「沢田、頼む」
突然クラスメートに頭を下げられて、俺は訳が分からずに首を傾げてしまう。
「ど、どうしたの?」
「おまえ、風紀委員長と仲良かったよな?」
俺の質問に、続けて言われたそれ。
あれ?俺って、委員長さんと仲良かったのか??初耳のような……
と言うよりも、あれで仲良しと言われるのも、どうかと思うんだけど……
「いや、えっと、仲良いって程じゃ……」
「でも、話は出来るよな?」
疑問に思った事を口に出せば、更に質問される。
うん、普通に話は出来ると思う……いや、でも、だからって仲が良いって言うのかなぁ?
ツナには、委員長さんに関わるなって、耳にタコが出来るほど言われてるんだけど
そりゃ、何度か紅茶はご馳走になった事があるし、そのお礼にお菓子とか持って言った事はあるにはあるんだけど……
勿論、ツナには内緒で
「多分、普通には……」
「だったら、この出席名簿を応接室に持って行ってくれ!!」
質問に返した俺に、クラスメートの男子が出席名簿と書かれた黒い台紙の表紙を差し出してきた。
あれ?何で、出席名簿を応接室に持って行く必要があるんだろう?
「持っていくのは構わないんだけど、何で応接室??」
「クラスの出席名簿は風紀委員に提出しないといけないんだよ」
疑問に思った事を口にすれば、目の前の相手が説明してくれる。
そう言えば今更だけど、目の前の相手って、このクラスの委員長さんだったような気が……って、俺、それぐらいは気付こうよ!
「分かった、良いよ。風紀委員に持って行けばいいんだよね?」
「いいのか?助かる!!」
うなずいた俺に、クラス委員長がものすごく嬉しそうな顔をした。
そ、そんなに風紀委員長さんの所に行くの嫌だったんだ……。
預けられた書類を手に、思わず苦笑してしまうのは止められない。
う〜ん、そんなに怖がらなくってもいいと思うんだけどなぁ……思うほど委員長さんは怖くないのに……
それどころか、俺に美味しいお茶ご馳走してくれるし、早く歩けない俺を運んでくれたりするんだけど、何時も
うん、荷物運びだけど……
ツナとは、何でかは分からないけど、犬猿の仲?
うん、委員長さんの方が嬉々として綱吉に喧嘩を売っているように見えるんだけど……ツナは、それがすごくうっとうしそうだし
だから俺に、委員長さんとは関わるなって言うんだと思うんだけど……だって、委員長さんの場合は、俺をダシにツナに喧嘩売ってるようにしか見えないんだよね。
「でも、二人とも話をする時は、何かと意見が合ってるんだよなぁ」
きっと似たもの同士って言うんだろうと思う。
って、本人達が聞いたら怒りそうだけど……
「あれ?開いてる??」
そんな事を考えていれば、風紀委員長さんが居る応接室に着く。
ノックをしようとした瞬間、そのドアが少し開いている事に気が付いて首を傾げた。
そういう所には厳しい委員長さんなのに、珍しい。
そう思いながらも、ノックをしようとした瞬間に聞こえてきた声でその手が止まる。
「…………しか好きじゃないんですけど……」
聞こえてきたのは良く知った相手の声。
「ツナ?」
「それは、僕も同じ意見だけど」
何処か真剣な声に、動けなくなった。
好き?
綱吉が、誰を?
ここに居るのは、委員長さんだけで、それで、委員長さんも綱吉と同じ気持ち……?
グラリと目の前が暗くなる。
あれ?俺は、何でこんなにも傷付いているんだろう……ツナが、委員長さんに告白していたから?
一気に力が抜けていく。その所為で、俺は持っていた出席名簿を落としてしまった。
厚みのあるそれが、床に落ちて音がする。
「誰か居るの?」
その音に気付いて、委員長さんが声を掛けて来た。
だけど、俺はその問い掛けに返事を返す事もましてや、そこを動く事さえ出来ない。だって、二人が一緒に居るのに、俺なんかが邪魔出来る訳ない。
だからと言って、ここから走り去る事なんて俺には出来なくて、俺に出来た事と言えば落ちたそれをゆっくりとした動作で拾い上げる事だけだった。
「!」
ゆっくりとそれを拾い上げた瞬間、中に居た綱吉が外へと様子を見に来たのだろう、そこに居た俺に驚いたように名前を呼んでくる。
「あっ、ツナ……」
何処かぼんやりとしたまま、見上げた先に居る相手の名前を口に出す。
「何で、がここに居るの?」
「えっと、クラス委員長に頼まれて出席名簿を届けに来たんだけど、ドジして落としちゃったんだ…ツナは、委員長さんに用事終わったの?」
手に持ったそれを胸に抱いて、震えだしそうになるのを必死に抑えながらゆっくりと立ち上がり逆にツナに質問する。
だって、話を聞いていた事を気付かれちゃいけないって、そう思ったから……
「何で、がそんな事頼まれてるの?」
だけどツナは俺の質問には答えてはくれずに、不機嫌そうな表情で問い返してきた。
ああ、俺が委員長さんに会うのを嫌がるのは、もしかして俺に委員長さんを取られるかもしれないって不安だったのかな?
そんな心配しなくても、いいのに……だって、委員長さんもツナと同じ気持ちなんだよ、俺なんて気にする必要もないのにね。
だから、心配しなくていいよ、もう、邪魔したりしないから
「えっと、ほら、俺ちょっと委員長さんとは話しをするから……頼まれて……あっ、ツナも委員長さんの用事終わってないなら、これ渡しておいて貰える?」
ツナの質問に答えて持っていた名簿をツナへと差し出せば、当然と言うようにそれを持って行かれてしまう。
俺から名簿を取り上げたツナが、小さくため息を付くのが聞こえて、無意識にビクリと肩が震えてしまうけど、ツナに気付かれなかっただろうか……。
「いいよ、俺が雲雀さんに渡しておくから、は教室に戻って大丈夫だよ」
俺の心配は、杞憂に終わって、そう言うとツナは応接室に入って行く。
ああ、やっぱり俺って邪魔しちゃったんだ……
バタンと閉められた扉を前に一瞬泣き出してしまいそうになって、ぐっと手を握り締めた。
いつかは、こうなると分かっていた。
だって、ツナだって一人の人間なんだもん、好きな人が居ても可笑しくなくって……それが、男の委員長さんだったのには少しだけ驚いたけど、ツナが好きになったんなら応援してあげないといけないよね?
大好きなお兄ちゃんを取られてしまうのは正直言って悲しい。
だけど、大好きだからこそ、幸せになってもらいたいのだ。
でも、この胸の痛みは、お兄ちゃんを取られてしまったからなのだろうか?
きっと、そうだよね?
だって、ツナは、俺の一番大切な兄弟なんだから……