聞こえてきたのは銃声の音。

 だけど、その音は確実に普通の銃声の音とは異なっていた。
 ソレには勿論気付いてはいたけれど、問題なのはそんな所にはない。

 聞こえて来た場所が、オレがこの世界で一番大切だと思っている人の部屋からだという事だ……






 自分の部屋を出て、慌ててその部屋へと急ぐ。
 今まで、その部屋から銃声の音が聞こえて来た事がなかった訳じゃないけれど、どうしても先に体が動いてしまうのは止められない。

!」

 バンッと派手な音をさせて、その扉を開き中へと入った。
 中に入れば、ベッドに上半身を起こした状態で顔色を悪くし、混乱していると分かるの姿がある。

「……ツナ…」
の部屋から銃声が聞こえたけど、またリボーンが!!それが、原因?」

 部屋に入ったオレに気付いてその顔を上げ、恐る恐ると言った様子で名前を呼ぶの姿に、怪我をしていない事だけを確認して少しだけホッとしながも、それでも気に入らない見知らぬ物体を見付け睨み付けながら問い掛けるように口を開く。
 本当に、気に入らないんだけど、何での上に乗っかってるの、そんなモンが!

「リボーンにしては、珍しく役に立ってるじゃない。の部屋に無断で入るような奴は死んで当然だね」

 無断で人の家に入ってきた上に、の部屋に入るなんて許せる訳がない。

 本気で、死んで当然だ。

「ちげーぞ、オレがやったんじゃねーからな。こいつを殺したのは、そいつだぞ」

 珍しくリボーンの功績を称えて、冷たくのベッドに倒れているソレを見ていた瞬間、新たな声が聞こえてくる。
 だけど、言われた内容は信じられないモノだった。

「何言ってるの、そんな事天と地がひっくり返ってもありえない事だね」
「ウソじゃねぇぞ。それを証拠に、お前の手の中にあるモノを見てみろ」

 キッパリとその内容を否定すれば続けて言われる内容に視線を向ければ、確かにの手には拳銃がある。

 だがその瞬間、全ての事が理解できた。
 聞こえて来た銃声の音が異なっていた事も、そして、今の直ぐ傍にある死体だと思った者が生きている事にも

「オレが護身用にこっそりと枕の下に隠しておいた奴だぞ」

 更にへと説明するように言われた言葉にチラリとリボーンを見れば、当然のようにニヤリと笑みを浮かべられてしまう。
 その表情は、明らかに黙っていろと言うモノ。

「……リボーン」
「うるせーぞ」

 ソレが分かってしまったからこそ咎めるようにリボーンの名前を呼べば、帰ったきたのはムカつくような言葉。

 オレ達のそんな遣り取りにも、は気付かない。
 ソレに小さくため息をつく。

 は、人を殺してしまったと思い込んでいるのだろう。
 その体は、小さく震えていた。

、気にしなくっても、こんな死体の一つや二つ完全に揉み消すから」
「そう言う問題じゃないから!だって、俺、人殺しちゃったんだよ!平気な顔なんて出来ない」

 だからこそ、出来るだけ安心させようと声を掛けたそれに、切羽詰ったような声で返されてしまう。

 なんで、分からないんだろうね。

 だって、少し考えれば簡単に分かる事なのに、君が誰かを傷付けるなんて有り得ない事だって
 君は、誰かを傷付けるのなら、自分が傷付く事を選ぶような人間なんだから

「ツーナさん!見てください!」

 どう見てもグルグルと考えているを前に、もう一度ため息とつく。
 その瞬間、賑やかな声が部屋の中に飛び込んで来た。

「文化祭の演劇で、ハル屋形船やることになっちゃんです!」

 彼女の気配は感じていたので驚く事はないけど、振り返った瞬間、ちょっと驚いてしまった。

 えっと、屋形船って、どんな劇な訳?

「あ、ツナさん達も劇の練習ですか?すごーい!リアルな死にっぷりですー!」
「……違うよ、ハルちゃん……俺がね、殺しちゃったんだ」

 嬉しそうに現れた彼女が、の上に今だに居るソレを前に感心したように口を開く。
 ソレに返すの声は、切羽詰ったとしかいえない弱々しい声だった。

は、殺してないから!」
「でも、状況は全部揃ってるんだから、俺がやったんだって……」
「はひっ!?」

 そんな弱々しい声に事実を口にすれば、その言葉を否定するように声を荒げて、が顔を上げまるで泣き出してしまうかのような表情でオレを見詰めてくる。


 ……リボーン、本気で覚えてろよ。


 のその言葉に、ハルが驚いたのだろう、ヨロリとバランスを崩してしまう。
 そしてそのまま数歩後ろに下がった瞬間、ガシャンと言う派手な音と共に身に付けていた船が壁に当たって粉々に壊れてしまう。

「ハ、ハルちゃん!」

 はハルのそんな行動に驚いたようで、慌てたように名前を呼ぶ。
 でもその体は今だにベッドの上から、動かない。

 いや、多分動けないんだろう。

 だって、人を殺したと思っているは、立って行動するほどの気力さえ無くしてしまっているんだから

「なんでおめーがココにいんだよ!」
「今日、部活ねーからお前と同じヒマ人なんだ」

 俯いて、ギュッと自分の手を強く握り締めるを見詰める。

 本当は、直ぐにでも真実を教えて上げたいけど、直ぐ傍にいる赤ん坊もどきがソレを許さないだろう。
 そんな事を考えていたオレの耳に、賑やかな声が聞こえて来た。
 その声に、ピクリとの肩が震えたのが分かる。

 状況を知らないから仕方ないかもしれないけど、本当に雰囲気を打ち壊してくれるコンビだ。

「また、煩いのが来たみたいだね……」

 だからこそ、疲れたようにため息をついてしまうのは仕方ないだろう。
 全くもって、面倒しか起こしてくれないのだ、特に獄寺の方は

「コラ!誰がヒマ人だ!?一緒にすんじゃね――!」
「さっき公園のベンチでタバコふかしながらハトに向かって『ヒマだー』って言ってたろ?」
「な!見てやがったな〜!!!」

 オレがの部屋にいる事が分からなかったからだろうか、そのまま二人の足音が二階へと登って行く。
 ソレを気配だけで確認して、またその足が下へと下りて来るのが直ぐに聞こえて来た。

「よぉツナに!こっちに居たのか?」
「おじゃまします、10代目!」

 数分後には、賑やかな声がの部屋へと入ってくる。
 二人の声に、またが反応するように小さく震えた。

「って、何やってんだ?」

 元気に挨拶してきた二人に対して、オレ達が何も反応を返さない事に疑問を感じたのだろう山本が不思議そうに質問してくる。
 相変わらず、マイペースとしか言えない。

「……俺、俺がね、人を殺しちゃったんだ……」

 山本の質問に、が反応して、言葉に戸惑いながらも簡潔に状況を説明する。
 その姿は、ギュッと布団を握り締めて俯いたままだ。

「は?」
「へ!?」

 痛々しいのそんな姿を前に、信じられないというように二人から間抜けな声が返ってくる。


 普通は、そうだろう。

 の性格を知っている人間は、誰もがそんな事を言っても信じない。


「だから、オレは気にする必要はないって言ってるんだけど……」
「いやいや、まだがやったって決まったわけじゃないだろう?」
「そ、そーすよ!こいつに殺しなんて出来る訳ないじゃないですか!」

 もしも本当に殺してしまったとしても、オレは気にしない。

 それどころか、を庇い通して見せる。
 死体だって、綺麗に処分するから……

 オレの言葉に続いて、山本と獄寺がそれぞれを慰めるような言葉を口にする。
 もっとも、獄寺のソレは、慰めているのか良く分からない内容だけどね。

「だって、動かないし、こんなにいっぱい血が……」

 二人の慰めの言葉に、が泣き出してしまうんじゃないかと思える程震える声で状況を説明する。

 まぁ、確かに本物の血なら生きていないだろうね。
 だけど、ソレは本当の血じゃないから……

「おい、起きねーと根性焼きいれっぞ」
「って、獄寺くん!何やってるの!!」

 の説明に、何時の間に行動したのか獄寺がタバコを手に持って、今だにの上に倒れている相手へとソレを近付ける。
 とんでもない行動をする獄寺に、が慌てて止めようとした瞬間、ピクリとその体が動いた。


 流石に根性焼きはされたくはないんだろうね、こいつも


「う、動いた!!」
「きゅ、救急車です!救急車呼びましょう!!」

 死体が動いた事に、が驚いたように声を上げ、ハルも反応して立ち上がると慌てて部屋から飛び出して行く勢いを見せる。

「その必要はないぞ。医者を呼んどいた」
「医者って、あの変態医者じゃないだろうね」

 そんなハルに、今まで口を開かなかったリボーンが漸く口を開きその行動を引き止めた。
 だがその内容に、嫌な予感がして不機嫌そのままにリボーンへと問い掛ける。

「ああ、そうだぞ。Drシャマルだ」

 当然のように返ってきたのは、あの変態医者の名前で、眉間に思わず皺が寄ってしまうのは止められない。
 リボーンはそんなオレを気にする事もなく、部屋から出ると何処から連れて来たのか一人の酔っ払いを引き摺ってきた。

「あいつは…!」
「知り合いか?」

 リボーンに引き摺られて来た男を見て獄寺が、驚いたような声を上げる。
 獄寺のその声に、山本が不思議そうに問い掛けた。

「うちの城の専属医の一人だった奴で、会うたびに違う女連れてて、『誰?』って聞いたら『妹だ』っつーから、ずっと兄弟が62人いると思ってた」

 山本の問い掛けに、獄寺が真剣に説明する内容に、呆れる事しか出来ない。


 普通、信じないだろう、そんな内容!
 まぁ、も同じように信じそうで怖いんだけど……


「なんだソレ!?」

 獄寺の説明に、山本が楽しそうに笑う。
 まぁ、獄寺は、昔から思い込んだらそのままと言う人間なんだろう。

「よぉ、隼人じゃん」
「話しかけんじゃねー!女たらしがうつる!スケコマシ!!」

 朝から酔っ払った状態の変態が、獄寺に気付いて声を掛けるが、ソレに対して子供のように返す獄寺にまたしても呆れてしまう。

 本当に、子供だな、あいつの反応は……


「なんでーつれねーの」
「あなたドクターなんですよね?早く患者を診てくださいです!!」
「そーだった、そーだった。死にかけの奴がいるんだってな」

 獄寺の子供のような反応に、面白くないというように呟き、ハルに言われて漸くここに連れて来られた理由を思い出したと言う様にのっそりと口を開く。

「ん――どれどれ」

 だが、その手が延ばした先は、ハルの胸。
 ピッタリと両手を胸に合わせるその姿を前にして、盛大にため息をついてしまうのは仕方ないだろう。

「キャアァアア!!!」

 そんな男の行動に、ハルが悲鳴を上げて手加減なく変態医者を殴る。
 そんな男は一発だけじゃ足りないだろう、思う存分殴ってくれていいんだけど

「何するんですか!」

 吹っ飛ばされて、壁に激突する男を冷めた目で見詰める。
 本当に、害にしかならない男って居るみたいだね……やっぱり、世の為人の為にもさっさと処分した方が……

「この元気なら大丈夫だ。おまけにカワイイときてる」

 本気でそんな事を考えていたオレの耳に、全く懲りてない男の言葉が聞こえてくる。

「私じゃありません!患者は、この人です!!」
「んっ?何度言ったらわかんだ?オレは男は診ねーって……おお、この前のカワイイ子じゃねぇの、お前なら見てやっても……」
「それ以上、に近付かないでくれますか?」

 更にハルが真っ赤な顔をして怒鳴った言葉に続いて、変態医者がに気付いて行動しようとした瞬間、その間に入るように一歩踏み出し男を睨み付けた。

 やっぱり速攻で処分するべきだよね、この男。

「ちっ、やっぱり居やがったか……」
「当然です」

 俺の姿を確認して、残念そうに呟く男に、ニッコリと笑みを浮かべる。

「あいかわらずサイテーだなあいつ」
「おもしれぇーよ」

 オレ達の遣り取りに、獄寺は呆れたように口を開き、山本は楽しそうに笑う声が聞こえて来た。


 って、何処が面白いの、山本!!
 オレとしては、こんな害虫、世の為人の為にさっさと処分する事をお勧めしたいんだけど


「てか、本当にそいつ生きてんのか?瞳孔開いて、息止まって、心臓止まってりゃ死んだぜ」

 オレが睨み付けたままの状況に、流石にこれ以上は危険だと判断したのだろう男が、忠告するように口を開く。
 その言われた内容に、その場に居た4人の視線が倒れている相手へと向けられた。

「ドーコー開いてます」

 まず、ハルが恐る恐る近付き、その顔を覗き込む。
 そして、ゴクリと唾を飲み込んでから呟かれる言葉。

「息も止まってる………」

 それに続いて山本が、ティッシュを一枚男の顔の前に持って来て確認する。
 勿論、そのティッシュはピクリとも動かない。

「心臓…止まってる」

 最後に獄寺が、心音を確認するように体に耳を押し当てた。
 そして、ボソリと言われた言葉に、サーッと4人の顔色が悪くなる。


 って、そこまでして何で、誰一人として気付かないのか不思議なんだけど、オレとしては……


「オレがふざけてる間に仏さんになっちまったのかもなー。仏さんにゃ用がねーや」

 3人の確認した内容に、少しだけ申し訳なさそうに口を開き『じゃっ』と手を上げ部屋から変態が出て行く。
 だけど、それには誰も反応を返さない。

 いや、返せないんだろう。

「……やっぱり、俺がこの人殺しちゃったって事なんだよね?もう、素直に自首するから……ごめんね、迷惑掛けちゃって」

 最初に口を開いたのはで、諦めたように弱々しく言われた言葉と、最後にその場に居る全員へと謝罪の言葉を口にする。
 でも、が謝る必要なんて、何処にもないのに

「なっ、さんに限って、殺しなんて、デンジャラスな事をする筈はありません!!」

 弱々しい笑顔を見せるに、ハルが慌ててフォローするように声を上げた。


 まぁ、その言葉は否定しないけど、初めて会った時は、オレ達の事デンジャラスとか言ってなかったか?

「まぁ、待て。こんな時のためにもう一人呼んどいたぞ」
「え?」

 現実逃避の為に昔の事をも出だしていたオレの耳に、またしてもリボーンの声が聞こえて来て、また眉間に皺が寄るのを止められない。
 意味が分からないと言うようにが問い掛けるように首を傾げた瞬間、外から聞こえてきたのはバイクのエンジン音。
 それが家の前で止まり、嫌な気配が直ぐ傍に感じられた。

「やあ」

 ガラリと部屋の窓を開けて入っていたのは、並盛中最強にして最悪の風紀委員長のヒバリキョウヤ。

「ヒバリー!!!」

 その姿を見て、拒絶の表情をしたオレと違って、獄寺と山本は複雑な表情を見せてその名前を呼ぶ。

「今日は君達と遊ぶためにきたわけじゃないんだ」

 そんなオレ達を何処か楽しそうな表情を見せながらも、窓を乗り越えて部屋の中へと入ってくる。


 勿論、土足で!


「赤ん坊に貸しを作りにきたんだ。ま、取り引だね」
「待ってたぞ、ヒバリ」

 靴のままズカズカとの部屋に入って来て、を見るとフッとその顔に笑みを浮かべるのが気に入らないんだけど……

「ふーん、やるじゃないか、心臓を一発だ」

 それから、足で倒れている男を動かして感心したように呟いた。

「うん、この死体は僕が処理してもいいよ」

 そして続けて言われた言葉は、迷惑以外の何者でもないんだけど
 何で、態々この人呼んだのかが理解できないんだけど、リボーン!

「あ、あの、恭弥さん?」
「死体を見つからないように消して殺し自体を無かったことにしてくれるんだぞ」

 だけど、ヒバリさんの言葉が理解できなかったのだろう、不思議そうにその顔を見ながら質問するように口を開いたそれに答えたのは、リボーンだった。
 あっさりと説明されるリボーンのそれに、ますます眉間に皺が寄るのを止められない。

「そんなの、ヒバリさんに頼むまでも無いよ。オレが片付けるから」
「いやいや、ソレは、人としてどうかと思うんですけど!!!」
「沢田綱吉、気にする事はないよ。これは赤ん坊への貸しなんだからね。じゃあ、あとで風紀委員の人間よこすよ」

 不機嫌そのままに風紀委員は必要ないというように口を開けば、速攻でが突っ込んでくる。
 だけど、その後に続けられたのは機嫌の良いヒバリさんの言葉。

 多分、のパジャマ姿が見られたから、機嫌がいいんだろうけどね。
 言いたい事だけ言うと、さっさと窓枠に手を掛けて、部屋から出て行こうとする。

「またね」

 窓枠に足を掛けて満足そうに言うと、そのまま外へと飛び出して行く。
 それを複雑な表情で見送って、小さくため息をついた。

「……やっぱり、あいつだけはやり返さねーと気が済まねぇ!!」

 だが、そんなヒバリさんの行動に、獄寺が動く。
 窓際に移動した瞬間には、その手には何時ものようにダイナマイトが握られている。

「果てろ!!」

 そして、全く懲りない攻撃を放った。
 本気で、そんな単純な攻撃があの人に通用すると思っている所が救えないんだけど、獄寺。

「そう死に急ぐなよ」

 聞こえて来た声と共に、ダイナマイトが打ち返される音が聞こえてくる。

「ゲ」
「……面倒な事を……」

 それに焦ったような獄寺の声。
 このままだと、間違いなくが怪我をする事は目に見えている。

 本当に面倒なんだけど、こいつの攻撃……

 小さくため息をついて、打ち返されたダイナマイトの銅線に点いている火を全て消す。
 火が無くなったそれは、ボトボトと部屋の床に転がった。

、大丈夫?」

 ソレを確認してから、衝撃に備えて顔を隠しているへと質問する。
 一瞬何が起きたのか分かっていなかったのだろうが辺りを確認するようにキョロキョロと首を動かして、ホッとしたように息を吐く。
 そんな様子を確認してから、いい加減目障りなそれへと声を掛ける。

「で、いい加減、起きてくれる」
「ほぇ?」

 オレの言葉の意味が分からなかったのだろう、から聞こえてきたのは間が抜けそうなそんな声。
 そんなの姿に思わず苦笑を零しながらも、再度口を開いた。

の上に何時まで居るつもり、本気で殺されたいんなら喜んで止めを刺してあげるよ」
「……しかたねぇな、もういいぞ、モレッティ」
「えっ?何、どう言う事??」

 倒れている男へ向けて殺気を送りながら言ったオレの言葉に、残念そうにリボーンが口を開いた。
 そんなオレ達の遣り取りが分からないと言うように、が首を傾げる。

は、人を殺してないって事だよ」
「えっ?」
「あ〜っ、やっぱり10代目は騙せなかったみたいですね」

 そんなへとあっさりと言葉を返せば、まだ理解していないが不思議そうにオレを見上げてきた。
 へと再度言葉を伝えようとした瞬間、漸く倒れていた男がムクリと起き上がる。

「ゾンビです!!」

 口から血を流しながら起き上がった男に、ハルが慌てて逃げ出す。
 も怯えたように、男を見ている。

 そう言えば、はホラー系は苦手だったっけ?

「こいつは「殺され屋」のモレッティだぞ」
「へっ?」

 その男から逃げるように、それでもベッドの上から動けないが壁際へと身を動かした瞬間、リボーンが説明するように口を開く。

「モレッティは、自分の意思で心臓を止めて仮死状態になる“アッディーオ”を使う、ボンゴレの特殊工作員だ」

 流石に、そこまでは分からなかったけど、やっぱりソッチ系の人間だったようで、リボーンの説明を聞きながら複雑な表情をしてしまう。
 本当に、迷惑だよね、マフィアって

「死んでなかったって事なの?」
「ああ、死んだフリだぞ。流石にツナは騙せなかったみてぇだが、他の奴等は見事に騙されたみてぇだな」
「で、でも、確かに銃声が……」
「あれは、オレが撃った空砲だ。そのあとお前に持たせたんだぞ」

 淡々と説明される内容に、が呆然とした表情を見せる。
 そして、その体からヘナヘナと力が抜けていくのが見ていて良く分かった。

「よ、良かった……」
「驚かして、すみませんでした。せっかく日本に遊びに来たので10代目に挨拶がてら"アッディーオ"を見てもらおうと思いまして」

 安心したと言うように呟かれたそれに、申し訳なさそうに謝罪する男の声は多分聞こえていないんじゃないかな?
 完全に脱力してしまっているを心配して見詰めていれば、その瞳からポロポロと涙が溢れて来る。

?!」

 ソレにギョッとして名前を呼べば、慌ててパジャマの裾で涙を拭う。

「あ、安心したら、急に……」

 必死で涙を止めようとパジャマの裾で涙を拭くの姿を前に、リボーンへと殺気を向ける。

「……リボーン」
「何だ?」
を泣かせた事、どう責任取るつもり?」
「……今回は遣り過ぎちまったみてぇだな、悪かった」

 オレの不機嫌な声に、リボーンが素直に謝罪の言葉を口にした。
 それには流石にオレも驚いたけど、どうやらこいつもが泣き出すとは思っていなかったようで、かなり動揺していたようだ。

「まったくリボーンさんは〜っ」
「このオッサン面白ぇ〜〜っ」

 そんなオレ達の遣り取りは全く気にせずに、獄寺と山本笑っている声が聞こえてくる。

 まぁ、遣られたにとっては笑えるような状況じゃないみたいだけど
 そしてもう一人、壊れた屋形船の前で、ハルが呆然としているのが見えた。

 それにはも気付いたのだろう、申し訳なさそうな表情をしながら、必死で止まらない涙と格闘しているのがちょっと可愛いと思ってしまったのは内緒。

 それから、10分後に漸く止まった涙にホッとして、朝ご飯も食べてないに無理矢理サンドイッチを食べさせたのは当然の事だろう。
 本人は、いらないって言ってたけど、ソレを許さずしっかりと食べさせてからその後、ハルの屋形船の修復作業。
 まぁ、自分の所為で壊してしまったんだからとがそう言い出す事は分かっていたので、異議はなかったんだけど

 正直言って、獄寺が煩かった。

 ハルと山本両方に喧嘩売るのは止めて欲しいんだけど……

 ハルはそんな獄寺に一々反応を返すから、更に賑やかな状況だった。
 何度こいつ等を追い出したくなったか……

 が許してたから、必死で思い止まったけどね。





 ソレから次の日、が、如何してあの人が生きているかどうか分かったのかを質問してきた。
 それに返したのは、生きてる人間と死んでる人間なんて見れば分かると返したら、信じられないというような顔をされてしまったんだけど……

 どうやらその質問は、ヒバリさんにもしたようで、同じ言葉を返されただ複雑そうな表情でソレを報告された。

 って、何で一人であの人に会いに行ってるの!
 オレとしては、そっちの方が信じられないんだけど……