、お願いだから、そんなに擦り寄って来ないで……」

 暖かな温もりが心地よくって、俺はそれの温もりに身を委ねる。
 何処か遠くから聞えてくる声も、今の自分には子守唄のようで……

「……抱き付いてくれるのは嬉しいんだけど、理性が持たなくなりそうなんだけど……」

 理性?何の理性だ??

 訳の分からない言葉で、漸く俺の意識が浮上してくる。
 気持ちのいい温もりにもう一度擦り寄って、ゆっくりと瞳を開いた。

「おはよう、

 目を開いた筈なんだけど、真っ白な何かに遮られて何も見えない俺の頭上から声が聞えて来て、ボンヤリトした頭で視線を上えと向ける。

 見上げた瞬間見えたのは、見慣れたツナの優しい笑顔。

「ん〜っ、おは、よう?」
「何で、疑問系なのかは謎なんだけど……」

 まだ寝ぼけた頭では状況が理解出来ない。


 えっと、昨日は確かツナと一緒に寝たんだよな……んで、俺が今抱きついてるのは?

「あう、ごめん、ツナは俺が抱き付いてたから起きれなかったんだよな……」

 漸く状況を理解して、慌ててツナから離れる。

 だって、俺が抱き付いてたら、何時まで経ってもツナが起きれないだろう。

「別にまだ時間は大丈夫だから気にしなくていいよ。もう少し寝てられるけど、どうする?」
「ん〜っ、気持ちいいけど、もう一度寝ちゃったら、起きる自信ない…」

 ポンポンと慰めるように頭を撫でてくれるツナの手が気持ち良くって、思わず目を細めてしまう。

 質問されたそれに、俺はしっかりと返事を返せば、ちょっとだけツナに笑われてしまった。う〜っ、俺はちゃんと自分を分かってるんだよ。
 もう一度寝たら、絶対に起きずにそのまま昼まで寝ちゃう事は分かってんだ!

「それじゃ、オレは部屋に着替えに行くよ。の服は母さんが来て置いていったから、それに着替えてね」

 って、もう母さん起きてるんだ……しかも、この部屋に入って来たって全然気付かなかったんですが……まぁそれは、今に始また事じゃないから気にしないんですけど……

「んっ、分かった…」

 俺を残してベッドから起き上がったツナに言われて、俺もムクリと体を起こす。
 ツナに返事を返せば、もう一度頭を撫でられた。

「それじゃ、また後でね」

 って、何か同じ年の筈なのに、すごい子ども扱いされてるように思うのは気の所為だろうか?

 ツナが嬉しそうに部屋から出て行くのをを見送って、俺は小さくため息をついた。

 母さんが置いていったと言う服は、綺麗に畳まれて椅子の上に置かれている。それを見て、もう一度ため息をついた。


 な、何か、色がピンク色に見えるのは、俺の気の所為だよな、そうだよな??

 広げるのが嫌になりそうなその服の色に、俺はどこか遠くを見詰めてしまっても許されるだろうか。


 母さんは、本気で俺の性別忘れてないか?なぁ、誰か教えてくれ!

 このまま現実逃避している訳にも行かなくって覚悟を決めてベッドから起き上がり、服が置いてある場所へと移動する。

 そして、服を広げて、再度動きを止めてしまっても許されるよな?


 な、何で、こんな可愛い服を息子に選ぶんだよ!母さん!!

 どう見ても女物と分かるそれを見て、深く深く息を吐く。正直言えば、このまま見なかった事にして、別の服に着替えたいのが本音だが、そんな事をすると母さんが悲しむ。
 折角、自分の為に選んでくれたのだから、無碍に出来る筈もなく覚悟を決めて服を着替えた。


 最近、男としてのプライドが無くなっているように思うのは、気の所為ですか?








「おはよう、ちゃん」

 服を着替えて、部屋から出た俺を迎えてくれたのは、ニコニコと嬉しそうに笑っているお母様でした。

「お、おはよう、母さん……」

 めちゃめちゃ機嫌のいい母さんに、思わず一歩後ろに下がってしまうのは、きっと直感力が働いただけではなくって、本能が成せる技だと思う。

「うん、やっぱりちゃんに似合ってるわねvv」

 そして、言われたその言葉に、脱力。
 その言葉を言いたいが為に、俺が出て来るのを待っていたとしたら、すっごくお暇なんですね、お母様……xx

「それ言われても、嬉しくないから……母さん、いい加減俺に女物の服着せるの止めようよ!」

 いくら母さんにそっくりな顔をしていても、俺の性別はしっかり男だから!

「何言ってるの?今日の服のコーディネートはツっくんよ」

 もう直ぐ中学2年になるって言うのに、女物の服着てるなんて、恥ずかしすぎるから言ったのに、返された言葉は信じられないモノだった。

「ツ、ツナが選んだの?」
「正確に言えば私が買ってきたんだけど、こんな服が欲しいって言ってきたのは、ツっくんよ」

 信じられないと言うように質問した俺に、母さんが素直に話してくれる。


 いや、有り得ないから!

「母さん、それはバラしちゃダメだって言ったのに……」

 呆然としていた俺の耳に、ため息をつきながら言われたその言葉に、俺は驚いて振り返った。

 階段を下りてくるツナの格好を見てフリーズ。

「あら、カッコ良いわよ、ツっくん」

 俺の今日の服装は、春らしく淡い色で纏められているのとは正反対で、ツナの格好は黒一色。
 それが、すっごく似合っていて、かっこいいんですけど……

?どうかしたの?」

 呆然とツナを見ていた俺は、不思議そうな声で名前を呼ばれてハッとする。
 何か、悔しいんだけど、俺が着ても絶対に似合わなさそうな服が、何でこんなに似合うんだ!俺達は、双子の筈なのに、不公平だ!!

「何でも、ない…」

 悔しくってそれを悟られないように、そっぽを向く。
 そんな俺に、クスクスと楽しそうに笑っているツナの声が聞えて来た。って、母さんまで笑ってるし!

「うっ〜」

 分かっちゃ居るんだけど、悔しいものは悔しい。
 双子なのに、何でこんなに違うんだろう。


 何時の間にか、置いて行かれてしまったように感じる。
 そんな筈ないのに……

「それじゃ、朝御飯にしましょうか。ランボくんはまだ寝てるから、寝てる間に出掛けちゃいなさいね」

 楽しそうに笑いながら言われた母さんの言葉に、素直に頷いて返せば、また笑われてしまった。
 何で、笑うんだろう、やっぱり俺には、似合ってないんじゃないのか、この服?

「笑うのはね、が素直なからだよ」

 どっかおかしい所があるのだろうかともう一度確認しようとしたら、ツナが嬉しそうに笑いながら教えてくれた。

 いや、俺素直じゃないから!

「俺は、素直じゃないから!」

 どうせ反応が子供っぽいとかそんな事で笑ってるんだって、分かってるから、プイッと横を抜けば、また笑われた。

「ほら、拗ねてないで早く御飯食べて出掛けるよ」
「そうね、ランボくん達が起きてきたら、面倒な事になっちゃうわよ」

 笑いながら促されるその言葉に、ハッとする。た、確かにランボが起きて来たりしたら、自分も一緒に行くと駄々を捏ねるのは明らかだ。
 そうなったら、本気で面倒な事になる。俺は、ツナと違って泣いてる子供を慰めるのは苦手で、何でもかんでも言う事を聞いてしまうから……

 ツナに、甘やかすなって言われるけど、どうやって慰めていいのか分からないんだよ。

「急いで御飯食べて、準備しないと!」

 慌てて言った俺に、また二人が笑う。
 俺、そんなに変な言ってるんだろうか??
 それとも、俺って、そんなにバカにされてるのか?!そ、それはそれで、酷いと思うんだけど……

 結局、急いでご飯を食べたにもかかわらず家を出る時には、リボーンが起きて来て、何か呆れられてしまいました。
 ど、どうせ、女物の服着て、男のプライドがないですよ!
 でも、用意されてるから、着ない訳にいかないし……
 これは、買ってくる母さんが悪いんだ!!って、リボーンに言っても、聞いてもらえないと思うんだけど……xx