生まれた時から、ずっと一緒だった。
どちらかと言えば大人しくて、部屋の中に閉じ篭っている子供。
泣いていると、自然と手を差し延べたくなるそんな相手。
そして、そんな相手が誰よりも一番大切で愛しい存在になるのは、当然の事だろう。
「、そろそろ起きないと遅刻するよ」
オレの朝一の仕事と言えば、弟を起こす事。
ジャッと勢い良くカーテンを開き、今だに蒲団の中で幸せそうに眠っている愛しい弟を見る。
「!こら、起きないと置いてくよ!」
蒲団の中に入り込んでいる相手に、傍に近付いて声を掛けた。
勿論、それだけで相手が起きるなんて思っていない。
「………ん〜っ、もうちょっとだけ……」
案の上、はもっと蒲団の中に潜り込んでしまった。
ちょっとだけ見えていた頭も、完全に蒲団の中に隠れてしまう。
「駄目だよ、そう言って昨日も遅刻したよね!ほら、起きて!!今日遅刻したら、風紀委員長に咬み殺されちゃうよ」
正直言えばこのまま寝かしててあげたいとは思うんだけど、今日遅刻しちゃうと本気で不味い。
何がって、ウチの学校に居る自己中な相手が……
そう考えて、オレはへとその事実を伝えた。
そうすれば、が起きる事は分かっていたから……
「……おはよう、ツナ兄……」
予想通り、勢い良くが起き上がる。
正に飛び起きると言う言葉がしっくりとくるだろうか……でもね、もう少しでオレにぶつかる所だったんだけど……
「おはよう、……でも、急に起き上がるのはやめて、心臓に悪いから……」
「え〜っ、それって俺の所為?ツナが、先に心臓に悪い事言うから……」
「心臓に悪いって、本当の事だよ!今日遅刻したら、連続3日になるんだからね!!」
本当は気にしてないけど、注意するように言えば文句を言われてしまった。
でもね、オレは何も嘘なんて言ってないんだよ。
勿論、あんな風紀委員長なんかにを咬み殺させたりはしないけどね。
オレの言葉に、が何かを考え込んでしまう。
きっと、オレに悪いとかそんな事を考えているんだろう。
本当に分かりやすいよね、は……。
「ほら、走れないんだから、早く準備しないと今日も遅刻になっちゃうよ」
の考えている事が分かるからこそ、オレは気にしてないと言うように少しだけ急かすように口を開く。
「ごめん、ツナ……」
「謝らなくてもいいから、早く準備する!」
バッと蒲団を取り上げれば、が苦笑を零す。
そんな表情を見せるに、オレは呆れたようにため息をついた。
本当、分かっているのだろうか、オレは、だけを守りたいってそう思ってる事を……
「ほら、朝御飯食べないと、大きくなれないよ」
「う〜っ、ツナが意地悪言う……」
眠い目を擦りながら、が制服に着替え始める。
それを前に、オレは慌てて視線をから逸らした。
本当に、オレの事なんて警戒さえしないんだよね……兄弟なんだから仕方ないんだろうけど……
誤魔化す為に言ったそれに、が拗ねたように口を開く。
「意地悪じゃないよ。はそんなに食べる方じゃないんだから、朝御飯くらいはしっかり食べないとダメって言ってるんだからね」
本当、身長のこと言われるのは、嫌いなんだよね。
でも、それは朝御飯をまともに食べないが悪いんだよ。
寝起きが悪いのは毎朝起こしているオレが一番良く分かっているけど、時間ギリギリに起きるから朝御飯を食べないんだよね、の場合。
しかも、食が細いのだ、は!本人無自覚だけど……
「善処しますぅ……ツナ?」
オレの言葉に、が諦めたように口を開く、それに苦笑を零して視線を向けた瞬間見えたそれに複雑な表情をしてしまうのを止められない。
こんな顔すると、が気にするって分かってるのに、言わずには居られなくなる。
「…うん……ごめんね」
「何が?」
オレの為に付いた傷。
オレなんかを助けて、の綺麗な足に傷が残ってしまった。
あの時の事を思い出すと、今でも胸が締め付けられる。
それでも、君はオレに笑ってくれたから……。
オレの謝罪の言葉をしっかりと聞いているはずなのに、は知らないフリをする。
そんな君だから、オレは………
「ううん、なんでもないよ」
護りたいと、そう心から思う。
君が、オレに笑ってくれるから……
だから、オレも笑顔で居られるのだ
「ツっくん、ちゃん、早くしないと朝御飯食べる時間がなくなっちゃうわよ!」
ドアの外から母さんがオレ達を呼ぶ声が聞えてくる。
それを聞いた瞬間、オレ達はお互いの顔を見合わせて笑ってしまった。
そう、この笑顔をオレは護りたい。
それは、オレの願い、そして、決意なのだ。
学校に着いた瞬間、理不尽な相手がに向けて持っていた武器を振り上げるのが見えて、カッと体中の血が熱くなるのを感じる。
「あ、あの、俺、今日は遅刻してないんですけど……」
「うん、そうみたいだね」
本気でを傷付けようとする相手に、殺意が浮ぶ。
それは、この人に初めてあった時も同じだったように思う。
「!」
名前を呼び二人の間に割って入る。
入学式の時もそうだったけれど、が傷付けられそうになった時、オレは自分でも考えられないぐらい素早く動く事が出来る事を知った。
「行き成り何してくれちゃうんですか、風紀委員長さん」
相手が振り下ろしたトンファを鞄で受け止めて、自分でも冷たいと思えるような声で嫌味を言う。
本気でこの人は、を傷付けようとするなんて
オレだけに喧嘩を吹っ掛けてくるんなら、軽く流せると言うのに……
「ふ〜ん、やっぱり、そいつの事を庇うんだね、沢田綱吉」
「当たり前ですよ。はオレにとって大切な相手ですからね」
の事を庇ったオレに、ヒバリさんが意外そうな表情を見せた。
そんな相手に、オレはキッパリと言葉を返す。
この人が何を思って、そんな事を言ったのかが分かってはいるけど、気付かないフリ。
だって、オレにとって、よりも大切な相手などどこにも居ないのだから……
「…君にそんな奴が居たなんて、噂なんて、やっぱり当てには出来ないみたいだね」
オレの言葉を聞いて、ヒバリさんは何処か楽しそうに笑った。
オレは、全然楽しくないんだけど……。
大体、人の噂なんて、オレは信じたいとも思わない。
「何の噂か知りませんけど、に手を出すと言うのなら、オレも手加減しませんから!」
「ふ〜ん、君と本気で殺り合いたいなら、そいつをダシにすれば良い訳だね」
ギッと相手を睨み付ければ、ますます楽しそうな笑みを浮かべて信じられない言葉を口にする。
「何勝手に、人の弟をダシにしようとしてるんですか!大体、何かある毎に人に奇襲を掛けて来ないで下さい!」
毎日毎日人に喧嘩吹っ掛けてくるくせに、それ以上ににまで手を出そうとするなんて……。
本気で、迷惑な相手だ。
「って、何でツナが奇襲掛けられてるの!」
俺が言った文句に、突然近くからの叫び声が聞えて来て、かなり驚かされた。
本当、って突然だよね、行動が……
「、急に大声出さないでよ……」
「……そう言えば、まだ草食動物が居たのを忘れていたよ」
驚いて、思わずに文句を言えば、オレの傍でヒバリさんが不機嫌そうに呟く声が聞えて来た。
誰が、草食動物だよ!をその辺の奴等と一緒にしないで貰いたいんだけど!
「だから、何でツナが奇襲掛けられてるの?」
聞えて来たヒバリさんの声に、不機嫌になっていたオレに、がまた質問してくる。
ああ、そう言えばオレがヒバリさんに文句言ったような気がする……余りにもむかついてたから、忘れてたけど
「さぁ?そこに居る、風紀委員長に聞いてくれる」
の質問に、答えた訳じゃないけど、ヒバリさんのトンファー攻撃を避けながらため息をつく。
オレとしても、迷惑してる行為だから、理由が知りたいんだけどね。
「そんなの決まってるよ。僕は強い奴と殺り合いたいだけだからね」
オレが避けた攻撃から、今度は逆の手が攻撃を仕掛けてくる。
それを交わしたら、次は足って……本気で、面倒な相手だ。
次々と仕掛けられてくる攻撃をかわしながらウンザリとしてしまっても許されるだろう。
本当なら、さっさと片付けてと一緒に行きたいんだけど……。
でも、の目の前で誰かに手を出すなんて事が出来るはずもないから、ただヒバリさんの攻撃を避けるだけに集中する。
いい加減、諦めてもらいたいんだけど……
「あの、もう予鈴鳴ってるんですが……」
聞えて来たチャイムの音に対して、声を掛けてくる。
「ちょっと、ヒバリさん!このまま人を遅刻させる気ですか!!」
無駄だと思うけど、言わずにはいられない。
「なに、今更一日ぐらい遅刻が増えても問題ないでしょ」
だが、戻ってきたのは予想通りの言葉で、オレは盛大にため息をついてしまう。
「あ〜っ、またやってるのな」
そして、聞えて来たその声に一瞬だけそちらへと視線を向ける。
そこに居たのは、オレと同じクラスであり、友人とも言える相手。
暫く、と山本が話をしているのを気にしながら、オレはただヒバリさんの攻撃をかわしていく。
本気で、飽きてきたんだけど……
この人、何でこんなにもしつこいんだろう……
チラリと腕時計で時間を確認する。
このままだと、まで遅刻になってしまうだろう。
「山本!良い所に、悪いけどを連れて、先に教室に行っててくれる?は絶対に走っちゃダメだからね!」
そう思って、山本へと声を掛けた。
「……そんなに余裕があるなら、反撃してみなよね」
そんなオレに不機嫌そうにヒバリさんが文句を言ってくる。
余裕ね……確かにあるけど、反撃はしないよ。
だって、貴方を傷付ける理由がオレにはないから……
それに、何よりもの前で誰かを傷付ける気などないからね。
「ツナもああ言ってるし、先に行こうぜ」
オレの声を聞いて、山本がバックに挿してあったバットを軽々と投げて寄越してくる。
本当、こう言う所が有難い。
さり気無くそれを受け取って、投げてくれた山本に視線を向ければ、ウインクで返された。
を促すように歩き出した山本を見送って、逃げるだけじゃなく受け取ったそれで攻撃を防ぐ事に専念する。
避けるのは、正直言って疲れるから、山本には感謝しないとだね。
そう思いながらヒバリさんの攻撃を避ければその攻撃が近くの塀を壊した。
学校好きなのに、自分で学校壊すなんて……
そう思った瞬間、ヒバリさんがニヤリと笑う。
その笑みに気付いたけれど、その時にはもう遅く壊れたそれを手に持って、あろう事かに向けて投げ付けたのだ。
「!」
慌てての名前を呼べば、不思議そうに振り返る。
ああ、ココからだと流石に間に合わない。
そう思った瞬間、山本が気付いてを護ろうとしてくれたけど、運悪くそれはの額を掠めてしまった。
グラリと倒れるを山本が支えてくれる。
だけど、オレには見えてしまった。
の額から流れたそれを……
「……ヒバリさん、言ったはずですよ。はオレの大切な人だって……を傷付けるヤツは誰だろうと、許さない」
それを見た瞬間、言いようのない怒りが湧いて来る。
「なら、本気でやる気になったのかい?」
「やる気?そんなの、たった一発で十分ですよ、ヒバリさん」
スッと目を細めてヒバリさんの後ろへと移動し、手刀を首筋に入れる。
オレは、が傷付けられると、自分でも思っている以上の力を発揮するらしい。
それを証拠に、殆ど互角だったヒバリさんよりも確実に速く動ける事に気付いた。
だが、今はそんな事を気にしている余裕はなくて、一刻も早くの傍に行きたい。
「暫く休んでた方がいいですよ……副委員長には連絡しときますから」
自分でも冷たいと思う程の声音で、ヒバリさんに囁く。
その声が相手に聞えたのかどうかなんて、そんな事気にもしない。
崩れていく体をそのままに、オレはの方へと慌てて駆け寄った。
「!」
「まぁ、怪我自体は大した事ねーみたいだけど……ちょっと額は切っちまったみたいだな」
山本のその言葉に眉間に皺が寄ったのが分かる。
自分が一緒に居ながら、またを傷付けてしまうなんて……
「このまま保健室に連れてくから!」
ギリッと唇を噛んで、意識を失っているを抱き上げて、保健室へと急ぐ。
何時までもこんな場所に置いて置く事なんて出来ないから
ああ、勿論副委員長には知らせといた、山本に頼んで
だから、ヒバリさんは風紀副委員が面倒を見ているだろう。
たった一撃で気絶させる事が出来たのは、オレの愛読書のお陰。
もっとも、そんな事ヒバリさんが知るはずもないだろうから、これからますます人に絡んで来るだろうと、容易に想像出来てしまって、ウンザリしてしまう。
でも、を傷付けると言うなら、幾らでも相手してあげるよ。
勿論、手加減なくね