偶々母さんが手が離せないという事で、回覧板を次の家に回すのを頼まれた俺は、その家で大量にあるモノを貰ってしまった。

 『一杯あるから持って行って!』と気前良く言ってくれるのは非常に嬉しかったんだけど、コレを持って家に帰るのかと思うと、正直言って複雑な気持ちになる。

 いや、そりゃ家は直ぐそこだから、大した事ないって言われるかもしれないけど、俺にとってはそれだけでも大変な作業なのだ。

ちゃん、大丈夫かい?おばちゃんが持っていこうか?」

 目の前のそれを見てどうしようかと考えていた俺に、それを気前良くくれると言った人が心配そうに質問してくる。

 それは非常にありがたい申し出だけど、品物を貰った上に家まで運んでもらうなんて、そんな失礼な事が出来る訳もない。
 しかも、年配とは言え女性に対して失礼な行為だ。

「だ、大丈夫です!家は、直ぐそこだし、俺も一応男だから……」

 必死で笑顔を作って、それを抱え込む。
 持った瞬間、ズッシリとした重みが足に負担を掛けてくれた。

「そうかい?なんなら、ツナくんを呼んだ方が……」

 重みにちょっと顔をしかめてしまった自分に気付いたのか、おばさんが心配そうに申し出てくれるけど、俺にも男としてのちっぽけなプライドがあるんです!

「だ、大丈夫です。本当に、こんなに頂いてしまってすみません。また改めて母と一緒にお礼に伺いますね」
「いいのよ!今年は豊作だったからね!それに、何時もおいしいお菓子を頂いてるんだから、コレぐらいは安いものよ」

 ペコリト頭を下げながら言った俺の言葉に、おばさんがニコニコと笑顔で返事を返してくれる。

 そう言えば俺が作ったお菓子を、母さんが時々近所の人にもお裾分けしてるとは言ってたけど、もしかしてここにも届けられてるって事なんだろうか?
 なら、この貰ったモノで何か作って、お礼にプレゼントするのもいいかもしれない。

「それじゃ、これ遠慮なく頂いていきます。有難うございました」
「気を付けて帰って頂戴ね」

 ちょっとだけフラフラしながら、お礼を言って家を出る。
 そうすれば、心配そうな声が返ってきた。

 こんなにもフラフラしてたら、心配するだろうね。
 もう既に足に負担が掛かっているのが、良く分かるし……家、見えてるんだけど、一歩一歩が何て言うか辛い……。

 でも、だからって、家まで1分の距離をツナに来てもらうのは正直言って申し訳ないし、女性に持たせて送ってもらうなんて絶対に許せない。
 そうなると、自分で持って帰るしか道はない訳で……でも、こんなに貰って本当に良かったのかな?
 すっごく立派な物なんだけど……

「……ど、どうしよう、ドア開けられない……」

 フラフラしながら家にたどり着いて、呆然としてしまう。
 だって、両手が塞がってて、どう考えてもドアを開く事が出来ない。

 一度荷物を下に下ろすのが普通だろうけど、俺はそんな事したらもう二度とこの荷物を持ち上げられない自信がある。
 正直に言えば、この荷物を持って座るって言う行為が出来ないって言うか……

 大声で言えば、母さんがドア開けてくれるかな?
 でも、今は手が離せないって言ってたから、俺が回覧板を届けた訳だから邪魔しちゃ悪いし

「ダメ、んな所でなに突っ立ってやがるんだ」

 どうしたものかと考えている中、目の前のドアが開いて中からリボーンが……

「助かった。有難う、リボーン」

 ドアを開けてくれた事にお礼を言って、俺はリボーンが開いてくれたドアから中に入って持っていた荷物を玄関に下ろした。

「何だ、それは?」

 ドサリと音をさせて置いたその荷物に、リボーンが不思議そうに質問してくる。

「隣のおばちゃんがくれたんだ。サツマイモ」

 リボーンの質問に、俺も玄関に座り込んで右足を擦りながらその疑問に答えた。

「足が痛てぇのか?」
「うん、流石に重い荷物とか持つのは足に負担がかかっちゃうんだ……」

 右足を擦っている俺に、リボーンが更に質問してくるそれに、苦笑を零しながら言葉を返す。
 情けないけど、ちょっと歩いただけでも、重い荷物を持っていると数十分歩いたのと同じようなモノなんだよね。

「おかえりなさい、ちゃん……ごめんなさいね……あら?どうしたの、これ?」
「ただいま。あのね、隣のおばさんが、今年は豊作だったからって、お裾分けしてくれたんだ」

 多分俺の声が聞こえたのだろう、母さんがキッチンから出て来て玄関に置かれているダンボールに首を傾げる。
 それに、俺は返事を返しながら、中が見えるようにダンボールの蓋を開けて中身を見せた。

「あらあら、こんなに一杯。持ってくるの大変だったでしょう?」

 中身を見せれば、箱一杯に入っているサツマイモを見て、母さんが心配そうに聞いてくる。
 うん、確かにかなり足に負担はかかたけど、持てない訳じゃないんだし

「大丈夫だよ」
「何が大丈夫なの?」

 心配そうに見詰めてくる母さんに笑顔で返した瞬間、階段を下りてくるツナが不思議そうに会話に加わってきた。

「ツっくん。お勉強はもういいの?」
「別に勉強してた訳じゃないから……それで、どうしたの?」

 そんなツナに母さんが声を掛ければ、再度同じような質問が返ってくる。
 そっか、ツナが勉強してたから、俺に用事が来たのか……俺は、ツナと違って暇してたから別にいいんだけど

「お隣さんから沢山のサツマイモを頂いたのよ。でもね、ちゃんが持って来てくれたから、ちょっと心配で……」

 って、そこ!何で素直にまんま説明してるんですか?!
 だって、そんな事言ったら……

!そう言う時は、オレを呼ぶように、何時も言ってるでしょ!!」

 って、予想通りの言葉が返ってきました。

 前にも一度あったんだよな。
 その時も、こうやって怒られました。

「だって、お隣から帰るぐらいだから……」
「だからじゃないよ!何時も言ってるでしょ、無茶したら、大変なのは自身なんだからね!!」

 う〜っ、だから知られたくなかったのに……母さんのバカ!!

 この原因を作った母さんを恨めしく思いながら見れば、ニコニコと楽しそうに笑ってるし
 俺が怒られてるのに、何で母さんは笑ってるの?!

「こんなに一杯のお芋どうしましょうね。お礼にお菓子でも作ってお隣にもって行かなくっちゃ!」

 怒られてる俺は完全無視ですか!?お芋の方が大事なんですか、お母様!!
 嬉しそうに沢山のお芋を前にどうしようかと模索している母さんに、泣きたくなってきました、本気で

「母さん!が無茶したって言うのに、何暢気なこと言ってるの!」
「あら、だってツっくんがちゃんを叱ってるんだから、母さんから言う事はないでしょう?だったら、今は何を作るか考えた方がいいと思うのよ」

 酷いです。
 どうしてそこで、俺の事を庇うって言う選択項はないんでしょうか?

「か、母さん……」

 ツナに怒られて、シュンとしていた俺は、当然と言うように言い切った母さんを複雑な気持ちで見詰めてしまう。

 可愛い息子が、迷惑掛けないように頑張ってるのに、使い道を考える方がいいって……

「それに、ちゃんも反省してるみたいだし……」
「反省してるなら、どうして同じことしちゃうの!」

 恨めし気に母さんを呼べば、慌ててフォローするように続けられる言葉。
 それに、ツナが再度怒ってくれちゃいました。

 反省はちゃんとしてるもん。でも、だからって、コレは俺の性格だから、仕方ないって諦めてくれた方が楽だと思うんだけど

「お隣からだから、大丈夫かなぁって……そ、それに、荷物置いて、ツナを呼びに行くのも悪いと思って……」
「どうしてそこで、そう言う事を考えちゃうの、は!」

 必死で言い訳した内容にも、やっぱり怒られちゃいました。
 だってだって、どうしてもそう考えちゃうんだもん。お、俺は、悪くない!普通の人は、そう考えると思うし、それに、もてない訳じゃないし、ちょっと自分で頑張れば丸く収まるんだから……

「それぐらいにしとけ、それよりも、折角ダメがこんなに一杯持って帰ってきたんだぞ、焼き芋パーティでもしようじゃねぇか」
「いいわね、焼き芋パーティ!今ならご近所のお掃除すれば、落ち葉もあるからちょうどいいわね」
「……母さん、それって近所の掃除して来いって言ってる訳?」

 ツナに怒られると、ビクビクしていた俺に、リボーンが珍しくも助け舟を出してくれた。
 それに続いて母さんが楽しそうに同意すれば、呆れたようにツナが聞き返す。
 うん、俺にも近所の掃除して来いって聞こえたんだけど……

「そうだな、たまには近所の役に立って損はねぇぞ。獄寺と山本も呼んで、お前らで落ち葉を集めてきやがれ」
「……分かった。でもはだめだからね」

 理不尽なリボーンの言葉に、深々とため息をついてツナが携帯を取り出して電話を掛け始める。
 それからしっかりと、釘を刺されてしまった。

 って、掃除するぐらい大丈夫だと思うんだけど……

「そうだな、お前はやめとけ、ママンと一緒に芋の準備をしとけよ」

 リボーンにも、しっかりと言われちゃいました。
 う〜ん、リボーンには帰って来た時に足を擦っている姿見られてるから、仕方ないといえば仕方ないんだけど

 本気で、心配なんてしなくっても大丈夫なのに







 それから、かなりの時間を掛けてツナ達が大量の落ち葉を集めてきた。

 その顔が疲れていたので、質問したんだけど曖昧な返事しか返ってこなくって何があったのか分からない。

 ツナ達が戻ってくるまでに、しっかりとお芋の準備はしておいたけど……焼き芋作るのって、かなり時間掛かるんだけど……
 取り合えず、ネットで調べた焼き芋の作り方は、アルミホイルに包んで、ちょっと穴を掘りその中にアルミホイルで包んだ芋を入れる。
 その上で焚き火をすれば、1時間位で出来上がるって……気長な話だよね。

「焼き芋が出来るまでの間に、お茶でもする?」

 疲れているみんなの姿に、焚き火の炎を見ながら問い掛ければ、小さく頷いて返された。
 声に出せないほど疲れてるみたいなんだけど……

「じゃあ、ちょっと待っててね」

 そんなみんなの姿に心配しながらも、リビングから中に入ってキッチンへ向かう。

ちゃん、どうしたの?」
「何か皆が疲れてるみたいだから、お茶でも飲みながら焼き芋出来るの待とうかと思って……焼き芋なら、日本茶の方がいいかな?」
「そうね、緑茶でいいかしら?そうだわ!今、スイートポテトが出来上がった所だから、一緒に持って行く?」

 キッチンに入れば、もう既に貰ったお芋で料理をしていた母さんが、声を掛けてくる。
 それに質問をすれば、嬉しそうに質問で返された。

 俺も手伝ったんだけどね、ポテトの裏ごしとか……

「お芋尽くしになっちゃうけど、焼き芋出来るまで結構時間掛かるみたいだし、お茶菓子あった方がいいよね」

 嬉しそうに見せてくれたスイートポテトを幾つか貰って、お茶の準備をしてからそれを全部お盆に乗せて元来た道を戻る。

「お待たせ!」

 落とさないように慎重にそれを運んで戻れば、座り込んでいる3人の姿。
 本気で疲れてるんだけど、一体何があったんだろう??

「サンキュ、

 声を掛けた事で一番に反応したのが山本で、俺から湯飲みを受け取って直ぐにそれを飲み始めた。
 もしかして、喉が渇いていたんだろうか?

「有難う、
「……サンキュ」

 続いてツナが御礼を言って湯飲みを取り、最後に獄寺くんが小さくお礼を言って湯飲みを取る。

 皆が皆、それを飲んで盛大に息を吐き出してるんだけど……


 なんて言うか、縁側で寛いでいる老人の図みたいなんですが……

「ほ、本当に、大丈夫?」
「ん、大丈夫だよ。の入れてくれたお茶のお陰でかなり生き返ったから……で、それは?」
「あっ!焼き芋出来るまでのお茶菓子にって、スイートポテト」

 何処かホッとしたような表情で言われて、俺もちょっとだけ安心して続けて質問されたそれに、慌てて皆にお皿に載せたそれを配る。

「疲れてるなら、特に甘いモノは安心できると思うんだけど……お茶のおかわりは言ってね、直ぐ入れてくるから」
「うん、有難う、

 フォークと一緒に渡したそれに再度お礼を言われてしまうけど、俺はただ運んできただけだから、そんなにお礼言われるような事はしてないと思うんだけど

ちゃん、おかわり準備するの大変だろうから、急須とポットをここに置いとくわね」
「有難う、母さん」

「んじゃオレ、おかわり頼むな」

 複雑な気持ちでいる中、母さんが急須とポットを持ってリビングに顔を覗かせる。
 ポットをテーブルに置いて、近くのコンセントと繋いでその傍に急須を置くのを確認してお礼を言えば、山本からおかわりの言葉。

 それに、湯飲みを受け取って入れていれば、ツナ達も次々におかわりを請求してきた。

 う〜ん、よっぽど喉が渇いてたって事だろうか??

 本気で、何があったんだろう??



 それから、時間を掛けて出来上がった焼き芋を、本当に皆で食べた。

 俺達4人は勿論、リボーンをはじめ、ランボくんにイーピンちゃん、京子ちゃんとお兄さんにハルちゃんまでもが、遊びに来たのにはかなり驚いたんだけど……

 更に、何処で聞きつけていたのか、恭弥さんまで来て、焼き芋を貰ってくれたから、本当に沢山頂いていたのに、あっと言う間になくなってしまった。

 たまには、こんな日もいいかもしれない。
 だって、わいわいと賑やかに焚き火を囲んで食べた焼き芋は、とってもおいしかったから


 ただ、気になったのが恭弥さんが来た時に、ツナ達がすっごく不機嫌そうな顔をした事かな?