待っていたのにも関わらず、その日は戻ってこなかった。
突然病院から電話が掛かって来て、検査したい事があるからと急遽入院してもらうのだということらしい。
何で、そんな事になったのか分からないけど、様子を見に行くと言っても一日だけの入院なので必要ないとの事。
明らかに、何かが可笑しいと思う。
だけどそう思っても、自分には何も出来る事がないのが、苛立たしい。
ねぇ、一体君は何を隠していたの?
一人で登校するのが、こんなにも物足りないのだと初めて知った。
いつも、隣に大切な存在があったから……
ああ、一人じゃなかったっけ
「ダメツナ!早く行かねぇと遅刻すんぞ」
「何で、お前が来てるんだよ、リボーン!」
後ろから聞こえてきた声に、盛大なため息をついて振り返る。
「言ったはずだぞ、オレはおまえ達の家庭教師だってな」
「……馬鹿親父の知り合いって事になってるだろう、大体、おまえに教わることなんてないよ」
もう一度ため息をついて歩き出す。
別段遅刻とか気にしないから、どうでもいいんだけど、面倒な事には基本的に自分から係わりあいにはなりたくない。
ちょっとだけお節介なに付き合ってるから、そう見られないかもしれないけど、面倒臭がりである事はちゃんと自分でも認めている。
「ツナ!」
「山本?」
ダラダラと歩いていたオレに、誰かの声が掛けられて振り返れば、こんな時間には居ないはずの友人の姿を見付けて驚いてしまう。
「朝練は?」
「今日は休み。二度寝しちまったらこんな時間になってな……そう言うツナは一人なのか?」
「ああ、は病院」
「何かあったのか?」
自分の方に走り寄って来た山本を少し待ってから二人で歩き出し、疑問に思った事を質問すればそれに答えてから逆に質問される。
それに苦笑しながら、返事を返せば、驚いたように山本が心配そうに聞き返してきた。
まぁ、病院って言えば、心配するのが普通だろうけどね。
「検査入院だって……詳しい事は分からないけど……」
心配そうに質問してきた山本に素直にそう言えば安心したような表情で頷く。
「大した事ねぇならいいんだけど……昨日、の様子可笑しかったからな……」
昨日の事を思い出したのだろう山本の言葉に、オレはただ曖昧な表情で返した。
そう、昨日の様子が可笑しかった理由が、どうしても分からない。
本人に質問しようにも、相手が戻ってこない場合には、何も聞く事が出来ないから……
もしかして、その所為で何かあったのかと思うと、不安でたまらない。
「原因、分かってねーんだろう?」
再度質問してきた山本に、ただ頷いて返した。
そうする事しか、出来なかったから
そんなオレに、山本が困っているのが分かる。でも、オレは何も言えずにただ俯いて歩く事しか出来ない。
「ああ、そう言えば、今日転校生が来るって話しだぜ」
気まずい沈黙が続く中、思い出したというように山本が口を開く。
「転校生?こんな時期に??」
話を逸らしてくれたのだと分かる山本のその言葉に、漸く顔を上げて山本を見上げる。
この身長差が、恨めしいんだけど……
まぁ、救いなのは、よりも高い事だろうか……
「もう直ぐで夏休みになるのにな」
オレの質問に、同意するように山本が口を開く。
そう、後1ヶ月もせずに夏休みになると言うこの時期に転校してくるなんて、禄でもないない相手かもしれない。
オレ達がそんな話をしているのを、少し離れた場所でリボーンが聞いてニヤリと笑った事には、流石のオレでも気付く事は出来なかった。
「イタリアに留学していた、転入生の獄寺隼人君だ」
何とか遅刻しないギリギリの時間に教室に入ったオレ達が席に付いた瞬間、一人の男子生徒を連れて教室に入って来た先生が転校生の紹介をする。
言われた内容に、オレは思わず複雑な表情をしてしまった。
イタリアと言えば、リボーンの故郷と一緒。
周りの女子が、口々に転校生を褒めるような事を口走っているのを興味なく耳に入れながら、ただ転校生を見た。
見た瞬間、思いっきり睨まれたけど……
リボーンの故郷出身、更にオレの事を睨み付けているという事は、またボンゴレ関係者と考えて間違いないだろう。
「獄寺君の席はあそこの……獄寺君?」
そう考え付いた瞬間、転校生がつかつかとオレの方に向かって歩いてくる。
担任が慌てたように相手を呼ぶが、完全に無視。
そのままオレの前まで来た瞬間、ガツンと派手に人の机を蹴ってくれた。
たく、何してくれるんだろうね、本当……
机を蹴ってくれた相手は、何事もなかったように振り返って空いている席へとドカリと座った。
人の机を蹴ってくれた事で、周りの女子が反応してくれるけどそれを無視して、盛大なため息をつく。
本当に、ボンゴレだか何だか知らないけど、面倒だよね。
教室の中の女子は、オレ派と転校生派に見事に分かれたようだ。もっとも、そんな事、興味もないんだけど……
「おい沢田、おまえあいつの事知ってるのか?」
隣に居たクラスメートの男子が、ビクビクしながら質問してくる事に、『知らない』と返して、チラリと転校生を盗み見た。
……本当に、厄介な転校生みたいだ。
複雑な気持ちのまま、オレが今一番気になる事へと意識を切り替える。
どうせ、厄介事など、あの赤ん坊が来た時からずっと続いているのだ、今更一つ増えたぐらいでうろたえる必要はない。
結局は、に危害が行かないようにするだけだ。
あいつがボンゴレの関係者であったとしても、自分からは仕掛けるつもりはない。
誰が好き好んで面倒事に巻き込まれるんだか……
なら、間違いなく巻き込まれそうだけどね……
その日の昼休み、が学校に来ているのかを確認しようと1-Cクラスに向かっていたオレは殺気を感じて振り返った。
「先から、何かオレに用事でも?」
本当に、あからさまな殺気を人に向けないで貰いたいんだけど、うっとうしい。
「気付いてたのかよ……」
振り返ったオレに、転校生が少しだけ意外そうに呟く。
あれで気付かないと思う方が可笑しいと思うんだけど……
「けどな、オレはおまえを認めねぇ!10代目に相応しいのはこのオレだ!!」
「ねぇ、ここじゃ迷惑なんだけど、場所移動した方がいいんじゃない?」
10代目なんて興味もないんだけど、欲しいって言うのならノシ付けてあげるよ。
と、これぐらいは返したかったのだが、回りの生徒達の視線を一斉に浴びている状態で言える訳もなく、盛大なため息をついて場所移動を提供する。
「場所なんて関係ねぇ!オレと勝負しろ!!」
場所は関係あると思うんだけどね……ここでっ勝負したら、喜んで駆け付けて来る人が居るんだよ。
ああ、思い出したらムカ付いてきた。
「勝負、してあげるよ。ただし、暴れられる場所でね」
ムカムカしてくる気分のまま、自分でも声のトーンが下がったのが分かる。
オレの言葉に、転校生が何処か嬉しそうな表情をしたのが分かった。
ああ、何となくこいつが考えてた事が分かったんだけど……
考え付いた瞬間、一気にやる気が失せて来る。
このままボイコットしたらダメだよなぁ……
そんなことを考えながら、場所を移動した。
生徒が来ない場所へと移動してから、どうするかを考える。
面倒だから、このまま負けてしまおうか?
「ちゃおっス」
そんな事を考えた瞬間、聞こえてきたその声に視線を声の方へと向ける。
「リボーン!」
「思ったより早かったな、獄寺隼人」
声の主の名前を呼べば、相手は窓際のサッシの上に起用に立っていた。
そして、目深に被っていた帽子を少し上に上げて自分達を見てくる。
「やっぱり、おまえの知り合いなの?」
「ああ、オレがイタリアから呼んだファミリーの一員だ」
言われた言葉で、確信が持てた。
質問すると言うよりも確認するように口を開いたオレの言葉に、リボーンが予想通りの返事を返してくれる。
それに、オレは明らさまなため息をついた。
「まぁ、オレも会うのは初めてだけどな」
そんなオレに、リボーンがチラリと転校生を見る。
「あんたが、9代目がもっとも信頼する殺し屋リボーンか」
リボーンに見られた事で、転校生もその視線をまっすぐにリボーンへと向けた。
「沢田を殺れば、オレが10代目内定だというのはほんとうだろうな」
そして続けて言われたその内容に、ピクリとオレが反応してしまう。
「ああ、本当だぞ」
転校生の質問に、リボーンがサラリと言葉を返す。
どうやら、オレを倒せば10代目になれると言われてここに来たらしい。
だったら、オレが負ければ……
「綱吉、負ける事を考えてんな……けどな、おまえが負けたら、次に狙われるのは、ダメだぞ」
「なぁ!」
面倒事から開放されると考えたオレに、リボーンが口にしたその内容は十分オレを動かすきっかけを作ってくれた。
「……ダメが狙われねぇためには、おまえがあいつを止めるしかねぇんだぞ」
その言葉にチラリと転校生を見れば、タバコに火を点けている姿が目に入る。
こんな時に、タバコ?
「あいつの武器は、ダイナマイトだ」
疑問に思った瞬間、取り出されたのはダイナマイト。
って、なんでそんなモノ持ち歩いてるんだ、この転校生!!
「果てろ!!」
マフィアと言うのは、本当に厄介な相手だとそう思わずにはいられない。
転校生が声を上げた瞬間、持っていた爆弾にタバコで火を点け人に向けて投げてくれる。
それを全て見極めて避ければ、目の前に広がるのは爆音と煙。
「おい、ツナ!あんまり煩くしていると雲雀が来るぞ」
簡単に避けたオレに、リボーンがまた声を掛けてくる。
確かに、こんなに賑やかな音をさせれば、風紀が出てくるのは時間の問題だろう。
「爆音をさせずにあいつを止めやがれ!」
言われた瞬間、オレは額を打ち抜かれたのが分かった。
視界の端に見えたのは、にやりと笑ったリボーンの顔。
倒れると思った瞬間、体中を熱いモノが流れるのを感じた。
「死ぬ気で、おまえを止めるよ」
最後に感じるのは打たれた額に灯る炎。
そして、目の前の相手を何が何でも止めないといけないと言う使命感。
「おまえにオレが止められるかよ!」
言われた瞬間投げられるたくさんのダイナマイトをたまたまポケットに入れていた鋏を取り出して、その銅線を切り落としていく。
銅線を切られたダイナマイトは空しくポトポトと地面に落ちた。
「なっ!!」
「おまえ、何で鋏なんて持ってんだ?」
そんなオレの行動に驚いたような転校生の声と、感心しているのか呆れているのか分からないリボーンの声。
「なら、2倍ボム!」
それを何処か遠くに聞きながら、ただ転校生の次の行動を見守る。
取り出されたのは、先程の2倍もの爆弾。
それらをまた自分に向けて投げ付けてくるのを、先程と同じように全ての銅線を切り落とす。
切り落とした銅線は、全てオレが足で火を消しているから、他の爆弾に燃え移る事はもちろんない。
「3倍ボム!!!」
全ての爆弾の沈黙を確認した瞬間、次に取り出されたのは初めの3倍もの爆弾。本当に、何処に隠しているのか……
「無駄だよ」
「なっ!……しまっ」
すっと持っていた鋏を構えた瞬間、転校生が持っていた爆弾の一つを落としてしまう。
それに慌てた瞬間、持っていた爆弾が全て転校生の足元に落ちてしまった。
「ツナ、あいつを助けねぇと、弟に嫌われちまうぞ」
これで終わったと思った瞬間聞こえてきたその声に、考えるよりも先に体が動いてしまう。
気付いた時には、全ての爆弾の火を消し終わっていた。
「リボーン、人に何撃ち込んで……」
「御見それしました!!!あなたこそボスにふさわしい!!!」
額にと持っていた炎が消えたと同時に何時もの思考が戻ってきたそれに対して、リボーンに文句を言おうとした瞬間、転校生が土下座して大声を出す。
「10代目!!あなたについていきます!!なんなりと申しつけてください!!」
その声に驚いて振り返った瞬間続けて言われた言葉。
「はぁ?!」
土下座したままの状態で、キラキラした目を人に向けてくる。
こいつ、何言ってる訳?
「負けた奴が勝った奴の下につくのがファミリーの掟だ」
何を言い出したんだと口を開こうとした瞬間、リボーンが説明してくれる。
まったくもって、迷惑な掟だ。
「オレは最初から、10代目ボスになろうなんて大それたこと考えていません。ただ10代がオレと同い年の日本人だと知って、どーしても実力を試してみたかったんです……」
真剣に訴えてくる転校生に、オレは内心複雑な表情をしてしまう。
誰も、10代目になるつもりはないんだけど……
「でもあなたはオレの想像を超えていた!オレのために身を挺してくれたあなたに、オレの命預けます!」
「面倒だから、人の命は預かりたくないんだけど……大体、オレの命は、もう既に別な人に捧げてるし……」
余計なお荷物は欲しくない。
それがオレの考え。何よりも、目の前の人物はどう考えても、普通からは程遠いのだ。そんな奴をの傍に近付けさせたくはない。
「そーはいきません!」
オレの言葉に、ギラリと鋭い視線で見上げてくる転校生はそれなりに迫力があった。
もっとも、オレには怖いとは思えないけど
「下僕として使ってやれ、それがこいつの願いだぞ」
下僕ねぇ……役に立ちそうにないんだけど……
そんな失礼な事を考えて小さくため息をつく。
「いいよ。でも、オレに命を預けるなら、許可なく死ぬ事は許さない。それを肝に命じて置いて」
「了解いたしました!」
オレの諦めた返事に嬉しそうに転校生が返事を返してくる。
「ありゃりゃ、サボっちゃってるよ、こいつら」
余計なモノの命を預かったとそう再度ため息をついた瞬間聞こえてきた下品な声。
どうやら5時限目の授業が始まっているらしい。
「こりゃ、おしおきが必要だな」
「サボっていいのは3年からだぜ」
「何本、前歯折って欲し〜い?」
下品な笑い声と共に近付いて来たのは3年の不良連中。
本当に、下品なんだけど、大体3年からってそんなの誰が決めたんだか……
言われる馬鹿な内容の言葉に、盛大なため息を付いてしまうのは仕方ないだろう。
「オレに任せてください」
どうするべきかを考えていたオレの隣を転校生がすっと通り過ぎる。
言われた内容に顔を上げた瞬間見えたのは、両手にダイナマイトを持った転校生の姿。
「消してやら―」
止める気もなく、そんな転校生を見てもう一度ため息をつく。
本気で、面倒な相手が人の下についてくれたものだ……
−おまけ−
「おい、ツナ」
「何?」
「おまえなんで鋏なんて持ってんだ?」
結局の教室にいけなかったオレは、名前を呼ばれて不機嫌な声で振り返った。
その瞬間、質問してきたリボーンのそれに、ポケットに入れたままの鋏を取り出す。
「さぁ、気付いたら入ってたから、知らない」
「……んじゃ、何で獄寺に、『許可なく死ぬ事は許さない』なんて言ったんだ?おまえらしくねぇぞ」
何かじゃまだなぁと思ってたら、これが入ってたんだよね。無意識に入れたみたいだ。
お陰で、役には立ったけど
「そんなの簡単だよ。見殺しにしたら、に嫌われるからね!」
そして続けて質問してきたリボーンの言葉にきっぱりと返事を返す。
そうじゃなければ、誰が死のうが興味はない。
「……おまえの中心は、ダメで回ってるのか……」
「何を今更、リボーンは気付いてたからこそ、の名前を出したんでしょ?」
そうじゃなければ、オレは転校生を助ける気の欠片もなかったんだから
もっとも、そんな事転校生は知らないだろうけどね。