あれから、を保健室に連れて行き先生を追い出して、自分でその傷の手当てをした。
ちょっと痣になって、傷が出来ている事に複雑な表情になってしまったのが自分でも分かる。
「一発じゃなくって、数発殴るべきだったかも……」
その傷を見ていると、ヒバリさんへの殺意が湧く。
そして、大切な人を護れなかった自分自身にも、腹が立つ。
あそこで、自分が気付いていれば、を傷付ける事だってなかったのに……。
ベッドに寝かせているを見詰めながら、オレはギュッと自分の手を強く握り込んだ。
「ツナ、オレは一度教室に顔出しとくな」
ギュッと自分の手を握り締めたオレに、山本が声を掛けてきた瞬間、ハッとして我に返った。
「ああ、そうだね……オレは……」
「ああ、お前の事はちゃんと言っとくから安心しろって!」
言われて時計を確認すれば、もう直ぐ一時間目終了の時間。
それに気付いて山本へと視線を向ければ、オレの言葉を先読みして爽やかな笑顔を見せてくれる。
そんな山本に、オレはただ笑顔を返した。
大雑把なようで、気を使ってくれる山本の性格には非常に助けられている。
今日だって、自分の大切なバットを渡してくれたし、の事を護ってくれようとしたのだ。
まぁ、結果的には、護りきれてなかったんだけど……
「頼むね、山本」
部屋から出て行こうとする山本に声を掛ければ、振り返って頷いてくれる。
その後姿を見送ってから、オレは今だに目を覚まさないの傍に椅子を置きそれに腰掛けた。
眠っているの顔色は、何時もの顔色でホッとする。
だけど、痛々しく巻かれた包帯が、それを全て台無しにしてくれた。
「、護れなくて、ごめんね……」
ポツリと呟いた言葉が、聞えて来たチャイムの音に掻き消されていく。
「ツナ、はめーさめたか?」
休み時間になったらしく、気付いたら山本が様子を見に来てくれた。
まだは目を覚まさない。
多分、今はただ寝てるだけだって分かっているんだけど、心配になってくるのは仕方ないだろう。
「まだだよ……何?もうお昼休み?」
チラリと見た時計は、既にお昼休みを指している。
なのに、は目を覚ます気配を見せない。
「おう、ツナは、昼は弁当だろう?ここで一緒に食おうと思ってな」
オレの質問に、山本が持っていたそれを見せてくれた。
思わず、そんな山本に笑ってしまう。
少しだけ力が入っていた肩から、スッと力が抜けるのが自分でも分かる。
「んっ」
そして、小さく聞えて来た声に、ハッとした。
「!気が付いた?」
「ツナ?」
きっとオレ達の声で意識が浮上してきたのだろうの瞳がゆっくりと開いて、オレを見る。
琥珀色と金色のオッドアイが、まだボンヤリとした状態でオレを映し出して、不思議そうに名前を呼ぶ。
きっと、今の状況を理解していないのだろう。
「山本が咄嗟に手を引いてくれたから、直撃は免れたみたいだけど、大丈夫?」
そんなに、オレはそっと質問。
返事は分かっているけど、聞かずには居られないから
「良かった。ヒバリさんには、仕返ししておいたから、安心してね」
予想通りが頷く。
それに、ホッと息を吐いて笑みを浮かべた。
「ツ、ツナ、一体何したの!?」
「何って、当然と同じように気を失ってもらったに決まってるよ」
そして、ポツリと呟いたオレの言葉に、サーッとの顔色が青褪めて驚いたように聞き返してくるのに対して、サラリと返事を返す。
仕返しと言うには余りにも物足りないけど、しっかりと反撃は返しておいたのは事実だ。
だって、に傷を付けたんだから、許せるはずがない。
思い出しただけで、ムカムカしてくるんだから
「気付いたみたいだな」
「山本…くん?」
「くんはいらねぇって言っただろう」
むっとしていたオレの耳に、今まで様子を見ていた山本が会話に入り込んでくる。
何か、オレが山本と初めて話した時と同じ会話が聞えてくるんだけど……
オレも、山本をくん付けしたら、速攻拒否られたっけ
「いや、そうじゃなくて!何で二人ともここに?授業は??」
「何言ってるの!を置いて下らない授業なんて受けられる訳ないよ」
懐かしい事を思い出していたオレに、が勢い良く起き上がって質問してくる。
その質問に対して、オレは当然とばかりに返事を返した。
だって、を置いて、下らない授業なんて受けたとしても何の役も立たない事は分かり切っているのだから
「一日ぐらい受けなくても、問題ないよ。それに今は休み時間だから、山本がここに来てるんだからね」
そう思って口にした言葉だったんだけど、恨めしそうな視線で見詰めてくるを前に、小さく息を吐いて今の時間を教えてあげる。
オレの言葉に、明らかにがホッと胸を撫で下ろした。
「が気にするような事じゃないのに……」
そんなを前に、オレは思わず正直な気持ちを零してしまう。
「そんな目で見られてもねぇ…」
思わず零してしまった言葉に対して、じーっと見詰めてくるの視線が酷くなった。
それに、もう一度ため息をつく。
「まぁ、の気持ちも分かるし、大した事もなかったみたいだから、いいんじゃねぇの」
の視線を真っ直ぐ受け止めていたオレに、山本がそっと声を掛けてくる。
「何言ってんの!が滅茶苦茶被害受けてるんだから、問題ありありだよ!!」
だけど、言われたその内容に、オレは思わず突っ込みを入れた。
「その分、雲雀には、ツナが思いっきり仕返ししてたじゃねぇかよ……俺、ツナが反撃したの初めて見たぜ」
オレの突っ込みに、何処か感心したように山本が口を開く。
仕返しって言っても、たいした事はしていない。
アレだけじゃ、仕返ししたなんてモノには当て嵌まらないと思うんだけど
「山本、委員長さんの事を呼び捨てしてるの?!」
思わず心の中で文句を言っていたオレの耳に、の驚きの声が響いて来て思わず顔を顰めてしまった。
、頭怪我してるのに、そんな大声出さないで欲しいんだけど……
「まぁ、そこは山本だしね……それよりも、そんなに叫んで大丈夫?怪我に響いたりしない?」
変な所で感心しているに思わずため息を付きながら返して、オレは心配になって質問。
頭を怪我してる状況で、大声を出したりしたら普通は響くと思うんだけど……
「大丈夫だって!本当に大した事ないから……山本が、助けてくれたんだったよね?有難う」
「えっ、いや…」
「助けるなら、傷一つ付けずに助けて欲しかったんだけどね」
オレの質問に、元気良く返して、改めて山本にお礼を言うのその笑顔に、山本がうろたえるのが分かる。
そんな山本に、オレがボソリと本音を零した。
そう、山本がもっと早くに気付いてを助けてくれていれば、怪我する事もなかったのに
なんて、を護れなかったオレには、山本を責める資格なんてないのは分かっている。
分かってるんだけど、そう思わずには居られないのだ。
「でも、山本が助けてくれなかったら、もっと酷い事になってたのは事実なんだし!」
オレの呟きに、が咎めるように口を開く。
そんな事は、言われなくても、分かっている。
頭では分かっているんだけど、心がそれに付いてきてくれないのだ。
「確かに、そうかもだけど……でも、の顔に傷が!」
「男なんだから、傷の一つや二つ気にする事ないから!それに、コレぐらいの傷なら、痕は残らないだろう?」
後は残らないと分かっていても、言わずにはいられない。
綺麗なの顔に傷をつくってくれるなんて、本気でヒバリさんが許せない。
「男だとか女だとか関係ないよ!に傷が付くのがいやなんだから!!」
心配させないように言われたその言葉に、オレはただ本心である言葉を返す。
もう既に、には一生消えない傷があるのだ。
それは、オレを守って出来た大きな大きな傷痕が……
だから、オレはもう二度とが傷付くところなんて見たくなかったのに……
「まぁ、確かにツナの気持ちも分かるからなぁ……あんまり自分に無頓着なのも問題なんじゃねぇの?」
オレの言葉で唇を噛むに、山本が諭すように質問する。
やっぱり、山本にはオレがどれだけを大切にしているのかが分かったのだろう。
一度だけ、名前を言わずに話をした事がある。
オレには、自分の命よりも大切な人が居るのだという事を……
山本は、そんなオレに凄いって言葉をくれた。
本当、そんな所が尊敬出来るよね。
「山本?」
「そうだよ!は自分に無頓着すぎるの!!」
不安気な瞳が山本を見上げる。
それに、オレは吐き捨てるようにそう言ってを強く抱き締めた。
オレなんかよりも、自分をもっと大切にして欲しいと思う。
が傷付くところなんて見たくないのだという事を分かっていながら、君は無茶ばかりする。
「…ツナ…」
ギュッと強くを抱き締めて言った言葉に、がオレの名前を呼ぶのが直ぐ傍で聞える。
「……ごめんね…」
そして、ポツリと聞えてきたのは謝罪の言葉。
そんな言葉が、聞きたかった訳じゃない
どうして、が謝るんだ。
本当に謝らなきゃいけないのは、を守る事が出来なかったオレの方なのに……
でも、オレがどんなにを守りたいと思っていても、君自身が自分を大切にしてくれなければ、それは成し得ない事なのだと分かっているのだろうか?
「謝って貰いたい訳じゃないよ……謝るぐらいなら、これ以上自分を傷付けるのはやめてくれるよね?」
そっとから体を離して、真っ直ぐに金と琥珀の瞳を見詰める。
オレが見詰める中で、その視線がフッと逸らされてしまった。
それが、オレの質問に対するの返事。
どうして、些細な願いさえも聞き入れてはくれないんだろう。
が傷付く度に、オレがどれだけ心を痛めているのかを、君はちゃんと知っている筈なのに……
きっと、オレはを失ったら狂ってしまうだろう。
でも、オレの気持ちがそんなにも強い想いだと言う事を、君は知らないから
「……俺は、そろそろ教室に戻るらねぇとな。ツナはまだここに居るんだろう?」
瞳を逸らしてオレを見ないに、口を開こうとした瞬間、山本が先に声を掛けてきた。
言われて時間を確認すれば、確かにもう直ぐ予鈴が鳴る時間。
「そうだね。もう少しは休ませておきたいから……」
「了解!先生には上手く言っといてやるからな」
山本の問い掛けに答えれば、明るい声が返される。
ああそう言えば、結局昼御飯食べ損なっちゃったから、山本には悪い事したかも
山本が部屋を出て行くのを見送って、その視線をへと戻す。
「ツナ!俺も教室に戻るから!」
「ダメ!言ったよね。もう少し休ませておきたいって……それぐらいは、聞いてくれるよね?」
その瞬間言われた言葉に、オレは当然と言うように却下の言葉を返す。
そして、卑怯だと分かっていても、訴えるように問い掛けた。
そう言えば、が聞き入れる事を分かっているから……
予想通り、が小さく頷いて返してくれる。
そんなに、オレはホッと息を吐き出した。
例え否定されないと分かっていたとしても、もしも拒絶されてしまったら、オレはどうするんだろう。
もしかしたら、この想いを全て吐き出してに縋ってしまうかもしれない。
そうすれば、が拒めない事を知っているから
「……ごめんね……」
そして聞えて来た謝罪の言葉。
ねぇ、本当に悪いのは誰なんだろう。
は悪くない、寧ろこれは全部オレの我が侭。
本当に謝らなきゃいけないのは、寧ろオレの方……
「言ったはずだよ、謝って貰いたい訳じゃないって……それにね、が無茶をするのは、オレの為だって分かってるから……無茶しないって言う約束が出来ないのなら、コレだけは守って欲しい。オレのいない所で勝手に居なくなったりしないで!お願いだから!!」
だから、せめてこれだけは許して欲しい。
ギュッとを抱き締めながら、オレは必死に自分の願いを口にする。
これも全部、分かっているから
こう言えば、が頷いてくれるって事を
「……約束、するよ……ツナ」
そして、返された言葉は、オレの望む言葉。
ポツリと口にしたを、オレはもっと強く抱き締めた。
ただ、この温もりを逃さないように