山本が教室に戻ってから、遅くなった昼食を食べた。

 しっかりと食べさせないと、そうじゃなくともの食は細いから
 せめて、食べられる時はちゃんと食べさせないとダメだ。

 そう思っているから、母さんが持たせてくれているお弁当をと一緒に広げている。
 ここが保健室だと言うのは関係ない。
 保険の先生には、今日一日戻ってくるなと、しっかり釘は刺しておいたから、誰にも怒られる事もないだろう。

 そう言えば、学校で一緒にお昼を食べるのは、かなり久し振りだと言う事を思い出して、ちょっと嬉しく思ってしまったのは内緒の話。


 本当、双子だからとクラスを別々にするなんて、学校の考えに対して恨み事を言いたくなる。

 今度、裏から手を回して、2年は同じクラスって言うのもいいかもしれない。

 そんな事をオレが考えているなんて知らないで、は美味しそうに母さんが作ったお弁当を食べている。
 その顔を見ながら、オレも思わず笑みを零した。






 放課後になって直ぐに、山本が明日の連絡事項を伝えてくれたのは助かったんだけど、下駄箱で今日の体育で負けたチームが人に絡んできてくれたのはかなり迷惑な話だ。

「お前が居なかったから負けたんだぞ!」

 言われた言葉に、深々と息を吐く。

 全くもって、バカばっかりだ。
 それは、自分達が弱いのだと言っている事にどうして気付かないんだろう。

「それは悪かったね」
「悪いと思ってるんなら、体育館の掃除やってくれよな!」

 ため息をついてから、一応の謝罪。
 勿論、悪い事をしたなんてこれっぽちも思っちゃ居ないんだけど

 素直に謝罪したオレに、数人の男子は多分負けたチームの罰だったのだろう事をオレに押し付けてくる。

 まぁ、悪いとは思ってないんだけど、別にそれぐらいはしてやってもいい。
 逆にこいつ等と話をする方が、もっと面倒なぐらいだし

「いいよ」

 オレはその言葉に、素直に頷いて返す。
 どうやらオレが承諾するとは思っていなかったのだろう、言って来た全員が一瞬驚いたような表情を見せた。

「って、いいのか?」
「別に構わないよ。掃除だけだったら、直ぐに終わるしね」

 恐る恐る質問してくる男子に、オレは少しだけ呆れながらも承諾の言葉を繰り返す。
 ビクビクするぐらいなら、最初から人に絡んで来なきゃいいのに……。

「ツナ、お待たせ……えっと……」

 もう一度ため息をついた瞬間、靴を履き替えて来たのだろうが顔を覗かせた。
 だが、オレの前に居る数人の生徒に気付いて戸惑ったような表情を見せる。

「んじゃ、頼んだからな!」

 が来た事に気付いて、慌ててその数名はその場から走り去って行く。
 それを見送ってから、オレはもう一度ため息をついた。

「ツナ、何か、あったの?」

 男子生徒達が居なくなってから、ホッとした表情でが近付いてくる。

「大した事じゃないんだけど、体育館の掃除しなきゃいけなくなったんだ」

 授業をサボった腹いせだと言う事を隠して、オレはその事実だけを伝えた。
 それだけしか言わなくても、勘のいいには、バレてしまうだろうけど

「それなら、俺も手伝うけど」
「大丈夫だから、は先に帰ってていいよ。掃除はそんなに時間掛からないからね」
「でも……」
「でもは聞かない。掃除終わらせて、直ぐにに追付くから、先に帰っててくれるよね」

 オレの言葉にが手伝うと申し出てくる事は分かっていたので、ニッコリと笑ってそれを拒否する。

 だって、に掃除させるなんて、そんな事はできない。
 しかも、今日のはヒバリさんの所為で頭に怪我をしているのだから!

 言い募るの言葉を遮って、言い聞かせるように口を開く。
 その言葉に、は諦めたようにコクリと小さく頷いた。

「それじゃ、気を付けて帰ってよ。走ったりしちゃダメだからね」
「分かってるよ!ツナも、掃除頑張って!あんまり急がなくてもいいから」

 を一人で帰すのは本気で心配なんだけど、オレに付き合わせる方がもっと嫌だ。

 だって、は知らないのだ。
 この学校で、人気が高い事を……
 オレが、へと向けられている沢山の想いを邪魔している事さえ気付いていないのだ。
 それがらしいけど、気付いて欲しいと思う、オレの気持ちだけでもいいから……


 が帰って行くのを見送って、小さく息を吐き出す。

 学校から家までは、オレの足で10分弱、の速度でなら30分ぐらい。
 掃除を10分で終わらせれば、十分に追付く事が出来るだろう。

「さーてと、早く終わらせてを追い掛けようかな」
「ツナくん」

 体育館に向けて歩き出そうとした瞬間、名前を呼ばれてその足を止める。

「笹川さん?」

 自分を呼んだのは、同じクラスの笹川京子。
 この学校のアイドルと言われている存在。
 確かに可愛い女の子だとは思うけど、オレには興味もない相手。

「どうしたの?」

 名前を呼んだまま何も言わない笹川京子に、オレは再度問い掛ける。
 何かを言い難そうにしているその姿に、思わず複雑な表情をしてしまうのは止められない。

「あ、あのね……ツナくん、今日授業に全然出てなかったのって、その弟さんが怪我したからだって聞いたから……」

 また告白か何かだと思っていたオレに対して、笹川京子が言い難そうに口を開いた。
 言われた内容は、予想していたものとは全く違う内容。

「ああ、心配してくれたんだ。有難う」
「うん、あのね!私、ツナくんと弟さんが一緒に居るのを見るのがすごく好きだから……ツナくん、くんと一緒に居る時って、とっても優しい顔してるよね」

 だけど今度は、の事を心配してくれたのだと分かって、ちょっとだけ複雑な気持ちになるのは止められない。

 もしかして、この子もの事が好きだと言うのだろうか?

 そんな心配をしていたら、オレとの事を好きだと言われた。
 一瞬何を言われたのか分からなかったんだけど、どうやらオレとが一緒に居る事が大事らしい。

「えっと、笹川さん?」
「京子でいいよ、ツナくん」

 言いたい事が理解出来なくて、オレはその真意を知りたくて、苗字を呼べば名前で呼べと言われてしまった。

「えっと、それじゃ京子ちゃん、一体何の話?」
「だからね、これからも、ツナくんとくんの事を応援してるから!」

 って、応援されても……
 あれ?ちょっと待て、オレの気持ちはバッチリと知られているって事なのか?!

 言いたい事は伝えたというように、笹川京子は何処かに走り去って行く。

 えっと、笹川京子は天然だって話は聞いていたんだけど、ここまで天然だったのかあの子……
 結局意味が分からずに、オレとの仲を応援されたって事は、もしかしてアレが噂の腐女子ってヤツなのだろうか?
 本気で噂でしか知らなかったんだけど、こんなにも身近に居たなんて……

 でも、オレとの事を応援してくれると言うのなら、オレにとっては敵じゃないと言う事。

「応援されても、何かが変わるとは思えないんだけど……」

 もう既に姿が見えなくなってしまった笹川京子へと、ポツリと呟く。

「でも、有難いかもね……」

 少なくとも、オレの想いを知っていて応援してくれているのだから、十分嬉しい事だ。
 もっとも、オレとが兄弟だと言う事を知っているのに応援してくれるのは、どうかと思うのだが……

 それでも、自分の気持ちを止める事なんて出来ない。
 オレがこの世で大切だと思える存在は、弟のだけなのだから………







「少し遅くなったな」

 あれから掃除を速攻で終わらせて、急いで学校を出て来たのだけれど流石に30分以上も経ってしまているので、は家に帰り着いているだろう。

 走って帰っても、もう既に追付ける時間じゃない。

「仕方ないか……」

 笹川京子と話していたとい言うのも時間のロスだったのだから……

 そんな些細な事を、が気にするとは思えないんだけど

 そんな事を考えながら、見えて来た自分の家の門を抜けた所で良く知った後姿を見付けてその足を止める。

 なんで、こんな所で頭抱え込んで座り込んでるんだろう?

?そんな所で何してるの?」

 挙動不審な弟の姿に、疑問に思って声を掛ける。

 オレに声を掛けられた瞬間、の肩が大きく震えて慌てて振り返った。
 どうやら、かなり驚かせてしまったみたいだ。

「ツ、ツナ!お、お帰り」
「うん、ただいま。で、何してるの?」

 立ち上がって言われたその言葉に、返事を返して何をしていたのかが気になって再度同じ質問をする。

「な、何でもないよ。早かったね、ツナ」
「言ったでしょ、追付くって……そう言っても、もう家に着いちゃってるんだけどね」

 結局オレの質問は誤魔化されて、感心したように言われた言葉に苦笑を零す。
 でも、予定よりもかなり遅くなっちゃたんだよね。
 本当なら、家に帰る前に追付ける筈だったんだけど……

 曖昧な笑みを浮かべて返すと、がオレと違って純粋な笑みを見せてくれる。
 その笑顔に、オレも心からの笑顔を見せる事が出来るなんて、きっとは知らないだろう。

「ところで、は何を握り締めてるの?」

 お互い笑い合ってから、オレはずっとの手に握り締められているそれが気になって再度質問。

「うん、家庭教師案内のチラシ……なんだけど、ツナには必要無いよね」
「ああ、にも必要無いでしょ、の先生はオレだからね」

 今度の質問には、も普通に返事を返してくれる。
 そして言われたそれに対して、オレはニッコリと笑顔で返事を返した。

 に勉強を教えるのは、オレにとっては大切な時間の一つだから

「ちげーぞ、お前等には十分必要だ」

 そんな事を考えていたオレの耳に、誰かの声が聞えてくる。
 オレはその声に、反射的に振り返った。
 気配に敏感な自分が、全く気付かなかったのだから

「ちゃおっス」

 振り返った先に居たのは、一人の子供。
 黒いスーツ姿のいかにも怪しげな子供が、オレに気付いて手を上げて挨拶してくる。

「誰?」

 はその子供には気付いていないらしく、辺りをキョロキョロと見回して声の主を探しているのだろう。

 きっと姿が見付からなくて、かなり不安らしくその顔色は微妙に悪い。
 ああ、そう言えばはホラーは全然ダメだったっけ……
 その事を思い出した瞬間、がオレに抱き付いてきた。

「何処見てやがる、こっちだ」

 どうやら声の主が人間外のモノだと思い込んでしまったのだろう、が震えながらオレにしがみ付いている。

「大丈夫みたいだよ、……で、君は何処の子?」

 そんなを落ち着かせようと優しくその頭を撫でてオレはため息とつくと、再度直ぐ傍に居る子供へと視線を戻した。
 オレの視線で、も漸くその子供の存在に気付いたようで、恐る恐る子供を見ている。

「オレが家庭教師のリボーンだぞ」

 オレの視線なんて気にせずに、その子供が正体をあっさりと口に出す。

 家庭教師?こんな子供が??

 信じられないが、今もこんなに近くに居ると言うのに、その子供の気配はやはり感じられない。
 それだけで、この子供が普通の子供じゃない事が分かる。

 だけど、だからと言ってこんな胡散臭い子供に何かを教わりたいとは思わない。
 親父関係のヤツだと分かるからこそ、特にだ!

「悪いけど、オレも も勉強に関して不自由はしてないから、他を当たってくれる?」

 そう考えるだけで、殺意が湧く。
 あんな親父と係っている奴など、信じられるはずもないから

「先も言ったぞ、お前等には必要だとな」

 人が殺気を送っているというのに、全く気にした様子もなく、真っ向から受け止める子供。
 やっぱり、普通の子供なんかじゃないようだ。

 全く、あのクソ親父は何でこんな厄介な奴を送り付けてきやがるんだよ!にもしもの事があったら、許さないからな!!

「ツ、ツナ!そんな子供相手に……」
「大丈夫だよ、どう見ても普通の子供じゃないから」

 遠い場所に居るだろう親父に対しても殺気立っていたオレに、が慌てて制止の声を掛けてくるのに、サラリと返事を返す。

 普通の子供なら、とっくの昔に逃げ出してると思うけどね。

「流石は、ボンゴレ初代の血を引くだけのことはあるみてぇだな……お前、知ってたのか?」

 オレの言葉にその子供がニヤリと嬉しそうに笑って問い掛けてくる。
 その質問に、確信した。あのクソ親父本気で面倒事を持ち込みやがって!!

「知りたくはなかったんだけど……昔、 を護る為に強くなろうと思って、親父の部屋を漁ってたら家の家系を知る事の出来るものが隠されていたからね」

 盛大なため息をつき、子供の質問に答える。

 もっとも、知りたくはなかったんだけど、そんな面倒な事実。
 何時か、確実に面倒な事になりそうな気がしたから、本当は綺麗さっぱり忘れ去りたかったんだけどね。

「えっと、ボンゴレとか初代の血とか、それってなんな訳?」

 だけど、何も知らないが不安そうに問い掛けてくる。

 この事は、と母さんには絶対に知られてはいけない沢田家の秘密。
 そして、それはこれか先も知って欲しくない事。

は知らなくっていい事だよ」

 恐る恐るオレを見上げてくるに、ニッコリと笑顔で言ってそれをバッサリと切り捨てる。
 だって、優しいには、そんな事実を知って欲しくない。

「弟の方は知らねぇみたいだな……オレが教えてやるぞ」
「教えなくてもいいよ。そんな事よりも、言ったはずだ、必要無いって」

 人が折角拒否したのに、子供が余計な事を言ってくれる。
 オレはそんな相手を睨み付けて、をこれ以上見られないようにその腕を掴んで引き寄せた。

「わっ!ちょっと、ツナ!!」

 突然の事にがバランスを崩す事は分かっていたので、それを支えてオレ自身で隠すようにその前に立ちはだかる。

「オレも言った筈だぞ、お前等には必要だと」

 スッと睨み付けたオレの視線など気にした様子もなく、子供はまた同じ言葉を繰り返す。
 オレも、子供も正直言ってどちらも引く気なんてないから、お互い睨み合うのは当然の結果。

「えっと、とり合えず、ここで話してても仕方ないから、家の中に入ってゆっくりとお茶でも飲みながら話をするって言うのはどうでしょうか……」

 人が真剣に対応してるって言うのに、そんな中申し訳なさそうに聞えて来た声が見事なまでにその場の空気を打ち壊してくれた。

 しかも、お茶に誘うってどう言う訳!!

!何言ってるの、こんな胡散臭いヤツを家に入れるなんて!!」
「そうだぞ!見知らぬヤツを行き成り家に迎え入れようとするんじゃねぇぞ!」

 言われた言葉が信じられなくって思わず口を開けば、子供からも咎めるような言葉が聞えて来た。

 って、自分でそれを言うなんて、どう言うつもりなんだか……。
 でも、言ってる事は間違ってないので、オレも思わずその意見に同意してしまった。

 その後、たっぷりとに説教をしたのは当然の事だろう。

 何故か、子供まで一緒に説教していたのは、気になるんだけど……。