山本が、ファミリーに入ろうがどうしようとハッキリ言って興味ない。
オレは、君だけが傷付かなければ、それだけで十分なのだから……
「本当に、大丈夫?オレが行ってもいいんだよ」
起きて来たに母さんが買い物を頼むのを聞いて、思わずそれを変わると言えば笑って『大丈夫だ』と返された。
「大丈夫だよ、そんなに荷物もないし、俺でも十分行けるから!」
ニコニコと笑顔で言われてしまうと、何も言う事が出来ない。
どうして母さんもに頼むんだろう、オレに頼めばこんな心配しなくっても良かったのに……
玄関でその後姿を見送りながら、不安は拭えない。
この頃、否応無しでも自分の周りが賑やかになってきている事を自覚しているだけにを一人で行かせてしまった事を後悔してしまう。
「そんなに心配なら見に行ってもいいのよ」
そわそわと時計を確認していたオレに、母さんが笑いながら声を掛けてくる。
「まだ出て行ってそんなに時間が経ってる訳じゃないし……」
「そうね、何時ものスーパーにお買い物に行ってるんだから、行き帰り30分も掛からないわね」
言い訳のように口にしたその言葉に、母さんがチラリと時計を確認して頷く。
もっとも、30分も掛かるのはの足だからだ。
オレが行けばその半分も掛からないだろう。
「何でに買い物行かせるかな」
「だって、目の前に居たのがちゃんだったんだから仕方ないでしょ」
炎天下の中、30分も掛けてスーパーに行くなんて、本気で心配なんだけど
そうじゃなくっても、は体力もないって言うのに
暢気な母さんに文句を言えば、サラリと返事を返された。
って、目の前にはオレも居たんですけど……
「おい、ツナ」
「何だよ」
心の中でブツブツと文句を言っていたオレは、名前を呼ばれて不機嫌な声で返事を返す。
「厄介な奴がこの町に来てるらしい」
「厄介な奴?」
不機嫌なオレの返事は全く気にした様子も無く、完結に言われた言葉にピクリと反応して聞き返した。
「ダメが危ねぇかもしれねぇぞ」
聞き返したオレに続けて言われた言葉で、椅子から立ち上がってそのまま玄関へと急ぐ。
「あら?結局迎えに行くのね」
なんて、母さんの暢気な声が聞こえてきたけど、それは無視。
ああ、やっぱりに行かせるべきじゃなかったと反省しながら、多分もうそろそろ買い物が終わって戻って来ているだろうを探すべくスーパーまでの道のりをただ急ぐ。
もうほぼスーパーの近くでぼんやりと突っ立っているを見付ける事が出来た。
立ち止まって、手に持っている缶を開けているようだ。
その缶を開けた瞬間、グラリとの体が揺らぐのが見えて、かなり焦った。
手に持っていた缶が、ゆっくりと道に落ちる。
「!」
崩れ落ちる体に気付いて、慌ててに走り寄った。
そして慌ててを抱き止めて気付いたのは、辺りに漂う異臭。
「毒?」
明らかに異様なその匂いに顔を顰めて、少しだけ顔を赤くしているをそのまま抱き上げて急いでその場所を離れた。
ああ、やっぱるに行かせるべきじゃなかったと、再度後悔してももう遅い。
「で、お前は何やってるんだ?」
を連れ帰ってからベッドに寝かせ、カブトムシを体中に貼り付けている相手へと声を掛ける。
「情報収集だぞ」
オレの質問に簡潔に答えるリボーンに、盛大なため息をついても仕方ないだろう。
「で、誰なの」
「……毒サソリのビアンキ。フリーの殺し屋だ」
が倒れる前に、開けていた缶ジュース。それが、毒だったのは間違いない。
が倒れた理由は半分以上、あのジュースが原因だ。
もっとも、その前のはただの軽い日射病。
「そう、分かってるよね?に手を出せたのなら、容赦しない」
「……もうちょっと待て、まだ目的がハッキリしてねぇからな」
の額に冷たい水で冷やしたタオルを乗せながら、殺気を込めてリボーンへと口を開く。
そうすれば、少しだけ考えてから静止の言葉を返してきた。
「待て?冗談じゃないよ。に手を出した以上は、敵だろうが味方だろうが許さない」
「……少し落ち着け。取り合えず、ダメから情報を貰う方が大事だろうが」
オレを落ち着かせようと言われたその言葉と同時に、リボーンの視線がへと向けられる。
オレもその視線に沿って、を見た。
少しだけ赤い顔をして眠っているを見て、小さく息を吐き出す。
「……今は、従ってやるよ。でも、同じ事がもう一度でもあったら許さない」
ギラリとリボーンを一睨みして、水だけしか入れて来なかった桶を持っての部屋を出る。
そうでもしなければ、本気で自分を抑える事が出来そうもなかったから
持っていた桶に水と氷を入れての部屋に戻ると、もう既に気が付いたがベッドに上半身を起こしている状態だった。
「、気が付いたの?」
そんなの姿を見て、ホッと息を吐き出す。
安心して、に声を掛ければ、不思議そうな表情で見られた。
きっと、何が起こったのか理解していないんだろう。
「起きたんなら、首の後ろをタオルで冷やして、熱中症じゃなくってちょっと逆上せたのとあのジュースが問題だっただけだから、そんなに大した事はないと思うんだけど、ダメだよ!あんな道の真ん中でぼんやりと突っ立ってるなんて!あんまり遅いから様子見に行ったら案の定倒れてるし……せめて帽子を持っていくとか、日陰に入るとかしてよ」
状況を理解していないに、半分本当の事を隠して事実を話す。
そうすれば、納得したのかが何度か頷いた。
「う〜っ、ごめんなさい」
「謝らなくってもいいから、次から気を付けてよ」
オレの言葉に申し訳なさそうに謝るにため息をついて気を付けるように言えば、再度何度もコクコクと頷いて返してくる。
起き抜けにそんなに頭を振るのは、あんまり感心しないんだけど
呆れながらを見ている中、玄関の呼び出しのチャイムが鳴り響いた。
「イタリアンピザでーす」
そして、その後に聞こえて来た声にピクリと反応してしまう。
家が宅配を頼む事はまずない。
料理好きの母さんが、何でも自分で作るからだ。
だからこそ、宅配の届け物だというのがまずありえない。
「母さんがピザ頼んだの?」
「あの母さんがピザなんて頼むと思う?」
珍しいと言うようにが質問してくるのに、逆に質問で返す。
だって、あの母さんが宅配モノを頼むとは思えない。
まぁ、お寿司なら有り得なくも無いかもしれないけど……
ピザなんて、まず頼む事はないと断言できる。
「リボーン!」
「……分かってるぞ」
「は、ここを動かないでよ」
だからこそ、この宅配こそがに毒を渡した張本人だと理解して、リボーンへと声を掛ければ複雑な表情で頷かれた。
先の今で良く家に来れるよね。
もっとも、こっちから探す手間が省けて助かるんだけど
訳が分かっていないにしっかりと釘を刺せば、コクリと頷いてオレが渡したタオルを首の後ろに当てている。
それを確認して、リボーンと共にの部屋を出る。
玄関に向かえば、迎え入れてもいないのに、どう見てもピザ屋の店員に見えない女の人が立っていた。
「ふーん、君がビアンキ?」
「私の事を知っているの?!」
片手にピザの箱を持っているその相手へと質問するように名前を言えば、驚いたように聞き返してくる。
その瞬間、一発の銃声。それと共に持っていたピザの箱が吹き飛ばされた。
「ちゃおっス、ビアンキ」
「リボーン」
自分の持っていたそれを打ち落とされたのにも拘らず、ビアンキと呼ばれた女性はリボーンの姿を見て嬉しそうな表情を見せる。
「むかえにきたんだよ、また一緒に大きい仕事しよ、リボーン」
そして、フルフルと震えながら、涙を流し訴えてくる彼女にオレは意味が分からず思わずリボーンへと視線を向けた。
どう考えても、他人とは思えないような台詞だ。
「言ったはずだぞ、ビアンキ。オレにはツナ達を育てる仕事があるからムリだ」
オレが視線を向けても全く無視の状態で、リボーンがビアンキに向けてきっぱりと言葉を返した。
いや、オレとしては、さっさと連れ帰ってくれる方が有難いんだけど
「………かわいそーなり、ボーン」
だがきっぱりとリボーンに言われたビアンキは、グスリと涙を拭いながらチラリとオレに視線を向けてきた。
「この10代目が不慮の事故かなにかで死なない限り、リボーンは自由の身になれないってことだよね」
「……何言ってるの?だから、に毒のジュース渡したって言うなら、オレもお前を許さないよ」
泣きながら理不尽な事を言う相手に、オレは殺気を隠しもせずに相手を睨み付ける。
「…………あの子には手を出すつもりは無いわ。私の狙いはあくまでもあなただけよ、沢田綱吉」
オレの殺気に少しだけ驚いたように瞳を見開いて、当然と言うように返事を返してきた。
「なら、何でに毒入りジュースを渡したんだ!」
「……あの子が毒入りジュースを持っていたと言うなら、間違えて渡したのよ!あんな可愛い子を殺すわけないでしょ!!」
再度質問するように言えば、きっぱりと返される。
どうやら、それは本気らしい。
「嘘は言ってないみてぇだな」
「当たり前よ!とりあえず帰るね、10代目をころ…10代目が死んじゃったらまた迎えにくる……それから、あの子に謝っておいて頂戴、本当に悪気があった訳じゃないのよ」
「悪気無く殺されかけるなんて、冗談じゃないよ」
「良かった、その口調から考えると無事なようね。本当に、ごめんなさい」
言いたい事だけ言って、呆気なく家から出て行くその後姿を見送って、盛大なため息をついてしまう。
間違って殺されかけるなんて、冗談じゃないんだけど
「結局、何だったの?」
の部屋に戻った瞬間、質問されて思わずもう一度盛大なため息をついてしまうのを止められない。
「来ていたのは、毒サソリ・ビアンキっていうフリーの殺し屋だ。あいつの得意技は毒入りの食い物を食わすポイズンクッキングだ」
「毒?もしかして、俺が貰ったジュースって……」
「そのまさかだよ。が貰ったのは毒ジュース。だから、その匂いを嗅いで意識を失ったんだよ」
盛大なため息をついたオレに代わって、リボーンが説明をする。
それにオレは、頭を抱え込みながら本当の事を教えた。
オレの言葉に、が不安気な表情を見せる。
そして、次に不思議そうに首をかしげたそんなを前に、オレは再度ため息をつく。
「は、間違って殺されそうになっただけだから、命を狙われる事はもうないと思うよ」
「えっ?」
「オレに渡そうと思っていたジュースを間違ってに渡したらしい。それに気が付いて慌ててたみたいだね。ちゃんとが無事だって言ったら、ホッとしてたよ」
まぁ、ちょっと違うけど、本気で焦っていたのは本当の事だ。
謝ってくれと言われたたけど、伝えるつもりは全くない。
間違いでを危険な目に合わせるような相手の言葉なんて、伝えたくもないと言うものだ。
「何で、そんなことになってるの?!」
「ビアンキはオレにゾッコンだからな。お前達の家庭教師の仕事をしているのが気にいらねぇんだ。だから、生徒であるツナの事を殺そうとしてるんだぞ」
説明したオレの言葉に、が信じられないというような声を上げる。
それに、リボーンが淡々と説明した。
ああ、だからあんなに親しそうだった訳だ。
それは、オレも知らなかったの妙に納得する。
「つきあっていたこともあるしな」
そして、最後にサラリと爆弾発言。
……そう言う事か…
そこで、漸くリボーンに執着する理由が良く分かった。
「えっと、それって、ビアンキさんって言う人がリボーンの彼女だったって事?」
「オレはモテモテだなんだぞ」
リボーンの言葉に信じられないというように質問するに、リボーンは当然と言うように言葉を返す。
モテモテだと言うのなら、迷惑にならないように付き合ってもらいたいものだ。
「ビアンキは愛人だ」
複雑な思いを隠しながらとリボーンの話を聞いている中、言われた愛人宣言。
しかも、4人目だと……
「迷惑な愛人だね」
本気で迷惑以外の何者でもない。
嫉妬深い相手程、厄介な者は居ないのだ。
これからの事を考えると、頭が痛くなる。
もっとも、また間違ってに手を出そうものなら、次は容赦するつもりなんてないけどね。
「おはよう、ツナくん、くん」
何時ものようにと二人で学校に向かっている中後ろから声を掛けられて振り返れば、笹川京子がニコニコと嬉しそうな表情を見せていた。
「おはよう、京子ちゃん」
「おはよう」
そんな笹川京子にがまず挨拶を返し、続いてオレも言葉を返せばニッコリと可愛らしく笑う。
「今日、家庭科おにぎり実習なんだー楽しみー」
ニコニコとの横に並んで言われた言葉に、オレとは同時に『へー』っと言葉を返した。
って、中学校の家庭科の授業でおにぎりって……小学生の実習並だよね。
「くんはクラスが違うから食べてもらえないけど、ツナくん食べてくれる?」
「そうだね、俺はクラス違うからなぁ……ツナ、俺の分もしっかりと食べてね」
そして続けて言われた言葉に、が少しだけ残念そうな表情をしてオレに声を掛けてきた。
「有難う、折角だからの分もしっかりと頂いとくよ」
本当は以外が作ったモノを貰うのは拒否したいんだけど、ここで断ったらが悲しむのが分かるから、曖昧な笑顔を見せて返事を返せばホッとしたような表情を見せる。
「有難う」
頷いたオレに、笹川京子がニッコリとお礼を言って学校までの道を一緒に向かう事になった。
その後ろで、ビアンキの気配を感じてしっかりと警戒する事は忘れない。
何を考えているのか知らないけど、取り合えずが居るところでは手を出して来ないみたいなのは、有難い。
「今日は、家庭科自習でつくったおにぎりを男子にくれてやるーっ」
昼休みの開始と共に自習室からおにぎりを両手に持って戻ってきた女子達が、訳の分からない事を言いながら教室に入ってきた。
それに、教室に居た男子達が喜びの声を上げる。
「変な行事スね」
そんな賑やかな教室に、獄寺が呆れたようにため息をつく。
確かに、変な行事だと思うのは同意見だ。と言うよりも、他人が作ったモノを何でそんなに欲しがるのかがオレには謎なんだけど
「ツナ、誰にもらうか決めたか」
ため息とついたオレに、山本がからかうように質問してくる。
貰うのを決めたって、誰からも貰いたくは無いんだけど
「……決めては無いけど、朝笹川京子から貰う約束はしてる」
喜んで貰う訳じゃないけど、約束は約束だ。
それに、の分もしっかりと食べるって約束したし……
そう思いながらため息をついた瞬間、気付いてしまった。ビアンキが笹川京子の後ろにこっそりと忍び寄り、事もあろうかその笹川京子の持っているおにぎりを明らかに怪しいおにぎりと交換しているところを
「あいつ……」
「ツナくん、食べてくれる?」
どうやら朝の話を聞いていたのだろう、しっかりと自分を狙っているのが分かって複雑な表情をした瞬間、笹川京子に話し掛けたれた。
その手には怪しいおにぎりを持って……
って、明らかに怪しいそれに気付かないのは何でだろう?
「えっ、あ、ああ……」
「あ、それとも、シャケ嫌いだった?」
どうしたものかと考えて曖昧に返事を返したオレに、笹川京子がシュンとした表情で質問してくる。
って、この子を悲しませたと知ったら、をも悲しませる事になる!
だからと言って、これを食べたら流石に命は無い。
内容が内容だから、説明すればは納得するだろうけど、だからと言って悲しまない訳じゃないから……
「10代目が食わないんなら、オレもらっちゃいますよ」
「そーだな、獄寺」
葛藤している中、獄寺と山本が左右からその明らかに怪しいおにぎりに手を伸ばす。
「いただくぜ」
「どうぞ」
そんな二人に、笹川京子はニッコリと笑顔でおにぎりを差し出した。
当然のように、二人は笹川京子のおにぎりを手にとって、躊躇いもせずに口を開いてそれを食べようとするのに、かなり焦る。
「食べたら、死ぬぞ!!」
後少しで口に入るそれを、慌てて弾き飛ばす。
「!」
「ツナ?」
突然のオレの行動に驚いたように獄寺達が目を見開く、その瞬間オレは額と胃の辺りに熱を感じた。
それは、リボーンの撃つ死ぬ気弾。
「約束は守る」
弾き飛ばしたそれが床に落ちる前に、全てを口にする。
「……約束は、守ったからな」
「は、はい!」
しっかりと笹川京子のおにぎりを全部食べてから、口を開けば驚愕の表情で笹川京子が返事をした。
ああ、また死ぬ気弾を撃たれるとは思ってなかったんだけど……しかも、一回に2発も
お陰で、約束を破らなくってすんだ事は有難かったんだけど、その後笹川京子のおにぎりを誰にも渡さなかったオレに、またしても厄介な噂が流れた。
いわく、オレが言った『食べたら、死ぬぞ!』発言は、『笹川京子から貰ったおにぎりを食った奴は、ぶっ殺すぞ』と解釈されたらしい。
本当に、迷惑な話なんだけど
もっとも、今回はに誤解されなかった事だけが救いだ。