家までを抱えて歩いて、周囲の視線を十分に貰った。
まぁ、今更オレやがこんな風に帰るのは珍しい事じゃないんだけどね。
だから、近所では慣れたものだ。
「あら、ちゃんまた無理したの?ダメよ、ツナくんに心配掛けちゃ」
なんて、当然のように言われて、が複雑な表情をしてるのが容易に想像できた。
抱えて歩くのは、全く苦にはならないんだけど、一つだけ気に入らないのは、の顔が見えないと言う所だね。
本当、それだけが残念なんだけど……
「で、ヒバリさんに何を言われたの?」
家に戻って、そのままオレの部屋に直行してから、漸くをオレのベッドの上に降ろせば、その上に座ったが困ったような表情でオレの視線から顔を逸らした。
簡単に話してくれるとは思っていなかったんだけど、何でヒバリさんを庇うんだろう。
どうせ、ヒバリさんがを無理矢理連れて行った事は分かりきっているのに……。
しかも、事もあろうか、をくれだって!誰が、あんな奴にやるもんか!!
「あの、委員長さんに呼び出されたのは、話があるって……」
思い出してムカツいていたオレの耳に、小さく躊躇いながらが話し出す声が聞えて来た。
「うん、その話って言うのは?」
ずっと気になっているのは、ヒバリさんがどんな話があってを呼び出したかって事。
どうせ、禄でもない事だとは思うんだけど……
再度問い掛けたオレに、が困ったようにオレを見詰めてくる。
何か、目は口ほどにモノを言うってきっと、の為にあるような言葉だよね。
「……分かったよ。オレの事で呼び出されたんだね」
その目を見て、すべてを悟ってしまった。
多分、ヒバリさんはにオレの事を教えてやると言ったのだろう。
オレが確認するように口にしたそれに、がコクリと頷く。
「でも、内容は聞いてないんだ。だって、ツナの事なのに、他の人から聞くのは、いけないと思って……」
頷いてから、慌てて弁解するように続けたに、思わず口元が緩んでしまう。
うん、そう言う所がらしくって、オレが好きだと思えるところの一つ。
正直言えば、には聞いて欲しくない事だから……
だって、並盛の沢田綱吉は、返り討ちの異名を持っている。
そんな事、には知って欲しくない。
「噂の沢田綱吉の事、教えてくれるって言ってたんだ。本当は、気になるんだけど……俺に話してくれないって事は、知られたくない事なんだよね?」
少し寂しそうにオレを見詰めながら言われた言葉は、正に今、自分が考えていた事。
ねぇ、どうしてそう言うところでは、そんなに鋭いの?
オレの気持ちには、全然気付いてくれないのに………
「……ごめん、。それは言えない……には、知って欲しくない………」
オレが、平気で人を傷付けて来た事を、優しい君には知られたくない。
きっと、君はオレを心配するのと同じようにオレが傷付けた奴等の事にも心を痛めてしまうと分かっているから……
だからこそ、言いたくないのだ。
君が、オレ以外の誰かの事で、心を痛めて欲しくはない。
自分のちっぽけな独占欲だと分かっていても、オレは君だけが好きなのだから…
「うん、分かてる。ツナが言いたくなるまで、俺は聞かないよ」
だから、どこか寂しそうな笑顔で言われたそれに、オレは何も言葉を返す事が出来なかった。
「だから、安心して」
ニッコリとオレを安心させるように言われたその言葉に、思わずギュッとを抱き締める。
「ツナ?」
ねぇ、偶には我が侭を言って欲しいと思うのは、オレの勝手な想いでしかないのだろうか。
君だけが、笑ってくれるのなら、それだけでオレには十分なんだ。
「ごめんね、」
「なんで、ツナが謝るのかが分からないんだけど」
ギュッとを抱き締めて何も言えない事に謝罪すれば、クスクスと笑い声が耳に届く。
それは本当に、楽しそうに笑う君の声。
「だって、何も言えないから……」
謝ったオレに何でか分からないと言うから、理由を言えば更に笑い声が深くなった。
「謝るの可笑しいよ。だって、言いたくない事なんて、ない方が可笑しいんだから!」
何でも、素直に受け入れてくれる君。
オレは、君が言いたくなかった事を無理矢理言わせたのに、オレには何も聞かないでくれる。
だからこそ、こんなにも君が愛しい。
「有難う、……」
「何で、今度はお礼?」
「言いたくなったから」
君の優しさだけが、オレの心を温かくしてくれる。
「変なツナ」
クスクスと楽しそうに笑っているのその声を聞いているだけで、こんなにも幸せになれるから、だからこそ、オレは君だけを護る為に強くなるよ。
誰にも、大切な君を傷付けさせない為に……。
その後、を部屋へと送ってから、オレは深く息を吐き出した。
「おい、綱吉、噂の沢田綱吉って言うのは、どう言うことだ?」
自分の部屋に戻った瞬間、リボーンからの質問。
「別に、ただ自分に向ってきた相手を問答無用で返り討ちにしただけだよ。そしたら、気が付いたら噂になってただけ」
別段、以外なら知られても全く気にならない噂の真相。
だからこそ、オレはリボーンの質問にあっさりと返事を返した。
「そう言う事か……なら、その噂の相手にあいつが興味を持っても仕方がねーな」
「オレにとっては、迷惑意外の何者でもないんだけどね………しかも、にまでちょっかい掛けるなんて本気で、面倒なんだけど……」
誰にも、を渡す気なんてない。
それだけが、オレの本心。
呟くように言ったその言葉に、リボーンは何も答えなかった。
だから、オレもそれ以上は何も言わない。
多分、リボーンはオレの想いに気付いているんだろう。
読心術を身に付けてるんだから、それぐらい読めて当然だろうけどね。
「で、おまえはどれぐらいつえーんだ?」
「……さぁ、なんなら、相手になる、リボーン?」
一瞬考えるように質問されたそれに、オレが聞き返せば小さくため息が返された。
「今はまだいいぞ。近い内に、おまえの実力を見てやるからな」
「別に、おまえに見てもらう必要はないよ。オレは、を護れればそれだけでいいんだから……」
オレが強くなる為の理由は、それだけ。
だからこそ、オレは強さを求めた。
もっとも、それが噂になったのだから、迷惑な話なんだけど……
何時ものように朝起きて、を起こす為に1階にあるの部屋の前に立った瞬間、部屋の中から小さな声が聞えて来た。
ボソボソと誰かと話しているその声は、中に居る人物が起きている証拠。
何時もならノックするんだけど、その声が気になってドアをそっと開く。
「安心しろ、毎朝起こしてやるぞ」
空けた瞬間聞えて来たのはリボーンの声。
そう言えば、部屋にリボーンの姿がなかったけど、またあいつは勝手にの部屋に入ってるのか?!
しかも、どうやらはリボーンに叩き起こされたらしい。
勝手に、人の仕事取らないで欲しいんだけど……
毎日を起こしてやると言うリボーンのその言葉に、勢い良くドアを開く。
「お前が起こさなくても、オレが起こすよ!勝手な事するなよな、リボーン!!」
「……ツナ、おはよう」
ドアを開いて文句を言うオレに、が一瞬だけ困ったような表情を見せて、朝の挨拶をしてくる。
一瞬見せた、その表情はなんなんだろう……
気になるけど、それは多分聞いてはいけない事。
「おはよう、。って、何持ってるの?」
「えっと、『マフィアのすべて』?」
その事には触れずに、オレも朝の挨拶を返して、が手に持っている本が気になって問い掛ければ、疑問符で返された。
『マフィアのすべて』?何で、そんな本をに読ませてるんだよ!!
「って、リボーン!に何を読ませてるんだよ!!」
表紙が見えるように本を見せてくれたを前に、オレは直ぐ傍に居るリボーンへと文句を言う。
大体、そんな本読んでもマフィアになれる訳じゃないだろうが!!
どう考えても、役に立たないだろうそんなくだらない本を純粋なに見せないで欲しいんだけど!!
「うるせーぞ。それは、ボスになる奴が読むには調度いい本だからな。おまえも読めよ、ツナ」
文句を言ったオレを前にしてもリボーンは軽くあしらってくれた上に、そんな怪しい本を人にまで読めと言う。
毎日そんな本を読まなくても、一度読めば頭に入る自信はある。
だけど、そんな胡散臭い本、誰が好き好んで読むんだ。下らない知識は必要無いんだよ、オレは!
「そんなモノ読む気はないよ!にもそんなモノ読ませないでくれる?」
「いや、別に読むぐらいは全然平気なんだけど……内容はどうかと思うんだけど、ね」
イライラする気持ちをそのまま口にして、に下らない本を読ませた事を咎めるように口を開けば、が小さくため息をついて本に視線を向ける。
よっぽど内容が複雑だったのだろう、その表情は少し困ったようなモノだった。
「オレは、読めと言ってるんだぞ。おまえらはボンゴレ10代目のボスになるんだからな」
「ボスになるつもりはないって何度も言ってるんだけど」
「心配はいらねーぞ、あとはこっちで勝手にやるかんな」
そんなオレ達の言葉に、脅すようにリボーンが銃口を人に向けてくるから、しっかりと何時もの言葉を返せば楽しそうに銃の手入れを始める子供が一人。
何処をどうすれば、心配いらないと言えるのか分からないんだけど……
しかも、嬉々としているからこそ、任せるなんて絶対にしたくない。
「ツナ、準備しないと、今日は球技大会のバレーに出るんだよね?」
「ああ、うん、そうだね」
「なら、ちゃんと朝御飯食べないと、体が持たないよ」
不機嫌そのままにリボーンを見ていたオレに、慌てたようにが声を掛けてくる。
どうやら、話を変えたかったのだろう。
まぁ、確かに何時もの問答が始まるだろう事は予想が付くので、の気持ちは分からなくもない。
質問された内容に、にバレないように小さくため息をついて、頷いて返せば心配するように続けられる言葉。
確かに、そろそろ朝御飯を食べにいかないと食べる時間がなくなってしまう。
朝御飯抜きで、バレーの試合をするのは確かに力が出ないかもしれない。
言われた事に納得して頷けば、満足そうなの表情。
「んじゃ、俺も早起きしたから、ゆっくり御飯食べようかな」
大きく伸びをしてから、がベッドから立ち上がって、オレに笑顔を見せる。
そんなの笑顔に、オレも笑顔を返した。
でも、その君の笑顔が、どこか切羽詰ったように感じられたのはきっと気の所為じゃないだろう。
ねぇ、どうして一人で考え込むの?
オレは、そんなに君にとっては、頼りない存在なんだろうか?
君が話てくれさえすれば、オレは例えどんな事だろうと力になるのに……
そう、どんな事でも………