も分かっているのだろう、そんな人間爆弾に襲い掛かるようにすれば、人間爆弾が慌てて逃げ出した。
そのお陰で、母さんが準備した朝ごはんは滅茶苦茶だ。
「ちょ!まって!!」
オレがその状況にため息をついた瞬間、が慌てたように声を掛けるけど、迷惑な子供達は聞き入れもせずに追いかけっこを始めてしまった。
休みの朝から迷惑この上ないその騒動に、殺意が沸いても仕方ないだろう。
「…………本気で、追い出しても文句言われないよね?」
「えっ、いや、あの……」
「それじゃあ、ツっくんにちゃん、この子達の面倒ヨロシクね!」
本気で抹殺することを考えているオレにが、オロオロとして言葉を探す。
そしてその声に混じって聞こえてきたのは、のんきな母さんの声。
「えっ!ちょっと待って、母さん今日出掛けるの?」
「ええ、母さん、今日は、お友達とピアノの発表会見に行くのよ」
その声にが慌てたように質問する。
それに、少しだけ困ったように返事を返したのは、オレ達の母親。
誰も、そんな事は聞いてなかったんだけど!
「ちょ、ちょっと待って!オレも今日は山本と一緒に宿題する事になってるんだけど」
「えっ?そうなの??それじゃ、俺一人で頑張って二人の面倒見るけど……」
それを聞いて、オレも慌てて口を開く。
オレの言葉に、が少しだけ寂しそうに口を開いて、最後には必死で自分に言い聞かせるように手を握り締めた。
何となく、の考えてることが分かるんだけど
「有難うちゃん!本当に、助かるわ!おいしいケーキ買ってくるからね!」
そんなの言葉に、母さんが嬉しそうな表情でお土産の話をする。
それに今度は、が嬉しそうな表情を見せた。
「分かった。楽しみにしてるね。気を付けて行ってらっしゃい!」
「いってきます」
ニコニコと本当に嬉しそうな笑顔を見せて母さんを見送ると、その言葉に見送られて出て行く母さんを見てため息をつく。
そのため息は、何故かと重なった。
どうやら、テーブルの上の惨状を見て、もため息をついたらしい。
「ツナは、山本の所に何時に行くの?」
腕捲りをしてテーブルを片付けだしたが、椅子に座ったままのオレに声を掛けてくる。
まだ、あのアホ牛と人間爆弾は追いかけっこを楽しんでいるようで、賑やかな声とその足音が聞こえてくるのに、自然と眉間の皺が深くなるのは止められない。
「……一人には任せられないから、オレも一緒に面倒見るよ」
「でも、山本と約束してたんじゃ」
それを聞きながら、の質問にもう一度盛大なため息をついて返事を返す。
そんなオレの言葉に、が心配そうに問い返してくるのを、ポケットから携帯を取り出して山本へと連絡をする事で問題解決。
「これで、問題ないよね?」
短く話をして、あっさりと承諾を得た俺は、心配そうに見詰めてくるに問い掛けるように口を開いた。
「いや、うん、確かに問題ないけど、こんな賑やかな場所で勉強出来ないんじゃ……」
「心配ないよ。宿題が出されてるのは美術だから」
オレの質問に、が心配そうに口を開くのに、宿題の内容を教えれば、納得したのかそれ以上何かを言う事はない。
それから、テーブルを上を片付けたが、朝食を食べ損なったのでおにぎりと玉子焼きを準備してくれたので、それを朝食代わりに二人で仲良く食べた。
オレ達が朝食としておにぎりを食べている間も、子供二人の鬼ごっこは止まることを知らない。
「よく、疲れないね……元気と言うか、ちょっと羨ましいと言うか」
そんな二人を見て、ポツリと呟かれたの声は本当に小さかったけど、オレは聞き逃すことはなくしっかりと聞き取れた。
走り回る二人を見て、が羨ましいと、そういった言葉を
「……」
そんなに掛ける言葉が見つからず、名前を呼ぶことしか出来ない。
「いや、あの、深い意味はなくて、その、こんなに長く走り回れる体力が俺も欲しいなぁと……あっ!山本が来たみたいだ!!」
オレに名前を呼ばれた瞬間、が『しまった』というような表情をして、直ぐに言い訳をする。
それと同時に聞こえてきた呼び鈴に便乗して言われたその言葉に、オレは何かを言おうとしたけど言葉に出来ずに、ため息を一つついてから山本を出迎えるために玄関へと向かう。
玄関のドアを開ければ、そこに立っていたのは山本だけじゃなく
「よっ!ツナ、これ土産な」
まずはコンビニで買ってきたのだろう袋を差し出す山本。
その後ろに居るのは
「獄寺も一緒に来たんだ」
「はい!こいつとだと捗るものも捗らないと思いまして!!」
その姿を見て思わず呟いたオレに、獄寺が嬉しそうに口を開く。
どちらかと言えば、こいつが居る方が作業が捗らないように思うけど、それは流石に口には出さずただ小さくため息をついた。
「ツナ、なんかあったのか?」
そんなオレに、山本が声を掛けてくる。
本当に、こう言う時こいつの鋭さを思い知らされんだけど、いつもは天然なのに
「まぁ、ちょっとね……」
「どうせの事だろうけどな」
「なに!あいつはまた10代目にご迷惑を!!」
そんな山本に曖昧に返事を返せば、ズバリと核心を突いてくる。
その言葉に、獄寺が声を上げるが、無視。
まぁ、山本の言葉には否定はしないけど、獄寺の言葉には反論したい。
だって、オレは一度もに迷惑を掛けられたとは思ってないんだから
とりあえず、玄関でずっと話をするわけにもいかないので、獄寺を完全に無視して山本には上がってもらう。
それに気付いて、慌てて獄寺も後に続いてきた。
二人を先に2階のオレの部屋に行くように言ってから、の様子を見るためキッチンへと足を運ぶ。
「、山本と一緒に獄寺も来たから、オレの部屋に行くけど、はどうする?」
キッチンを覗き込めばが机に突っ伏した状態で、多分さっきの自分の発言を反省しているのが分かる。
だからそんなに、普通に声を掛ければ、慌てたようにその顔が上げられた。
「俺は邪魔になるだろうから、何か飲み物でも準備してようか?」
「その心配はないよ、二人が差し入れにってコンビニで飲み物とお菓子買ってきてくれてるから」
振り返ってオレの方を見てくるが、心配そうに口を開いたそれにきっぱりと返事を返す。
せっかくが言ってくれるけど、気を使わせる気はないからね。
「それじゃ、邪魔にならないなら、見ててもいいかな?」
オレの返事にちょっと寂しそうな顔をしたが、少しだけ考えるような表情を見せて、心配そうに質問してくる。
その内容は、別段オレにとっては正直言って有難い内容。
オレが頷く事で返事を返せば、がホッとした表情になる。
それから、いまだに走り回っている子供二人を気にしているを連れて自分の部屋へと向かった。
「よっ!、邪魔してるぜ」
「いらっしゃい、二人とも。今日は、前から約束してたみたいなのに、ごめんね」
「オレは全然気にしてないぜ、何処でやっても同じだかんな」
オレの部屋に入った瞬間、山本が爽やかに挨拶してくる。
本当に、時々黒くなるのが嘘のように爽やかだよな、山本の奴。
そんな山本にが感動しているのが分かって、思わず苦笑を零してしまった。
「おい!10代目のお手を煩わせるんじゃねぇぞ!」
だけど、そんなに獄寺が何時ものようにに突っかかる。
「獄寺、に余計な事言うなら、追い出すよ」
獄寺の言葉にが明らかに落ち込んだのが分かって、ボソリとに聞こえないように獄寺に釘を刺せば、当然聞こえなかったは首を傾げた。
そして、獄寺はオレに土下座状態で謝罪の言葉を繰り返す。
オレに謝るよりも、に謝ってくれた方がいいんだけど
「それで、美術の宿題って、一体何をするの?」
「ああ、オレ達のクラス全員が、美術の時間内に作品が出来上がんなかったから、宿題にされたんだよな」
「まぁ、何時もの乱闘の所為なんだけど……本当に、迷惑なんだけど、あの人」
どうやら獄寺には触れないで、が疑問に思った事を質問してくる。
それに山本が答えて、オレがため息をつきながら原因を説明した。
オレの言葉に、が苦笑を零す。
「そんで、次の授業までに、何でも好きなモノを粘土で作るって言うのが宿題なのな」
続けて山本が粘土を取り出しながら、宿題の内容を口にする。
それにちょっとだけが興味深そうな表情を見せた。
「も一緒に作る?」
それに気付いて、に問い掛ける。
「えっ、でも……」
「粘土は一杯あるんだから、大丈夫だよ」
オレの問い掛けに心配そうに口篭るに、心配ないと言うように笑顔を見せて返せば、嬉しそうに作業に加わった。
何を作るのか考えた挙句、自分が興味あると言えばこれだろうと作業を始める。
他のみんなもそれぞれ自分の作りたいものを作り始めた。
一番初めに気になったのは、獄寺が作っているそれ。
「ハハハ、獄寺、なんだそりゃ」
何を作っているのか分からない獄寺に自分から質問するのは面倒なので見守っていれば、オレの疑問を山本が変わりに口に出した。
どうやらそれはも同じだったようで、首を傾げながら獄寺の作品を見詰めている。
「う、うるせー!どー見ても富士山だろうが!!」
山本の質問に怒鳴るように返事を返した獄寺の言葉に、誰もが思った事は一つだろう。
どう見ても見えない、と……
「ツナは、何作って……骸骨?」
「ああ、うん。折角だから、小さな人体模型でも作ろうかと」
誰もが返答に困っている中、が不思議そうにオレの手元を覗き込んできた。
そして、不思議そうな表情で言われたその言葉に、自分が今作っているものを教えれば、なんとも複雑な表情をされてしまう。
まぁ、はあんまりこういうの好きじゃないから仕方ないよけどね。
が作っているのは、多分猫かな?
犬よりも猫の方が好きだから、置物を作っているのだろう。
「ガハハハ」
可愛いモノを作っているに微笑ましく思っている瞬間、聞きたくない声が聞こえてきてバンッと勢いよく扉が開かれて飛び込んできたのはガキ2匹。
鬱陶しいその声と足音に、眉間に皺が寄るのは止められない。
それでも、何とか平静を装って作業を続ける。
オレ達の周りをグルグル走り回る子供に、はオロオロしているけど、山本も獄寺もその存在をあえて無視しているのが分かった。
それは、オレも同じだけど
「またんかー!!」
あえて無視していたのにも関わらず、邪魔をしてくれるのがこのアホ牛の困った所だろう。
作業代にしているテーブルのしかも獄寺の作っている物の上に見事なダイブを見せてくれたのは数分も経っていない時間。
当然被害を受けた獄寺が黙っているはずもなく、アホ牛の髪を掴んでその首を絞める。
「おまえ、わざとオレの狙ったよなぁ!」
わざとかどうかは分からないが、完全に本気で怒っている獄寺はバカ牛の首を手加減なく絞めているようだ。
「ちょ!獄寺くん!おちついて、気持ちは分かるけど!!」
そんな獄寺に、慌ててが静止を掛けるが、当然その声を聞き入れる事はない。
「こいつら実は、仲良いよな」
仕方がないと思ってため息をついたところで、山本が暢気な事を言う。
こいつらを見て仲がいいと言うのは、こいつだけだよな。
「何してるんですか、獄寺さん!!」
呆れて、でもが困っているからそろそろ止めようと思って口を開きかけた瞬間、聞こえてきたのは女の子の声。
しかも、あまり嬉しくない声だ。
「子供をいじめちゃだめだって、なんでわからないんですか!!」
いやいやながら相手を確認すれば、予想通りの人物が立っていた。
正直言って苦手な部類に入るので、うんざりしてしまうのは仕方ないだろう。
「うるせーのがきた…」
「助かったのな〜」
だがそのお陰で、獄寺はバカ牛から手を離し、手を離してもらったアホ牛は山本に泣きながら抱き付いている。
これがじゃないのは、オレの怒りを買う事だけはしっかりと身に染みているからだろう。
「また勝手に入って来たのか?」
「違います!ツナさんのお母さんに心配だから、時々みてやってって頼まれたんです」
バカ牛の煩い泣き声にうんざりしながら、立っている人物へと質問すれば偉そうな言葉が返ってくる。
「また、余計な事を……」
本当に母さんも余計な事をしてくれたものだ。
確かに一人だとこいつらの相手は大変かもしれないけど、オレが残る事は予想していただろうに
オレが、山本よりもを優先させるのなんて、分かりきっている事なんだから
「あっ、あなたがイーピンちゃんですね!」
『シューマイの化け物だ!!』
「はひ?」
子供大好きなハルは、更に増えた子供に対して嬉しそうに声を掛けた瞬間、聞こえてきたその言葉に思わず噴出してしまう。
ハルは何を言われたのか分からなかったのだろう、不思議そうな顔をした。
それはも同じようで、心配そうな顔をして見て様子を伺っている。
まぁ、バカ牛に言った言葉と同じ単語が入っているのだから、心配するのは当然だろう。
「ハルの事、シューマイの化け物だって」
そんなに気付いて、オレが笑いながら通訳した。
「私、シューマイじゃありませぇーん…」
オレが通訳した内容に、ハルがショックを受けて泣きながら訴えてくるけど、オレが言った訳じゃないので、訴えられても意味がない。
オレ達の直ぐ傍では、会話に興味がないのか山本も獄寺も作業を再開している
出来ればオレも、作業を再開したいんだけど
「そ、その、イーピンちゃんは、すっごいド近眼らしくて、悪気がある訳じゃないから許してあげて」
誰もハルを慰める様子がない中、当然動いたのはでオロオロしながらフォローする。
「え?ド近眼?じゃあ、これド近眼用です」
に言われたその言葉で、ハルは納得したのか泣き止んで鞄の中から一つのメガネを取り出す。
「ハルちゃん、メガネかけてたっけ?」
「父のです。さっきたのまれて、メガネ屋さんからとってきたんです」
メガネを取り出したハルに、が不思議そうに首を傾げて質問すれば納得の出来る答えが変えられる。
それにも納得したのだろう、ハルが人間爆弾にメガネを差し出すのをただ黙って見守っているようだ。
『…………女の子が見える』
ハルから受け取ったメガネを手で押さえるように目にした人間爆弾がハルを見て一言。
「女の子が見えるって」
「よ、よかったです…!!!」
ざっと視線がオレに向けられたので、小さくため息をついて通訳すればハルが安心したように胸を撫で下ろした。
「つかまえるぞ〜!!!」
『!バカが見える』
その瞬間、泣き止んだバカがまたからかうつもりで両手を広げ、人間爆弾に飛びかかろうとした瞬間またしてもボソリと聞こえてきたその言葉に思わず笑ってしまう。
「バカが見える。まぁ、正解だね」
それに再度視線が向けられたので通訳すれば、バカ牛が落ち込んだ。
まぁ、間違ってないから、落ち込まれても鬱陶しいだけなんだけど
「何で今までメガネかけなかったんだ?」
「そうだね、かけてくれれば、迷惑しなくてすんだのに」
そこに来てようやく会話に入り込んできた山本が、もっともな質問をする。
確かにそれには賛成で、素直にオレも思った事を口に出す。
『耳がないからね』
「ああ、確かにね……」
「えっ?何??」
オレ達の言葉にボソリと返された内容に、思わず納得してしまう。
確かに、それはどうにも出来ない事だ。
「耳がないからだって」
「あーっ、何ていうか、確かに無理だね」
「コラ新入り!!ランボさんを無視するな!!」
一人で納得したオレに、が不思議そうに質問してくるそれに、通訳すれば誰もがようやく納得したように頷く。
だが、オレ達に無視されたバカ牛が注目されている人間爆弾へと文句を言う。
そんなバカ牛に、人間爆弾が肉まんを片手に構えて、次の瞬間にはバカ牛が吹き飛ばされた。
「いま…触れなかったぞ」
「あれが、餃子拳」
突然吹っ飛ばされたバカ牛に、山本が驚いたように呟き、一度それを経験している獄寺が感心したように零す。
も、何がなんだかわからないと言うような表情で人間爆弾を見ている。
「が・ま・ん。ランボさんは、モジャモジャ頭のランボさんは、お前みたいなヘンテコ頭に負けないもんね!!」
子供の思考と言うのは、どうなっているのか本気で分からない。
モジャモジャ頭は確かに否定しないが、それも十分ヘンテコな頭だと言う自覚はないのだろうか?
それを無視して、相手をバカにするのも分からない。
「このバカ牛!何言ってやがる!このガキが恥かしがるような事を言うんじゃねぇ!!」
だが、バカ牛にバカにされた人間爆弾が、キッと相手を睨む。
それに慌てて獄寺がバカ牛を止めようと怒鳴るが、それはどうやら逆効果を生んだようだ。
「おまえなんかしっぽ頭――!!しっぽあたまああぁ!!」
更にバカにしたように泣きながらも、しっかりと相手をしっぽ頭呼びする。
泣きながらも自分をバカにされた人間爆弾は、当然恥ずかしさのあまりまたしてもカウントダウンを始めてしまった。
「げっ!人間爆弾のカウントダウンが始まっちまった」
「なんだ、またあのアブネー遊びか?」
「はひ?」
それにあせった声を上げる獄寺と、暢気に笑っている山本。
ハルはまるで状況が分からずに、首をかしげている。
「本当に、面倒……って、にくっつくないでくれる?!」
面倒以外の何モノでもない今の状況に盛大なため息を付いた瞬間、人間爆弾と化した子供がの足に抱き付いたのに気付いて慌てて引き剥がす。
「10代目、窓から外に!!」
「分かってる!って、何でオレの方に10年バズーカー向けてるんだよ、ランボ!!!」
子供を掴んだオレに獄寺が声を掛けてくるのに返事を返して、そのままその子供を窓から投げ出そうとした瞬間、自分に向けられているバズーカーに気付いて慌てる。
人の制止を無視して、バカ牛はバズーカーの引き金を引く。
当然バズーカーの弾は、向けられていたオレの方へと向かって来た。
「ツナ!」
響いた爆発音と共に聞こえてきたのは、の切羽詰ったようにオレの名前を呼ぶ声。
「ツナ!!」
「オレは大丈夫」
再度その声が聞こえてきたので、自分が大丈夫な事を伝えればその空気が、明らかに安心したものへと変わった。
「なんで?なんで出前の途中なのに、家の中にいるのかな?」
それに続いて聞こえてきたのは、まったく聞いた事のない声。
煙がはれた先に居たのは、お下げ姿の女の子。
「オレが咄嗟に盾にしたから、イーピンに当たたんだな……」
「って、事は、この子って10年後のイーピンちゃん?」
「あいつ、女だったんですか?!」
それに現状を理解して呟けば、と獄寺が驚いたように声を上げる。
獄寺に関しては、こいつが女だとは気付いていなかった事が分かって呆れてしまったが
「いけない、ラーメンのびちゃうわ、川平のおじさんうるさいのよね――」
「この10年で、しっかり日本語はマスターしたみたいだね」
しっかりとした日本語に、関心したように呟く。
本人は、周りの事になどまったく気にした様子も見せないで、腕時計を見て慌てているようだ。
「あ…沢田さんだ!こんにちは!」
オレの呟きに気付いたのか、ようやくオレ達の存在に気付いたのだろうにこやかに挨拶してくる。
10年後から来たはずなのに、あっさりとオレを沢田呼びしていると言う事は、オレは10年経ってもそんなに変わってないと言う事なのだろうか
「こんにちは、随分女の子らしくなったみたいだね」
「へ?何言ってるんですかやぶからぼうに!何も出ませんよ!」
内心複雑な気持ちになりながらも、挨拶してきた人間爆弾の女の子にさり気なく恥ずかしくなるような事を言ってみる。
だが、返ってきたのは普通の女の子の反応。
「どうやら、爆発はしないみたいだね」
「爆発?何言ってるんです、沢田さん。もうやめたじゃないですか。今は大学に行く学費をためなくっちゃいけない時だからって、箇子時限超爆はやめる時に中国の師匠に封印してもらいました。キーワードとともに」
それに感心したように呟けば、箇子時限超爆を封印のだと言う。
まぁ、あんなものは一般の人間には無用のものなのだから、正しい判断だろう。
「ってことは、今はカタギなのか」
「はい、それじゃわたし出前行かなきゃいけないんで」
それに対して、獄寺が感心したように言えば、にっこりと頷いて窓から外へと飛び出していく。
どこに出前に行くかは知らないが、この時代の相手に出前をしても通じないだろう。
「な、何とか爆発は免れて良かったんだけど、10年後の何処で爆発したんだろう、イーピンちゃん」
走り去っていく元人間爆弾の女の子を見送りながら、ポツリと呟かれたの言葉に何も返事を返す事が出来なかった。
いや、返せるはずないだろう。
だって、そんな先の事を今心配しても無駄なのだから
まぁ、あえて言うとすれば、未来のオレ達に被害がない事だけを願っておこう。
そして、また居候が増えた。
母さんは、本気で家を託児所にでもするつもりなのか、疑いたくなってくる。
賑やかになった家の中、静かだった昔を懐かしんでも許されるだろう。
本気で、と静かに過ごした日が戻って欲しいと切実に願ったのは許されるだろうか。