母さんに言われて出掛けた先で、何時ものように女の子と間違えられて声を掛けられた。
それ自体珍しい事じゃないって言うのが悲しい事実なんだけど、慣れてしまったそれに対応したんだけど、相手がこれまたしつこい人だったから、本気で困っていた時に助けてくれたのがリボーン。
助けてくれたのは、本当に有難かったんだけど、行き成り人を気絶させるのはどうかと思うんだけど……
そしてそれは、俺が用事を終わらせるまでに、数回繰り返された。
俺、どれだけの相手にナンパされてるんだろう……
自分が、情けないです。
「だから、俺は!」
漸く帰り着いた家で、母さんに頼まれた物を渡してから、何人もの相手を気絶させてしまったリボーンへと文句を言えば、その言葉はリボーンの睨みで飲み込む事になってしまう。
「うるせーぞ、ダメ!」
そして何時もの言葉を言われて、ただ恨めし気にリボーンを見る。
確かに、女と間違われてナンパされるなんて、情けないかもしれないけど、それは全部母さんが俺にこんな服を着せるのがいけないと思う。
「だって、リボーン!」
「だってじゃねーぞ。おい、ツナ、おまえも何か言え」
そう思って言い訳しようと口を開いた俺の言葉に、呆れたようにリボーンが戸口に立っていたツナに声を掛けた。
あれ?何時もの間に帰ってたんだろう??
「オレが何か言うのはいいけど、基本側につくよ」
「ツナ、有難う」
疑問に思ったけど、続けて言われたツナの言葉に思わず笑顔でお礼を言って抱きついてしまう。
うんうん、やっぱりツナは俺の味方だよね。
俺のそんな様子に、リボーンが舌打ちするのが聞こえてくる。
わ〜い、初めてリボーンに勝てたかも!
「でも、今回は話聞いてなかったんだけど、何があったの?」
そう思って喜んでいた俺に、ツナの疑問の声が続く。
でもって、あれ?何で??
「ツナ?」
不思議そうに自分に問い掛けてくるツナに、思わず聞き返すように名前を呼んでしまう。
折角味方に付いてくれたと思ったのに、何でそんな事言うのかな……
でも、確かにツナは基本的にって言葉を使ってたよね。それって、場合によっては、味方に付いてくれないってこと?
「こいつ、また男にナンパされてたんだぞ」
「リボーン!!」
理由を話すのを躊躇っていた俺に代わって、サラリとリボーンが口を開く。
ひ、人が気にしてる事をそんなにサラリと言わないでください……
咎める様にリボーンの名前を呼ぶけど、そんなモノに効力などあるはずもなく、またしても続けて言われた言葉は更なる追い討ちを掛けてくれた。
「それも、一人じゃねーんだぞ」
「だからどうしてそう言う事を言うんだよ!!」
言わないで欲しかったのに
複雑な気持ちでリボーン睨み付けた俺に抱き付いていたツナがピクリと反応したのが分かる。
「へぇ、そうなんだ……ねぇ、リボーン、そいつ等勿論殺ってくれたんだよね?」
「って、ツナ、何言ってるの!!」
それに恐る恐るツナを見上げた瞬間、にっこり笑顔で恐ろしい事を質問するツナに、驚いて声を上げた。
そんな事、にっこり笑顔で言わないでお願いだから!!!
しかも、ツナさん、目が笑ってません。
「何って、質問だよ」
慌てている俺とは違って、落ち着いた様子でツナがニッコリと俺が言ったその言葉に返事をくれる。
いや、そんな事が聞きたい訳じゃなくって……
「心配すんな。しっかりと攻撃はしておいた」
「だから、知らない人に行き成り暴力はダメだって言ってるんだよ!」
そんなツナに、焦った様子もなくリボーンがサラリと言葉を返す。
それに対して、俺は一番初めに言ったその言葉を再度リボーンに投げ付けた。
確かに、間違えて声を掛けてきた人も悪いかもしれないけど、間違えるような格好をしている俺も悪いと思う。
だから、行き成り相手を気絶させるほどの強打を与えるのはどうかと思うのだ……
しかも、気絶した相手は、放置ってどれだけ酷い事してるんだろう……
「それはが気にする事ないよ。声を掛けた奴等が悪いんだから」
思い出していた俺に、漸くすべての話しが理解出来たらしいツナがこれまたサラリと酷い事を口にする。
いや、それって、声を掛けてきた相手だけが悪い訳じゃないと思うんだけど……
「いや、だから、女物の服なんて着てる俺が悪いって言うか……間違えてる人ばかりを責めるのは……」
明らかに相手が悪いとリボーンと同じ事を言うツナに、必死で言い訳をしてみるけど、これってリボーンに言い訳してた時の内容そのまんまなんだけど
必死で言い訳してる俺に対して、ツナの反応はやっぱりリボーンと似たようなモノだった……なんでだろう??
「あらあら、賑やかね。何かあったの?」
「母さん」
「お帰りなさい、ツっくん。調度良かったわ、ちゃんに頼んでケーキ買って来てもらったんだけど、ツっくんも食べる?」
何で俺、こんなに必死で言い訳してるんだろう……だって、問答無用で、攻撃しかけるのはやっぱりどうかと思う訳で……俺が、可笑しい訳じゃないよね?
何か訳の分からなくなってきた俺に、母さんの明るい声が聞こえて来て我に返る。
ああ、今だけ母さんのこの明るさがすっごく救いなんだけど
俺が頼まれたケーキを茶菓子に、紅茶を入れてくれたのだろう、その手にはしっかりとその準備がされていた。
「母さん!何でに買い物頼むの、オレに言ってくれれば、直ぐに買って来るのに!!」
「あら、だって、ツっくん出掛けてて居なかったでしょ、それに、ちゃんも偶には家から出掛けないとカビが生えちゃいそうで」
そんな母さんに、ツナが文句を言うのが聞こえて思わず首を傾げてしまう。
別に、買い物ぐらい俺でも出来ると思うんだけど、時間は掛かるかもしれないけど……
それにしても、母さん。カビが生えるって……俺、一体どんななんでしょうか??
母さんの言葉思わず苦笑を零してしまうのは、仕方ないと思う。
「別に俺は用事もないからいいんだけど……だからって、ちょっと出掛けるだけで、何で着替えなくっちゃいけないのかが理解できないんですが……」
うん、そう疑問に思うのはそれ。買い物を頼まれて、『いいよ』って返事をしたら、何故かニッコリと笑顔で服を差し出された。
いや、『着替えてね』なんて、笑顔で言われたら断る事も出来ずに言いなりになる自分も情けないかもしれないけど、何で買い物行くぐらいで着替えたのかが本当に分からなかったのだ。
「あら、だってちゃんが着てたのは部屋着だったでしょ?そんな格好で出掛けたら可笑しいじゃない」
俺がずっと疑問に思った事を口にすれば、ニッコリと笑顔で返される言葉。
あれ?普通って部屋着では出て行かないものだったっけ??
別段、可笑しくないと思うんだけど……
「いや、部屋着で出掛ける人って一杯居ると思うんだけど」
「いいじゃない、似合ってるんだから!」
そう考えて思わず突っ込んだら、何時もの言葉を当然のように返された。
あれ?何で今その言葉が関係してくるんだろう??
もしかして、結局俺にあの服を着せたかっただけなのか?!
「そう言う問題じゃないから!」
そう考え付いた瞬間、思わず思いっきり突っ込んでしまった。
今更その事に気付く俺も俺だけど……
「母さん、オレからもいい?のコーディネートしてくれるのは反対しないんだけど、一人で出掛ける時はダメだっていってるよね?」
「えっ、そこは反対してくれないの?!」
鈍い自分に内心嘆いた俺など気にした様子もなく、ツナが優しい口調で母さんに問いかける。
あれ?普通そこは反対してくれるものじゃないの??
「そうよね。何度もツっくんに言われてたんだけど、ほら、この服可愛いでしょ?どうしてもちゃんに着て貰いたくって」
俺の突っ込みは完全無視で、母さんがツナの顔色を伺うように口を開く。
えっと、何でそこでツナの顔色を伺うんだろう。
そんでもって、何でツナは怒ってるんだろうか??
「母さん」
「ごめんなさい……」
ツナに言われて母さんが必死に言い訳してるみたいなんだけど、ツナが母さんを呼んだ瞬間勢い良く、謝罪する。
あれ?何で母さんがツナに怒られてるんだろう?
「えっと、何でそこで母さんが怒られてるのかが分からないんだけど……」
訳が分からない目の前の状況に思わず首をかしげて問いかけてしまうのは仕方ないと思うんだけど……
「……本当に、ダメダメだな」
問いかけるようにつぶやいた俺に、呆れたようにリボーンが盛大なため息をつきながら何時もの言葉をいただいてしまいました。
うっうっ、どうせ俺はダメダメですよーだ。
「どーせ、俺はダメダメです!母さん、ツナの分のコーヒーは俺が入れてくるから、先にケーキ食べてていいよ」
「あら、有難う、ちゃん」
リボーンに呆れられて、拗ねながらも、母さんに声を掛けてからキッチンへと移動する。
そんな俺に、母さんのお礼の言葉が聞こえてきた。
うん、俺と母さんは紅茶だけど、ツナはコーヒーだもんな。リボーンは、母さんにコーヒーを止められているから、ホットミルク。
その時のことを思い出して、ちょっとだけ笑ってしまう。
あの時のリボーンの顔は、本当に子供だったよな。
そう思いながら、ツナのコーヒーの準備。
ツナの好みは、ミルク無し砂糖無し……
ブラックなんて良く飲めるよな……胃が悪くなるから、問答無用でミルクだけは入れてるけど……
そう言えば、ツナっていつからブラックのコーヒーを飲むようになったんだろう?
気付いた時には、飲んでいたように思う。
それに気が付いた時は、何となく置いて行かれたような気がして寂しかったよな……
一人だけ大人になっちゃたんだって……ブラックコーヒーが飲めるからって、大人な訳じゃないのに
そう言えば、ツナは俺よりも先に、『オレ』って言うようになったよな。
俺と違って一杯友達が居たツナだから、先にそう言う言葉が変わっていったのはどうしてもツナが先。
俺は、何でも、ツナの後だったよな……
昔のことを何となく思い出して、一人で笑ってしまう。
俺が、『俺』って言い出したきっかけは、あんまり思い出したくないし、うん。
コーヒーを入れてから、皆が居るリビングに戻れば楽しそうな話し声が聞こえてくる。
「何?何の話?」
そんな皆に、俺は思わず問いかけてしまう。
だって、一人話しに入れないのは寂しいし……
「ちゃんがね、『ボク』から『俺』って言うようになった事を話してたのよ」
質問した俺に、母さんが嬉しそうに内容を教えてくれた。
えっ、って、なんで、そんな話を勝手にしてるの?!
今、俺が考えていた事なのに
「か、母さん!!何でそんな話してるんだよ!!」
思い出したくないと思ってなのに、何でそんな話してるの!!
思わず顔が赤くなるのは、本当に恥ずかしいから
「だって、ちゃんが、リボーンちゃんと言い争ってたのを聞いてたら思い出しちゃったのよ」
「う〜っ、だからって、話していい理由にはならないから!」
母さんに文句を言っても、まったく聞き入れてもらえない。
まさに、暖簾に腕押し状態……思い出したからって、話していい訳ないじゃんか
「別に、可笑しな事じゃないからいいでしょ」
「良くない!」
めちぇめちゃ恥ずかしい話だよ!
う〜っ、子供だったんだから、仕方ないじゃんか……確かに、今も子供かもしれないけど
「まぁまぁ、別に可笑しな理由じゃないからいいと思うよ。うん、とってもらしいし」
「……俺らしいって、どう言う意味だよ、ツナ」
きっと、ツナは助け舟を出してくれたんだと思うんだけど、どうしてそこで俺らしいって事になるの?
思わずツナを恨めし気に見つめてしまう。
「細かい事気にすんじゃねーぞ、ダメ」
「全然細かくないから!もういいよ!!俺、このケーキ貰うから」
そんな俺に、リボーンまでもが口を出してくる。
そうなると、拗ねているのが馬鹿らしくなってきて、俺は目の前のケーキを食べて機嫌を直す方向に決めた。
うん、甘いモノを食べると、幸せになれるよね。
ケーキを一口食べて、思わず零れてしまう笑み。
どうせ、現金ですよーだ。
「、オレの分も食べていいよ」
「本当?んじゃ、これ貰う!でも、ツナもちょっとは食べような」
おいしいケーキに幸せを噛み締めていた俺は、ツナの言葉に喜んでケーキを一つ貰う。でも、ただ貰うのは嫌だから、今自分が食べていたケーキをフォークに取ってツナに差し出す。。
「はい、ツナ」
笑顔でケーキを差し出した俺にツナが、ぱくっとそれを食べてくれる。
一口食べた瞬間、ツナが優しい表情を見せる。
「有難う、」
「どーいたしまして!もっと食べる?」
それから、俺に礼を言うから、それに返事を返して食べる事を進める。
だって、俺からケーキを貰う時のツナって、すっごく優しい表情になるから、大好きなんだよな。
「それじゃ、もう一口貰ってもいい?」
「勿論!はい」
俺の質問に、質問で返してくるツナに返事を返しまたケーキを差し出す。
差し出したケーキを食べて、ツナがニッコリと笑顔をくれた。
「……うざいぞ」
その瞬間、ボソリと聞こえたりボーンの声。
でも、余りにも小さすぎで何を言ったのか聞こえない。
「えっ?何?」
何を言ったのか分からなかったから聞き返した俺に、リボーンは知らん顔でホットミルクを飲んでいる。
あれ?何かなんか言ったと思ったのは、俺の気の所為だったのかな?
母さんを見ると、ニコニコと嬉しそうに笑っているし、やっぱり俺の気の所為??
なんにしても、ケーキもおいしかったし、良しとしておこう。
うん、過去の恥を知られた事は、なかった事にして