迷惑以外の何者でもない。
何であんな奴が一緒に住むことになってるんだ?
絶対に許さない。
だって、あいつは、を間違って殺しそうになった奴なのだから……
休みの日。
何時ものように起きて朝ご飯を食べてから自分の部屋に戻ると、日本の夏を満喫しているリボーンの姿があった。
別にどうでもいいとは思うんだけど、何で人の部屋で寛いでるんだ、こいつは!!
「あなたの分もあるわよ、ボンゴレ」
複雑な気持ちで、素麺を食べているリボーンを見る。
その瞬間、後ろに気配を感じて振り返れば、もう二度と会いたくない奴がそこに居た。
「かっ食らって」
その手には、怪しいとしかいえない素麺。
「ビアンキ!!何で、お前がここに居るんだよ!!」
正直会いたくなかった相手に、知らず殺気を放つ。
「愛のためよ」
「仕事のためだぞ」
オレの殺気をサラリと流して、質問となってしまった言葉にビアンキとリボーンが同時に答える。
って、こいつ等言ってる事が全然違うぞ。
「リボーンは、私が居なくっちゃダメなのよ」
「お前の家庭教師を一部ビアンキにたのもーと思ってな」
しおらしく言われるビアンキの言葉と、全く違う内容のリボーンの言葉。
本気でこいつ等、全く会話が噛み合ってないないぞ。
「何が家庭教師だ!お前だってロクに何もしてないくせに!それに、この女はを間違って殺そうとするような奴なんだぞ!!」
だけど、聞き捨てならない言葉に食って掛かる。
こいつがを間違って殺そうとしたのは、昨日の事なのだ。
忘れもしない。
だって、もしも、がそれを口にしていたら……
考えるだけで、冷たい汗が背中を流れる。
もしも、そうなっていたら、オレは絶対に目の前の相手を許せなかっただろう。
今でだって、本当は許せていないと言うのに
「フフ、まだ子供ね。いつまでもそんなことにこだわるなんて」
オレの文句の言葉に、ビアンキがバカにするように笑う。
それにギッと視線を向ければ、綺麗な微笑が向けられた。
「今、開発しているのは、ポイズンクッキングUなの。殺傷力2倍!」
「なおさら、許せるわけないだろう!!」
そんな危険な奴を、の傍に置いておく事なんて出来るはずがない。
「私がうけもつのは家庭科と美術よ。今日は家庭科自習をするわ。先に台所に行って準備してくるわね」
自分の言いたい事を言うと、ビアンキは部屋から出て行く。
それを見送って、オレはまだ素麺を食している赤ん坊を睨み付けた。
「何時、あいつを家に入れたんだよ!」
「昨日の夜だぞ。とママンにはちゃんと説明してあるから気にするな」
オレの凄みをキかせた質問に、サラリとリボーンが言葉を返してくる。
「って、あいつをに会わせたのか?!」
「ビアンキが直接謝りたいといったからな」
間違いで殺しそうになった事を謝りたい?!
普通なら、謝って許せるような内容じゃないだろう。
「ダメはすんなにと許してたぞ」
だけど、の性格は普通じゃないとオレもちゃんと分かっていた。
だから、続けて言われたりボーンの言葉に、ただただ盛大なため息をつくことしか出来ない。
「10代目〜〜〜っ!」
盛大なため息をついた瞬間、聞こえて来た声に更に深いため息が出てしまう。
どうして厄介ごとは、次々と来るんだろう。
そう正直に思っても許されるだろうか?
流石に何時までも待たせる訳にもいかないので、階下へと降りれば玄関に見知った姿を見つけた。
「獄寺、どうかしたの?」
その手に持っているスイカが余りにもミスマッチと言うか、妙に嵌っていると言うか……
「このスイカ、一緒にどーすっか、めちゃくちゃ甘いらしいんスよ!」
オレの質問に、持っていたスイカを持ち上げて嬉しそうに話す獄寺に、羨ましくなってくる。
どうしてこうも、タイミングが悪いというか、イイと言うか……
「ありがたいんだけど、今ちょっと立て込んでるんだ」
そんな獄寺に、当たり障りのない断りの常套手段を口にすれば、ギラリと獄寺の目が光る。
「トラブルっスね。なんならオレがカタをつけますよ」
そして当然のように返される言葉。
確かに、トラブルといえばトラブルだ。
あんな女をの傍に置いておく事なんて、出来ない。
今すぐにでも、追い出したいのだから
それには、役に立たないとしても目の前の相手の力を借りるのも一挙だろう。
「そうだね、お願いしようかな……実は」
そう考えて話をしようとした瞬間、獄寺の手からスイカが滑り落ち、玄関に落ちてグシャリとその原型を崩した。
「あーあ、折角のスイカが……」
スイカに未練がある訳じゃないけど、もう既に夏バテ気味のに食べさせたかったのに
などと考えている中、獄寺の様子が可笑しい事に漸く気付いた。
「…あ…」
言葉にならない事をポツリと呟いて、信じられないモノでも見たというようにその瞳が見開かれる。
「アネキ!!!」
そして、顔色が見る見る悪くなるのが傍から見ていても良く分かった。
銜えていたタバコが、ポロリと落ちる。
「え」
アネキ?
言われた言葉に意味が分からずに後ろへと視線を向ければ、ボールと泡だて器を手に持ったビアンキとその隣にはまだまだ夏を満喫中のリボーンがアイスを片手に立っていた。
「隼人」
そして、ビアンキの口から、獄寺の名前が呼ばれる。
って、こいつ等姉弟だったのか?!
……何て迷惑な姉弟
と、現状を納得したところで、ガクリと獄寺がその場で体を抱えるように両膝を付く。
そして明らかに、体調不良を訴える様子を見てるので、声を掛けようとした瞬間
「失礼します!!」
開いているドアから獄寺が走り去ってしまった。
その顔色は、真っ青で本気で大丈夫なのかと心配してしまうぐらいだ。
「い、一体、何が……」
「いつもあーなのよ、変な子」
余りなことに流石に現状を把握できなかったオレがポツリと呟けば、呆れたようにビアンキがため息をつく。
そしてしみじみと言われた言葉に、今の行動が初めてではないことだけは理解できた。
「獄寺とビアンキは腹違いの姉弟だぞ」
何も言えないオレに、リボーンがアイスを食いながら説明するように呟かれた内容に、ただただ深いため息をつき先ほど飛び出していった人物を探す為に靴を履き暑い外へと飛び出す。
あいつをから引き離す為には、姉弟だと言う獄寺から情報を貰った方が確実に行動を移せると考えた自分の頭が憎らしい。
そう言えば、今日はまだに一度も会ってないんだけど、きっとまだ寝てるんだろうなぁ……なんて考えながら、もう一度ため息をついた。
「獄寺!」
近所の神社で、漸くその姿を見つけて名前を呼ぶ。
肩で息をして居る状況から見ても、体調は最悪らしい。
しかも、良く見るとフルフルと体が震えているのが分かる。
「大丈夫か?」
「アネキとは、8歳まで一緒に住んでいました」
そんな姿が余りにも哀れで質問すれば、行き成り獄寺が語りだす。
淡々と語られる内容は、なんと言うか哀れとしか言えないような内容だった。
すなわち、ビアンキのポイズンクッキングの犠牲者第一号は、獄寺だという事になる。
そして、その恐怖が体に染み付いて、ビアンキへの拒絶反応が出ると……本当に、哀れとしか言えない内容だ。
「分かってた事だけど、強烈な姉だね……」
「ええ、大嫌いです」
思わずもれてしまった俺の言葉に、獄寺がキッパリと言葉を口にする。
まぁ、そりゃそうだろう。そんな過去があれば、誰でも嫌いになるに決まってる。
「オレは、アネキに近づけません。10代目…アネキをこの町から追い出してもらえないでしょうか」
そして真剣な顔で申し出されたそれは、自分にとっても願ってもない言葉だ。
「オレとしても、あいつをこのまま家に置いて置きたくないからね……いいよ、利害が一致してるから、協力するよ」
「なら!作戦があります!」
獄寺の作戦は、とんでもない内容だった。
いわく、ビアンキはリボーンに惚れる前にめろめろだった男がいたらしい、その男が事故で死んでしまったから、いまだにビアンキはその男を忘れられないのだと……
「そこで、その元彼そっくりな奴を探すんです!アネキをそいつに会わせれば、地の果てまでそいつを追いかけるはずです」
「……期待しただけバカを見るって言うのは、こう言う事を言うんだろうね……」
そんな途方もない作戦に乗れるわけがない。
まず、元彼似の奴を探す事から始めなければいけないなどと、時間の無駄だ。
「これが元彼の写真です」
盛大なため息をついて、踵を返そうとした瞬間見せられた写真に目を見開く。
そこに写されていたのは、最近会いたくもないのに良く見かける姿と良く似た男に抱き付いているビアンキの姿。
元彼似を探さなくってもいいと言うのなら、もしかしたらこの作戦上手く行くかもしれない。
「ああ、こんな奴なら十分見たことあるね」
「本当ですか?!さすが、10代目です!!なら、きっと作戦は成功しますよ!!」
力強く言われた言葉に、複雑な表情をするのは止められない。
果たして、そんな上手くいくのだろうか??
獄寺と別れて家に戻る。
キッチンを見れば、ビアンキとの姿が見えた。
今は、二人っきりの状態になっているみたいで、正直このまま引き離した方がいいかもと考えたがこれからの作戦を考えると行動を起こすことは出来ない。
こっそりと、二人に気付かれないように自分の部屋に向かう。
自分の部屋で我が物顔で寝ていた子牛の姿を、思い浮かべて小さくため息をついた。
部屋を覗けば、いまだに寝ている子供の姿。
「ランボ、おきろ!」
獄寺の作戦では、姿を見せるのは一瞬でもいいと言う。
その姿を求めて、ビアンキが出て行ってくれれば作戦は成功。
「ん?」
オレに揺り起こされて、ランボが目を覚ます。
「なぁ、10年バズーカで、10年後のランボを呼んでくれないか?」
眠そうに目をこすっているランボへ、オレから初めてのお願い事。
まぁ、もう二度としないとは思うんだけど
「ラ…ランボは、10年バズーカなんか撃ったことないぞ!」
だけど目の前の相手は、オレのその言葉に挙動不審な行動を見せる。
「10年バズーカはボクに使っちゃダメだって言われてるんだもん。ラ…ランボが撃つわけないじゃん」
って、明らかにキョロキョロト目が泳いでるのは、誰から見ても嘘を付いていると分かるような内容。
まぁ、確かにボスに止められているモノを使っているのだから、その気持ちは分からなくもないが、明らかに行動が可笑しいだろう。
誤魔化せてもいない。
もっとも、5歳児なら仕方ないのか?
「ランボ寝るから、あっちいってて」
手でしっしと人の事を追い払うようにごろんとその場に寝転んだランボに、盛大なため息をつく。
どうやら、こいつに頼んでも無駄のようだ。
だったら、何時ものように問答無用で使える状況を作る方が早そうだ。
偶然視界に入った庭に、自分が考えた相手が居るのが見えて、小さく息を吐き出す。
こっちは、どう考えても一筋縄ではいかない相手だけど……
そう考えながら、リビングへと足を向ける。
人ん家の庭でビニールプールで水浴びしているリボーンに、複雑な表情をしてしまうのは止められない。
こいつ、本気で日本の夏を満喫しまくってるよな。
「リボーン、頼みがあるんだけど」
タオルで濡れた体を拭いているリボーンへと声を掛ける。
「軽くランボの相手をしてやってくれないか?」
「ヤだ」
下手に出ながらの頼み後とは、考える暇もなく却下。
そして、手に持っていたカメレオンのレオンがサングラスに変形する。
「言ったはずだ。オレは、格下は相手にしねーんだ」
そのサングラスをかけながら言われた言葉は、前にも聞かされた内容。
しかも、しっかりとポーズを決めているのは、拘りがあるからなのか?
「ガハハハハ、そー言ってられるのも今のうちだぞ、リボーン」
複雑な気持ちで見詰めている中、突然上から聞こえて来た声に顔を上げる。
「ランボさんは、この二階から勇気を出して飛びおりちゃうもんね!」
って、こいつ何時の間に屋根の上なんかに……
しかも、自分から向かってきてるし……
「死ね、リボーンッ!!ボスに送ってもらったスタンガンでビリビリとな!」
右手にスタンガンを持って、そのまま屋上から飛び下りる。
しっかりとそのスタンガンを発動させなが……
そして、そのままリボーンが楽しんでいたんだろうビニールプールの中に、綺麗に落ちた。
勿論、持っていたスタンガンの為に水に落ちたせいで、自分が感電する羽目に陥っているのは、ただのバカとしか言えないけど
だがそのお陰で、こちらの望むべき行動を起こしてくれる。
泣き出したランボは、10年バスーカを自分に向けて撃つ。
ボワンと言う音共に、姿を現したのは10年後ランボ。
「やれやれ、なぜオレに水がしたたってるんだ?」
プールに浸かったままの状態で、現状を把握できてないランボは、複雑な表情で呟いて頭に手を当てる。
望んでいた人物を前に、オレは声を張り上げた。
「ビアンキちょっと来てくれる?」
今頃、まだと話しているだろうキッチンに居るビアンキを呼ぶ。
暫く待てば、直ぐにビアンキがリビングへと顔を見せた。
勿論、その後ろにはも一緒。
「ムリヤリやらすのはキライだけど、そろそろ家庭教師はじめるわよ」
明らかに怪しいとしか言えないモノを片手に持って、姿を見せたビアンキに一瞬眉間に皺が寄るのは止められない。
そんな怪しいモノを持って、の傍に居る事さえ許せない。
オレに料理を教えるつもりらしいビアンキは、声を掛けてきた瞬間ランボを見て一瞬驚きに瞳を見開く。
「ロメオ!!」
そして呼ばれた名前に、しっかりと元彼と間違えているのだと分かって口端が上がるのを止められない。
「ロメオ!生きてたのね!」
更に嬉しそうにランボへと走り寄るビアンキの姿に、後ろに居たが慌てたように声を上げた。
「ランボくん、避けて!!」
だけど、のそれは理解できなかったようで、意味が分からないというように呆然そしているランボ。
「ロメオ〜〜〜〜!!!」
名前を呼びながら、走り寄ったビアンキは、次の瞬間
「ポイズンクッキングU――!!!」
ぐしゃっと言う音と共に、ビアンキは持っていたそれをランボの顔目掛けて叩き付けた。
その勢いに負けたのか、ランボの体がビニールプールに倒れこむ。
「ビアンキと元彼は別れる直前、とても険悪だったらしいぞ。よく元彼を思い出しては腹立ててたからな」
作戦が失敗してしまった事が分かって肩を落とした瞬間、リボーンがこうなった原因を説明してくれた。
って、獄寺の話と違うんじゃないのか?
その話が本当だというのなら、最初から、この作戦は無駄だったという事。
「が…ま…ん」
ビアンキのポイズンクッキングをまともに食らたらしいランボは、何時もの言葉を口にしたまま気を失ってしまう。
何時もなら、泣き出すというのに、今回はその気力さえないという事。
それだけ、ビアンキのポズンクッキングの威力は確かなのだろう。
「ランボくん!!」
「10年後の医療なら助かるかもな」
気を失ったのだろうランボに、が慌てて走り寄ろうとするのが分かって、小さくため息をつく。
が慌てても仕方ないのに
の声に続いて、リボーンがシミジミと口にした内容に、更にポイズンクッキングの威力の恐ろしさが理解できた。
「、多分ランボは大丈夫だからそんなに慌てなくってもいいよ。殺しても死なないからこいつの場合」
まぁ、それでもあいつが死ぬ事はないだろうと分かっているので、慌てる必要はない。
むしろ、くたばってくれた方が、未来のオレには好都合かもしれないだろう。
「で、でも……」
「ランボには気の毒な事したけど、役には立たなかったな」
を安心させるように言ったその言葉でも、納得できないのかが不安気な瞳で見上げてくる。
それに、オレは小さくため息をついて本音を零してしまった。
「ツ、ツナ……」
「ああ、勿論知ってたよ」
オレの呟きを聞いたが恐る恐るオレの名前を呼ぶのに、その意図を悟って素直に頷く。
「し、知ってたって!!!」
「ビアンキね、獄寺の姉弟みたいだよ」
信じられないというように口を開くに、オレは事の顛末を話して聞かせる。
それに、が一瞬驚いたような表情を見せたって事は、まだ知らなかったようだ。
「って、そうじゃなくって!」
「ほら、5分経ったから大丈夫だって」
だけど、それだけでは納得できないというように言われたそれに、現実を教えれば素直に視線をランボへと向ける。
それは確かで、10年後ランボの姿は消えて、煩い5歳児のランボが戻ってきた。
「……本当に、大丈夫なのかな……」
「が心配する事じゃないよ。それにしもて、あいつをどうやって追い出すか……」
「ツナ?」
「だって、を間違って殺そうとした奴なんだよ!そんな奴と一緒に暮らせる訳ないじゃない!!」
それでも、まだランボを心配するに、オレは安心させるように返して、今は一番の問題を口にする。
このままじゃ、あいつが居座ってしまう。
を殺そうとしたような奴を、家に置いておくのは許せない。
「大丈夫だよ、ビアンキさん悪い人じゃないし」
オレの呟きに、がニッコリと言った言葉に毒気が抜かれてしまう。
そんな言葉を聞きたかった訳じゃない。
君は、どうしてそんなにも無防備でいられるの?
そして、どんな相手でも簡単に受け入れてしまう。
「……にかかれば、誰だって悪い人にならないんだろうね……」
君に掛かってしまえば、悪い人は居ない。
だって、君はどんな人でも当然のように受け入れてしまえるのだから……
次の日、獄寺に一応結果を報告すれば、今思い出したというように元彼の死因を口にした。
それを先に聞いていれば、もっとまともな作戦を考え付く事も出来たかもしれないのに……
やっぱり、獄寺を当てにした自分がバカだったとしか言えない。