腕の中の愛しい人は、幸せな顔をして眠りについた。
 その鮮やかな寝息を耳に、ホッと息を吐く。

 きっと、知らないだろう。
 オレにとって、こんなにも無防備に眠る行為がどんなに残酷な事なのかを……。





 幸せそうな顔で、オレに擦り寄ってくるを、そっと抱き締めれば嬉しそうにさらに擦り寄ってくる。

 その寝顔を見ているだけで、幸せになれるのと反対に、このまま自分の気持ちを全て吐き出し、その体を自分だけのモノにしたいと言う衝動にかられてしまう。


 信頼してくれる事は嬉しいけど、その信頼は、兄弟と言う枠から抜け出してはくれない。
 自分が望む気持ちは、兄弟と言う枠には収まりはしないと言うのに…。

 もしも、この気持ちをが知ったら、どうするんだろう?
 オレを軽蔑して、逃げる?

 そうなったら、オレはどうする。
 逃げるを、決して逃がさず、自分と言う鎖に縛り付けて、放しはしない。

 そんな事出来ないと分かっているのに、心の中にあるのは信じられない激情。
 その気持ちが、だけに向けられている。

 狂っていると言われてしまえば、狂っているのかもしれない。
 血を分けた兄弟。しかも、双子の弟を、こんなにも好きになるなんて……。


 それでも、気持ちは抑えられないのだ。

「好きになって、ごめんね……」

 腕の中で幸せそうな表情をして眠る存在に、そっと謝罪。

「それでも、オレは、だけが好きだから……だから、も、オレを好きになって……」

 望んでも、無理だと分かっていても、願わずにはいられない。
 もしも、君がオレを選んでくれるなら、全身全霊を掛けて護るのに…・…。

 誰にも、見せずに、ずっとオレの腕の中に居て、愛していける………

 ……いや、好きになって貰わなくっても、君を護るよ……この想いが一方通行だとしても……。

「んっ、ツナ……」

 聞えて来た声に、ハッとする。
 起きた訳じゃないと分かっていても、起こしてしまったのかと不安になってを見ても、その寝息は変わらない。


 呼ばれたのは、自分の名前。

 それだけでも、幸せになれる自分が居る。
 例え今は、自分の事を兄弟としか思ってもらえないとしても、今にとって一番身近に居るのは、自分だけ。
 今は、それだけで我慢していよう。

「好きだよ、……」

 何度も、寝ている君にそう伝えれば、この気持ちは届くだろうか?

「……好き……愛してる……だから、もオレを、オレだけを好きでいて……」

 ギュッとその存在を抱き締めれば、嬉しそうに擦り寄ってくる。
 今は、それだけを、大事に受け止めよう。

「……ツナ、大好き……」

 そう言ってくれるから、それだけを大切に……。
 オレは、ただ眠っているアキの唇にそっと自分のそれを重ねた。

 これは、儀式。

 早くオレだけのモノになって欲しいと、そう全ての願いを込めて……。