最近ヒバリさんの襲撃がかなり減って、かなり安心していたのが悪かったのだろうか?
まぁ、ただ委員会の方が忙しくなったと言うのが理由だとは思うんだけど
それがどうして、厄介事を生むのか分からない。
さえ巻き込まないでくれるのなら、オレは幾らでも無視すると言うのに
「10代目、今日もいい天気ですから、屋上に参りましょう!」
昼休みのチャイムと共に賑やかな声でオレの方へと歩いてきた獄寺が、何時ものように誘いの言葉を口にする。
「そうだな、今日も、屋上で食うんだろう?ツナ」
それに続いて山本も声を掛けてきた。
これが毎日の日課。
これにが居ればいいのにと思うけど、ここには居ない。
そう言えば、は誰かと一緒にお昼を食べているんだろうか?
誰かと一緒に居る所は、見た事無いんだけど
陰では絶大な人気を持つだけど、表立って近付く人間は本当に少ない。
それは、オレの努力の賜物だけど、そのお陰でが孤立してしまっているのは否定できないだろう。
もっとも、オレの努力だけではなく、闇では暗黙の了解と言う制約がなされている事も知っている。
それは、に馴れ馴れしく近付かないと言うシンプルなモノだ。
そのお陰で、が孤立しているのは分かっているけど、オレにとってはに害虫が近付かないでくれるならかなり有難い制約なんだけど
だから、お昼にが一人でお弁当を食べているのだと知って、勿論一緒に食べるように言ったんだけど、やんわりと断られてしまった。
別のクラスでは、落ち着いて食べられないだろうし、屋上で食べるにしても、オレに余計な手間を掛けさせたくないと
「そうだね、今日もいい天気だから、屋上に行こうか」
その時の事を思い出すと、複雑なんだけど
だって、オレにとっては手間なんかにはならない。
寧ろ、と一緒に居られる時間が増えるのなら、喜んで迎えに行くのに
だけど、悲しそうな表情で言われてしまったら、それ以上何も言えなかった。
だって、を困らせたい訳じゃないから
「もうすっかり秋だね」
屋上に出れば、過ごし易い温度になったと感じられる。
「だな、夏休みは補習ばっかで、あっという間に終っちまったしな」
オレの呟いた言葉に、山本が同意して夏休みの事を思い出したのか、苦い顔をした。
まぁ、それに関しては自業自得だから、同情は出来ないけどね。
「アホ牛がブドウブドウって最近ウザくねースか?」
それに続いて、獄寺がタバコに火を点けながら言った言葉に、確かにと同意してしまう。
本当に最近うっとうしいんだけど、あのバカ牛が!
人の目の前ウロウロするだけでも、目触りだって言うのに
お弁当を広げて、そんな下らない話をするのが最近の日課。
本当、これにが居ればいいのに……
「栗の季節でもあるぞ」
そんな事を考えていれば、気配を感じて、その場を避ける。
避けた場所に投げられたのは、栗?
「……こんな事をするのは、リボーンだろう!」
「そうだぞ。流石はツナだな」
しっかりと避けたから被害はないけど、普通こんなモノ投げるか?!
そう思って文句を言おうと、睨むように名前を言えば栗の被り物をしたリボーンが近付いてくる。
「これは秋の隠密用カモフラージュスーツだ」
「……そんな格好してたら、100人が100人とも振り返るぞ」
自慢げに言われた事に、呆れ口調で返す。
本気で、そんな格好がカモフラージュになると思ってるのか、こいつ。
「…………そんな事よりも、いいのか?」
って、聞き流してるぞ、思いっきり!
「…何がだよ」
話を誤魔化すように切り出された事に、イライラしながら聞き返す。
そんなオレに、リボーンがニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
こいつがこんな笑みを浮かべる時は、碌な事がない。
「ダメが応接室に……」
「そう言う事は先に言え!!」
何を言われるのか警戒した矢先に言われたそれに、最後まで聞かずに行動に出る。
「10代目!」
「あ〜っ、本当、の事になると行動早いよな、ツナのヤツ」
何て声が、後ろから聞こえて来たけど完全無視した。
どうせ来るなと言っても、勝手に来るだろう。
屋上から、応接室は近い。
オレの足なら、数分と時間はかからずその前に辿り着く事が出来る。
そして、着いた瞬間オレは勢い良くその扉を開いた。
「ツナ?!」
バタンと言う派手な音がして扉が開き、その音に驚いたのであろうが勢い良く振り返ってオレの名前を呼ぶ。
って、本当にがここに居るのはどうしてだ?!
「雲雀さん、何でがここに居るんでしょうか?」
また人に断りもしないで、勝手にを連れて来たのだろう、こんな悪の巣窟のような場所に!
本気で一回殺った方がイイのかもしれないよね。
「まぁ、まぁ、も無事みてぇだし、そんなに怒るなって!」
何度も何度も人のに勝手に触って、こんな所に連れて来るなんて許せない。
そう考えていたオレの耳に、暢気な山本の声が聞こえてくる。
どうやら、本気でアレから直ぐに後を追って来たようだ。
チラリと視線を向ければ、山本と獄寺も直ぐ傍に居た。
「ふーん、群れで来たんだ、別に僕はそれでも構わないけど」
が、それが不味かったのだろう、雲雀さんの群れ嫌いに火が点いたようだ。
殺気付きの鋭い視線で、オレ達の事を睨んでくる。
別段オレは見慣れているから何とも思わないけど、今一番に風紀委員長であるヒバリさんの餌食になるのは……
「それに、風紀委員長の前ではタバコ消してくれる?」
タバコを銜えている獄寺だろうと思いながら様子を伺っていれば、予想通り雲雀さんが獄寺の前に移動していた。
そして言われるのは、当然の言葉だろう。
一応、見えなくとも、自分達は中学生なのだから……
「んだとてめ――」
「消せ」
雲雀さんに言われて文句を言おうと獄寺が口を開いた瞬間、ビュッと風が鳴って銜えられていたタバコが吹き飛ぶ。
愛用のトンファで、タバコを吹き飛ばしたのがはっきりと見える。
「なんだ、こいつ!!」
だけど、獄寺には雲雀さんの動きが見えなかったのだろう明らかにうろたえた様子を見せてた。
ああ、それじゃ全然ダメだ。
そんなあからさまにうろたえるなんて、全然ダメダメだね。
そこまではっきりと指摘出来る獄寺を前にして、全ての辻褄が合う。
「……そう言うこと。だからって、を使うなんて許せないんだけど」
獄寺がこんなにもダメダメだとはオレ自身知らなかったけど、だからってを使ってまで分からせる必要が何処にあるのだろうか?
はっきり言って、かなりムカつくんだけど
「ツナ?」
「流石だね。やっぱり気付いたんだ」
呟いたオレの言葉に、が分からないと言うようにオレの名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
続いて、ヒバリさんが満足そうな笑みを浮かべて肯定する言葉を返してくれた。
そう、やっぱり、そうなんだ……。
「10代目?」
「あのエセ赤ん坊の仕業って事でしょ。まぁ、元からあいつがここにが居るって事を知らせてきたんだから、あいつ以外には居ないだろうけど」
獄寺も訳が分からないと言うように呟くが、無視。
人の右腕になりたいと言うのなら、これぐらい分からないでどうするんだ、こいつ。
呆れたように全ての元凶であるのが誰なのかを説明するようにそれを口にした。
もっとも、名前も呼びたくないんだけど、あのエセ赤ん坊。
「一体何の話?」
「流石に気付かれちまったか……そうだぞ、全部オレが仕組んだ事だ。平和ボケしないための実践トレーニングだぞ」
だけど、オレのその簡単な説明でも何の事だか分からなかったのだろうが、不思議そうに首を傾げて質問してくる。
それに続いて、聞こえてきたのはエセ赤ん坊の声。
そちらにチラリと視線を向ければ、窓の外にリフトを使って立っている姿が目に入る。
「そうじゃなくって!実践トレーニングなんて……」
は外に居るリボーンに少しだけ驚いたのだろう、多分考えた事に自分で突っ込んでリボーンへと問い詰めるように口を開いた。
「綱吉は問題ねぇけど、獄寺と山本を鍛えてもらおうと思ったんだぞ」
「何?沢田綱吉と殺らせてくれるんじゃなかったの?」
だけど、リボーンがの言い分を聞き入れるはずもなく、この呼び出しの目的をあっさりと口にする。
けどそれは、雲雀さんの目論見からは外れていたようで、不機嫌に聞き返す声が聞こえて来た。
オレとしては、オレとに迷惑にならないのであれば、別段気にする事はない。
寧ろ
「そう言うこと、なら勝手に殺って貰っても全然問題ないよ」
勝手に殺って貰っても、本気で気にならない。
それどころか、煩わしいものが減って静かになるなら有難いぐらいだ。
「十分問題ありありだから!!」
あっさりと返したオレの言葉に、が突っ込んでくる。
一体何が、問題になると言うんだろうね。
オレとしては、何一つ問題はないんだけど
「あ〜っ、手厳しいのな。まぁ、確かにオレ等じゃヒバリには到底敵わないってのは十分分かってんだけどな」
「何がオレ等とか言ってやがるんだ!敵わないのはてめぇだけだろうが、野球バカ!!」
オレのその言葉に、山本が苦笑しながら口を開く。
まぁ、まだ山本は自分の実力と言うものを分かっているから救われてはいるんだけど、獄寺に関しては雲雀さんの実力さえも分かっていないのだから、本気で鍛え直しが必要と言う事だろう。
「何、なら僕が君を咬み殺せば問題ないって事だね」
当然のように実力も分かっていない獄寺に対して、雲雀さんが冷酷な笑みを浮かべてチャキリとトンファを構えた。
そして、獄寺へと向けられる殺気。
ああ、雲雀さんもなんだかんだで、入学式から比べると強くなったように思うのはきっと気の所為ではないだろう。
もしかして、オレと乱闘していたのが力の底上げになったのだろうか?
「あ、あの!俺まだお昼食べてないから、皆で一緒に食べませんか?」
今にも獄寺に掴み掛からんばかりの迫力を見せる雲雀さんの姿を前に、突然割って入るようにが声を掛ける。
の凄い所は、こうやって本気の殺気を出している相手にも平気で声を掛けられるところだよね。
本人は、気付いてないみたいだけど
「……本気で、君が居ると殺る気が殺がれる……いいよ、今回は見逃してあげるから、さっさと屋上にでも行ってお昼でも食べるんだね」
に声を掛けられた事で、一気に雲雀さんのヤル気が殺がれたのが良く分かる。
構えていたトンファを一瞬で片付け、呆れたように盛大なため息をつきながら、完全にヤル気がなくなった事を口に出した。
「聞こえなかったの?見逃してあげるから、早く行きなよ」
言われた事が分からなかったのだろう、はキョトンとした表情で雲雀さんを見ている。
だけど、続けて言われたその言葉に、深々と頭を下げた。
「有難うございます、委員長さん!」
「ねぇ、前から気になってたんだけど、その委員長さんって言うのやめない?」
言われたのはお礼の言葉と、が何時も言っている雲雀さんの呼び名。
でも雲雀さんにはそれが気に入らなかったようで、小さく息を吐き出すと不機嫌そうにへと視線を向けながら、信じられない事を言いやがったし!
「でも、委員長さんは風紀委員長さんですよね?」
「……確かに、僕は風紀委員長だけど、君、風紀委員じゃないでしょ。それとも、風紀委員に入りたいの?」
雲雀さんの言いたい事が分からなかったのか、は不思議そうに小首を傾げて雲雀さんへと質問。
だけど、それに雲雀さんが信じられない切り返しをし、は慌てて首をブンブンと横へと振った。
を風紀委員に入れるなんて、オレが絶対に許さないけどね。
「だったら、名前で呼びなよ」
だが、慌てて首を振ることで返事をしたに対して、雲雀さんは予想通りだったのか、当然のように命令口調でそれを口にする。
「ひ…」
「呼ばなくっていいから!!」
そんな雲雀さんに、が何かを返す前に、オレはそれを遮った。
誰が、にあんたの名前なんて呼ばせるもんですか!!
「何、邪魔しないでくれる?」
「ええ、幾らでも邪魔して差し上げますから、安心してください、雲雀さん」
オレに邪魔された事で、不機嫌になった雲雀さんが睨んでくるけど、そんなモノが怖いはずもない。
オレは、ニッコリと黒い笑顔を見せて返事を返した。
その態度が気に入らなかったのだろう、折角片付けたトンファを手に持って、当然のように仕掛けられてくる攻撃を難なくかわす。
それが更に雲雀さんには気に入らなかったのだろう、立て続けに攻撃を仕掛けられるけど、それも全て避けた。
「に、あなたの名前を呼ばせる事なんて絶対にありませんから!」
「君には関係ないはずだよ」
「大有りです。がオレ以外のヤツの名前を呼ぶなんて、許せませんから」
オレは心が狭いから
だから、君がオレ以外のヤツの名前を呼ぶのが許せない。
分かってる、それが全部オレの我侭だって事も
だけど、それだけオレにとっては君が特別だから
「全部、リボーンが悪いんだ!!!!」
オレと雲雀さんの攻防が続く中、突然聞こえて来たの叫び声に、思わずその動きが止まってしまう。
それは雲雀さんも同じだったらしく、驚いたように動きを止めを振り返った。
「何?何があったの?」
突然の叫び声に訳が分からないと言うように問い掛ければ、事の経緯を教えてくれたのは山本で、その話を聞いてオレが獄寺を睨み付けたのは当然の事だろう。
それから、お昼ご飯を食べてないと言うの為に、そのまま応接室でお昼を済ますように促した。
勿論、気にいらないと雲雀さんが文句を言ってきたので、町内にでも見回りに行けと追い出したのとは当然だろう。
当然の事ながら、お昼を食べ終わったは、教室に送り届けたに決まってる。
誰が、に階段の上り下りをさせるもんか!