時々、本気で母さんを怒りたくなる時がある。
どうして、オレに頼まなくてばかりに買い物を頼むのだろうかと
が一人で出掛ける事を、オレがどれだけ心配してるのかも知ってるのに……
「遅い」
「そうねぇ、ちょっと遅いわね……でも、久し振りに商店街に行ってるんだから、もしかしてお店を見て回ってるのかもしれないわね」
に買い物を任せて、のんびりとお茶を楽しんでいる母さんの横で、ボソリと呟けば、暢気な声が帰って来る。
「だからって、こんなに遅くなるなんて!」
と言っても、が出て行ってまだ2時間しか経っていない。
過保護だと自分でも良く分かっている。
それでも、心配せずには居られないのだ。
だって、はオレにとって唯一の存在なんだから
「夕飯に使うものだから、もう少ししたら戻ってくるんじゃないかしら?」
イライラしながら時計を見ているオレに、母さんが少しだけ困ったように声を掛けてくる。
それにチラリと視線を向けて、大きく息を吐き出した。
そうでもしないと、落ち着けなかったから
「またナンパされてるんじゃねぇのか?」
だけど、気持ちを落ち着かせようと吐いた息と同時にボソリと言われたその言葉に、ガタンと音を立てて椅子から立ち上がる。
だってそれは、否定できないだろう説得力のあるないようだったから
「迎えに行ってくるから!」
「いってらっしゃい」
リボーンに言われたその言葉で、我慢の限界を超えた。
だからそれだけを言えば、母さんが笑顔で送り出してくれる。
「それじゃ、今日はちゃんも帰ってきそうにないから、別のお献立考えなきゃね」
「ママン、どう言う意味だ?」
「何となく、二人ともお夕飯いらない様な気がするのよね」
玄関に向かう中、母さんとリボーンがそんな話をしている事なんて全然知らなかった。
商店街の中を探して居れば、あっさりとその姿を見つける事が出来た。
予想通りと言うか何と言うか、何かトラブルがあったと分かるように人だかりが出来て居たのも理由の一つ。
そしてその人だかりを無理矢理前えと出れば、そこには信じられない光景が……
知らない男に腕を掴まれて、しかもその相手の顔がの顔に近付けられて行く。
その光景を目の前に見せられて、相手へと殺意が浮かぶ。
「やっ!」
「ねぇ、いい加減その汚い手で触るのやめてくれない?」
男に顔を近付けられて、が顔を逸らしたのを何処かホッとしながら、それでも相手への殺意は止められず、自分でも低くなる声を抑えられずに男へと口を開く。
「ああ、また関係ねぇ奴が……」
「関係ならあるから、オレのモノに勝手に触らないでくれる?」
オレの声に、男が少し鬱陶しいと言う様に口を開く。
関係ない?誰が?
関係がないと言うのなら、の腕を掴んでいる男の方。
何時までもの腕を掴んでいるその腕を払い除け、相手からを奪い返した。
「ツナ?」
「大丈夫だった、?」
オレの腕の中に納まったが、何処かホッとしたように息を吐き、自分の事を見上げてくる。
そして、確認するようにその口がオレの名前を呼ぶのに、その無事を確認するように質問すれば、コクリと頷く。
「しつこい男は嫌われるって、学習するべきだと思うけど」
頷いたに、安心して笑みを浮かべ、だけどをこんなに怯えさせた相手を殺気も込めて睨み付けた。
「お、お前は、さ、沢田綱吉!」
睨み付けた相手は、オレの顔を見た瞬間、驚いたように名前を口にする。
どうやらオレの事を知っているらしい。
勿論、オレは男の事を知らないけど
多分、噂を知っている奴なのだろう。
「ふーん、オレの事知ってるんだ。だったら話は早いね。二度とに近付かないでよ。お前の周りにもちゃんと言といてよね」
それが分かって、相手へと牽制するように殺気をそのままに口を開けば、何度もコクコクと大きく頷いて慌ててその場から走り去って行く。
当然、オレに怯えている状態だから、逃げるのもボロボロな状態だったみたいだけど
「あっ!おじさん、大丈夫ですか?」
男を見送った瞬間、が思い出したというようにオレから離れて、座り込んでいる男へと声を掛けた。
その状況から考えると、を助けようとして先の男に突き飛ばされたのだろう。
「あ、ああ、おれは大丈夫だけど……役に立たなくって申し訳なかったな」
「いえ、助けてもらえて嬉しかったですから」
それを確信付けるような会話の後、がフワリと笑って座り込んでいる相手へとその手を差し出す。
その行動の意味は、理由も分かる。
だけどね、大の男を自分の力で立たせようとするのは本気で、どうかと思うんだけど……
そんなの行動にため息をついて、その横から男へと手を伸ばしてさっさとその体を立たせた。
「ああ、すまんな兄ちゃん……」
オレの手で立たせた相手が、申し訳なさそうに謝ってしっかりその足で立とうとした瞬間、一瞬顔が痛みでも感じたように歪むのを見逃さない。
「あの、何処か怪我を?」
それにはも気付いたのだろう、何処か心配そうに男へと声を掛ける。
「いや、大丈夫だって!あいててて」
「大丈夫ですか?!」
「どうやら、腰を痛めちゃったみたいだね」
の質問に胸を張って答えた男が、その後痛みを訴えるように声を上げた。
どう見ても、大丈夫そうには見えない。
まぁ、年が年だろうから、ちょっと腰を痛めたというところだろう。
それが分かって再度ため息をつき、口を開けばそれに驚いたようにがオレの方へと視線を向けてきた。
「多分、そこのお寿司屋さんですよね?お送りしますよ」
それに気付いては居たけど、あえて無視して、さっさとその男に手を貸し近くにある寿司屋へ向けて歩き出す。
オレの行動に、が慌てたようにその後に付いて来た。
「あ、あの、本当に大丈夫ですか?お医者さん呼んだ方が……」
店の中に入って、座敷に男を寝かせてザッと症状を確認する中、オロオロしたようにが質問してくる。
自分を助けてくれた人に怪我をさせてしまった事が余程心配なんだろう、その目はちょっと涙目だ。
が悪い訳じゃないのにね。
「まぁ、ジッとしてれば直るだろうから、心配はいらねぇぞ、嬢ちゃん」
そんなに、男が安心させる為に言った言葉で、その顔が複雑なモノへと変わる。
どうやらこの男は、が男だって事にも気付いていないらしい。
まぁ、それは仕方ないかな、の私服姿を見て男だと分かる方が凄い事なのだから
「ただいま……?どーしたオヤジ?」
そんな事を考えながら怪我の様子を見ていれば、良く知った気配が店の中に入ってくる。
続いて聞こえて来た声も、勿論聞き覚えがある声。
「ああ、帰ったのか?ちょっとな……」
思考を停止して、と同時にその声を振り返る。
勿論、相手を確認しなくっても、その気配で誰なのかは分かってはいたんだけど
「山本?!」
予想通りの人物がその場所に立っている事を確認した瞬間、が驚いたようにその名前を呼ぶ。
「ツナにじゃねぇかよ、どーしたんだ?」
「ん?タケシ…知り合いか?」
中に入ってきた山本が、オレとの姿を見て不思議そうに首を傾げる。
そんな山本の態度に、男も不思議そうに首を傾げた。
確かに、一度も家の話を聞いた事がなかったけど、寿司屋だという事は風の噂で聞いた事があったから別段驚きはしない。
「ふーん、ここって、山本ん家の寿司屋だったの」
だからこそ、冷静にそう口にする事も出来る。
言われてみれば、この男と山本は、似ていなくもない。
「で、何があったんだ?」
そう考えていれば、再度山本が質問してくる。
それに何処か困ったようにが今までの経緯を説明し始めた。
「って、オヤジ大丈夫なのか?今日って、100人前の出前を準備するって言ってたよな?」
「まぁ、大丈夫だろうよ」
の質問が終った瞬間、心配そうに質問された山本のそれに主人はあっけらかんとした様子で返す。
確かに、痛めている訳じゃないから数時間もすれば動けるようになるだろう。
「あ、あの、俺少しでもお手伝いさせてもらっていいですか?」
「?!」
そう思って様子を見守ろうとした瞬間聞こえ来たのその申し出に驚いて名前を呼ぶ。
って、考えれば分かる事だ。
が自分の所為で傷付いた人が居るのに、放って置く事が出来ない事なんて
「俺を助ける為に、ご迷惑掛けてしまったんですから、お手伝いさせてください!」
深々と頭を上げながら言われるのその言葉に、盛大にため息をつく。
「……そうなるんじゃないかと思ってたよ」
思わず呟いたその言葉に、がオレの事を見上げてくる。
その瞳は申し訳なさそうな色を持っていたけど、そんな事が気にする必要はないのにね。
「そう言ってくれるのは有難いんだけどなぁ」
だけど、この店の主人は、の言葉に困ったように口を開く。
まぁ、確かにがそこまでする義理はない。
「折角だから、の申し出聞いちまおうぜ」
「タケシ、でもなぁ」
そんな主人に、山本が何時もの笑みを浮かべながら助け舟を出してくる。
流石にの性格を分かっているだけあると言うべきなのだろうか。
それでも、この店の主人は、うんとは言わない。
「だったら、勝手に動きます!まずは洗い物からでいいですか?」
そんな主人を前に、は当然と言うように行動へと移した。
さっさと流し台に大量にある洗い物を前に、腕まくりをして洗い物を始める。
「ああなったら、は止められませんから」
そんなに思わず苦笑を零して、呟けば主人も諦めたように小さく息を吐き出した。
本当に、は何時だって人の為に動こうとするのだから
「んじゃ、オレも手伝おうかな」
「って、兄ちゃんまでかい?!」
「を助けようとしてくれたのは事実ですからね、これぐらいはさせて頂きますよ」
だからこそ、オレもそんなを助けたいと思うのだ。
大切だと、そう思うから
に続いて、オレも腕まくりをして調理場へと移動する。
そんなオレに、主人が驚いたように声を掛けてくるから、当然のように笑みを浮かべて返事を返した。
結果はどうでアレ、この人がオレの大切な人を助けようとした事実は変わらないのだから
「いい奴等だろう?」
「タケシのマブダチなぁ、あっちの嬢ちゃんはあの兄ちゃんのコレかい?」
「何言ってんだよ、は男だぜ」
「男だぁ!!おりゃてっきり女の子だとばっかり……すまないなぁ」
オレが、の手伝いを始めた瞬間に聞こえて来た山本の声。
聞こえて来た内容に、思わず苦笑を零す。
オレとしては、がオレの恋人だと思われていたのは非常に嬉しい限りなんだけど
「気にしないで下さい、間違えられるのは慣れてるんで……」
驚いたように聞こえて来たその声に、が苦笑を零しながら謝罪した主人に声を掛ける。
にとっては不本意でしかない事だろうけど、こればかりはもう諦めているのだろう。
そりゃ、母さん似で女顔なんだから仕方ない。
オレも、どちらかと言えば母さん似だけど、一度も女に間違われた事ないんだけどね。
「まぁ、ツナの大事な奴って言うのは間違ってねぇけどな」
「そりゃ残念だったな、タケシの嫁さんに欲しいと思っちまったのになー」
更に聞こえてきた山本のそれは否定しない事実だけど、続けて聞こえた来た主人の言葉に、ピクリと肩を震わす。
そりゃを気に入るその気持ちは分かるけど、そんな事絶対に許せないんだけど
「山本!」
その気持ちを込めて、山本を呼ぶ。
山本もそれが分かっていたのか、苦笑を零した。
「わりぃ、オヤジも悪気がある訳じゃねぇから、気にすんなって!んじゃ、オレもツナ達を手伝うのな」
素直に謝罪して、山本も持っていた荷物を置き調理場へと歩いてくる。
それから、腕まくりをしてオレの隣へと立った。
「親父さん、お医者様に見てもらわなくても大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫、ああ見えて結構丈夫なのな、ウチのオヤジ」
流石に山本までも此方に来たので、今だに動けないで居るこの店の店主を心配してが山本に質問すれば、ニッカリと笑顔で返される言葉。
が心配する気持ちは分かるけど、そんなに気にする事はない。
「大丈夫だよ、大した事ないから本当に暫く休んでれば回復できるはずだよ」
だから、その事実を知らせるように説明すれば、明らかにホッとしたような表情を見せる。
オレの言葉を信じたからだと分かるからこそ、愛しい。
それから、復活した店主が、100人分の出前を準備するのも手伝った。
そのお礼にと、夕飯に寿司をご馳走になったのはちょっとビックリしたんだけど
でも、結構美味しかったから、多分常連も居るんだろう。
だからこその100人前の出前なのだろうけど
母さんにはしっかりと連絡してある。
その時、やっぱりと言う言葉が聞こえてきたけど、それは聞かなかった事にした。
母さんも、時々勘が鋭くなる時があるんだよね。
ボンゴレの血は、母さんには流れてないはずなんだけど……
「本当、今日はどうしようかと思ったけど、大した事なくって良かった」
「そうだね。がナンパ男に捕まってるの見た時は、本気で殺意が浮かんだんだけど」
山本の家から帰る途中、呟かれたのその言葉に内心あの男を始末しなかった事を思い出して素直にそれを口出す。
オレの言葉に、が苦笑したのが気配で分かる。
「それにしても、助けてくれたのが山本の親父さんだったなんて、世の中って狭いよね」
「オレとしては、山本が寿司屋の息子だった方がビックリだけどね」
オレの物騒な呟きは無視する方向にしたのか、更に口を開くに続けてため息をついた。
風の噂で知っていた事ではあるけれど、それが本当だったのだと言う事には複雑な気分を隠せない。
あいつが、マフィアに何の考えも無しに入ったのだから
「そうだね、山本、後継ぐのかなぁ?」
「多分、継げないんじゃない」
「どうして?」
「あの赤ん坊が認めると思わないから」
オレの呟きにも笑って頷き、疑問に思った事を口にする。
それにオレは、小さくため息をついて否定した。
オレのキッパリとした言葉に分からないと言うようにが首を傾げるのを、見ながらあの偽赤ん坊を思い出しながら口を開く。
はオレの言葉に納得したのか、複雑な表情を見せた。
まぁ、簡単に頷いたあいつが悪いんだから、オレが気にすることじゃないんだけどね。