夏休み。
学生にとっては嬉しい長期休み。
でも、にとっては、折角の休みだと言うのに病院での検査入院。
の足が、少しでも良くなるのなら仕方ないと思えるんだけど、入院したからといっての足が良くなる事はない。
日本の医療は、まだまだの足を完全に治す事なんて出来ないという事
だから、2日間もに会えないのとだと思うとかなり面白くないのが本音。
仕方ないと分かっていても、そう思ってしまうのだから、どうしようもない。
携帯の着信音に気付いて、慌ててそれを手に取る。
相手を確認すれば、『山本』と書かれていた。
「もしもし」
『おう、ツナか?』
電話に出れば、問い掛けられて思わず苦笑してしまう。
携帯に掛けてるんだから、オレ以外の人間は基本は取らないと思うんだけど
「まぁ、君が間違えてなければ、オレ以外は取らないよ」
『そうだけど、ついな』
オレが呆れたようにそう言えば、向こうから聞こえてくる山本の声。
「で、どうしたの?」
『明日から補習なんだけどな、部の先輩に聞いたから補習には絶対宿題出されるって教えてくれたんだ。だから、悪いんだけど、宿題出されたら教えてくれねぇか?』
用件を質問すれば、申し訳なさそうに問い掛けてくる。
「別に構わないけど…………」
『いいのか!サンキューな。それじゃ、明日補習が終わったらツナの家に行ってもいいか?』
「それでいいよ」
『助かったぜ。ありがとな、ツナ』
本当に感謝しているのか、再度お礼の言葉を言ってから山本が『じゃあ、明日』と言って電話を切った。
通話の切れた携帯をパタンと閉じて、大きく息を吐き出す。
その瞬間、またしても携帯が着信を告げる。
それに、ビクリとしてしまうのは止められない。
リボーンが今部屋に居ない事を感謝しながら、今度は相手も確認せずに電話に出た。
「もしもし?」
『ツナ?』
そして、電話の向こうから聞こえてきたのは、今日の朝病院に行くのを見送った相手。
「!どうしたの?」
今まで検査入院だからと言って電話なんて掛けてきた事ないからビックリした。
勿論、電話を掛けてきてくれたのは嬉しいけどね。
『うん、携帯持ってるから気兼ねなく電話できるなぁと思って……家族同士だと通話料無料だし』
でも、何かあったのかと心配して問いかければ、楽しそうな声が聞こえて来た。
確かにの言うように、中学に上がってから個々で携帯を持っている。
は必要ないといってたんだけど、オレが無理矢理持たせたモノだ。
だって、何かあった時直ぐに対応出来るようにしておきたかったから
「そうだね。オレも何時でもの声が聞けるのは嬉しいんだけど」
『いやいや、俺の声聞いてもあんまり意味ないから!』
でも、無理矢理持たせたお陰でこうしてが電話をくれる事がすごく嬉しい。
それを素直に口にすれば、の突っ込みが入る。
オレは、本気でそう思ってるんだけどね。
「それで、どうしたの?」
『うん、お願いがあるんだけど』
の言葉に苦笑を零して、再度質問。
だって、気兼ねなく電話できると言っても、が用事もないのに電話をしてくる事がないと分かっているから
再度質問したオレに、が頷いて口を開く。
「何?」
『それなんだけど、観葉植物に水をやるのを忘れちゃって……明後日まで帰れないから、流石に不味いなぁと……』
「分かった、の部屋にある観葉植物に水を上げとけばいいんだね」
『うん、ごめんね』
「それぐらい何でもないよ」
了解の言葉を伝えれば、申し訳なさそうに謝罪するに思わず苦笑をしてしまう。
どうして、そんなに遠慮する必要があるんだろうね。
もっと頼ってくれても問題ないのに
『そう言えば、電話出るの早かったけど、誰かと話してたの?』
「ああ、山本から電話があったんだよ。補習に絶対宿題が出されるから教えてくれって」
内心でそんな事を考えていれば、思い出したようにが質問してきた内容に、もう一度笑ってしまった。
そう言えば、相手も確認せずに手に持ってた携帯をそのまま通話しちゃったんだっけ……なら、出るのが早いと思うのは当然だ。
『それじゃ明日は山本が家に来るんだ……残念、俺も会いたかったな』
「山本になら何時でも会えるから大丈夫だよ」
オレの説明に、が残念そうに呟いたそれに当然の言葉を返す。
でも、が山本に会いたいって言う言葉に、ちょっとだけ嫉妬してしまったのは秘密。
だって、がオレ以外の誰かに会いたいなんて言葉は本当は聞きたくないから
『そうだね……あっ!消灯時間だって言ってるから、もう切るね。お休み、ツナ』
「お休み、……」
慌てたように会話を打ち切って、『お休み』の言葉をくれたに、同じように言葉を返す。
それを聞いてから、通話が切られてしまった。
繋がっていたそれを少しだけ名残を惜しんでから、切る。
通話を切ってから、そっと息を吐き出す。
まさかから電話が掛かってくるとは思ってなかったから、ちょっとだけ驚いたけど、嬉しい驚きだった。
何時ものように挨拶を交わせたことも、嬉しかった。
でも、山本に会いたいって言うのは、ちょっとだけ複雑だったんだけどね。
その幸せを噛み締めている中、リボーンが戻って来てくれたお陰で気分は最悪だったんだけど
そのままビアンキの部屋に泊まってくれれば、有難かったのに
「おじゃましまーす!」
次の日の昼過ぎ、玄関から聞こえて来た声に小さくため息をつく。
母さんには話しておいたから、そのままオレの部屋に通す事が分かっているので、出迎えに行くつもりは無い。
「ツナ、入るな」
予想通り、階段を上がってくる足音がして部屋の前で声を掛けてくる山本の声。
「どーぞ、って、獄寺も一緒なの?」
でもその足音が一人分多かった事に気付いて、ドアが開く前に質問する。
オレの質問と同時にドアが開いて、予想通り山本と獄寺の姿が
「良く分かったな。直ぐそこで会って、声掛けたら一緒に行くって聞かなくって、な」
「当たり前だ!野球バカなんかと10代目を二人っきりに出来る訳ねーだろうが!」
「いや、二人っきりじゃないし、なってもこいつと二人なら何とも無いから!」
コンビニの袋を手に提げて入ってきた山本と、山本の言葉に口を出す獄寺に呆れたように突っ込みを入れる。
山本と二人になったからといって、どうなると言うんだから……
もっとも、コレがと二人っきりになるって言うなら、何が何でも邪魔してただろうけどね。
「そんでもってこーなるんだよ!」
面倒だから、折角来ている獄寺に山本の勉強は任せてその隣で本を読んでいたオレは、聞こえてくる内容に思わず呆れてしまう。
「獄寺、おまえさっきから――教科書読んでるだけじゃん」
そう、獄寺の教え方は、ただ教科書を読んでいるだけ
全くと言っていいが、こいつに人を教えるというのは、どう考えても無理みたいだ。
「てっ、てめ――っ!なめてっとブッ殺すゾ!!!ここに解き方全部のってんだよ!!」
「うんうん、そうなのな」
まぁ、獄寺の言葉に間違いはないんだけど、見ただけで分からない人も居るって事を知るべきだと思うんだけどね。
「おかげで大体解けたぜ」
もっとも、山本はそんなにバカじゃないから、獄寺の説明でも何とか理解してプリントを仕上げたらしい。
こいつももうちょっと真面目にやれば、成績悪くないはずなんだけど
「見せてみろ!!」
山本の言葉で、獄寺が黄燐とを奪い取ってザッと答えを確認する。
「……………ちっ、あってる」
そして、複雑な表情で呟かれる獄寺の言葉。
予想通りの展開と言った所だ。
「つっても、問7はさっぱり分かんなかったけどな」
が、続けて言われたその言葉に驚かされる。
獄寺の説明だけで、簡単に終わると思っていたから……
「ガッハッハ、まだまだバカだな、山本ォ!」
そんな山本の言葉に、嬉しそうに獄寺が山本を馬鹿にして問題の問7に視線を向けた。
「問7はなー…」
そして、説明しようと口を開きかけるけど、その続きの言葉が出てこない。
「…………………わかんねえ…」
考えて考えた先に出てきたのは、ボソリと呟かれる言葉。
「何?獄寺に分からない問題?」
「まじーな、全部解けないきゃ落第なんだよな」
余りにも意外な言葉に、思わず口を開けば、山本が困ったように口を開く。
本気であの学校、私立の中学でもないのに、退学やら落第やら平気で口に出すよね。
中学は義務教育だから、普通に考えれば無理な話だって言うのに
「お前、一回落第してやり直してきやがれ!!」
「つーっても、獄寺にも分からないって事は、お前も落第なんじゃねぇの?」
「まぁ、確かにそうかも……で、問題は?」
山本をからかうように言った獄寺の言葉に、山本が冷静に返す。
確かにそれはその通りだと同意すれば、獄寺が落ち込むのが分かる。
だけど、そんな事は気にせずに、オレは獄寺からプリントを取り上げて問題の問7に視線を向けた。
「あ〜っ、コレは流石にオレも分からないかも……大学レベルの問題みたいだね」
「なっ!10代目にもお分かりにならないなんて!10代目を落第させるわけにはまいりません!!絶対に、解いて見せますから!!」
問題に目を通して素直に自分でも無理だと言えば、何をトチ狂ったのか獄寺が必死で問題に齧り付く。
って、オレは落第にならないから!
「まぁ、山本見捨てたってに思われたくないから、オレも一応協力するよ」
「サンキューな、ツナ」
仕方ないというように問題をレポート用紙に書き写して、解く為に頭を働かせる。
「このくそ暑いのに、おまえ達むさくるしーぞ」
その瞬間、聞こえて来た声に、思わずげんなりしても許されるだろうか?
折角平和に過ごしていたというのに、なんで戻って来るんだか……
「いっそのことガマン大会やれ」
「って、お前何やってるんだよ!!んなバカな事出来る訳ないだろう!!」
嫌々振り返った先では、この暑い中コタツに七輪、更にはお鍋まで準備したリボーンが、これまたコートを着込んだ上に毛糸の帽子にマフラーまでした状態でそこに座っていた。
って、こいつ暑くないのか?汗一つかいてないし
「オレが考えたんじゃねーぞ」
「お前以外に誰がこんなバカな事……」
「ハルは、バカじゃありません」
本気でバカみたいな事を考えていると突っ込みを入れれば、リボーンが否定する。
それに言葉を返した瞬間聞こえて来た声に顔を上げれば、ユラリと姿を見せるのはあの緑中の女子、ハル。
「ツナさんが宿題をがんばってるって聞いて…気分転換にと思ったんです…」
って、何でこの子が今ここに居るんだ?
チラリとリボーンを見れば、当然と言うような顔。
「何で、勝手にあの子を家に上げてるんだよ!」
「マフィアってのは、女を大事にするんだぞ。好いてくれた女は大切にあつかえ」
その顔を見て、勝手な事をした相手が誰か分かって小声で文句を言えば、当然のように返される言葉。
何でオレが自分の好きでもない相手を大切に扱わないといけないんだよ。
オレが大切に扱う相手は……
「なにふざけた事言ってるんだ!もともと彼女が好きだったのはお前だったんだぞ!」
「いいのリボーンちゃん……ハル帰りますから……」
余りにも理不尽なリボーンの言葉に文句を言った瞬間、ハルがフラフラと部屋から出て行く。
「ただ……ハルはバカじゃ……ありませんから……」
落ち込んでいるとアリアリト分かる状態で、ハルがボソボソとさっきの言葉を全面否定していった。
いや、十分バカだと思うのは、オレだけじゃないと思うんだけど
そんな事を考えて盛大にため息をつく。
「相変わらずもてんなーツナ。どーやって知り合ったんだよあんな名門の子と」
「って、緑中の事だよね?そんなに名門だったっけ?」
オレのため息を聞きながら、山本が感心したように口を開いた。
だけど、言われた内容が理解できずに逆に聞き返してしまう。
興味ない事は、全く知らないんだから、仕方ない。
「そうそう、緑中って言えば、このへんじゃ超難関のエリート女子中だろ」
「あのアホ女がねえ」
オレの質問に山本が説明してくれたそれに、感心したように獄寺が呟く。
かく言うオレも、本気で意外だったんだけど
そうか、緑中の制服は知ってたけど、超難関の学校と言うのは知らなかったんだけど
もっとも、女子中なんて興味もないから知る訳ないんだけどね。
「あの子に聞けば、問7も分かるかもな」
「ああ、そうだね。もしかしたら分かるかも……」
「なっ!それじゃ、10代目の為にオレがあの女を呼び戻して……って、聞き耳立ててんじゃねぇ!!」
いや、オレの為って、間違ってるから!
慌てて部屋を飛び出そうとした獄寺がドアを開けた瞬間、そこで座り込んで中の様子を伺っているハルの姿があって、すかさず獄寺が突っ込む。
「問7ですね。これ習いました、わかると思います」
仕方なくハルを部屋の中に招き入れて、問題のプリントを見せれば、ニコニコ笑いながら早速それを解き始める。
が、何時までたっても解けそうに無い。
いや、本人は大丈夫だと言い張ってるけど、その手を見ると明らかに行き詰っているのが良く分かる。
時間だけが無駄に流れていき。
「ごめんなさい!わかりません−!!!」
そして3時間後に出てきたその言葉に、盛大なため息をついた。
まぁ、大体分かっていた答えだけど
「てめ――っ、わかんねーならハナっから見栄切んじゃね――!!」
「解ける気がしたんです……」
獄寺に怒られて申し訳なさ気に謝るハルに、山本はただ苦笑を零すだけ
さて、困った事にこれじゃ何時までたっても、問題は解けないままなんだけど
その後、ランボが部屋に入ってくるは、ビアンキが来るはで本気で大変だった。
最後にハルの父親まで出てきたのには、かなり驚かされたんだけど……
って言うか、勝手に上がってくるってどうかと思うんだけどね。
最後に、リボーンがあっさりと問題の答えを教えてくれたのには、驚きを隠せないんだけど
大体、ネコジャラシの公式って何?初めて聞いたんだけど、オレは!
山本の宿題は何とかなったので、もういいだろうと部屋をそのままにして下へと降りる。
そこで玄関に立っている人物を見つけて、かなり驚いた。
だって、帰ってくるのは明日だって言ってたから……
「、帰って来てたの?戻ってくるのは、明日だって言ってたのに!」
「ツナ……うん、今回は足に負担も少なかったから、問題ないって太鼓判貰ったから……それよりも、大人数だね。そんなに大変なの勉強?」
その姿に驚いて声を掛ければ、嬉しそうにが早く帰れた事の説明してくれる。
そして、沢山の靴に驚いたように首を傾げながら質問。
「うん、どうしても一箇所分からないところがあってね。山本の補習のプリントなんだけど、全問正解しなくっちゃ落第だって言われたらしくって、全員で頑張ってたんだけど分からなくって、ついさっきハルのお父さんまで来ちゃって、大変な事になってたんだ」
の質問に、思わず先ほどまでの騒動を思い出して苦笑を零しながら説明すれば心配そうな表情が返された。
「そ、それで、問題は何とかなったの?」
不安そうに質問してくるに、思わず盛大なため息をついてしまうのは止められない。
どうして人の為にそんなに真剣になれるんだろうね、君は……
「まぁね、リボーンがネコジャラシの公式とか言うので解いてくれたんだけど、はっきり言ってますますあいつが分からなくなったんだけど、オレは……」
心配そうにオレを見詰めてくるに説明すれば、ホッとした表情を見せた。
ああ、でも疲れてぐしゃぐしゃになっていた思考が、君に会えただけでこんなにも落ち着いていられる。
「ツっくん、皆さんに夕飯食べてってもらいなさい!母さん張り切って作ったんだから!」
君は、きっと知らないだろうね。
オレが、どれだけ君に癒されているんだって事を……
その逆に、君に追い詰められているのも、本当だけど
キッチンから聞こえて来た母さんの声に返事を返してオレは、が持っている荷物を取り上げてさっさと部屋に運んだ。
勿論、後ろからの慌てた声が聞こえてくるのは完全に無視したけどね。