「なんで、そんなにこいつが階段を上り下りするのを嫌がるんだ?」

 突然のリボーンの言葉に、俺も思わずツナを見上げてしまう。


 今日も今日とて、ツナの部屋に入る前、難関と言われる階段をツナさんに抱えられて2階へ来ました。
 階段を上るのは、確かに俺にとってはかなり大変だから、ツナの行為は非常に有難いんだけど、階段を逆に抱き上げられて運ぶのは、危険な行為だと思うからこそ何度も止めた方がいいって言ったんだけど、今だに聞き入れてもらった事は一度もありません。

 確かに、昔何度か階段から落ちそうになった事あるけど、それは実は理由があるのだ。

「そんなの決まってるよ。が何度か階段から落ちそうになった事があるからに決まってる」

 そして、リボーンの質問に当然のように返されたそれは、予想通りの言葉だった。

 うん、確かに俺は何度か階段から落ちそうになった事があります。
 正直言って、俺は男子よりも女子の方が怖かった。だって、俺が階段から落ちそうになった理由は全部その女子の所為だから……

「おまえ、そんなにダメダメだったのか?」

 ツナの言葉に、リボーンが呆れたように俺を振り返って質問。

 ダメダメなのは認めるけど、そんな哀れんだ目で見るのは止めてください!
 俺は、ドジでもないし、そこまで哀れんでもらう程じゃないと思うぞ!うん、あくまでも思うんだけどね……違うって言われたら、かなり悲しい……。

「た、確かに、何度か落ちそうになったけど、落ちてないんだからいいじゃんか!!」
「その殆どが、オレが抱き止めたからだと思うんだけど」

 リボーンの呆れたようなその質問に、俺が言葉を返せば、ツナからの突っ込み。

 た、確かに、殆どはツナに助けてもらったけど、ちゃんと踏ん張って落ちなかった事もあるんだぞ!その後、直行で病院送りになったけど……


 あの時は、本気で痛かった。

 落ちないように、右足で自分の体を支えた時は、思わず悲鳴を上げるほどの激痛で一瞬意識が遠のいてまた階段から落ちるかと思ったからなぁ……その後、ツナが毎回駆けつけてくれたから何とかなったけど

 その時のことを思い出して、思わず苦い顔をしてしまうのは仕方ないと思う。
 その後暫くは、階段を上るのが怖くなったりするのは、幼かった証拠だよな、うん。

「あう、でも……」
「でもは聞かないよ!何度も言ってるよね。は、一人で階段を上し下りしちゃ絶対にダメ!一人で上るとしても、オレが傍に居る時だけにして」

 ツナの言葉に、何とか言い訳をしようとすれば、キッパリと拒否られた上に、更に追い討ちまで掛けられちゃいました。


 いや、それって、無理だから!!

「あの、俺とツナさんは、クラス違うから、それは無理です」

 だって、移動教室の時は、否応にも一人で階段の上り下りをする事になる。

 休み時間の間に移動できない俺は、特別に遅刻しても許してもらえるんだけど、だからと言って階段を上り下りしない訳にはいかない。

「………リボーン、お願いがあるんだけど」
「聞く気はねーぞ」

 俺が言ったその言葉に、一瞬ツナが考えるような素振りを見せて、リボーンへと声を掛ければ、キッパリとリボーンがそれを拒絶した。

 えっと、何を言おうとしたんだろう、ツナは……

「何?全然役に立ってないんだから、ちょっとぐらいは役に立ってくれてもいいんじゃない?」
「……おまえが、考えてる事が分かるから、嫌なんだぞ」

 だけど、それぐらいでツナが諦めるわけも無く、更に口を開けば、やっぱりリボーンは拒否。


 ……何だかんだ言って、この二人って仲良くなったよなぁなんて、思わず思ってしまうのは、息の合ったその会話を聞いているからだと思う。

 なんて言うのか、ツナはリボーンの事を良く分かっているし、リボーンもツナの事を良く分かっているのだ。
 俺が嫉妬してしまうぐらいには……。って、勿論、兄弟としてだからな!うん、多分……

「へぇ、分かるんだ。だったらお願いするよ、リボーン」

 ツナさん、怖いです。

 最近、黒い微笑を覚えて、ますます怖いんですけど……
 何か、山本を見てる様な気分になるのは、俺的に山本さんが黒いと思っているからでしょうか?

「………一応手を回しといてやる。だが、あいつが聞き入れるかどうかは分かんねーからな」

 ツナの笑みに、リボーンが盛大なため息をついてそれで納得しろというように、口を開いた。


 えっと、誰に何をお願いするんだろう??
 一人だけ会話に入れない俺は、ただ意味が分からずに首を傾げてしまう。

「えっと、一体何の話をしてるんだ?」

 頼むから、俺にも分かるように会話してください、本気でお願いします。

「何でもないよ。もう直ぐ1年も終わりだなって思っただけだからね」

 俺が質問すれば、ニッコリ笑顔でツナが返してくれた。その横でリボーンが盛大なため息をついてるんだけど……

「えっと、俺の階段の話から、どうしてそんな話しに……」
「深く考えなくっても、大丈夫だよって話」

 確か、ツナに階段を一人で上り下りするのを却下された事から話が始まったと思うんだけど、それが、なんで1年が終わるって事に……。

 でも、1年が終わるって事は、もう直ぐ2年に進級になる訳で、そうなるとクラス替えもあるから、俺と同じクラスになる人は申し訳ないよなぁ……。
 俺の所為で、確実に1階の教室になってしまうのだから……本当、移動教室とか気の毒なんだけど……だからって、毎日階段を上って2階や3階のクラスに登校するなんて、俺にはきっと無理だ。

「……また、クラスの人に迷惑掛けちゃうな……」

 色々と考えてしまって、思わずため息をついてしまう。
 本当に、俺の足の所為で一杯迷惑掛けてるんだけど……。

が気にする事なんて、何にもないんだからね!もう、どうしてそこでそんな事考えるの、は!」

 あれ?なんか怒られちゃったんだけど……。
 いや、でも、そこは気にする所だと思うんだけど……一人の生徒の我が侭で、クラス全員が迷惑になるんだから

「ツナの言う通りだぞ。おまえは変な所で遠慮しすぎだ」

 って、リボーンにまで呆れたように言われちゃったんだけど、俺が悪いんですか?

ちゃん、ちょっと手伝ってもらえるかしら!」

 どう答えていいのか分からなくなった俺に、階下から母さんの声が聞えて来た。

「分かった、直ぐ行く!」

 それに、天の助けと言わんばかりに返事を返して、ゆっくりと立ち上がる。

「って、訳だから、ちょっとごめんね」
「じゃなくって、先の今で、何さり気に一人で行こうとしてるの!」

 で、こっそりと部屋を出ようとしたら、ツナに怒られました。


 そんでもって、しっかりと抱えられて階段を下りる羽目になる。母さんは慣れたもので、『ご苦労様、ツっくん』なんて笑みで返すし、ランボには抱っこされてると馬鹿にされて、かなり恥ずかしかったんですけど……。




「ツナ、本当は知ってるんじゃねーのか?あいつが階段から落ちそうになった本当の理由……」
「さぁ、何の事?」

「……仲がイイおまえ等に嫉妬した女共があいつを突き落としてたんだろうが!」
「それは推測でしかないけどね、でもが何も言わないから、オレには分からないよ……それにね、これはオレにとっては一番の役得なんだから、誰にも邪魔されたくないんだけど」
「分かってるのに、あんな事言ってやがるのか!」

「さぁね……それじゃ、ここまで話したんだから、例の件宜しく頼むね」

 俺が、母さんの手伝いをしている中、リボーンとツナがそんな会話をしていたなんて、俺が知る訳も無い。


「……やっぱり、喰えないヤツだな……」