体育祭当日。

 オレの事を応援するという事で、少しだけ吹っ切れたようなだったけど、それでもやっぱり元気が無くて、母さんにハル、ビアンキがお弁当を作っているのを何処か複雑な表情で見ていた事にも気付いている。


 本当に、どうして素直に愚痴を零してくれないんだろうね。
 確かに、オレじゃどうする事も出来ないかもしれないけど、君が望むのならこんな行事無くしてしまうことぐらい簡単に出来るのに









 白熱した応援の中、ゴールのテープを切ればまた賑やかな声が周りから聞こえる。
 それに少しだけうんざりしながらも、の姿を探すように辺りを見回す。
 だけど、その姿を見つける事が出来ず、小さくため息をついた。

「流石です、10代目!」

 その瞬間、獄寺が近付いてきてニコニコと嬉しそうに話し掛けてくる。

「そうかな?普通だと思うけど」

 嬉しそうな獄寺に返事を返して、もう一度ため息。

 こんな行事ぐらいで、本気になるつもりは全くない。
 十分に手を抜いて競技に望んだとしても、負ける事はないだけだ。

「沢田!何手を抜いているのだ!!1番になっても手を抜くなど許せん行為だぞ!」

 そんな事を考えていた瞬間、笹川兄が何時ものように熱血状態で話しかけてくる。
 まぁ、全力を出していない事に気付いたのは凄いと思うけど、一々全てのモノに全力を尽くすのもどうかと思うんだけど

「またてめーか!うっせーぞ、芝生メット!」
「なに?」

 そうすれば、それが気に入らなかった獄寺が笹川兄に喧嘩を売る。
 獄寺の言葉に反応した笹川兄がピクリと反応して、獄寺を睨み付けそのまま二人でカンターでの殴り合い。
 人の目の前で始まったそれに、盛大なため息をついても仕方ない事だろう。

「効かねーなー」
「蚊が止まったかー?」

 お互いの頬を殴り合ってから、両方が強がりの言葉を口にするが、明らかにフラついてるんだけど……

「ヒョホホホ!仲間われか〜い?棒倒しは、チームワークがモノをいうんだよ〜こりゃA組恐るるに足らないね〜!」

 呆れた状態で二人を見ていれば、後ろからこれまた鬱陶しい声が聞こえて来た。
 その声は、昨日も聞いた声。

「何か、御用ですかね、先輩」

 その声に反応して口元に笑みを浮かべながら振り返れば、予想通りそこに立っていたのはC組の総大将である相撲部主将の高田が立っている。
 でかい図体からしても、鬱陶しいんだけど

「なっ!」

 振り返りながら質問したオレの顔を確認した瞬間、声を掛けてきた相手が怯えたような表情をする。
 その顔には、昨日オレが付けた傷が幾つか見られた。

 に対して、ふざけた行動をしようとしたのだから、本当ならそれだけでも足りないぐらいだ。

「余計なお世話だ!!」
「なんだてめーは?」
「すっこんでろ!!」

 オレの顔を見て怯えた相手に、睨み合っていた獄寺と笹川兄が二人同時に不機嫌そのままに目の前の巨体に攻撃を繰り出す。
 笹川兄は殴り、獄寺は蹴っ飛ばすと言うものだけど……こう言う所は、気が合うみたいだね。
 二人の攻撃を受け、巨体があっけなく地に倒れた。

「おい、あそこ!!」

 倒れた音で、一斉にC組の視線がオレ達へと向けられる。

「大変だ!C組の総大将がA組のヤツに倒されたぞ!!」

 そして、一人の人間が大きな声で訴えるように口にしたそれにとって、ザワザワと周りが賑やかになり始めた。

「ああ、面倒な事になりそうだね……」
「オレ達の総大将に何てことしやがる!」

 ボソリと呟いた声が、C組の男子の声によって遮られる。
 それにピクリと反応するのは、当然短気な二人。

「文句があるやつぁかかってこんかぁ!A組笹川が相手だ!」
「ケンカならいくらでも買ってやるぜ」

 もう既に戦闘態勢状態で、周りを威嚇しまくりだ。
 そんな姿を前に、オレはもう一度ため息をついた。

「今度は、B組の総大将がトイレで何者かに襲われたらしいぞ!」

 だがその瞬間またしても上がった声に、意識が向けられる。
 今度はB組総大将ね……本気で、嫌な予感がするんだけど

「目撃者によりと、A組のやつにやられたらしい」

 複雑な気持ちのままその先の言葉を待つと、言われた内容は予感が当たっていた事を切々と知らせるものだった。


 ……どうせ、こんな事をするって言ったら、リボーンだろうな。


「この人が目撃者だ。そーなんですよね?」
「ああ」

 原因が分かっているだけに、うんざりとしていれば、その張本人が水戸黄門の格好をして質問された事に抜け抜けと返事を返している。

「B組総大将を襲った奴は、A組総大将の沢田ツナの命令で襲ったって言ってたぞ」

 って、何でオレの命令になってるんだ?
 大体、誰かに命令するぐらいなら、自分で動くし、もっとばれない様に行動するに決まってるだろう。
 そんな穴だらけの作戦誰が考えるかよ!

「思ったより勝利に貪欲だったのだな。見直したぞ沢田!!」
「ナイス戦略です!」

 だが、リボーンの言葉で、笹川兄と獄寺は嬉しそうにオレの方を見てくる。
 いや、どう考えても穴だらけだろう、こんな戦略!
 誰が、こんな間抜けな戦略を考えるんだよ!!

「卑怯だぞA組――!」
「なんてキタナイ総大将だ!!」

 リボーンの所為で完全にオレの戦略として通ってしまったそれに、周りからブーイングが上がる。
 確かに自分を綺麗だとは思ったこともないけど、人に言われると腹が立つみたいだね。

「どうだ見たか!!これがウチのやり方だ!!」

 だが文句を言う周りなど全く気にした様子もなく、笹川兄が自慢気に返したその言葉で冷静さを取り戻す。
 いや、こんな陳腐なやり方、オレが考えたと思われる方が情けないんだけど

「うちの総大将をやったのも沢田って奴の命令だったんだな!」
「卑怯者!」
「A組総大将は退場しろ――!!」

 口々に上がる文句の言葉に、是非ともそれでお願いしたいんだけどと心の中で返していた瞬間、

『みなさん、静かにしてください』

 全校放送が入る。
 その放送の瞬間、口々に文句を言ってた生徒達が一瞬で静かになった。

『棒倒しの問題についてお昼休憩をはさみ審議します。各チームの3年代表は本部まできてください』

 本気で、自分が退場して終るなら喜んで受けるつもりだったのにも拘らず、流された放送によってそれが出来なくなってしまう。


 折角面倒な競技から開放されると思ったんだけど




 昼休憩という事で、母さん達の所へと行けば、既にそこにはが居て、オレの顔を見て困ったような表情を見せる。

「何か、大変な事になっちゃったね」

 そして言われた事は、今の状況全ての事を指しているんだろう。
 本当に、リボーンが来てから面倒な事しかないよね。

「まぁ、仕方ないよ。気にしてたら負けだからね。お昼食べようか」

 心配そうに見てくるに、ため息をついて返しレジャーシートを広げている母さん達の方へと促す。
 このまま立ってても、時間の無駄だしね。

 母さんとハル、ビアンキが作ったお弁当は豪華で、周りの視線など気にせずに受け皿を貰って食べ始める。
 周りには、オレの事を睨み付けてくる幾人もの生徒達が少し遠巻きで見ている状態。

「なんなんですか、あなたたち!さっきからジロジロ見て!」

 流石にそんな状態が許せなかったのだろう、ハルが突然立ち上がって文句を言う。
 文句を言ったハルに対して、周りの男達は明らかに女性受けのしない言葉を口にする。

「ハル、さがってなさい」
「ビアンキさん」

 下品としかいえないその言葉に、今度はビアンキが反応したらしく、ハルを下がらせ自分が前に出た。
 その様子を横目で見ながら、関係ないと母さんが作った料理を食す。

「あなたたちチョコレートはいかが?」

 そうすれば、予想通りビアンキはポイズンクッキングの料理をトレーに載せて生徒達に差し出した。

「おお!」
「食う、食う!」
「待って!それを食べちゃ…」

 それに焦ったのは、で、慌てて彼らを止めようとするけど、勧められたそれを男子生徒達は喜んで食べてしまって、全く聞き入れることなどしない。
 勿論、ポイズンクッキングなのだから、彼らにとっては厄介な料理以外のナニモノでもない。
 食べた者達が、その場でバタバタと倒れてしまった。

「ビアンキさん!何て事を!!」
「死なない程度よ」

 信じられない行動に、が咎めるようにビアンキに言えば、全く気にした様子もなく返事が返される。 

『A組の大将が今度は毒もったぞ』
「リボーン!!」

 倒れた生徒に、何処からともなく出してきたスピーカで態々聞こえるように放送してくれるたのはリボーンで、そんなリボーンをが咎めるように名前を呼ぶ。


 本当に、一々反応してても仕方ないのにね。
 そんな所がらしいけど、こんなんじゃ全然寛げないと思うんだけど

、気にしてても仕方ないよ。なるようにしかならないんだからね。ほら、気にせずにお昼食べた方がいいよ」

 全くお昼を食べていないへと、勧めるように声を掛ける。
 このままでいくと、間違いなくはお昼食べずに終っちゃいそうだからね。
 本気で、周りなんて気にしなくていいのに

「あらあら、ツっくんは有名人なのね」

 そんな周りの状況に母さんは、何処か楽しそうに零してくれた。
 本気で、この半分でもいいからが周りを気にしないでくれると助かるんだけどね。

『おまたせいたしました。棒倒しの審議の結果が出ました』

 一斉に向けられた殺気を軽く流してお昼を食べていれば、突然流れた放送で周りの視線が一気にそちらへと向けられるのが分かる。
 それを感じ取りながら、興味ないというようにそのまま食事を続けた。

『各代表の話し合いにより今年の棒倒しは、A組対B・C合同トー無とします!』
「なっ!2対1!?」
「よっしゃ!B・C連合!!いいぞ!!!」

 そして放送された内容に、A組だろう人間の信じられないと言うような呟きの後に、B・C組からは歓声が上がる。
 よっぽどオレを叩きのめしたいらしいね。

 気持ちは分かるけど
 だって、この学校の隠れアイドルとなってるの防波堤なんだから

「あのA組総大将をぶち落とせ!!」
『男子は全員棒倒しの準備をしてください』

 ヤル気満々のB・C連合に続いて放送が流れる。
 あれ?お昼からの競技全部すっ飛ばしてラストの棒倒し??
 オレは、面倒な事がさっさと終わるから別にいいけどね。

「ツ、ツナ!」
「まぁ、決まったモノは仕方ないから、ヤルしかないかな」

 ちょっとだけ考えたプログラムの変更に疑問を感じたが、あえて無視した瞬間が心配そうにオレを振り返る。
 不安気な瞳で見詰めながらオレの名前を呼ぶを前に、小さくため息をついてゆっくりと立ち上がった。

 ああ、やっぱりはお昼全然食べずに終っちゃったみたいだ。

「笹川さん!!2対1なんてマジスか?」

 オレが立ち上がった瞬間、笹川兄が校舎からゆっくりと歩いてくる姿に気付いた生徒が、信じられないと言うように質問する。
 だけど、笹川兄は何も言わずに無言のまま下を向いたままだ。


 何か、嫌な予感がするんだけど……


「どんな話し合いだったんですか?!」
「多数決で押し切られたんですよね?」

 笹川兄の周りに集まって、事の真相を確かめようと口々に問われる言葉。
 それでも、笹川兄は反応を返さない。

「そんな、卑怯な事……」

 何も返事を返さない事で、勝手な想像をしてしまったのだろう誰かがポツリと口を開く。


 って、この笹川兄に限って、そんな事ありえないと思うんだけど

「いいや」

 誰もが心配そうに見守る中、漸く笹川兄が顔を上げる。
 そして言われたのは、否定の言葉。

「オレが提案して押し通してやったわ!!」

 クワッと目を見開きながら言われたその言葉に、思わず納得してしまう。
 まぁ、予想通りと言えば予想通りかもしれない。

「一回で全部の敵を倒した方が手っ取り早いからな」

 信じられないと言うように周りの人達がフリーズしている中突然聞こえて来た声に視線を向ければまたしてもゾウの被り物をしたリボーンの姿がある。

「さすが師匠!!オレも同じ意見です!向かってくる奴は全て倒す!」

 リボーンの言葉に、笹川兄が嬉しそうに返事を返した。

 確かにその意見には同感なんだけど、面倒な事ばかり起こしてくれるのははっきり言ってかなりムカつくんだけど
 しかも、こんな危ない状況を作ってくれるなんて

は、絶対に参加しちゃダメだからね」

 オロオロとしているへと、しっかりと釘を刺す。
 そうでもしなきゃ本気で危なそうだからね、君の場合。

「大丈夫、心配しなくても、オレは怪我をするつもりはないからね。を悲しませるような事は絶対にしないよ」

 オレの言葉に、が見上げてくる。
 その瞳は本当に心配そうで、その心配を少しでも軽くしようとオレは笑って言葉を返した。
 だってね、高々中学生レベルの人間が何人かかって来ようとも怪我なんてするつもりもりはないよ。

「向こうの総大将が沢田綱吉なら、B・Cの総大将はこの人しか居ないだろう!!」

 だけど、聞こえて来た声に折角のとの時間がつぶされてしまう。
 それに気分を害して視線を向ければ

「委員長さん?!」

 風紀委員長のヒバリさんが、棒倒しの上にちゃっかりと居るのが目に入る。


 へぇ、群れるのが嫌いなのに、この行事には参加してたんだあの人。

「まぁ、仕方ないから出てあげるよ。倒さないでね」
「はいいいい!!」

 が驚いて声を上げたのに続いて、嬉しそうな雲雀さんがしっかりと下に居る人間に脅しを掛ける。
 それに恐怖だと言うように返事を返す男子が数名。

『それでは棒倒しを開始します。位置についてください!』

 集合の合図を元に、AとB・Cに分かれての棒倒しの準備が整えられた。
 オレは当然棒の上で雲雀さんと睨み合う格好となる。
 もっとも、その足元に控えている人数は余りにも違いがありすぎる状態だけど

「ツナさんファイトー!」
「がんばって――っ!」
『用意!!開始!!!』

 ハルと笹川の声が聞こえた瞬間、放送で開始の声が流れた。
 それと同時にB・Cから凄い勢いで此方へと向かってくる者達の姿が見える。
 半分の者が残っているようだけど、流石に共同だけあって人数が半端じゃない。

 棒を駆け上がってきた一人の男子の手が人の足を掴もうと伸ばされる。
 だけど、そんなモノに掴まれるつもりは毛頭なく、軽く蹴れば、当然のようにその男子は棒から突き放されて落下する。

「大丈夫スか、10代目!!?」
「まぁ、これぐらいはね……」

 流石にこの人数を防ぐ事が出来ないのだろう、幾人もの生徒が棒を上ってくるのを、次々に下へと突き落とす。

「しかしまいったな!頭数が違いすぎる!」

 山本も梃子摺っているのか3人ぐらいを抱え込んでいる状態で、苦笑を零している。

「ちい!はなさんか!!攻めるにも、これではラチがあかん!」

 笹川兄も、この状況は流石に予測していなかったのだろう、自分が考えた通りに進まない事にかなりイライラしているようだ。
 まぁ、確かにここまでの人数を相手にするのは面倒以外のナニモノでもない。

 出来れば負けるなんて所を見せたくはなかったんだけどね。

 チラリと観客席へと視線を向ければ、心配そうにオレの事を見詰めていると視線が交じ合う。
 不安そうな瞳を前に、オレは思わず笑ってしまった。
 自分の事を心配してもらえるのが、こんなにも嬉しいなんて、やっぱり君には迷惑だろうね。
 でも、これ以上君に心配を掛けさせたくはないから、さっさとこんな下らない競技は終わらせてしまおう。

「ツナ!」

 不安定なその場所で立ち上がり、その場から飛び降りる。
 その瞬間、確かに聞こえたのは君の声。

「大将が地面に落ちたから負けだね」

 クルリと空中で一回転を見せてから、華麗と言えるだろう着地を決める。
 そして、下らない競技を終らせる為に、ニッコリと笑顔で負けを宣言した。

「ふざけないでくれる。そんなの許さないよ。大体、大将がこんな所に居るだけなんて、退屈すぎる。君は、僕が咬み殺してあげるよ」

 余りにもあっけない終着に、呆然としている両者チームの中で、聞こえてきたのは予想通りの声。
 幾人かの悲鳴が聞こえた後、オレの目の前に下り立ったのは勿論、風紀委員長の雲雀恭弥。

「……オレが地面に着いた時点で負けのはずですけど?」
「そんなの僕が決めたルールにはないよ」

 この競技は、大将が地面に下りた時点で終了したんだと言えば、また勝手な事を言う。
 本当に我侭なんだけど、この人。
 勿論その手にはしっかりと愛用のトンファが握られている。

 まぁ、何もしないで棒の上に居るだけなんて、この人には耐えられないだろうと思ってたから、別に問題ないんだけどね。


 オレが、応戦したのは当然の事だろう。
 だって、さっさと終らせる為とは言え、の前で敗北する所を見せる事になったんだから、そのストレスはしっかりと解消しなきゃだよね。