優雅にコーヒーを飲んでいる子供の首を締め上げたいんだけど……

 何様な訳、この子供は!

 きっと、オレがこう思っていることも、この子供には伝わっているのだろう。
 読心術?そんなものには、興味ないんだけど、を傷付けると言うなら、子供だろうと容赦はしない。








 子供を無言で睨みつけている中、大量の買い物袋を持って、と母さんが姿を見せる。

 何?なんで、そんなに大量な荷物な訳??
 一瞬それに気を取られて、子供から視線を外してしまった。

「ツっくん帰ってたのね」

 母さんはキッチンに入ってきた瞬間、オレへと声を掛けてくる。

「ただいま、母さん……それから、お帰り」

 それに顔を母さんへと向けて、挨拶を返す。
 その隣で、少しだけホッとしたの顔が見えた。

「ただいま、えっと、こっちに居るのは?」

 オレの言葉に返事を返して、母さんがコーヒーを飲んでいる子供へと視線を向けて質問。
 その手は、大量に持っていた荷物をテーブルへと置いている。

「ちゃおっス、オレはリボーンだぞ」

 不思議そうに見詰める母さんの視線に、子供が名前を名乗った。
 本気で、この子供を絞め殺したいんだけど、何、このズーズーしさは!!

「貴方が、リボーンくん?何もない家だけど、今日から自分の家だと思ってちょうだいね」

 だけど、その後の母さんの反応に、ギョッとしてしまう。

 何?この知ってますと言う母さんの態度は!
 そんな母さんの反応に、子供も驚いて居るのが分かる。
 どうやら、母さんの反応は予想外だったらしい。

「ツっくん、今日から家で面倒見る事になってるから、仲良くしてあげてね」

 そして、更に爆弾発言をかましてくれた。
 そんな事、ニコニコと言って欲しくなかったんだけど……

「ちょ!そんな話聞いてないんだけど!!」
「ええ、言うの忘れてたのよ」

 信じられない言葉を聞いたと思って、慌てて口を開けば、ニッコリと笑顔で返事を返されてしまう。


 暖簾に腕押し、糠に釘とは、正にこの母に対する言葉のように思えるのは気の所為だろうか?


「何それ!」

 だけど、そんな笑顔に誤魔化される訳にはいかない。

 こんな胡散臭い奴を家に入れるのだって、本当は許し難い事になのに!!

「リボーンくんは、イタリアから来てるのよ。良く、一人で来れたわね、偉いわ」

 質問するように声を荒げたオレに、母さんは全く見当違いな事を口にしてくれる。
 しかも、子供の頭を優しくポンポンと撫でている姿にクラリと眩暈を感じてしまった。

 オレが聞きたいのは、そんな事じゃないんだけど!!!

「当たり前だぞ、オレに出来ねー事はねーぞ」

 母さんに感心したように言われて子供が、偉そうに口を開く。

「そう、偉いわ。ツナも小さい頃からしっかりしてたけど、リボーンくんの方がもっとしっかりしてるみたいね」

 全く疑わない母さんは、胡散臭い子供に対しても普通に接している。

 オレ、本当にこの人の子供なんだろうか?
 どうしてこんなに、警戒心ないんだ、この人は!

 当たり前のようにそこに居る子供が、ニヤリと笑ったのを見て、ギョッとした。


 こいつ、何を言うつもりだ!!

「ごめん、オレこいつと話がしたいから部屋に行くね」
「そう、早速面倒見てくれるのね、お願いするわ、ツっくん」

 それに嫌な予感を覚えて、子供を抱き抱えてキッチンを出る。
 部屋を出て行くオレの耳に、母さんの暢気な声が聞こえてきたけど、それは綺麗に無視をした。

 勢いよく階段を駆け上がって、自分の部屋に入る。
 そこで、抱えていた子供を床に落とせば、子供は全く気にした様子もなく、綺麗に床に着地する。

「心配するな、ママンには何も話はしないぞ。それが、あいつの要望だったかんな」

 着地して、自分を振り返りながら言われた言葉に複雑な表情をしてしまう。
 こいつ、分かっててやったんだな!

「どう言う事なのか、説明してくれるんだよな!」

 母さんは、間違いなくこいつの事を知っていた。
 それは、多分、あのバカ親父が先手を打っていたと言う事だ。

「オレにも、詳しい事はわからねーぞ。何で、ママンがオレの事を知っているのかは、な」

 どうやら、話し合いがされていた訳じゃないらしい。
 何で、こんなにアバウトなんだ?
 もっとも、あの親父だから、仕方ないかもしれないけど……
 本気で今度戻ってきた時には、覚悟してろよ、あのクソ親父!!

 この子供から、事情が聞けないと分かって、盛大にため息をつく。
 正直言って、かなり疲れた。

「何度も言うが、お前に拒否権はねーぞ。諦めるんだな」

 ガックリと肩を落としたオレに、子供がニヤリと笑う。
 本気で、何度も聞いてきたけど、今はそれを否定する気力もなくなった。

「ちなみに、オレの本職は殺し屋だぞ」

 って、そんな事が聞きたかった訳じゃない。
 しかも、殺し屋だって!

に、手を出すと言うなら、例え殺し屋だろうと、本気でお前を倒すからな!」
「……もう、やる気の炎を宿せるようだな……流石は、初代ボンゴレの血を引くだけのことはあるぞ」

 真剣に言ったオレの言葉は、ニヤリと楽し気に笑った子供には何の威力もない。
 本気で、こいつの相手をするのは厄介すぎる……。

「心配すんじゃねーぞ。お前を今以上に強くしてやる。弟を守りてぇんだろう?」

 どうするべきかを考えていたオレに、子供が質問して来た。
 確かに、オレはを守りたい。
 その為には、今以上に強くなる必要があるのだ。
 昨日のように、を傷付けない為には……

「……強くなれると言うのは有難いけど、ボンゴレのボスって言うのとは、関係ないからな」

 今以上に強くなる為には、自分ではどうにかならない事を分かっている。
 だからこそ、今だけはこの子供の言葉に賛同する事を決めた。
 息を吐き出していったオレの言葉に、子供が満足そうな笑顔を見せる。

「ちゃんと口説き落としてやるから、安心しろ」

 誰が、口説かれるんだよ!
 オレには、もう大切な相手が……

「弟がこっちに来てるみてーだな」

 嫌な顔をして相手を見たオレに、子供がピクリと反応する。
 確かに、よく知った気配が、階段を上ってくる……ゆっくりとした足音をさせながら……

!あれほど階段は、一人で上がるなって言ってるのに!」

 その気配を感じて、オレは慌てて部屋を飛び出した。

!そこで止まって!」

 部屋から顔を出して、階段を一歩一歩上ってくるに声を掛ける。
 オレがそう言った瞬間、ピタリとがその歩みを止めた。

 うん、何度も注意をしているから、オレの言葉には素直に反応するようになっているみたいだ。

「ツナ?」

 階段途中で立ち止まって、が不思議そうにオレを見上げてくる。
 本当、どうしてそこで、不思議そうな顔をするのかなぁ。
 ずっと言ってるのに、階段は一人で上るなって

「飲み物は先に貰うね。あっ!はそこから動いちゃダメだよ!」

 そんなに小さくため息をついて、急いで階段を下りが持っているお盆を取り上げてしっかりと釘を刺してそれを持って部屋へと一度戻る。

「なんだ?」

 部屋の中に居た子供が不思議そうに質問してくるけど、それを無視して持っていたお盆を床に置くと、急いでの元へと戻った。

「お待たせ」

 急いで戻れば、はちゃんと言われた通り大人しくその場で待っている。

 これも教育の賜物だね。

 そんな事を考えて、の腰に手を回し持ち上げた。
 相変わらず軽いの体を片手で持ち上げて、向きを変え階段を上る。

「はい」
「有難う……でも、階段ぐらい上れるのに……」

 上りきって、オレの部屋の前でを降ろせば、お礼を言って拗ねたように返してくる。。
 その顔も可愛いと思ってしまうんだから、きっとオレは末期なんだろうなぁ……本人には絶対に言えない言葉だけど

「オレが居る時は、は階段上るの禁止って言ってるでしょ!落ちたりしたらどうするの?」

 拗ねているにそんな事を思いながらも、言い聞かせるように問い掛ける。
 そんなに簡単に落ちるとは勿論思ってない。
 だって、はそう言う所は慎重だから……


 だけど、オレがに触れる理由を作りたいだけ

 そんな事、は気付かないだろうけど

「随分甘やかしてるじゃねーか?」

 そんなことを考えていたオレの耳に、子供の声が聞えて来た。
 部屋のドアから覗くように見詰めてくる子供の言葉に、ギッと睨み付ける。

「甘やかす?そんな事、事情も知らない赤ん坊に言われたくないんだけど」

 何も知らない子供には、言われたくない。

 オレが、どれだけを思っているかも知らないくせに
 そして、の足がここまで回復するのにどれだけ大変だったかを……


 今だって、ちょっと無理しただけで、直ぐに病院に行かなければならなくなる足。
 普通に生活するだけでも、負担が掛かるからと、1週間に一回は病院に通っているのだ。

 甘やかして、何が悪い!これだけでは、まだ足りないぐらいなのに……

 本当は、部屋に閉じ込めてしまいたい。
 そうすれば、が痛みで顔を顰める事もなくなるのだから……

「事情?事情なら、知ってるぞ。弟の方は事故で足を悪くしてるんだったな。だが、十分歩けてるんじゃねーか」

 オレの言葉に、子供がカンに触る事を言ってくれる。
 知ってる?一体、何を知っているって言うんだ?

「知ってる?それだけで知ってるなんて、言わないでくれる。どうせ渡された資料でしか知らない事情なんて、たかが知れてるよ」

 オレだって、の痛みを知っている訳じゃない。

 でも、がその痛みを隠して、オレに笑ってくれた事。
 本当は、苦痛だっただろうリハビリを頑張っていた事を知っているからこそ、そんなに軽々しく言って欲しくない。

「やっぱり、お前は知っているみてーだな。なら、話は早い。お前の好きなヤツを愛人に出来るんだぞ。どうだ、ボスにならねーか?」

 子供を睨み付ければ、感心したように言われる言葉。

 本気でオレの事を口説く気満々らしく、言われたのはオレにとって魅力的な言葉。
 ピクリとその言葉に反応してしまったのは、今のままでは叶わないと分かっているから

「そんな言葉に乗るとでも思ってるの?」
「思ってるぞ。マフィアのボスになれば、そいつをずっと自分だけのモノに出来るんだからな」

 心は、その言葉に反応する。


 それが分かっているからこそ、子供は勝ち誇ったような顔でチラリとを見た。
 それに合わせて、オレもを見てしまう。

 好きだからこそ、その言葉は魅力的な響き。

「愛人じゃなくて、本妻に欲しいんだけどね」

 でも、欲しいのは愛人なんかじゃない。
 の全てが欲しいのだ。
 愛人とか、正妻とかそんなモノで括られるモノじゃない、確かなモノが

「勿論、それも可能だぞ」

 オレの呟きに、子供がニヤリと笑う。


 本気で、魅力的なお誘い。
 今のままでは、叶う事のない望み。
 だけど、そんなモノよりも先に、自分にはやらなければいけない事があるのだ。

「折角のお誘いだけど、オレは医者になっての足を治す事が目標だからね。悪いけどそれ以外の事に興味はないよ」

 魅力的な誘いだけど、オレの一番にしなければいけない事は、まずの足を直す事。

 今の医学では無理だと言われているけど、将来、せめて普通に歩くぐらいには回復させて上げたいと思っている。
 その為に、嫌いだった勉強も頑張っているのだ。

「別に医者になっても問題はねーぞ。むしろ、そう言う知識を持ってるヤツがボスになる事に反対しねーかんな」
「……今直ぐって訳じゃないんだ」

 オレの真剣な言葉を聞いても、別段諦めた様子も見せず、いい事だと言うように言われて、小さくため息をつく。
 本当に、喰えない子供だ。

「言ったはずだぞ、オレはお前達の家庭教師だってな」

 そして、続けて言われたそれに、再度ため息をつく。
 要するに、この子供は、ボスとして教育する為に来ているのだから、今はまだその時期ではないと言っているのだ。

「本当に喰えない赤ん坊だね」

 全て計算されていると分かるからこそ、喰えない子供。
 全く、ボンゴレも厄介な奴を送り込んできたものだ。

「まだまだお前等には教える事が一杯だかんな。んじゃ、改めて、俺がここに来た経緯を説明してやるぞ」

 盛大なため息をつけば、満足そうに子供が口を開く。

 オレの部屋へと移動するように言われて、ちょっとだけ安心した。
 これ以上をこんな場所に立たせて居たくないと思っていた所だったから

 オレがを見れば、もオレを見て来て二人で頷き合う。
 それが、了解のサイン。

「オレはボンゴレファミリーのボス・ボンゴレ9世の依頼で、お前達をマフィアのボスに教育するために日本へきた」

 部屋に戻れば、子供はオレの部屋の椅子に当然のように腰掛けて話を始める。


 全く、9代目と言う奴にも困ったものだ。
 こんな、厄介な奴を送りつけてくるなんて……

 確か、子供の頃に一度会ってるよな……が、事故に遭って入院してる時に
 床なんかにを座らせる訳にはいかないから、子供の話をベッドに座って聞く。

「ボンゴレ9世は高齢ということもあり、ボスの座を10代目に引きわたすつもりだったんだ」

 昔の事を思い出していたオレは、チラリと自分を見てくるの視線を感じて小さく息を吐き出した。
 こんな話、には聞かせたくなかったのに……

「大丈夫だよ、

 不安気な瞳でオレを見詰めてくるに、出来るだけ安心させるように笑顔を見せて、そっとその手を握る。
 それで、が少しだけホッとした表情をした。

 オレ以外の候補が全て皆殺しにされた事を淡々と話す子供に、の眉間に皺が寄る。
 優しいには、こんな話は聞かせたくなかった。
 それが、マフィアの世界では当たり前だと分かっていても……


 傷付いた顔を見せるに、握っている手に力を込める。
 は自分が守ると言う思いを込めて

「ボンゴレファミリーの初代ボスは、早々に引退し日本に渡ったんだ。それが、お前等のひいひいひいじいさんだ。つまりお前等にはボンゴレファミリーの血を受け継ぐれっきとしたボス候補なんだ」

 そして、子供の話が終わったのが分かって、こっそりとため息をつく。


 それは、全部知っている事。

 本当に、迷惑な話だ。血を受け継ぐと言うなら、親父でもいい話じゃないのか?
 なんで、子供のオレ達に話が来るんだよ。

「そんな話聞いたことないんだけど……」
「当たり前だ。お前等には何も伝えられてねーんだからな。でも、お前は知っていたんだろう、綱吉」

 子供の話を聞いて、が信じられないと言うように呟く。
 それに対して、子供がオレを見ながら問い掛けてくる。

「ツナ?」

 確信を持って言われたそれは質問と言うよりも、確認。
 確かに、それは間違いじゃない。
 子供の言葉に、が驚いたようにオレを見詰めてくる。

「知ってたよ。でも、には知って欲しくなかった……」
「ツナ!」

 の視線を感じてオレは諦めてため息をつくと、正直に答えた。


 こんな事、本当はに知られたくなかったから、黙っていたのに、本当に余計な事しかしてくれないよな、あのバカ親父は!
 不安げな瞳で見詰めてくるに、オレは困ったように息を吐く。

「だって、そんな何代も前の話なんだから、オレ達には関係ないでしょ……そのまま、関係なく終わって欲しかったんだけどね」

 そう、オレ達には、関係ないはずだったんだ。

 こんな子供が来なければ、には何も知られずにすんだのに……。
 そう考えていたオレに、突然が抱き付いてくる。
 ギュッと抱き締められて、オレはただその背を慰めるように撫でた。

「大丈夫、オレ達は10代目になんかならないよ。だって、にはそんな世界一番似合わないからね」
「心配すんな、オレが立派なマフィアのボスにしてやる」

 不安だと分かるを安心させる為に言った言葉に、子供が余計な事を口にしてくれる。


 お前の目的は、じゃなくって、オレをマフィアのボスにする事だろうが!!

 に、手を出すと言うなら、本気で容赦しないからな!
 そんな事を思いながら、子供を睨みつけているオレの心情など知らないは、ただ複雑な困ったような表情をしていた。
 オレは、そんな表情をさせたくなくって、黙っていたのに……


 親父、今度帰ってきたら、本気で覚悟しとけよ!!