最近、がもう夏バテ気味で、何時も以上に食欲をなくしてきている。
正直言っては本当に暑いのが苦手で、こっちが心配になるほどだ。
この暑い中の登校さえ負担になっているのが分かるから、本気で学校を壊したくなるんだけど……
まぁ、まだ本人は気付いてないみたいだけどね。
自分の体調に……
だからこそ、心配で目が離せない。
「暑い」
ポツリと呟かれたのその言葉に、思わず苦笑を零してしまう。
夏だから仕方ないのは分かっているけど、暑いと言われてもどうする事も出来ないんだよね。
これで、俺が扇いであげても、にはきっとお気に召してもらえないって事は良く分かっている事だ。
パタパタと自分の手を団扇変わりに扇いでいるを見ながら、ふと感じた気配に顔を上げる。
そこには、緑中の制服を着た女の子が塀に上り、フラフラと危ない足取りでこちらに向かってくる姿があった。
この暑さの所為で、可笑しなヤツが増えているって事だろう。
には近付けさせないようにしないと
「こんにちは――っ」
「ちゃおっス!」
そんな事を考えていると、その子がリボーンの前に来てぺこりと挨拶をする。
それに、リボーンは当然と言うようにイタリアの言葉で返事を返した。
「私…三浦ハルと申します」
隣でが、少しだけオロオロした様子で二人を見ているのが分かっているけど、面倒な事に自分から首を突っ込むつもりなんて全然ないから、ただ黙って観察する事にする。
疑問に思うような女の子の行動に、様子を見守っているとその子が少しだけ顔を赤くして自己紹介。
「知ってるぞ、ここんちの奴だろ?」
自己紹介をしたその子に、リボーンが当然のように言葉を返す。
ああ、どうりで見た事あると思った。
近所の女の子だったのか……
もっとも、顔なんて殆ど覚えてなかったんだけど
「お友達になってくれませんか?」
そんな事を考えていたオレの耳に、意外な言葉が聞こえて来て、少しだけ驚かされる。
こいつと友達になりたいなんて、偉く物好きな女の子も居るものだ。
もっとも、見た目だけなら可愛い赤ん坊なのだから、騙される人間がいてもおかしくないだろうけど
「いいぞ」
きっとこの子も騙された一人だろうと納得していれば、あっさりとリボーンが了承の返事を返した。
こいつが、誰と友達になろうと興味ないんだけど、こんな変なヤツをに近付けたくないんだけど、オレは
「危ない!」
リボーンに了承を貰ったその子が、意味不明な悲鳴と共にバランスを崩し塀から倒れそうになるのを、慌ててが前に出たのに気付き、それを引き止める。
引き止めたオレにが困ったような視線を向けてくるから、前を見て小さくため息をついた。
「大丈夫みたいだよ」
オレがそう言えば、も視線を彼女へと向ける。
そこには、しっかりと緑中の女の子が地面に着地している姿があった。
「やったあ――!!」
しかも、嬉しそうに両手を挙げてるんだけど
こんな赤ん坊と友達になれた事が、そんなにも嬉しいなんて、変な子もいるもんだね。
「あ…あの…さっそくなんですが、…こう…ギュ…っってさせてもらもらえませんか?」
内心で感心していると、その子は自分の体を抱き締めながら、リボーンに質問。
本当に、変な子としか言えないんだけど……
そう、出来ればお近付きにはなりたくないタイプの……
「気安くさわるな」
その子の行動に引いていれば、きっぱりと言われるリボーンの言葉。
まぁ、常日頃聞いている言葉だけど、こいつはや山本には平気でベタベタ触るのだ。
山本は同属だから何となく分かるんだけど、に対しては警戒心を全く見せてない。
それはつまり……
「オレは、殺し屋だからな」
考えていた事を遮るように、リボーンが拳銃を取り出して多分誇りを持っているのだろう自分の職業を口にする。
「リボーンさん、それはどうかと思うんですけど……」
「何時もの事だから、気にしちゃ負けだよ、」
そんなリボーンにが複雑な表情で口を開くのを、呆れながら言葉を返した瞬間慌ててを自分の方へと引き寄せた。
「何するの?」
「最っ低です!!何てこと教えてるんですか!?殺しなんて……」
を殴ろうとしたその子に気付いて、慌ててを引き寄せたオレは、突然の行動を起こしたその子を睨んで口を開けば訳の分からない言葉が口に出される。
どうやら、オレの殺気には全く気付いていないようだ。
自分の怒りで、周りが見えてないといってもいいだろう。
とオレを睨み見つけて言われた言葉に、思わず盛大なため息をついてしまった。
「えっと」
「最低なのは、あいつ本人だと思うんだけど……」
「赤ちゃんは、まっ白なハートを持った天使なんですよ!!」
何と返していいのか分からないは困惑気味と言ったところで、オレはオレ達の事を最低だと言ったその子に、ボソリと真実を口にしたけど相手は全く聞いてないようで、自分の理想を口先走っている。
そして、オレ達の方へと一歩踏み出してきた事とに伸ばされた手に気付いて、パシリとその手を払い退けた。
「あなた達はそんないたいけな純情を腐ったハートでデストロイですか!?」
だけど、オレに手を払い退けられても全く気にした様子もなく、訳の分からない事を勢い良くまくし立ててくれる。
誰が、純情って言うんだか……間違いなく、純情だったを壊してくれてるのは、そこで笑ってる子供だって言うのに
「そいつの事は、オレ達には関係ないよ」
そう考えると、腹が立ってくるんだけど
こいつが来た所為で迷惑以外の何者でもない。
盛大なため息をつきながら、興味なく彼女が言う言葉を全面否定する。
「何が関係ないよ!!」
だけど、オレのその言葉が気に入らなかったのだろう、更に不機嫌になって返してきた。
ヒステリックを相手にするのは、嫌いなんだけど
「うそつきです!あなた達リボーンちゃんのお兄ちゃんでしょ?よく一緒にいるのみてるんだから!」
「オレは、そんな奴の兄になった覚えは無いんだけど、オレの弟はだけだからね」
更に、人の事を勝手にウソツキ呼ばわり。
いい加減腹立って来るんだけど
しかも、当事者であるその赤ん坊は傍観を決め込んでくれてるし、本気でこの子排除したくなってきた。
そうじゃなくても、この子はに手を上げようとしたんだから、それだけでも許せない。
「じゃあ、なおさら最悪じゃないですか!他人の赤ちゃんをデビル化なんて――!!」
オレの言葉に更にヒートアップする目の前の相手に、思わず眉根に皺が寄る。
デビル化とか、本気で良く知りもしないで言えるものだよね。
こいつが来た所為で、どれだけオレ達が迷惑しているかも知りもしないで
「いいですか?あなた達は、もー、リボーンちゃんに会っちゃダメですよ!悪影響です」
モヤモヤとする心情の中で、顔を近付けてきたその子を避ける為だろうが後ろに下がって来て、オレにぶつかった事で我に返る。
きっと、ここにが居なければ、オレは目の前の少女に酷い事をしていただろう。
何時だって、オレを正気に戻してくれるのは、の存在だけ
「それは願ってもない内容なんだけど、オレとしては」
願ってもない少女の言葉に、きっぱりと返事を返す。
オレ達としたら、あんな赤ん坊には二度と係わり合いにはなりたくないというのが本音なのだから
「あのね」
「そーはいかねーぞ」
見兼ねたのだろうが、何とか説明しようと口を開きかけた瞬間、聞きたくもない声が聞こえて来て、思わず小さく舌打ちしてしまう。
そのまま黙っていてくれれば、厄介払いが出来たかもしれないのに
「ほぇ?」
聞こえて来たリボーンの声に、その子は訳が分からないというように視線をリボーンへと向ける。
「こいつ等をマフィアの10代目ボスに育てるのがオレの仕事だ。それまで、離れられないんだ」
そして続けて言われたその言葉と同時に殺気を感じて、の肩を掴んで自分の方へと抱き寄せる。
完全にとは後ろから抱き合うような状態になった瞬間、目の前には少女の拳。
「なにがマフィアですか!不良の遊びにもほどがあります!リボーンちゃんの自由まで奪って」
「オレからも言わせてもらってもいいかな?君がなにをしようと自由だけど、を傷付けようとするなら容赦はしないよ」
勝手なことしか言わない少女の言葉に、オレも本気の殺気を相手に放つ。
この子は2度もを傷付けようとしたのだから、許せない。
「ちょっ、あのね」
だけど、その子はオレの殺気に気付いていないのか、オレ達を睨んでくる。
しっかりと殺気付きで……もっとも、シロートのそんな下らない殺気なんて全く気にならないんだけど
すごい形相でオレ達を睨んでから、リボーンへと挨拶して少女が遠去かって行くのをただ冷たい視線を向ける事しか出来なかった。
そして、腕に抱き締めた存在を感じて、ゆっくりと自分を落ち着かせるように息を吐き出す。
「、あんなのには関わっちゃダメだからね!」
勿論、にしっかりと念を押しておいた。
あんな変な子には、絶対に関わってもらいたくないから
もっとも、それは無駄な願いだったのかもしれないけど
「今日も暑いね」
「そうだね」
パタパタと自分の手を団扇代わりに扇ぎながら言われたその言葉に、オレは返事を返す。
確かに今日も暑い。
隣にいるの顔は、少しだけ赤くなっている。
まぁ、昨日もあんまり眠れなかったみたいだから、仕方ないかもしれない。
「えっと、何か変な音が……耳鳴り?それとも幻聴?」
「耳鳴りでも幻聴でもないみたいだよ」
そんな事を考えていれば、後ろから耳障りな音が聞こえて来て振り返れば、昨日の緑中の女の子。
その音を耳鳴りとか幻聴だと心配しているに、ちょっとため息をつきながら言えば、恐る恐るといった様子で振り返る。
「き、君!だ、大丈夫なの?!」
昨日の少女の姿を見て、が逆に心配そうに声を掛けた。
まぁ、確かに不振極まりない格好をしてるんだから、の心配は仕方ないだろう。
「昨日、頭がぐるぐるしちゃって眠れなかったハルですよ」
「ふーん、寝不足だと、そんな格好するの君?」
の質問は完全無視で、その子はギロリとオレ達を寝不足で出来たのだろうクマの出来た目で睨み付けてくる。、
それにオレは呆れながら、質問を投げかけた。
寝不足でそんな格好をするなんて、本気でただのバカだよね。
「ちがいますーっ、それじゃ私おバカですよ」
そうすれば、その子がオレの言葉を否定する。
分かってた事だけど、そう思っても仕方ないような事しかいってないんだけど、この子。
「リボーンちゃんが、本物の殺し屋なら、本物のマフィアのボスになるあなた達はとーってもストロングだと思うわけです」
続けて言われた言葉に、複雑な表情をしてしまう。
何が、マフィアのボスになるだ。
誰も、そんな事望んでいないって言うのに
「あなた達が強かったらリボーンちゃんの言ったことも信じますし、リボーンちゃんの生き方に文句は言いません」
淡々と語られる内容に、イライラする。
何も知らないくせに勝手な事ばかり言う相手に、ただ冷たい視線を向ける。
「お手あわせ願います!」
そして、持っていたゴルフドライバーを振り上げてを殴り付けようとした瞬間、考えるよりも先に体が動いていた。
何時も何時も雲雀さんに襲撃されるから、オレの鞄はちょっと改良済み。
を庇うようにその鞄でしっかりとドライバーを防げば、ガンッと言う音が響き渡った。
「言ったはずだよ、を傷付けようとするなら、女でも容赦しないって」
「って、ツナ!」
「は下がっててくれる?こいつは3回もを傷付けようとしたんだから、許せない」
何度も何度もを傷付けようとした少女を睨みつけて、不機嫌なのを隠す事もせずに冷たく相手を睨みつける。
「ちょっと待って、俺達はマフィアのボスになるつもりはないんだよ!」
「じゃあ、やっぱりリボーンちゃんをもてあそんでるんですね!!」
そんなオレの声に気付いたのだろうが慌てて説明しようとすれば、それが逆に彼女を怒らせてしまう。
弄ぶとは言ってくれるよね。
本気で知りもしないくせに、勝手な事だけ言ってくれる。
「10代目下がっててください!!」
どんどん冷えていく心に、良く知った気配を感じた瞬間、声が聞こえて来た。
その相手は、獄寺でオレと少女の間に割って入ってくると懐から、自分の武器と取り出す。
「果てろ」
そして言われたのは、何時もの台詞。
本当に、それしか言えないのかなぁ、こいつ……。
「ちょっ、獄寺くん!!」
ちょっとだけ呆れながらも事の成り行きを見守っていると、が慌てたように獄寺を呼ぶ。
「あれ?ドカーンってやつですねー」
だが標的にされた相手は事の重大さを理解していないらしく、緊張感の全くない間抜けな声が聞こえて来た。
「危ないから逃げて!!」
そんな相手に、が慌てて忠告してももう遅い。
その後に響いたのは派手な爆発音と彼女の悲鳴、そして、何かが水の中に飛び込む音。
「落ちた!!」
「これでもう大丈夫です」
その音に、が慌てて橋の上から下を覗き込む。
獄寺は満足そうな表情でオレを見てくるのに、ただ盛大なため息をつくことしか出来ない。
まったく、何でこんなに厄介ごとばかりを持ち込んでくれるんだろうか……。
「たすけ…ゴボッ……たすけてぇーっ!!」
自分も同じように下を見れば、彼女が溺れている姿が見える。
そして、聞こえてくるのは助けを求める声。
「は、早く助けないと!!」
その状況に、が慌てて身を乗り出すのが分かった。
どうして、そんな子の為に君は躊躇いなく飛び込む事が出来るの?
だって、あいつは君を傷付けようとしたのに
「助けてやる」
が飛び込もうとした瞬間、聞こえて来た声はリボーンのもの。
助けてやるといいながら、チラリとオレの方を見る。
ああ、こいつが何を言いたいのか分かっているさ。
「だめです!この川はリボーンちゃんが泳げるよーな…」
自分を助けるといったりボーンに、彼女は止めるように口を開く。
でも、それは本当の事。
ねぇ、が飛び込んでもこの川で彼女を無事に助けられるかどうかなんて分からないんだよ。
お願いだから、自分を犠牲にして誰かを助けようとしないで……
「ツナ!!」
が飛び込もうとするその前に、自分がその場から飛び込む。
後ろからの焦った声が聞こえてくるけど、コレが一番いい方法と言うよりも一番安全な方法なんだよね。
君が飛び込んでも、きっと彼女を助ける事はできないだろう。
彼女を助けて、岸に向かって泳ぐ。
「しっかり捕まってなよ」
「は、はい!」
全く、鎧なんて着てるから、邪魔でしょうがないんだけど……
やる気無しで言えば、しっかりと返事を返してくる。
勿論、彼女ぐらいを抱えて泳いだとしても苦にはならない。
岸に上がって、彼女を地面に降ろし水で濡れた髪がうっとうしくって、軽く首を左右に振って水気を飛ばす。
そうこうしていれば、獄寺に抱き上げられて運ばれてくるの姿が目に入った。
何で、獄寺がを抱き上げてる訳……理由は分かってるけど、かなりムカつくんだけど
「ツナ、ハルちゃん大丈夫?!」
「ああ、大丈夫だよ。って、なんで獄寺がを抱き上げてきての?」
オレ達の前に着てから獄寺に下ろしてもらったが、心配そうに質問してくる。
そんなにニッコリと笑って返して、オレは後ろに居る獄寺に質問。
「いや、あの、ここに、その」
俺の質問に、獄寺がしどろもどろになるけど、何が言いたいのか分からないんだけど
「俺の足を心配して連れて来てくれたんだよ」
「うん、分かってるよ、」
そんな獄寺に代わってが説明するように返してくれたそんれに、オレはニッコリと笑顔で返した。
だけどね、分かっていても、ムカつくモノはムカつくんだよ。
「ありがとーございました…」
意味が分からないというように首を傾げながらも、は持っていたタオルを彼女の頭に乗せる。
からタオルを貰ったその子は、小さくお礼を言う声が聞こえて来た。
「ったく、反省してんのか?10代目にもしものことがあたら、おめーこの世に存在しねーんだからな」
オレは獄寺から渡されたタオルを持って、濡れた髪を拭く。
本当に、迷惑以外の何者でもないんだけど……
もしもに何かあったとしたら、オレは彼女を絶対に許さないだろう。
「ザバーンって、私のために飛び込んでくれた10代目、すっごく素敵でした」
チラリとに視線を向ければ、何処か小さく震えているのに気付く。
不安そうな表情で自分を見詰めてくるに、不思議に思って声を掛けようとした瞬間、聞こえて来たその声にうんざりとしてしまった。
「さっきからドキドキしてムネが…っ」
きっと反省などしていないだろう少女は、胸を押さえながら小さく震えている。
「ハルは、あなたに惚れたもようです」
そして、真っ直ぐにオレを見詰めてくる視線。
それは、イヤと言うほど知っている視線だ。
でも、オレが欲しい視線じゃない。
いや、その視線を向けて欲しい人は、たった一人だけ……
「君、確かリボーンのことが好きなんだろう?」
「今は、あなたにギュっとしてもらいたい気分です」
また自分の事を抱き締めるように言われたそれに、複雑な視線を向けてしまう。
昨日の今日で、本気で迷惑な話なんだけど……
「悪いけど、オレには誰よりも好きな人が居るから……」
だからこそ、相手にははっきりと返事をする。
期待なんて持たせない。だって、オレが好きなのは、世界でただ一人の相手だから……
その人意外に好かれても、意味はない。だからこそ、相手を傷付けても、何とも思わない。
「それに、オレが君を助けたのは、に無茶なことさせたくなかったからだしね」
ねぇ。気付いて欲しい。
この気持ちを、君に……
視線を向けた相手は、俯いていた顔を上げる。
その視線が、オレと綺麗に合わさった。
不安気に自分を見詰めてくるその瞳に、ただ笑顔を見せる。
「それでも、ハルは諦めませんから!!」
だけど、彼女はそんな事ぐらいで諦めてくれるような簡単な相手じゃなかった。
それだけで、諦めてくれれば、本気で助かったんだけど、ね。
それから勿論、直ぐに家に帰った。
学校?そんなモノサボったに決まってる。
だって、しっかりと無茶な事をしようとしたを叱るって言う仕事が待ってるんだからね。