最近、視線を感じる。
初めの内は、リボーンが見ているのかとも考えたんだけど、それなら最近と言うのはどう考えても可笑しい。
リボーンが来てから随分経つのだから、もっと前から視線を感じていないと変だよね。
しかも、最近そのリボーンはツナと『修行だ!』『特訓だ!』と言ってあんまり姿を見かけない。
そう言えば、ツナともまともに顔を合わせない日が……
そう考えると、視線の主はやはりリボーンじゃないって事で、だったら、誰かが俺の事を見ていると考えられる。
もしかしたら自意識過剰かなぁとも思ったんだけど、更に可笑しいと思ったのは物が無くなる事に気付いたから
「……また、ない………」
ポツリと呟いた言葉に、前の席に座っている人が心配そうに声を掛けて来てくれた。
それに曖昧な笑みを浮かべて何でもないと誤魔化してから、気付かれないように小さくため息をつく。
確かに自分がドジな事はちゃんと分かっているんだけど、こんなにも物を失くしたことは今まで一度もなかった。
どちらかと言えば、物を失くす事はない方だと思う。
ツナには、『は、物持ちいいよね』って、言われたぐらいだし
なのに、最近学校限定で気付いたら物が無くなっているのだ。
最初の内は、どこかで落としたのかとも考えたんだけど、机の中に置いてあった物なんだから、近くに落ちてないと可笑しいのに、どんなに探しても見つからないのだ。
だから、可笑しいと思ったんだけど、流石にこんな事を誰かに質問する訳にもいかず、最初の一回だけ周りの人達に落ちてなかったか質問して『知らない』と言われてからは諦めた。
その後も何度か、教室の机の中に入れていた私物が無くなっていたから、気の所為じゃないと思う。
流石にクラスの人を疑う事はしたくないから、このことは誰にも話してないけど
当然、ツナにも話していない。
こんな事を相談したら、もっと大変な事になりそうだから、怖くて出来ないのが正直な所。
それじゃなくても、リボーンの修行で疲れているのに、俺の事でまた心配を掛けたくないから
そんな訳で、最近の俺はかなりブルーだ。
だって、物が無くなるのは、誰かの嫌がらせって事だよね。
それってつまり、誰かが俺の事を嫌ってそう言うことをしているのだと考えると、何となく悲しくなる。
そして、更に追い討ちを掛けるよう可笑しなことが……
今日も、鞄に付けていたキーホルダーが無くなって居た事に落ち込んでいた俺の下駄箱の中に封筒が入っていた。
手紙と言うには、かなりの厚みがある。
なんだろうと思って中を見たら、大量に自分が写っている写真が入っていたから、ちょっと驚いた。
正直言って、何時撮られたのかも分からない写真。
たまたま写真を撮ったら俺が写っていた訳じゃなさそうなアングル。(だって、他には人が写ってないから)
これって、隠し撮りって言うのかな?
でも、何時撮られたのかも分からないし……
いやいや、分からないから隠し撮りなんだっけ……
ヤバイ、大分精神的に追い詰められてきているかもしれない。
こんな事までするなんて、俺のことが本当に嫌いなのだと思うと、更に悲しくなる。
盛大なため息をついて、俺はその封筒を鞄の中へと仕舞い込んだ。
その瞬間、携帯電話の着信音がして、大きく肩が震えたのが自分でも分かる。
慌てて携帯を取り出して、相手を確認するけど非通知の文字。
「もしもし?」
一瞬悩んだけど、着信音はずっと鳴り続けているので恐る恐る電話に出てみる。
だけど、受話器からは何も聞こえない。
いや、微かにだけど人の息遣いが聞こえるような気がするのは気の所為じゃないだろう。
「もしもし?」
俺は再度問い掛けるように相手へと語り掛ける。
だけどやはり、電話の相手は何も言わない。
どうしようかと考えた瞬間、プチリと通話が途切れた。
「……間違い、電話だったのかな……」
俺の勘がそれを否定するけど、必死に自分に言い聞かせて無理やり納得する。
だけど、その日から、こんな電話が毎日同じ時間に掛かってくるようになった。
正直言って、本気で怖い。
写真も、2日に1回の割合で靴箱の中に入っているし、非通知の電話は毎日掛かってくるのだ。
そんな事が流石に2週間も続けば、精神的にも参ってくるというもの。
正直言って、そんな状態になってしまったので、俺の携帯の電源は入っていない状態で家に置かれたままになってしまっている。
まぁ、緊急の連絡は早々ないだろうし、この電話に連絡してくるのはツナぐらいだから問題ないだろう。
「、最近何かあったの?」
だけど、流石にそんな状態になった俺に、ツナが気付かない訳がない。
自分でも分かっているけど、確実に食事の量が減って、最近良く眠れない状態が続いているのだから、体調も最悪になると言うものだ。
心配そうに質問してくるツナに、何と言えばいいのか分からなくて、視線を逸らすことしか出来なかった。
「」
そんな俺に、ツナが諭すように優しい声で名前を呼ぶ。
自分が誰かに嫌われている事を、人に話すのは躊躇われるけど、俺ももう限界だから、ツナに相談してもいいよね?
「……最近、色々あって……」
「うん」
でも、いざ話をしようと思ってみても、なんて言って良いのか分からずに躊躇いがちに口を開いた俺に、ツナが優しく頷いてくれる。
たったそれだけで、緊張していた俺は感情が溢れ出してしまい、ポロポロと涙を零してしまった。
ずっと我慢していたのだから、もう我慢しなくてもいいのだと思うと、涙が止まらなくなる。
「……」
突然泣き出した俺に、ツナはちょっとだけ驚いたみたいだったけど、直ぐに名前を呼んで優しく抱き寄せてくれた。
暖かなツナの腕に抱き寄せられて、ほっと息を吐き出す。
そんな俺の頭をツナの手が、優しく撫でてくれる。
「ごめんね、もっと早く聞いてあげれば良かった」
そして、申し訳なさそうに謝罪された事に、フルフルと首を振って返す。
だって、俺は必死でツナにばれない様にしていたんだから、きっと聞かれたとしても誤魔化していたと思う。
だから、今聞いてもらえて良かったのだ。
「そんな、事、ない……有難う、ツナ……俺、俺ね、誰かに嫌われているみたいで、嫌がらせされてたんだ……本当は、こんな事言うと、告げ口しているみたいだから、言いたくなくて……」
「嫌がらせ?」
しゃくりあげながらも、ツナにお礼の言葉と、必死で最近あった事を説明しようと口に出した俺に、ツナが信じられないというように聞き返してきた。
それにコクリと頷いて、返事を返す。
「…うん……学校の机の中に入れていた物が、無くなるんだ。下駄箱には隠し撮りの写真が入っているし……毎日非通知で無言電話が……怖くて、もう電源落としいるんだけど……」
ここまでくれば、完全な嫌がらせだよね。
せめてもの救いなのは、入っている写真が切り刻まれてないだけかもしれない。
「……それ、何時から?」
俺が説明したことに、ツナが一瞬考えるような表情をして、再度質問してくる。
何時からって……物が無くなりだしたのは、えっと、確か……
「……物が無くなりだしたのが大体3週間前ぐらいで、写真と無言電話は2週間前、だけど……」
「……、何でもっと早く相談しないの!!」
思い出しながら言った俺に、ツナが盛大なため息をつきながらもしっかりと怒られてしまう。
いや、だって、その内相手も飽きてやめるかなぁとか、軽く思っていたのだと言えば、また怒られた。
「とにかく、そんな話なら、早くオレに言ってよ、何とでも出来るんだから」
「……ご、めん……」
「の性格考えたら分かるけど、今日はオレが傍にいるからちゃんと寝るんだよ」
言わなかった事を咎められたけど、心配気に俺の頭を撫でるツナに謝罪したらまたしても、ため息をつかれてしまう。
だけど、その後続けられた言葉に、ホッと安心して小さく頷けば、一気に睡魔に襲われてしまった。
本気で、ここ最近寝られなかったから
俺は、睡魔に逆らうことなくそのままゆっくりと目を閉じた。