が眠ってしまったことを確認して、再度ため息をつく。

 気付いていたのに、手を差し伸べて上げられなかった自分を恨みたくなる。
 ここ最近は、リボーンの修行と称した嫌がらせの所為でと一緒にいる時間が減っていたから


「リボーン、居るんだろう?」


 そのお陰で、ますます気配や殺気には敏感になったから感謝出来るんだけど、その為にが苦しんでいた事に気付いていながらも、後回しになってしまった事が悔やまれる。
 何よりも、こんなにもを苦しめた相手を絶対に許す事が出来ない。


「……嫌がらせ、か……本気でダメダメだな」
「好意があったとしても、こんなのは嫌がらせ以外の何ものでもないだろう」


 相手を怖がらせるだけの行為なら、それはもう嫌がらせと同じだ。


「直ぐに、犯人を割り出せるよな?」
「……オレも最近はダメの傍に居なかったからな、相手の出方にもよるが、流石に数日は掛かるぞ」


 質問したオレに、リボーンがため息をついて返事を返してくる。

 数日も掛かるなんて、待てる訳がない。


「明日、一日で調べ上げてよ、ここ最近お前に付き合ってやったんだから、それぐらい当然だよな」


 期限を絞って言えば、盛大なため息をつくリボーン。


「何とかやってみるぞ。お前も、の携帯から相手を割り出せ」
「当然、明日はオレとの携帯を入れ替えるから、忘れるなよ」


 リボーンが頷いての部屋から出て行くのを見送り、オレは小さくため息をついて自分の腕の中で眠るを見た。

 今の寝顔に苦痛の色が浮かんでないことに、ほっとする。

 ちょっと自分がから離れただけで、迷惑な行動をしてくれるヤツが居るのが許せない。
 しかも、こんなにもを怖がらせたのだから


「それ相応の対応を考えてやるよ」


 もう二度と、に近付けないように

 その為には、あの人も参加させるべきだよね。
 そう考えて、小さくため息をつく。

 本当は、話をするのも嫌だけど、あの人を引き入れれば完璧に並盛には居られなくなるだろう。


の名前を出せば協力してくれるだろうけど、何を要求されるか……」


 前の時は確か、と一緒にお茶する時間を要求された。

 だけど、こそこそした行動をとられるのが一番嫌いな人だから、そんな奴が並盛に居るのが分かれば間違いなく咬み殺すだろう。
 なら、なにも要求が出ないように話を持っていけばいいだけだ。


「無償で、しっかりと働いて貰わないとだよね」
「んっ」


 ポツリと呟いたその言葉と同時に、から小さな声が聞こえてくる。
 視線を向ければ気持ちよさそうに眠っているの顔が見えて、ほっと息を吐き出す。

 このままの体制で寝るのは、流石にに負担が掛かってしまうだろうから、出来るだけ振動を与えないようにを抱き上げて直ぐ傍のベッドへと運んだ。


「さてと、オレの携帯との携帯を入れ替えて、逆探出来るように準備しとかないとね」


 流石にリボーンだけに任せてはおけないから、しっかりと準備しておかないと

 これ以上、が不安にならないように、対策を練らないとだよね。

 の鞄から携帯を取り出して、オレが持っている携帯をの鞄の中に入れる。


「直接声も掛けられない愚か者には、体裁を」


 もう一度だけが眠っていることを確認してから、部屋を出る。

 この調子だと、朝まで起きないだろう。
 そう思ったのに、その考えを悔やむことになる。






 作業に没頭していた為、気が付いたら日付がとっくの昔に変わっていた。
 しっかりと改良した、装置を片手に小さくため息をつく。


「寝る前に、の様子を見に行くかな」

 一日寝なくても大丈夫だけど、流石に寝ない訳にはいかない。

 には、余計な心配を掛けたくないから

 階段を下りての部屋へ向かう扉を開けようとした瞬間、異変に気付いた。

 明らかに、以外の気配を感じる。
 それに気付いて、音を立てないように扉を開く。
 暗闇でも慣れた目は、の部屋の中を鮮明に写してくれた。
 そして見えたのは、開いた窓とベッドに眠っているに覆い被さる人の姿。


「人のモノに手を出そうだなんて、いい度胸だね」


 気付いた時には、バンッと派手な音をさせてドアを開いていた。
 その音と、オレの声に驚いたように相手が振り返る。


「散々を怖がらせておいて、寝込みを襲うだなんて一回殺しても許されるよね?」
「おい、流石に許される訳ねぇだろうが」


 一歩一歩相手へと近付きながら言ったオレの言葉に、呆れたような声が返された。


「そこで高みの見物していたなんて言うのなら、流石に温和なオレでも許せないんだけど」
「誰が温和だ。お前が温和なら、世界中の人間の殆どが温和な人間になるぞ」


 の直ぐ傍に感じた気配に声を掛ければ、またしても呆れたような声が返される。

 どうやら、オレよりも前にこの場所に居たようだと分かって、不機嫌になるのは仕方ないだろう。
 こんな奴がに触られたと思うと、本気で今すぐ殺してやりたくなる。


「心配しなくても、こいつはダメには手は出してねぇぞ」

「……どう言う事?」


 相手を威嚇するほどの殺気を出したオレに気付いたリボーンが、それを遮るように口を開く。
 その言われた内容に、オレは意味が分からず聞き返した。


「こいつは、ダメの写真を撮ってやがった。それ以外の事はしてねぇぞ」
「写真?そう言えば、下駄箱に写真が入っているとか言って……」
「それが、こいつだ」


 オレの質問に対してリボーンが答えた内容で、思い出したように口を開けばリボーンが相手を指差す。
 そこに居るのは、確か写真部の人間。


「それで、の写真を撮ってどうするつもりだったの?」


 縄になったレオンに縛られている相手に確認するように問い掛ければ、ビクリと大きく体が震えた。


「ぼ、僕は、依頼に答えていただけで……その、無断で写真を撮るのは申し訳なかったから、ちゃんと写真も本人に渡してたんです……手渡しは、出来なかったので、その下駄箱に入れて……そ、それでどうしても、寝顔が欲しいと言われて、こ、こんな事を……犯罪なのは分かってたけど、どうしてもお金が欲しくて……」


 そして、オレの質問に慌てて言い訳を口にする。

 ふーん、依頼、ねぇ……


「その依頼は、どこから?」
「そ、それが、誰かは分からなくて、ただ撮った写真をある場所にもって行けばお金をくれたので……」


 リボーンによってから引き離された相手は、そう言って項垂れてしまう。
 その顔は見えないが、恐怖で震えているのはよく分かった。


「そ、それに、その、彼の写真は、人気が高くて…よく売れる、から……」


 そして続けて言われたその言葉に、ピキリと青筋が浮んだのが自分でもよく分かる。
 こいつは、で商売をしていたと言っているのだから


「……本気で、殺していい?」


 ボソリと呟いたオレの言葉に、『ヒィー』と言う悲鳴が聞こえてくるけど、そんな事は気にならない。
 大事な相手を自分の私欲の為に使われたのだから、許せる訳がないのだ。


「いい訳ねぇだろう」
「心配しなくても、完全犯罪出来る自信はあるから」


 ガタガタと震える男を前に、呆れたようなため息をついてリボーンが返してくるけどそれに対してあっさりと言葉を返す。


「た、た、助け……ほ、本当に、もう二度としないから……」
「今後のことなんて知らない。オレは、今までの事でもう許せないんだから」


 例えこれから二度としないと誓ったとしても、今までしてきた事が許せないのだから意味がないのだ。


「心の狭い奴だな」
「勿論、オレはのことに関しては他人に掛ける情けなんてカケラも持ってないからね」


 オレの言葉に嫌味で返してきたリボーンにきっぱりと言い返せば、またしてもため息が返される。
 嫌味を言っても通じなければ、それは嫌味じゃなくなるのだから当然の反応だろう。


「んっ」


 複雑な沈黙が続く中、聞こえてきた声にハッとする。

 そう言えば、ここはの部屋で、まだは寝たままの状態だった。
 まぁ、こんなに賑やかなのに寝ていられるは、すごいと正直に思うけど


「場所を変えた方がいいみてぇだな」
「そうだね。を起こす訳にはいかないから」


 ここ最近寝てないだろうのことを考えれば、このままゆっくりと寝かせてあげたい。


「そう言う訳だから、こいつはさっさと処分しちゃおうか」
「ヒィィィ!」


 の部屋に入り込んだ写真部の襟首を掴んでの部屋から引き摺り出せば、情けない悲鳴が上がる。


「殺るのは簡単だが、それじゃ何にも解決しねぇぞ」
「何、他に解決策なんてあるの?」


 の部屋から引き摺り出して、家から追い出した相手に、冷たく言い放ったオレにリボーンがそれを遮ってきた。
 止められた事に不機嫌になりながらも、一応聞き返す。


「あるぞ。こいつが売ったダメの写真を全部回収させればいい」
「そ、そんなの無理です!どれだけの数が出ているか……それに、匿名で買って行く人とかいっぱいで……」


 オレの質問に返ってきたのは、容赦のないもの。
 その言葉から、こいつもかなり腹を立てているらしい事が分かる。

 リボーンの言葉に、情けなく言われたそれは更にオレの怒りを買っている事に気付いているのだろうか。
 どれだけの写真を売ってたんだ、こいつは!


「そんな事は知らねぇぞ。自分の命が大事ならそれぐらいは当然だ」
「確かにね。で勝手に商売したんだから、それぐらいの事はしてもらわないと……ちなみに、オレの事は知らないだろうけど、は並盛最強の風紀委員長であるヒバリさんにも気に入られているんだから、こんな事がバレたらどうなるかなんて、簡単に想像出来るよね?」


 情けない言葉を言ったそいつに、容赦なくリボーンが口を開くのに続いてオレも容赦なく相手を叩き落す。
 どうすればより相手に恐怖を与えられるかと言う事は、並盛生であれば簡単に分かる事だ。


「そ、そ、それは……」
「咬み殺されるだけじゃなく、確実に写真部は廃部間違いないだろうね」
「まっ、待ってください!写真部は関係なく、僕だけがやってたんです、だから!」
「そんな事は関係ないよ。君が写真部だったのが悪いんだから」


 オレの脅しは、当然のように相手に恐怖を与えた。
 それに続けて脅しを掛ければ、必死で言い訳の言葉を口にするが、そんな事はオレには関係ない。
 こいつが写真部に所属していたのだから、その部がどうなろうが興味もないのだ。


「で、出来るだけ、回収します!だから……」
「それが聞ければ十分だ。君の顔と名前はしっかりとインプットされているから、逃げても無駄だからね」


 オレの言葉に、男が力無く頷く。


 まずは、一つ解決。

 さぁてと、もっと最悪な相手の処理は、これからだ。