気が付いたら、君は自分の事を『俺』って言うようになっていた。
そう遠くない昔は、『ボク』だったのに
君が自分の事を『俺』って言い出したのは、いつの事だっただろう?
「だから、俺は!」
自分の目の前で必死に言い訳をしているの姿を見ながら、ボンヤリと考えてしまう。
「うるせーぞ、ダメ!」
だけのその言い訳は、リボーンの言葉によって聞き入れられる事はなかった。
何か、ムカツクなんだけど、人の目の前でに馴れ馴れしくするの……
「だって、リボーン!」
「だってじゃねーぞ。おい、ツナ、おまえも何か言え」
人に同意を求めるように名前を呼ぶリボーンに、盛大なため息をついてみせる。
「オレが何か言うのはいいけど、基本側につくよ」
「ツナ、有難う」
ため息をついて素直にに味方する事を言えば、嬉しそうにが笑顔で抱き付いてきた。
リボーンと言えば、チッと舌打ちしている。
「でも、今回は話聞いてなかったんだけど、何があったの?」
オレが帰ってきた時には、既に二人で言い合いをしていたのだから、どんな内容で言い合っていたのかを知るはずがない。
「ツナ?」
質問するように問い掛けたオレに、が不思議そうにオレを見上げてくる。
だって本当に何を話してたのか知らないから
だからこそ、こんなにもイライラしてるって言うのに
基本的にオレはの味方だけど、内容によってはオレもを叱る事になる。
だって、は無茶ばかりするから
「こいつ、また男にナンパされてたんだぞ」
「リボーン!!」
気になっていた内容をリボーンがあっさりと口にする。
それに、が咎めるようにその名前を呼んだ。
そう言えば、今日は珍しく出掛けてたような……
一人で……へぇ、その時にに声を掛けた奴が居たんだ。
「それも、一人じゃねーんだぞ」
「だからどうしてそう言う事を言うんだよ!!」
リボーンの言葉にピクリと反応したオレに、続けてリボーンが口を開く。
それに、が顔を真っ赤にして文句を言う。
「へぇ、そうなんだ……ねぇ、リボーン、そいつ等勿論殺ってくれたんだよね?」
「って、ツナ、何言ってるの!!」
思わずニッコリと笑顔で質問したオレに、驚いたようにオレを見る。
だって、に声を掛けたなんて、そんな奴を許しておける訳ないよ。なんで、一人で出掛けたりなんてしたんだろう、は
「何って、質問だよ」
慌てているに、ニッコリと笑顔で言葉を返す。
「心配すんな。しっかりと攻撃はしておいた」
「だから、知らない人に行き成り暴力はダメだって言ってるんだよ!」
ああ、漸く話が見えた。
ナンパされたを助ける為に、リボーンが声を掛けた相手を蹴散らしてくれたらしいが、その蹴散らし方に問題があった訳なんだろうね。
「それはが気にする事ないよ。声を掛けた奴等が悪いんだから」
漸く言い合いをしていた理由が分かって、オレもを慰めるようにキッパリと口を開く。
「いや、だから、女物の服なんて着てる俺が悪いって言うか……間違えてる人ばかりを責めるのは……」
そんなオレに、が必死で言い訳をしてくるけど、そんな事オレには関係ないんだけど
オレのに馴れ馴れしく声を掛ける方が悪いんだから
「あらあら、賑やかね。何かあったの?」
「母さん」
「お帰りなさい、ツっくん。調度良かったわ、ちゃんに頼んでケーキ買って来てもらったんだけど、ツっくんも食べる?」
ニコニコと言う母さんの言葉に、が出掛けた理由が分かって思わずため息をついてしまった。
何で、に買い物を頼んだりするんだう。オレに言ってくれれば、直ぐに買って来るのに
「母さん!何でに買い物頼むの、オレに言ってくれれば、直ぐに買って来るのに!!」
「あら、だって、ツっくん出掛けてて居なかったでしょ、それに、ちゃんも偶には家から出掛けないとカビが生えちゃいそうで」
カビが生えるって、毎日学校に通ってる相手に言う事じゃないと思うんだけど……
まぁ、の場合休みの日は家から滅多に出掛ける事はない。オレが誘った時だけじゃないかなぁ、が出掛けるのって
「別に俺は用事もないからいいんだけど……だからって、ちょっと出掛けるだけで、何で着替えなくっちゃいけないのかが理解できないんですが……」
言われて気付いた、の服装はオレが出掛ける前に着ていた物と明らかに違っている。
見れば分かる女物の服は、どう考えても母さんのコーディネート。
きっと、にこの服を着せたかったから買い物を頼んだのに違いない。
「あら、だってちゃんが着てたのは部屋着だったでしょ?そんな格好で出掛けたら可笑しいじゃない」
って、ニコニコ笑顔で言うけど、確かオレが出掛ける前にが着ていた服は普通の黒い柄なしのTシャツに紺色のジーンズ。別段出掛けても可笑しくはない格好だったと思うんだけど……。
「いや、部屋着で出掛ける人って一杯居ると思うんだけど」
「いいじゃない、似合ってるんだから!」
母さんの言葉にが突っ込めば、何時もの台詞が口に出される。
確かに、似合ってるのは否定しない。
でもその格好は、出来れば一人で出掛ける時にはさせないで欲しいんだけど……。
何処から見ても可愛い女の子にしか見えないんだから
「そう言う問題じゃないから!」
母さんの何時もの台詞に思いっきり突込みを入れるに思わず苦笑してしまった。
「母さん、オレからもいい?のコーディネートしてくれるのは反対しないんだけど、一人で出掛ける時はダメだっていってるよね?」
「えっ、そこは反対してくれないの?!」
母さんに問い掛けるように言えば、が突っ込んでくる。
だって、オレ的には可愛い格好をしているを見るのは好きだから、反対出来ない。
勿論、他の奴に見せるのは勿体無いと思っちゃうんだけどね。
「そうよね。何度もツっくんに言われてたんだけど、ほら、この服可愛いでしょ?どうしてもちゃんに着て貰いたくって」
の突っ込みは無視で、母さんがオレの顔色を伺いながら説明する。
確かに可愛いのは認めるんだけど、だからって一人で出掛ける時に、そんな服を着せるのは反対だよ。
オレの知らない所で、が知らない奴等に声を掛けられるなんて、許せない。
「母さん」
「ごめんなさい……」
言い訳をする母さんに、そっと言えば、素直に謝罪してくる。
「えっと、何でそこで母さんが怒られてるのかが分からないんだけど……」
そんなオレと母さんの遣り取りに、が不思議そうに首を傾げた。
「……本当に、ダメダメだな」
の不思議そうな表情に、リボーンがやれやれと言うように盛大なため息をつく。
確かに分かってないの鈍さには呆れてしまうけど、それがだから、もうオレは既に諦めてしまってる。
「どーせ、俺はダメダメです!母さん、ツナの分のコーヒーは俺が入れてくるから、先にケーキ食べてていいよ」
「あら、有難う、ちゃん」
リボーンに呆れられて、拗ねたように返してから、母さんに声を掛けて、がキッチンへと移動していく。
そんなに母さんが、素直にお礼を言って椅子に座る。
その瞬間、母さんがクスクスと笑い出した。
「どうしたの、母さん?」
突然笑い出した母さんに、不思議に思って思わず問い掛ける。
「ちょっと思い出しちゃったのよ。ちゃんが、『俺』って言い出した時の事」
質問したオレに、母さんが笑いながら言ったそれは、オレが帰って来た時に考えていた事。
「母さん、が『俺』って言い出した理由知ってるの?」
「ツっくんは、知らなかったかしら?」
気が付いたらは、自分の事を『俺』って言うようになっていたから、オレは理由を知らない。
質問したオレに、が言ったのは『ツナもオレって言ってるから』って言う理由だった。
オレの質問に、母さんが不思議そうに聞き返してくる。
それに、オレは素直に頷いて返した。
「あの子ね、病院で看護師さんに女の子と間違えられたのが切っ掛けで、『俺』って言うようになったのよ」
その時の事を思い出したのか、笑いながら母さんが説明してくれる。
「私も、ちゃんの事ちゃん付けしてるから、余計に、ね。でも、あの子間違えられてるって分かってても、訂正はしなかったのよ。変でしょ?嫌なら訂正すればいいのに」
その時のことを思い出しながら、母さんが話してくれる内容に、らしいとそう思ってしまう。
間違えてると分かっていても、相手を傷付けると思って言えなくなるんだよね、は
「だから、女の子に間違えられないように、『俺』って言うようになったのよ。ほら、女の子でも『ボク』って言う子がいるから」
楽しそうに笑いながら話す母さんに、オレも思わず笑ってしまった。
そんな理由が可愛いとそう思ってしまう。
「何?何の話?」
そんな中、オレのコーヒーを入れて戻ってきたが、楽しそうに話をしていたオレ達に、質問してくる。
「ちゃんがね、『ボク』から『俺』って言うようになった事を話してたのよ」
質問してきたに、母さんが笑いながら内容を話す。
「か、母さん!!何でそんな話してるんだよ!!」
それを聞いて瞬間、が顔を真っ赤にして母さんに文句を言う。
まぁ、予想通りの反応だけに、オレも思わず笑ってしまった。
だから、母さんにからかわれるんだって、気付かないところも、らしいと思う。
「だって、ちゃんが、リボーンちゃんと言い争ってたのを聞いてたら思い出しちゃったのよ」
「う〜っ、だからって、話していい理由にはならないから!」
文句を言うに、母さんが笑いながら言い訳をするけど、確かにそれは理由にはならない。
オレとしては、の事をまた一つ知ることが出来て嬉しいんだけど
「別に、可笑しな事じゃないからいいでしょ」
「良くない!」
母さんに対して拗ねたような態度を見せるに、慰めるように母さんが言えばキッパリと返事を返す。
「まぁまぁ、別に可笑しな理由じゃないからいいと思うよ。うん、とってもらしいし」
「……俺らしいって、どう言う意味だよ、ツナ」
助け舟のつもりで口を開けば、恨めしそうな目でに見られてしまった。
薮蛇だったかも……
「細かい事気にすんじゃねーぞ、ダメ」
「全然細かくないから!もういいよ!!俺、このケーキ貰うから」
リボーンにまで言われて、もう諦めたのか自棄食いに走るに、笑いが零れてしまう。
ケーキを食べて機嫌が直ったのか、直ぐにの顔も笑顔が見えて少しだけホッとした。
「、オレの分も食べていいよ」
「本当?んじゃ、これ貰う!でも、ツナもちょっとは食べような」
幸せそうな表情を見せてケーキを食べるに、オレの分のケーキを食べていいと言えば、嬉しそうにケーキを選んで続けざまに、自分が食べていたケーキをフォークにとってオレに差し出してくる。
「はい、ツナ」
ニコニコと笑顔でケーキを差し出してくるに、素直に差し出されたそれを口にすれば、甘いケーキの味が口の中に広がった。
それは、まるで、君のように甘い味。
「有難う、」
「どーいたしまして!もっと食べる?」
一口くれた事に礼を言えば、ニッコリと笑顔で言われる言葉。
本当に、オレを幸せにしてくれるのは、目の前の相手だけなんだと改めて思い知らされた。
「それじゃ、もう一口貰ってもいい?」
「勿論!はい」
質問された事に、聞き返せば、また差し出されるフォーク。
それを素直に口にして、ニッコリとへと笑顔を向ける。
「……うざいぞ」
そんなオレ達に、ボソリとリボーンが一言。
「えっ?何?」
その言葉が聞えなかったが不思議そうに首を傾げてリボーンを見るけど、知らん顔でホットミルクを飲んでいるリボーンに訳が分からないと言うような顔をする。
勿論オレには、リボーンが何を言ったのか聞えてきたけど、あえて無視。
折角と仲良く出来ているのに、邪魔されたくはない。
母さんは母さんで、ニコニコしながらオレとを見守っていてくれてる。
時々『本当に仲が良いわね』なんて呟いているのが聞えてくるから、全然問題ない。
今日、が『俺』と言うようになった理由を知った。
でも、それ以上に久し振りにと有意義な時間が過ごせた事の方が大事だけどね。