どうして、そんな大事な事を今更になって言うんだ?
もっと早くに言ってくれれば、オレは……
「そう言えば、おまえの弟が応接室に連れて行かれたらしいぞ」
昼休みになって言われたその言葉に、オレは持っていた弁当を落としそうになってしまった。
「そう言う事は、先に言えよ!!」
持っていた弁当を山本に預けて、オレは急いで屋上を飛び出す。
「お前、わざと教えなかったんだろう?」
「何の事だ」
「別に……まぁ、ツナが行ったんなら、問題ねーだろうし、ここで大人しく待ってようぜ」
「……おまえも、喰えないヤツだな」
「お前もな」
だから、屋上で山本とリボーンがそんな会話を交わしていたのなんて、知らない。
もっとも知ってたとしても、興味はない上に、山本が腹黒いヤツなのはとっくの昔に気付いている事だ。
「何で、ここにが居るんですか?!!!」
見えて来た応接室のドアを勢いよく開き、大声を上げる。
オレの声に、ソファで眠っていたのだろうが飛び起きたのが直ぐに分かった。
「あれ?」
状況が分からないのか、きょとんとした表情で辺りを見回している。
って、何でそんな顔を今する訳、!!
「漸く目を覚ましたみたいだね」
状況を確認しようとキョロキョロと辺りを見回しているの直ぐ傍には、憎き相手が当然のように居た。
「い、委員長さん?」
その相手が、に掛けていたのだろう学ランを取り上げる。
どうやら、危害を加えるつもりは全くないようだ。
「顔色、良くなったみたいだね」
「えっ?」
そして、の顔を覗き込むように言われた言葉に、ピクリと反応をする。
朝、あれだけ無理をしたのだ、顔色が悪くなっても仕方ないかもしれない。
それでもまだ、学校に着いた時は大丈夫そうだったのに……
ヒバリさんの言葉を考えれば顔色が悪くなるほど、足を酷使したと言う事だ。
どうして、そんなにが無茶をしたのか……それは、間違いなく。
「に近付かないでくれます?」
当然目の前に居る相手が原因だと分かるからこそ、オレは自分の履いていた上履きを片一方脱いでヒバリさん目掛けて思いっきり投げ付けた。
勿論、相手はサラリとそれを避ける。
まったく、素直に当ってくれれば気も少しは収まると言うのに……
「投げるのはいいけど、君の大事な弟に当るよ」
「当てる訳ないでしょう!大体、何でがこんな所で寝てるんですか!?」
上履きを投げ付けたオレに、ヒバリさんが盛大なため息をついて言ってきたその言葉に即答で返事を返す。
オレがに当てるようなヘマをする訳がない。
キッパリと言い切ったオレに、ヒバリさんがもう一度ため息をついて、床に落ちているオレの上履きを拾い上げる。
「ツナ、そんなの投げたら危ないから!!」
ヒバリさんが拾い上げたそれを見て、が驚いて声を掛けてきた。
多分、オレが投げた上履きに対して言っているんだろうけど、何時もの事ながら、そう言う問題じゃないと思うんだけどね……
「何言ってるの、そこに居る人の方が危険に決まってるよ!」
の文句に、オレはキッパリと返事を返す。
危ないモノは、駆除しないとだよね、本気で!!
「あの、ツナさん……委員長さんを怒るのは、その間違ってるから……」
キッパリと言い切ったオレに、が困ったような表情でヒバリさんを庇うような言葉を口にする。
きっとの事だから、ここでゆっくりと休ませて貰ったとか、そんな事でいい人だと騙されているに決まっているのだ。
「!騙されちゃダメだから!」
それが分かっているからこそ、オレはギッとヒバリさんを睨みつけての目を覚まさせようと口を開いた。
「沢田綱吉、失礼だね」
オレのその言葉にヒバリさんが不機嫌そうに呟く声が聞えるけど、そんなモノは無視。
当然のように部屋の中に入ると今だにヒバリさんの直ぐ傍に居るを抱き寄せて、更にヒバリさんの手にある上履きを奪い返す。
「ツ、ツナ……えっと、俺がここで寝てたのは、昨日寝不足だった所為で、決して委員長さんが悪い訳じゃないから」
ギュッとを抱き締めたまま、直ぐ傍にいるヒバリさんを睨みつけていたオレに、が腕の中から顔を覗かせて弁解の言葉を口に出す。
「、ヒバリさんにそう言えって脅されてるの?」
だけど、その顔を見た瞬間オレはヒバリさんに殺意を覚える。
オレの事を見上げてきたの目からは、ポロポロと涙が流れていた。
どして、そんなにまでして、ヒバリさんの事を庇おうとするの?
こんなに泣いてまで……
スッと流れているの涙を優しく拭う。
「ヒバリさん、良くもを泣かせてくれましたね」
どんな脅しをしてくれたのか、を泣かせるなんて許せない。
「ツナ、違うから、泣かされてないから!!」
今にもヒバリさんを射殺するぐらいの殺気を放って、相手を見詰めれば、慌てたようにがオレを引き止める。
どうして、そんなに泣いてるのに、ヒバリさんを庇うの?
ヒバリさんが泣かしたんじゃなければ、を泣かしているのは、誰?
「じゃあ、どうしては泣いているの?」
必死でオレを止めようとするに、そっと質問する。
ヒバリさんが泣かしているんじゃないとすれば、何では泣いてるの?
オレの質問に、が意味が分からないと言うように不思議そうな表情を見せた。
そして、そっと自分の頬に触れるの手。
もしかして、は自分が泣いている事に気付いていなかったのだろうか?
無意識に泣くなんて、一体何があったんだろう、に
「泣かしているのは、君だよ。沢田綱吉」
自覚したが、慌てて涙を止めようと自分の手で乱暴に目元を拭う姿を見て、オレは強くを抱き締めた。
自分の制服をの涙が濡らしていくのが分かる。
だけど、その瞬間聞えて来たその声に、オレはピクリと肩を震わせて、それを口にした相手を睨みつけた。
「オレが、を?何を言ってるんですか?ヒバリさん」
楽しそうにオレを見詰めているヒバリさんに質問する。
オレが、を泣かせている原因?
そんな事、信じられる訳がない。
だって、オレがどれだけを大切にしているか……だから、を泣かせる事なんて……
「何って、事実を言ったまでだよ。そう言えば、お祝いを言うのを忘れていたよ」
「祝?何のです?」
信じられない言葉に、困惑する。
オレが、を泣かせる事になった原因……あくまでも、それは真実だと言うヒバリさんが、楽しそうに言葉を続けた。
そして言われた言葉の意味が分からず、オレはそれに質問で返す。
別段、ヒバリさんに祝ってもらうような事なんて、一つもない。
だが、ヒバリさんのその言葉に、オレの腕の中に居るがビクリと大きく震えた。
カタカタと小さく震え出したに驚いたけど、出来るだけ安心させるようにその肩を優しく撫でる。
「君に彼女が出来たんだってね」
それでも収まらないの震えに、心配だったけど続けて言われたヒバリさんの言葉に思わずその手が止まってしまう。
一瞬、言われた意味も把握出来なかった。
何寝惚けた事を言ってるんだ、この人は…と思った瞬間気付いてしまった、その言葉と同時に、が自分の耳を塞いでしまった事に
まるで、オレの答えを聞きたくないと言うようなその行動に、オレは一瞬複雑な表情をしてしまう。
「……何言ってるんですか?そんなデマで、人の大切な弟泣かさないでくれます?」
も、その言葉を信じたと言うのだろうか?
そんなデマを!
オレのその言葉を聞いて、恐る恐ると言う様子でがオレの顔を見上げてくる。
その顔は、信じられないと言う不安で溢れていた。
「!まさか、そんなデマを信じた訳じゃないよね?」
ねぇ、どうしてそんなデマを信じられるの?オレが、好きなのは、君だけなのに……
「だって、俺は、ツナに彼女が出来たって……本当は笑って祝福しなきゃいけないのに……」
「笑って祝福なんてしたら、いくらでも怒るよ!」
どうしてそんなに残酷な事が言えるの?
オレが好きなのは、君だけなのに……
好きな人から、笑って祝福なんてされたくない。
涙を流しながら言われたその言葉に、オレはしっかりと言葉を返す。
それが、本心。
君に祝福なんてされたくない。
だって、オレが好きな相手は、君だけなんだから……
「だから、言ったんだよ、ありえないってね」
「委員長さん……」
そして聞えて来たのは、オレの心を読んだかのような言葉。
信じられないと言うようにがその相手を見詰める。
オレの心なんて、とっくにヒバリさんは気付いているんだろう。
だって、あの沢田綱吉が護る唯一の存在なのだから……
「事情は話せないけど、オレにはが居てくれればそれだけでいいんだからね!」
きっと、今朝の事がすべての原因だと分かっているから、オレは必死で言葉を伝えた。
オレのその言い訳みたいな言葉に、がホッと息を吐く。
そして、何処か安心したような表情でオレを見上げてきた。
「俺も、ツナに彼女が出来るって聞かされて、こんなに動揺しちゃって、心配掛けてごめんね」
申し訳なさそうに謝罪するが、少しだけ顔を赤くして俯いてしまう。
きっと、照れくさいんだろうと分かるからこそ、オレは思わず苦笑を零した。
そして、が泣き止んでくれた事に、ホッとする。
「いいよ、嬉しかったから」
言われた言葉が嬉しかった。
だって、理由はどうあれ、はオレに彼女が出来たと思って泣いてくれたのだ。
勿論、オレに彼女が出来たからと言って笑って祝福しようとしていた事は許せないけど、でもまだ彼女に取られたくないとそう思ってくれた事が、こんなにも嬉しい。
そっと赤い顔をしたままが俺の事を見上げてくるのに、ただ優しく微笑んで返す。
それに、ますますの顔が赤くなったのが分かる。
「ねぇ、何時までそこに居るつもり、そろそろ出て行ってくれるかな……それとも、追い出してあげようか?」
「えっ?あの、委員長さん、俺にお話があったんじゃ……」
だけど、折角の幸せな気分を台無しにしてくれたのは、この場所にいるお邪魔虫。
不機嫌そうに言われたその言葉に、が困ったようにヒバリさんへと質問。
何?に話があるって呼び出したの?
人のモノに、勝手な事しないで貰いたいんだけど……
「もういいよ。話さなくっても、誤解は解けたみたいだしね」
「でも……」
「それとも、ボクの前で群れるって言うのなら、容赦なく咬み殺してあげるけど?」
呆れたように盛大なため息をついて、ヒバリさんがの質問に返事を返す。
一体、どんな話をするつもりだったんだか……
それでも、話を聞こうとするに、ヒバリさんが不機嫌そうに隠していたトンファーを取り出しす。
そして、言われる言葉は何時もの口癖。
「に手を出すって言うなら、また気を失ってもらいますよ」
トンファーを取り出したヒバリさんに、オレもを庇うようにヒバリさんを睨みつける。
「し、失礼しました!ほら、ツナも、行こう!!」
一発触発状態のオレ達に、慌ててが腕を掴んで部屋から出ようと言うように引っ張る。
そして、無理しているだろうと分かる速度でドアに急いで移動すると、扉の前でヒバリさんへと頭を下げて廊下へと出てから盛大に息を吐き出した。
「!どうしてヒバリさんなんかと一緒に居たの?」
そんなに、オレは一番疑問に思った事を質問する。
オレの質問に、が一瞬考えるような仕草を見せて、分からないと言うように首を傾げた。
「えっと、委員長さんの気まぐれ?」
そして、戻ってきたのは疑問形の言葉。
確かに、あのヒバリさんなら有得るかもしれないけど、そんな訳分からない状態であんな人に付いて行くのだけは止めて欲しいんだけど!!