保険医が代わったという話は、勿論知っていた。

 その校医が、変態だと言うのはどうかと思う。
 あの風紀委員長のヒバリさんが、認めたとは思えないんだけど


 だって、は何かと保健室を利用する事があるあるから
 だから、警戒していたのに、まさかこんな事になるなんて思いもしなかった。





 授業中に、着信を知らせる携帯に気付いたのは、本当に偶然。
 いや、もしかしたら、虫の知らせだったのかもしれない。
 疑問に思いながら、教師に見つからないように携帯を確認する。

 送られて来たのは、一通のメール。
 しかも、送って来た相手は、同じクラスの笹川京子。

 最近メールアドレスを教えたから、送られて来ても可笑しくはないかもしれないけど、授業中に送ってくるなんて、明らかに可笑しい。

 そう考えて、チラリと彼女へと視線を向ければ、彼女もオレの方へと視線を向けて不安そうな表情を見せていた。
 その表情が気になって、メールを開いて中身を確認する。


 書かれていたのは、と同じクラスの友人からの連絡でが体調不良で保健室に向かったと言うもの。
 それを読んだ瞬間、オレは椅子から立ち上がっていた。

「さ、沢田くん、い、行き成りどうしたんだい?」

 突然立ち上がったオレに、教師がビクビクした様子で質問してくる。

 別段、この教師相手に何かをした記憶はないんだけど、オレの事を怖がる教師は多い。
 こんなにも、大人しい生徒だというのにだ。

 クラス中の視線が自分へと向けられいて居るのは分かっているが、そんなの気にもならない。

「ええ、ちょっと気分が悪いんで、保健室に行って来ます」

 ニッコリと極上の笑みを浮かべてそれだけを言うと、さっさと教室を飛び出す。
 勿論、廊下は走る事を忘れない。

「10代目!!」
「あ〜っ、ツナの事なら、心配すんなって!」


 その後ろから、獄寺の声とそれを引き止める山本の声が聞こえてきたけど、全部綺麗に無視。
 最近の保健室事情を知っているからこそ、その場所に向かったと言うが心配でただ急ぐ。

!大丈夫!!」

 ものの数分で辿り着いた保健室のドアを勢い良く開いた瞬間目に飛び込んできたのは、白衣の男に抱えられて蹲っているの姿だった。
 それを見た瞬間、殺意が浮かぶ。

 人の許可もなくに触るなんて、許せない。
 
「ツ、ツナ?」

 オレの声に驚いたのだろう、振り返ったの顔色は真っ青で明らかに体調が悪そうだ。
 その姿を見た瞬間、中に入って強引に白衣の男からを引き離す。

「大丈夫?変態に何もされなかった?」

 それから、何もされてないかをじっくりと確認する。
 顔色は確かに悪いけど、服が乱れている様子がない事に少しだけホッとした。

「変態つーのは、オレの事か?」
「他に誰がいるんですか?」

 オレの問い掛けに、直ぐ傍に居る白衣の男が質問してくるのに、睨み付けながら聞き返す。
 こんな変態が、に触れていたことさえ許しがたいのに

「可愛くねぇガキだな」
「生憎と、あなたに可愛いとも思われたくないですからね」

 オレの態度が気に入らないのだろうそいつが吐き捨てるように言ったその言葉に、キッパリと返す。
 誰が、変態相手に可愛いなんて思われたいって言うんだか!

「……な、なんで、ツナがここに、いるの?」

 白衣の男と睨み合っている中、不安そうな瞳がオレを見上げながら質問してくるそれに気付いて視線を変態からへと移す。
 その瞳は、オレがここに居るのが不思議でたまっらないと訴えて居た。

 それもそうだろう、本当なら授業中なのだから

「そんなの簡単だよ。のクラスの子が態々教えてくれたんだよ」

 そんなへと、オレは簡潔に言葉を返す。
 もっとも、正確に言えばちょっと違うけど、全部を話す気は流石にない。

 説明したとしても、には理解できないだろうしね。

「メルアドを教えるのは不本意だったけど、こう言う時にはちゃんと役に立ってくれるみたいだね」

 でも、笹川京子にメルアドを教えておいて、本気で良かったと思ったんだけど
 だって、そうじゃなかったら、が変態の餌食になっていたかもしれないのだから

 まぁ、笹川京子の事は、嫌いじゃないから別にいい。
 彼女は、オレとを応援してくれている一人だから

?!」

 そんな事を思い出していた瞬間、が突然口元を抑えて直ぐ傍にある洗面所へと近付いていくのに気付いて、驚いてその名前を呼ぶ。
 それから、突然吐き出したに慌ててその背中を擦った。

「大丈夫?」

 ゲホゲホと苦しそうに咳込むを心配して質問すれば、涙目で見詰めてきてコクリと頷く。

「なんとか……吐いたから、少しはマシに……って、何でそこで白衣の人を睨むの?!」

 それに続いて言葉にしようとしたに気付きながらも、そのまま直ぐ傍にいる白衣の男を睨み付けた。
 オレが相手を睨み付けた事に気付いて、が突っ込んでくる。

 って、そんなに体調悪いのに、しっかりと突っ込む所がらしいんだけど

「何でって、あいつの所為でがそんなに調子悪いんでしょ?」
「いや、違うから!何か悪いモノを食べたのかもしれないって、お願いだから、俺の話し聞いて!!」

 の突っ込みに質問するように問い掛ければ、が慌てたように引き止めようとするけど、綺麗に無視する。
 だって、こいつは調子が悪いに、手を出そうとしたんだから、絶対に許さない。

「汚い手でに触れた事を後悔させて上げますよ」

 殺気を込めて相手を睨み付ける。
 勿論、何時でも攻撃できるように戦闘態勢もばっちり。

 こんな弱そうな変態相手に負けるつもりなど、微塵もない。

「ツナ?!」

 そう思っていたのに、チクリと首筋に何かを感じた瞬間、フラリと自分の体が揺れたのが分かる。
 そんなオレに慌てたようにが名前を呼ぶ声が聞こえるけど、オレは何とか倒れないように気力を振り絞りながら目の前の男を睨み付けた。

「……何をしたの?」

 実際には、目の前の相手は一歩もその場を動いてはいない。
 それでも、オレが攻撃を受けたのは間違いないのだ。

「ど、どうしたのツナ?」

 オレの質問に、男は何も答えない。
 ただ睨み付けているだけのオレに、は訳が分からないと言うように質問してくる。

「大丈夫?」
「まぁ、何とか……で、何したんだ、おっさん!」
「掌を見てみな」

 心配気に聞かれたそれに返事を返して更に男へと問い掛ければ、訳の分からない言葉が帰ってきた。
 それに疑問に思いながらも、自分の手を見る。
 そこには、黒いドクロが浮かび上がっていた。

 こんなモノ、何時の間に……

「なに、これ」
「それは、ドクロ病と言う不治の病だ」
「えっ?」

 訳の分からないモノに眉を顰めたオレと、それを覗き込んで不思議そうに首を傾げたの声が聞こえて来た瞬間、男が説明する。
 それに、信じられないと言うように、が声を出す。

「まぁ、適当に選んだヤツがそれってのが気の毒だけど、運がなかったと諦めてくれや」

 信じられないと言うように相手を見るに、男が返したのは慰めにもならない言葉。

 だが、それで全てが理解できた。
 こんな事が出来るって事は

「ふーん、そう言うって事は、あんたもマフィア関係って事?」
「えっ?」
「ああ?オレは、ただの医者だぜ」
「Dr.シャマル。トライデント・シャマルっていう殺し屋でもある」

 心配そうにオロオロしているは、この際置いておいて、オレは疑問に思った事を質問する。
 もっとも、答えなど聞かなくっても確信している事だけど

 否定した男の声に続いて聞こえて聞こえが、オレの言葉を肯定していた。

「リボーン!ツナが!!」
「ああ、聞いてたぞ。ドクロ病とはまた厄介なモノにかかっちまったな、ツナ」

 その声が聞こえた瞬間、が慌てたように状況を説明しようとその声の主の名前を呼ぶ。
 だけど、それはあっさりと返された言葉によって続く事はなかった。

 本当、何時から居たんだか

「死に至るまでに、人に言えない秘密や恥が文字になって全身にうかんでくる奇病だぞ。別名、“死に恥をさらす病”だ」

 内心、複雑な気持ちを隠せないオレには気付く事無く、リボーンが淡々とオレが患った病気の説明をする。
 その瞬間、チラリとの視線がオレへと向けられた。


「はい!」
は、絶対に見ちゃダメだからね」

 それに気付いて名前を呼べば、姿勢を正して返事を返してくる。
 そんなへとニッコリと笑顔を見せながら口を開けば、何度もコクコクと頷いて返してきた。

 説明された内容に、自分の手に浮かんでいる文字を読んだけど、に見られては困るような事しか書かれて居なかったんだよね。


 恥じゃなくって、殆ど秘密。

 寝ているにキスしたとか、こっそりと隠し撮りの写真を撮っていたとか
 そんな事しか書かれてないんだけど

「ちなみにドクロ病は発病してから1時間で死に至る病気だぞ」

 オレから視線を逸らしたにホッとした瞬間、更に続けられる病気の説明に反応を返したの、病気を患っているオレではなくっての方だった。

「リボーン!それって、どうにか出来るんだよね?」
「オレには無理だぞ。でも、こいつなら……」

 信じられないと言うようにリボーンへと詰め寄るの質問に、リボーンが首を振って返しそれに白衣の男へと視線を向ける。

 ふーん、この病気を治すのは、目の前の男じゃないと出来ないっていう事。
 まぁ、普通に考えればそうだろう。
 こいつが、オレのこの奇病を植え付けたのだから

「あ、あの、ツナの失礼は俺が代わりにいくらでも謝ります!だから、ツナの病気を治して下さい」

 冷静に考えているオレの傍で、が『お願いします!!』と深々と頭を上げる姿が目に飛び込んでくる。
 オレの為に必死でお願いするその姿は嬉しいけど、そんな男に頭を下げる必要なんかないのに

「折角の可愛い子からのお願いだけどな、男は診ねーんだ」

 必死でお願いしているに、だけど返されたそれに、ピクリと反応する。

 が可愛いと言うのは認めるけど、だからと言って誰かがそれを口にするのは許せない。
 しかも、自分がもしも死んでしまったら、この男はまず間違いなくに手を出すだろう事は目に見えている。

「……オレも、そんな変態のおっさんに診てもらうのは遠慮したいんだけど……でも、今ここでオレが死ぬと、禄でもない事になりそうですね。だから、あんたも道連れに死んで上げますよ」

 それが分かるからこそ、一人で死ぬ事なんて出来ない。
 例え君が悲しんだとしても、こいつだけは道ずれにしないと気がすまないからね。

「はぁ、何言って……」
「オレも、若干ではありますが、医療の心得はありますからね。死ぬ間際にあなた一人を道連れにする事ぐらい簡単に出来ますよ」

 刻一刻と自分の寿命が縮んでいる事が分かっているからこそ、行動に起こすのに躊躇いなど微塵も感じない。
 相手の言葉を遮って、オレはもう一度笑みを浮かべた。

「まぁ、こいつならそれぐらい簡単だろうな」

 そんなオレに、リボーンがあっさりと同意する。
 勿論、それぐらい簡単に行動してみせてあげるよ。

 それが、君を守る事に繋がるというなら、迷う必要など何処にもない。

「あ〜っ、おまえがそこまで言うって事は、これが次期ボンゴレボス候補か?」
「ああ、そうだぞ」

 当然のように返したリボーンのそれに、男が親しげに質問してくる。
 それに、リボーンがあっさりと返事を返した。

 どうやら、この二人は顔見知りといったところなのだろう。

「リ、リボーン、この人の事……」
「知ってるぞ、オレも世話になっているからな」

 そんな二人に気付いて、が恐る恐る質問する。
 それにリボーンが、すんなりと返事を返した。

「で、でも、男は診ないって……」
「母親からオレをとりあげたのがシャマルだ」

 リボーンの答えにが信じられないと言うように口を開くそれに、当然と言うように答えられた言葉に、呆れるしかない。
 本気で変態だと思っていたけど、産婦人科までしていたんだ、こいつ。
 もっとも、そんな事は、今の俺には関係ないことだけど

「どうでもいいよ、そんな事。オレが、あんたの事を道連れにするのは確定事項なんだから」

 そう、もう決まっている事だ。
 こんな変態は、世の中の為にもさっさと排除するべきだろう。

「ほぉ、死ぬ気弾無しで死ぬ気モードになれるたぁ、驚いたぜ」
「最後に言う事はそれだけか?」

 だからこそ、行動に移し男の後ろに回りその首に手を翳す。
 そんなオレの行動に、男が感心したように口を開いたそれに問い掛ける。

「……悪かった!治してやるから、落ち着け!」
「別に、オレは治してもらわなくてもいい。お前と言う害虫が駆除できるんだからな」
「いやいや!そこは治してもらって下さい、ツナさん!!」

 ぐっと手に力を込めた瞬間、慌てたように男が謝罪の言葉を口にするが、聞き入れるつもりはない。
 だが、そんなオレに慌てたようにが突っ込みを入れてきた。
 そんなに、オレは小さくため息をつく。

「……命拾いしたみたいだね」

 ボソリと呟いて、手を離す。
 そんなオレに、男は安心したように息を吐き出し処方薬を取り出した。

 トライデントモスキート。

 その名の通り、三又矛の蚊。

 どうりで、気付かなかった筈だ。
 流石に蚊などには、気を配ったりはしない。
 そう考えれば、厄介な相手と言えるだろう。

「ツナ!大丈夫なの?」

 ドクロ病の対となるエンジェル病を持つ蚊に射された瞬間、スーッと手に書かれていたドクロや文字が消えていく。
 本気でオレしか知らない秘密が書かれていたのには驚いたんだけど、何とかそれが全部消えたのを確認した瞬間、が心配気に問い掛けてくる。

「大丈夫だよ、ドクロは全部消えたから」

 そんなを安心させるように返事を返し、近くに居る変態男を睨み付けた。

「あ〜っ、お前さんも結構大変そうだな……」

 睨み付けた瞬間、同情したように言われたその言葉に、更に殺気を込めて相手を睨む。
 こいつには腕に書かれていた秘密を読まれているのだから、今更隠す事など出来ないだろう。

「放って置いてくれる。自分が好きでしてる事だよ」
「まぁ、お前も十分気を付けろよ」

 睨み付けながら返したオレに、今度はへと忠告する。
 言われたは訳が分からないというように首を傾げて、それでも頷いて返した。



 本当に、厄介な病気だったんだけど

 まぁ、唯一の救いは、に見られなかった事だろうか。
 まさか、寝てるにキスしてるなんて、本人には流石に知られる訳にはいかないからね。

 そう言えば、は気分が悪くって保健室に来てたみたいだけど、大丈夫だったのかな?