あの後、転校生に名前呼びして欲しいと切実に言われたが、それを何とか押し切って獄寺と呼ぶ事で納得してもらった。
たく、名前呼びは、大切な奴しか呼ばないんだけど、オレは……もちろん、その相手はだけ
それから、オレの荷物を運ぶのだと兎に角煩く付き纏ってくる獄寺を振り切って、家に帰った。
獄寺のお陰で、のクラスに行けなかったんだけど……
家に帰っても、はまだ戻って来てなくって、母さんに聞いても連絡無しだと言う。
普段のなら、連絡の一つも入れるというのに、それがないのは可笑しい。
イライラした気持ちで、が戻ってくるのを待つ。
「ツっくん、そんなにイライラするのは、体に悪いわよ。ちゃんも、直ぐに帰ってくると思うから、ちょっと落ち着いてお茶でも飲んで」
キッチンのテーブル椅子に座っているオレに、母さんがコーヒーを出してくれる。
その表情は、何時もの笑顔での事が心配じゃないんだろうか?
「母さんは、が心配じゃないの?!」
諭すように言われた母さんの言葉に、ちょっとだけ声を荒げて言えば、コロコロと楽しそうに笑う。
「あらだって、私が心配しなくっても、ツっくんが心配してくれているでしょ?それに、ツっくんは当然だけど、ちゃんの事だって母さんは信じているのよ、これでも」
ニコニコと笑いながら言われた言葉に、オレは肩の力を抜く。
確かに、信じる事は大切な事かもしれない。
オレだって、の事は信じてる。だけど、心配なのは、どうしようもないのだ。
「いいのよ、ツっくんはそのままで……心配なのは、大切だからよ」
「母さん」
内心で考えていた事をまるで読んだかのように言われたその言葉に、オレは少しだけ驚いてしまう。
滅多にそんな事を言わないのに
「あらでも、そうすると、私がちゃんを大切だと思ってないみたいね……」
ちょっとだけ感動していたオレに、母さんが少しだけ困ったように口を開く。
折角感動していたのに、やっぱりこの人は天然だと、そう思わずには居られない。
盛大なため息をついて気付くのは、の気配。
「が、戻って来たみたいだ」
「そう、良かったわ。ツっくんあんまりちゃんを怒っちゃダメよ」
それに気付いて、椅子から立ち上がり言ったオレの言葉に、母さんが言葉を返してくれる。それに、返事を返さずキッチンを出て玄関の前に立った。
「ただいま」
「お帰り、」
その瞬間ドアが開いてが入ってくる。
オレは腕組した状態で、そのへと返事を返す。
「……た、ただいま、ツナ」
何処か疲れたようなが、オレを見て恐る恐る返事を返してきた。
まぁ、実際その笑顔は微妙に引きつっているけど
「うん。で、何処に行ってたの?」
そんなの様子に気付いてはいるけど、気付かないフリをして質問。
「えっと…………病院に…」
「検査入院って言ってたけど、どんな無茶したの?!」
オレの質問に、が恐る恐ると言った様子で返事を返してくる。
上目使いで見上げてくるその顔は、すごく可愛いんだけど、これだけは聞かなきゃいけないと再度質問。
「それが………検査終わった後眠くなって、気が付いたらこんな時間に……検査の結果はね、問題なかったんだけど……」
オレの様子を伺いながら、必死でが言い訳のように口を開く。
だが、その様子で気付いてしまった。
が、本当の事を言ってないと言う事に……
本当に、嘘付くの下手だよね、は……
「……検査入院なんて言ってたから、また無茶したのかと思った………本当に、大丈夫なんだよね?」
「うん、俺は大丈夫だよ。そう言えば、リボーンから聞いたんだけど、ツナのクラスに転校生が入ったって………何もなかった?」
だけど、の顔からはそれを聞いて欲しくないという事が分かって、オレは自分の気持ちを落ち着けるようにこっそりとため息をついてから、再度問い返した。
それに、がコクリと頷いて返し、逆にオレに質問してくる。
心配そうなその視線から、獄寺の事を知っているのだと分かって、リボーンに対しての怒りが沸いてくる。
「…余計な事を……」
ボソリと呟いて、今は居ない相手へと内心で文句を言っても許されるだろう。
本当に、余計な事しかしてくれないよね、あの赤ん坊は
「ツナ?」
「オレは、何もなかったよ」
多分、オレの呟きが聞こえなかったのだろうが心配そうに名前を呼ぶのに、ニッコリと笑って返事を返す。
これ以上、に余計な心配は掛けたくないし、何よりもオレの事を10代目と呼ぶ獄寺の事を話たくない。
「そっか……」
話を濁すように言ったオレの言葉に、何処か納得できないと言う響きでが頷く。
その様子からも、が納得してないのは分かっているけど、これ以上何も話す気はない。
これは、が隠している事と同じ……
オレも、が何を隠しているのか気になるけど、何も聞けないのだから……
「あらあら、お帰りなさい。そんな所で二人共何してるの?早く上がりなさい」
気まずい雰囲気が流れる中、母さんが何時までも入ってこないオレ達を迎える為にキッチンから出てくる。
その明るい声に、がホッとした様に小さく息を吐き出した。
「ただいま、急に外泊しちゃってごめんね」
「それは、仕方ないわよ。でも、問題なかったんなら、良かったわ」
それから、母さんに答えるように口を開いて、謝罪。
謝罪したに、母さんはニコニコとした笑顔で返した。
そんな母さんを前に、がそっと胸を抑える。
本当に、嘘がつけないよね、は……
「」
きっと今罪悪感で一杯だろうの名前をそっと呼べば、大袈裟なほどビクッと肩が揺れる。
「な、なに?」
そして、持っていた荷物を抱え込んで恐る恐る振り返るにオレは思わずため息をついてしまう。
本当に、どうしてこんなに素直で嘘がつけないんだろうね、は……
「ツナ?」
「何でもないよ……早く制服着替えておいで、母さんが夕飯作って待ってたんだよ」
「うん……ごめんね、ツナ」
これ以上を追い詰めるのは、得策じゃないと思って、ただ笑顔を見せて首を振る。
そんなオレに、は小さく頷いて、ポツリと謝罪の言葉を口にした。
「何でが謝ってるの?」
ずるいよね、は……
だけど、オレは何を謝っているのか分からないと言うように、へと質問。
本当は、が何を謝っているのか分かっているけど、知らないフリ。
「えっと、その、心配掛けちゃったから……」
「心配は好きでしてるんだから、が気にする事ないよ」
オレの質問に、が少しだけ困ったように言い訳を口にする。
そんなに、オレはただ出来るだけ優しく微笑んで安心させるように口を開いた。
本当は、今直ぐにでも、君を問質したいと思っている気持ちを必死で抑えながら……
「有難う、ツナ」
そんなオレの心情など全く知らないは、嬉しそうに微笑んで礼の言葉を口にしてからオレに背を向け自分の部屋へと歩いて行く。
オレは、そんなの後姿を見送りながら、自分を落ち着かせるためにただ大きく息を吐き出した。
そして、何時ものように朝と二人で登校する気満々だったオレは、家の前に立たずんで居る人物を見つけた瞬間嫌な顔をしてしまう。
「10代目!おはようございます!!」
深々と頭を下げながら言われた言葉に、隣に居たが驚いたような表情をした。
そりゃそうだろう、噂の転校生が行き成り出待ちしているのだから、驚くなと言う方が無理な話だ。
しかも、10代目だと人の事を呼んでいるのだ、迷惑な話。
「10、代目?」
獄寺が言ったその言葉に、不思議そうにがオレを見てくる。
恐る恐る見つめてくるに、オレはそっとため息をついた。
何にも話してないのだから、獄寺が何のために日本に来たのかだって、は知らないだろう。ましてや、何処からの転校かさえ知らないだろうから……
そう、あのイタリアからの転校であり、またマフィアに関係がある人物だとは普通に考えて分かる筈もない。
「10代目お荷物お持ちいたします!」
事情を聞きたそうにしているには気付いているけど、何も言えないでいたオレの手から多少強引に鞄を取り上げた獄寺に深く息を吐き出す。
「オレの鞄はいいから、の方を持ってもらいたいんだけど……」
「えっ?何言ってるの、俺は自分で持てるよ!」
ボソリと呟いた言葉に、が慌てて自分の鞄を抱え込むけど、手ぶらになったオレがだけに荷物を持たせておける訳もなく、その荷物を強引に取り上げる。
「オレは荷物持ってないんだから、気にしなくっていいよ」
ニッコリと笑顔での荷物を横取りして歩き出せば慌ててと獄寺が後に続く。
「ツナ、俺の荷物!」
「10代目、その荷物もオレがお持ちいたします!!」
慌てていると、また荷物を持ったオレに獄寺が慌ててその鞄を持つ。
お陰で、オレとは手ぶら状態。
「いや、あの、俺は自分で……」
「持ってくれるって言うんだから、持って行ってもらおうよ」
三人分の荷物を持つ獄寺に、が申し訳さなさそうな表情で鞄を返して貰おうとしてるから、それを引き止めてニッコリ笑顔。
「でも、そう言う訳には……」
「別にお前のために持ってんじゃねぇからな!オレは10代目の為に!!」
「うん、有難う、獄寺」
ボソボソと困ったように獄寺を見ながら口を開くに、当人である獄寺が大声を上げる。
本当は、に対してそんな事言うなんて許せないけど、彼の態度を見ればそれが照れ隠しである事が一目瞭然だったのでただ笑って礼をのべた。
そうすれば、も諦めたのか大人しくなる。もっとも、内心では荷物を持ってもらう事に抵抗を感じているのはモロ分かりだけど
そう言えば、まだに獄寺の事を紹介してなかったかも……同様に、獄寺にの事も……紹介したくないんだけど、本当は……
「ツナ?」
「忘れてたんだけど、まだ名前教えてなかったよね?」
思い出した事で複雑な表情をしていたオレに、が不思議そうに名前を呼んでくる。
それに、今思い出したと言うように質問。
は一瞬何を言われたのか分からないと言う表情をしたけど、チラリと獄寺の事を見てから納得したように頷く。
「あ、あの、俺は……」
「沢田……10代目の双子の弟だろ?一応報告書に名前が載ってたから知ってるぜ」
慌てて自分から自己紹介しようとしたの言葉を遮って、獄寺がの名前を口にする。
その報告書本当に邪魔なんだけど……それって、ファミリーの人間ならの存在を知っていると言う事に繋がるのだ。
を危険な目に合わせたくないのに……
「報告書?」
「オレは、獄寺隼人!10代目の右腕だかんな!」
獄寺の言葉に、が不思議そうに首を傾げるが、そんな事全く気にした様子もなく獄寺がまた勝手な自己紹介をしてくれる。
誰が、右腕にするって言ったんだか……
「み、右腕??えっと……」
獄寺の自己紹介にどう返していいのか分からないと言うように、が困惑し表情でオレに助けを求めてくる。
「あいつの言う事は気にしなくっていいよ。ほら、そんな事よりも早く行かないとまた遅刻になっちゃうからね」
そんなにニッコリと笑って学校へと急かすように歩き出す。
もっとも、そんなに速いスピードじゃないんjだけどね。
それから、遅刻もせずに学校に着き、をクラスに送り届けてから何時もの下らない授業が始まる。
今日は、何事もなく終わってくれればいいのにと思いながら迎えた昼休み、突然教室に飛び込んできた数人の女子生徒に教室の中がざわめいた。
「綱吉くん!さっきの理科の授業で……」
教室に飛び込んで来たと同時に、オレの方へと走り寄って来て口々に報告される内容。
それは、先ほどの授業でが受けたと言う侮辱の言葉。
「あの先生、沢田くんの足の事を知っているのに!!」
馬鹿にしたのだと悔しそうに話す女子数人、それからその後にも教室に来たこれもと同じクラスの男子数人が口々に教師に対しての文句をオレに言う。
お陰で、オレのクラスはかなり賑やかになった。
「何それ!酷過ぎるわよ!!」
口々に言われる文句に、オレのクラスメート達も不機嫌そうに文句を言い出す。
その言われた相手がだからこそ、みんなの意見が一つになっているのだろう。
それだけの人気は高いのだ。勿論、そんな事を本人は知らないだろうけど
「教えてくれて有難う、の事はオレに任せて!勿論、根津の事もね」
きっとは傷付いて居ると分かるから、直ぐにでも傍に行ってあげたい。
そして、を傷付けた相手は絶対に許さないから
「10代目!」
教室を出て、まだ実験室に居ると言うの元へと急いで向かおうとしたオレに、獄寺が声を掛けてくる。
「獄寺は、そこに居ていいよ」
「何で、10代目があいつなんかに……」
「なんかじゃないよ。だけが、オレにとって大切な相手なんだから」
それに振り返って口を開けば不機嫌そうに言われる言葉。
だけど、オレはそれにきっぱりと返事を返した。
そう、オレにとってだけが大切な相手。
「例えどんな相手だろうと、を傷付ける奴は許さない」
ギッと鋭い視線を獄寺へと向ければ、うっと言葉に詰まってその場に立ち尽くす。
そう、例えどんな相手だろうと、を傷付けると言うのなら、オレは容赦するつもりはない。
「!」
勢い良く実験室の扉を開いてその名前を呼ぶ。
「ツ、ツナ?」
そんなオレに、机に突っ伏すようにしていた顔を上げてが驚いたようにオレの名前を呼んだ。
「根津の馬鹿に嫌味言われたって?」
「えっと、何で知ってるの?」
明らかに落ち込んでいると分かるのその表情に、オレは先ほど聞かされた内容の真意を確認すれば、逆に質問された。
「そんなののクラスメートが数人来て教えてくれたに決まってるよ!」
質問された内容に素直に返事を返せば、が何処か困ったような表情を見せる。きっと、困惑してるんだろうね。
もっとも、数人どころかクラスの半分以上がオレの所に報告に来てくれたんだけど
「確かに、言われたけど、ほら本当の事だから……俺は、気にしてないよ」
「本当の事?理由知ってるのに、嫌味言うのの何処が本当の事なの!!」
オレの言葉に何処か複雑な表情を見せ、それでも気にしていないのだと言うように無理にが笑う。
そんな風に無理に笑わなくってもいいのに、逆に無理して笑う方が痛々しいと言うのに
それに、言われた言葉は本当の事なんかじゃない。どれだけがその事を気にしているのか気付きもしない奴が、言っていい事じゃないのだ。
「ムカつくんだけど……」
「ツ、ツナ?」
その笑顔を前に、ますます根津に対しての殺意が浮かぶ。
元から気に入らない奴が、オレのにこんな顔をさせた事は絶対に許せない。
「元からあいつは気に入らなかったんだよね。大丈夫、は心配しないでいいよ……何がエリートコースだか……学歴詐欺だって事はとっくの昔に知ってるんだからね」
ポツリと呟いたオレに、が恐る恐る名前を呼ぶのにサラリと事実を口にした。
いつも自分の事をエリートだと自慢しているけど、本当は学歴詐欺もいい所だ。
害がないからと無視してやっていたのに……
「が、学歴詐欺って……何で、ツナがそんなこと知ってる訳!?」
「そんなの、この学校に入る前に調べたに決まってるよ」
オレが口にしたその内容に、が驚いたように大きな声で質問してくる。
それにオレは更に事実をのべた。
学校に居る教師の学歴を調べるぐらい、簡単なんだけど
だから、ここに居る教師達の弱みは全部握っていると言ってもいい。
もっとも、自分からそれをバラすつもりは全然なかったんだけどね。
「もともとあいつの事は大嫌いだったから、さっさと処分して貰った方がいいよね」
その辺の事は、ヒバリさんにちょっと報告すれば簡単に処分してくれるだろう。
もっとも、オレが直接話をするつもりはないけどね……
「あ、あの、ツナ……」
「大丈夫、は何にも心配しないでいいからね」
心配そうに見詰めてくるに、ニッコリと笑顔で言えば、複雑な表情で返された。
心配しなくっても、オレは何もするつもりはないんだけどね。
それから、数日後。
狙い通りヒバリさんが動いてくれた事に、内心笑みを浮かべた。