、明日暇だよね?」

 突然部屋に入ってくるなり言われたその言葉に、俺は思わず首を傾げてしまった。
 いや、暇だけど、暇なんだけど……その聞き方ってどうかと思うんですが……

「えっと、暇だけど、明日なんかあったっけ?」

 決め付けられている通り、暇なので素直にそれを口に出して、その真意を確認。
 そうじゃないと、マジ悲しいんですが……

「ほら、が当てた福引の景品覚えてる?」

 俺の質問に、ツナがニッコリと笑顔。

 えっと、俺が引き当てた福引って、あの100キロの米の事か?!

 忘れようたって、忘れられません。
 あの時は、沢山の人に迷惑を掛けましたから……

「覚えてるけど?」

 あの米なら、ちゃんとまだ残ってるはずだぞ。
 山本と獄寺くん、さらに委員長にお礼にと持って帰ってもらったけど、まだまだ暫くはありそうだからな。

「良かった。それの期限が今月中だから、明日一緒に行こうよ」

 あの時の事を考えながら言った俺に、ツナが安心したように口を開く。
 だが、言われた言葉の意味が分からなかった。えっと、期限って何の事だ?

「何の期限?」

 今月中に期限が切れるって……何か、あったっけ?

「って、もう忘れてるみたいだね。確かに、お米の方がインパクト在り過ぎるから仕方ないかもしれないけど……」

 本気で分からなくって、思わず聞き返した俺に、ツナが呆れたようにため息をつく。

 いや、だって、100キロのお米って、忘れようたって忘れられないんですが!しかも、あの委員長さんにまでウチに届けてもらったのだから、忘れたりしたら咬み殺されそうだ。

「あの時、1等だけじゃなくって3等も当てたよね?」

 一瞬考えた事に、ゾクリと背筋が冷たくなる。
 だって、洒落になりそうにないもんな、委員長さんだし……。

 考え込んでいた俺に、確認するようにツナが質問してくる。

「ああ、そう言えば並盛遊園地のペアチケットがあったような……」
「あったようなじゃなくって、あるの!」

 思い出して言った俺の言葉は、綱吉さんに突っ込まれてしまった。

 だって、もうとっくに誰かにやったと思ってたんだもん。俺は、そんなに出掛ける方じゃないし、2人しか行けないなら居候の子供達を連れては無理だ。
 まぁ、他はお金出すでもいいんだろうけど、あのメンバーを遊園地に連れて行くのは無理だろう、うん。

「いや、もう誰かにやってると思ってたから……まだあったんだ」
「興味ないのは知ってたけど、そう言われるとこのチケットも可哀想になってくるね」

 いやいや、チケットが可哀想って、どう言う例えですか……
 でも、確かに存在を忘れてたのは可哀想かも……じゃなくって!

「それで、明日遊園地に?でも、俺と行ってもツナに迷惑しか掛けないのに……」

 足が不自由な俺なんかと遊園地に行っても、時間を思うように使えないと思うんだけど……。
 俺、歩くの遅いしから

以外の誰と行きたいって思うんだよ!それに、これが当ったって聞いた時から、ずっと考えてたんだからね」

 いやいや、たかが遊園地に行くぐらいでそんなに考えなくってもいいと思うんですが!
 真剣に言われたそれに、思わず突っ込んでしまう。

「えっと、分かった。他に誰が行くの?」

 ペアチケットだから、他の人はお金掛かっちゃうけど、多分他にもメンバーが居るんだろうと、問い掛ける。
 出来るだけ迷惑を掛けない相手だといいんだけど

「何言ってるの?オレとだけで行くに決まってるでしょ」

 えっ?決まってるのか??そう言うもんなのか???

 でも、ツナと二人で出掛けるのなら、誰にも気兼ねしなくってもいいのでちょっとだけホッとする。

 だって、どうしても足を庇って歩く俺は、みんなの歩く速度に付いていくのはかなり辛いのだ。
 でも、ツナは俺に合わせて歩いてくれるので、無理せずに歩く事が出来る。

 最近仲良くなった人達には、俺を邪魔だって言う人は居ないけど、やっぱり足手纏いにはなりたくないから

「明日は母さんのコーディネートした服を準備してもらってるから、出来るだけ早起きしてよね」

 それがツナには分かったのだろう。ポンポンと優しく頭を撫でてから俺にとっては最大級に難しい事をサラッと言って下さいました。

「あう、ツナ、起こしてくれないの?」
「勿論、起こして上げるよ。何時も通りね」

 無理だと分かっているからこそ救いを求めるようにツナを見た俺に、クスクスと楽しそうに笑いながら言われたそれは、ちょっとだけからかわれているようにも思える。

「う〜っ、ツナの意地悪!」
「起きられないが悪いんだよ」

 楽しそうに笑っているツナに文句を言えば、キッパリと返されるそれ。

 起きられない俺が悪いかもしれないんだけど、それはもう仕方ないんだもん!小さい頃から、ツナに起こされているから、もうそれが習慣付いてしまっているのだ。

 これって、俺の事を甘やかしてるツナが悪いように思えるのは、気の所為だろうか?

「それじゃ、勉強の邪魔してごめん。明日の朝しっかりと起こしてあげるからね」

 そんな事を考えている中、用事は終わったと言うように部屋から出て行こうとするツナに気付いて慌ててその服を掴んでしまう。

 って、何で俺ツナを引き止めてるんだ?

?」
「えっと、あの……」

 自分の無意識の行動が分からなくって、慌てて手を離し、必死で言い訳を考えた。

「勉強で分からないところでもあるの?」

 慌てている俺に、ツナが優しく質問してくれる。
 俺はその質問に首を振って返す。だって、今は分からないところはない。

 なら、俺は何でツナが出て行こうとするのを引き止めてしまったんだろう。

「ねぇ、久し振りに一緒に寝てもいい?」
「えっ?」

 言葉を捜している俺に、ツナが更に問い掛けてくる。
 でも、一瞬何を言われたのか分からなくって、思わずツナの事を見上げてしまった。

「迷惑?」

 再度確認するように言われたそれに、慌てて大きく首を振る。

「それじゃ、一緒に寝よう」

 そんな俺に、ツナが嬉しそうに俺を抱き締めた。そんなツナに、俺はコクリと頷いて返す。


 ああ、俺はツナが出て行くのが嫌だったんだ。
 だから、無意識に引き止めてしまった。でも、そんな俺に気付いて、ツナはこうやって先に動いてくれる。

「そ、それじゃ、急いで宿題終わらせるね」

 抱き締めてくれた腕からちょっとだけ顔を赤くしながら抜け出して、今までしていた宿題を片付けようと机に向きを戻す。

 勿論、隣でツナが、さり気無く勉強を見てくれたのは、何時もの事。
 お陰で、予想時間よりもかなり早く宿題を片付ける事が出来ました。

 それから、二人並んで俺のベッドに眠ったのは、何時もより少し早い時間。

「お休み、ツナ」

 隣にある暖かな体温を感じて、俺はクスリと笑いながら挨拶をすれば、ちゅっと額にキスが降ってきた。

「お休み、

 それに一瞬驚いたけど、柔らかな笑みを浮かべて返事を返してくれたツナに、ちょっと照れてしまったけど笑みを返してゆっくりと瞳を閉じる。

 ツナと一緒に寝るのは本当に久し振り。
 だからこそ、感じるその体温が気持ち良くて、一瞬で俺の意識は夢の中へと入っていた。

 だから知らない。ツナがそんな俺の唇に、そっと触れるだけのキスをした事も、ギュッと俺を抱き締めた事も……。