応接室を出てからは、このままを一人にして置くのが心配だったので問答無用で屋上まで連れて行く。


 勿論、の教室に寄ってお弁当はちゃんと持って来させた。


 一階から屋上までの階段は、ちゃんとオレがお姫様抱っこで運んだに決まってる。
 階段を上り下りして、が落ちたら大変だから!

 まぁ、確かにを抱いて階段の上り下りするのは足元が見えなくって危ないって何度か言われた事あるんだけどね、オレがそんなヘマをする訳ないでしょ!
 足元なんて見えなくっても、階段ぐらい上れるからね。
 しかも、軽いだから、屋上まで抱えて上っても問題ない。


 これも、鍛えたお陰と言っても過言じゃないよね。









「でもね、こうなる為に、自分を鍛えてた訳じゃないんだけど……」
「まぁ、そう言うなって」

 折角お昼をと一緒に出来たって事でかなり機嫌が良くなってきていたのが、これで見事のまでに吹き飛んでしまった。

 ボソリと呟いたその言葉に、山本が苦笑を零しながら返してくる。
 本気で嫌になってくるだけど、この学校暇人ばかりなの?

「沢田くん!剣道やってたんでしょ?」

 とか

「あの持田先輩に勝つなんてよ」

 とか、いい加減にして欲しいんだけど……。


 オレは今直ぐにでもの所に行きたいって思ってるのに、邪魔してくれるクラスメイトやあの迷惑でしかない一方的な勝負を見ていたヤツが教室に雪崩込んで来て、本気で迷惑な状態だ。
 不機嫌な表情で聞かれた事に何も返さないオレを、全く気にした様子もなく勝手に口を開いてくる。

 何が楽しんだか、オレには分からないんだけど……

「ツナ、部活あるから、もう行くな」

 ウンザリとしているオレに、山本が声を掛けてきた。
 ああ、もう部活動始まる時間なんだ・……って、事はここにいるのは部活関係ない帰宅部。

「……この状況で人を見捨てるんだ」

 だから、そんな山本に嫌味で返す。
 本気で、面倒なんだけど

「悪いな。試合が近いんだよ」

 オレの嫌味に素直に謝罪して、山本はさっさと教室から出て行った。
 それを見送って、盛大にため息。
 その間も、当事者のはずのオレを完全に無視して口々に何かを言っている目の前の奴等にオレは再度ため息をついた。

「沢田!!」

 そんな中、大声で名前を呼ばれて顔を上げれば、人込みを縫うように一人のクラスメイト男子が近付いてくる。

「おまえに頼みがあるんだ!」

 必死に拝むように言われた言葉に、嫌な予感。

「……一応聞くけど、その頼みって?」
「じつは、明日の球技大会のバレーなんだけど、レギュラーが欠けちゃっておまえに出て欲しいんだ!」

 必死の様子に、聞きたくはないけど質問すれば、パッと顔を上げて言われた本題。

 そう言えば、今は球技大会の真っ最中だったっけ?
 オレは、面倒だから補欠になったんだけど……
 確か、バレーの補欠になってなかっただろうか、って、事はバレーのレギュラーが欠けたって言われたら、引き受けるしかないんじゃ……
 一番面倒じゃないだろうっと思ってバレーの補欠にしたはずなのに、なんでこんな面倒になるんだろう。

「持田先輩を倒した時のおまえまじでかっこよかったよ!その力を貸してくれ!!」

 嫌な事を思い出していたオレに、必死でアピールしてくる目の前の人物。
 その周りでも期待に満ちた目が一斉に向けられてくる。

「なあ!たのむよ、たのむ!!どうしても勝ちたいんだ!!」

 拝むように頭を下げられて、深々と息を吐き出した。
 どうせ、断れないのだ。
 オレは、球技大会はバレーの補欠に登録されてるのだから

「分かったよ……明日だよね?」
「まじでか?!!」

 オレの返事に信じられないと言うように聞き返してくる相手に、オレは複雑な表情をしてしまう。
 もしかして、補欠に入っている事を知られてないのかもしれない。

 早まったかも……。

「そんなに驚くような事言ったかな?」
「いや、全然!!んじゃ、今から練習に参加してくれるか?」

 失敗したかもと思って質問をすれば、ブンブンと音がしそうな程激しく首を振ってから問い返してくる。


 今から、練習……。

 冗談じゃない!折角と一緒に帰るって言うオレの楽しみを邪魔されてたまるもんか!

「えっと、悪いんだけど、用事があるんだ……明日は頑張るから、練習は見逃してくれないかな?」

 オレの至福の時間を邪魔するって言うのなら、問答無用でシカトするけどね。
 表面上では申し訳なさそうに質問して、心の中ではダメだと言われても強行突破する気満々。

「あっ、そ、そうだよな、急に言っても無理だよな……んじゃ、明日は頼むな!」

 オレの言葉に素直に納得して、またしても人込みを掻き分けて去って行くクラスメイトの姿を見送ってため息をつく。

「明日、沢田くんバレーに出るの?!応援しなくっちゃ!!」
「何、沢田、お前バレーも出来るのかよ!」

 って、まだ騒ぐの?

「まぁ、そう言う訳だから、ごめん。オレ急いでるんだ!」

 キャーキャーと騒ぐ女子と、文句でも言うように呟く男子の声に、オレはいい加減開放させてくれと口を開いた。

「明日、応援するから頑張ってね」

 とか、んな事言われても……。
 正直言って、かなり迷惑なんだけど……

「あ、有難う……だから、通してくれる?」

 イライラする気持ちで、表面だけの礼を言いニッコリと脅すように口を開く。
 オレのその笑みを見た瞬間、パッと道が出来た。
 うん、結構この笑顔って大切なのかもしれない。

「有難う」

 オレを通してくれた事に、素直に礼を言い教室を出る。
 HRが終わって、もう既にかなりの時間が過ぎていた。

 、もう帰ってるかも……。
 一応、教室覗いてから帰ろう。

 そう思って、急いで階段を駆け下りた。



 それから、の教室に行けば、のクラスの女子が数人オレの方に走り寄ってくる。

「沢田くん!今日の朝は凄かったね。かっこよかったよ」
「ああ、有難う……ところで、弟の沢田まだ教室に居るかな?」

 教室で聞いたような事を続けて言おうとしている女子生徒の言葉に礼を言って、の事を聞く。
 オレの質問に、女子が一瞬複雑な表情を見せた。

「何?何かあったの?」

 それが余りにも言い難そうで、オレが質問すれば困ったような表情で見上げてくる。

「えっと、沢田くんは……」

 言葉に困る女子に、オレは思わず眉根を寄せた。
 女子達はお互いの顔を見合わせて、どうするかを目で語り合う。

「……あのね、風紀委員に連れて行かれちゃったの」

 そして、漸く口を開いて言われたその言葉に、オレは一瞬何を言われたのか直ぐに理解出来なかった。


 風紀委員に連れて行かれた?
 何で、が風紀委員に連れて行かれなくっちゃいけない訳?!

「それは、何時!」
「えっと、HRが終わって、沢田くんが教室から出ようとした時だったよね?」

 思わず勢いで質問したオレに、女子が驚いたように質問に答える。
 そして、他の女子に確認するように視線を他の者に向ければ、全員が頷いて返した。

「HRが終わったのは?」
「もう30分は経ってるけど……」

 そんな彼女達にもう一度質問して、オレはその言葉を聞くと応接室へと向けて走る。

 昼休みと全く同じ状況だと思うのは、気の所為だろうか?
 何で、風紀委員がを連れて行ったのかは分からないけど、嫌な予感がする。

「本気で、あの名前だけ小動物を咬み殺すんじゃなくって、絞め殺したいんだけど……」

 人の大事なモノに手を出そうなんて、迷惑な話だ。
 見えて来た応接室のドアを、昼と同じように力一杯開け放つ。

「何で、またを攫っちゃってくれてるんですか!!!」

 バンッと派手な音を立てて崩れるドアなど全く気にもせずに、中へと怒鳴り込む。

 突然の事に、が驚いて振り返った。
 今度は、寝てないみたいだけど、何でヒバリさんなんかと仲良く向かい合って座ってる訳?!!

「……邪魔が入ったようだね」

 オレが中へ入った瞬間、ポツリと呟きヒバリさんがソファから立ち上がると何時ものように何処からともなくトンファーを取り出して構える。

 そんなヒバリさんの姿に、が怯えたような表情を見せた。


 そんなに、怖がらなくても大丈夫だよ。
 直ぐに、こんな人倒してあげるから!
 
 トンファーを構えたヒバリさんに、オレもしっかりと攻撃体勢をとった。